心当たり
仲間が7人増えた。
1人で地下迷宮を突破すると思っていたところでミナが加わり、さらには頼れる仲間が6人も加わった。
全員、十分な力を備えている。
地球人内でも屈指の実力者たちだ。
しかし、そういったこととは別にして、少し悩む問題があった。
「……やっぱ、8人じゃレイド組めないよな」
「まあ、それはしょうがないぜ」
「レイドを組める最少人数は10人でござるからなぁ」
宿の一室にて、俺、ケンゴ、カタールの男組3人は雁首揃えて唸っていた。
俺たち3人がいる部屋の隣には、女子勢が泊まっている。
これは、万が一の防犯的な意味で、仲間とできるだけ常に近くにいようという俺の提案によるものだ。
隣の部屋からは女性勢の明るい声が漏れてくるが、こっちはどうにもテンションが低い。
「どうする? 前衛組と後衛組に分けて、それぞれでパーティーを組むか?」
「今回は経験値とかアイテムの分配とか度外視してるからな。それでもいいと思うぜ」
俺の提案に、ケンゴが首を縦に振った。
これは苦渋の策だ。
どうしてもレイドを組むことができないのであれば、パーティーを二分割するしかない。
「しかし、味方のHPや状態、それに位置情報を全員分常に把握することができないというのは、大きなデメリットでござろう?」
カタールのほうは、あまり乗り気ではないようで、渋い表情を浮かべている。
確かに、パーティーを2つにすると、所属していないほうのパーティーの状況を一瞬で把握することができなくなる。
これは、一瞬の隙が命取りのレイド戦において、かなり怖い要素だ。
まだ大丈夫だと思っていた味方が、ふと後ろを振り返ると全滅していました、とか想像するとゾッとする。
レイドを組めば、全員のHPとステータスの状態、大まかな位置情報を瞬時に確認することができるから、できればそうしたいんだが……。
「でもよ、どうにかしてレイドを組もうとするなら、あと最低2人は新しくメンバーを募らなくちゃいけなくなるぜ? アテはあるか?」
「拙者にはないでござる。金銭面でトラブルを起こし過ぎたせいか、どうも人望がないでござるからな」
お前……今までどんなことをしてきたんだよ……。
初めて会ったときも、山賊の用心棒とかいうわけわかんないことをしてたし、なにをやって金儲けをしていたって別に驚いたりはしないが。
「俺にもねえな。腕の立つ知り合いならたくさんいるが、わざわざ管理局の評価を下げてまで俺たちの味方になってくれそうな奴は、カタール以外には思い浮かばねえ」
ケンゴもカタール以外のアテはない、か。
まあ、たとえ1人だけでも、この戦いに引っ張ってきてくれたことは、本当にありがたい。
それだけでもう十分だ。
「で、シンにはアテとかねえか? できるだけ強くて、他人からの評価なんて気にしねえっていうような地球人によ」
「俺には……」
ない、と言おうとしたが、そこで俺は思いとどまった。
「……心当たり……ないこともないな」
「お、ホントか」
「ああ、だが、絶対に仲間になってくれるって保証はない。もしかしたらって程度の可能性がある奴ならいるってだけだ。本人に直接聞いてみないと」
「それでも構わないでござるよ。男子たるもの、当たって砕けろでござる」
いや、砕けちゃいかんだろ。
それに、俺の心当たりは1人だけだし、レイドを組むにはあと1人足りない。
「この話は、明日の朝にでも女子組のメンバーを交えて話そう」
「おう」
ミナたちなら、あるいは1人くらい新メンバーを連れてこれるかもしれない。
俺たち3人だけで頭を悩ませる必要はないだろう。
仲間がたくさんいるっていうのは、いいものだ。
翌日の朝、女子勢に昨日の話をした。
その結果、俺、ミナ、サクヤ、マーニャンの4人は、高校生の地球人が寝泊まりしている宿へと赴くことになった。
変なチーム編成だが、これから会う奴のことを考えれば、妥当なメンツといったところだろう。
「あたしまで来る意味ってあんのかー? 交渉なんてしないぞー?」
「まあ、そう言うな」
マーニャンが不平の声を漏らしているが、ここは堪えてもらおう。
意味があるかどうかは不明だが、マーニャンはあの男をよく知る数少ない人物だからな。
「それで、私たちはロビーで待っていればいいのよね?」
「マーニャンの呼び出しに応じたのが偽りでなければな」
ここへ来る直前、マーニャンはあの男へ通話を行った。
待ち合わせをするためだ。
その通話で、10分後に宿のロビーで会おう、ということになったらしいのだが……はたして、あいつは来るだろうか。
「俺にいったいなんの用だ? これでも俺は忙しい身なんだが」
……約束の時間より20分遅れて、あの男――ダークネスカイザーこと白崎が現れた。
遅いぞ。
部屋からロビーに出てくるだけのはずなのに、いったいどうして待ち合わせの時間通りに来ないんだ。
それに『忙しい』って、今日もまた地下迷宮に潜ろうとしていたのか?
1人で潜っているにもかかわらず、連日で探索を行うとは、なかなか骨のある奴だ。
似たようなことは、少し前の俺もやっていたわけだが。
「死ぬほど忙しいなか、こうして貴重な時間を割いてやったんだ、感謝しろ」
「んなこと言ってるわりに、さっきまで寝てたみてーじゃん?」
「うぐ……お、俺は朝が弱いタイプなんだ。それに、睡眠時間も4時間くらいしか取ってないし――」
「きっちり8時間寝てるように見えるがー? しかも、さっきまで2度寝してましたって顔してるぞー?」
「そ……そんなことは……な、ないぞ……?」
「本当かー? 嘘をつくと、ためにならないぞー?」
「うぐぐ……」
マーニャンが白崎を追い詰めている。
待ち合わせの時間に遅れたことを根に持っているんだろう。
にしても、マーニャンの目の前で嘘をつくとか、白崎も馬鹿なことをしたな。
まあ、彼女の持つ異能『読心』は機密扱いになっていて、一般の生徒は知らないらしいから、仕方がないところもあるけど。
「……小言を言いに来たってだけなら、俺はもう行くぞ」
「いや、待て。白崎に用があるというのは本当だ」
白崎が俺たちの背を向けようとした。
なので、俺は慌てて白崎を近くの椅子に座らせた。
「用というのは他でもない。白崎、俺たちと一緒に地下迷宮を攻略してくれないか?」
「攻略?」
「そう、攻略だ」
マーニャンが白崎いじりを再開する前に、俺は単刀直入に本題を告げることにした。
「中高生混合のレイド戦が近い、ということか?」
「違う。今回の俺たちは8人だ。それも、異能管理局の方針とは外れたチームでの攻略になる」
「……詳しい話を訊いてやろう」
白崎がやっと聞く姿勢になったので、俺はこれまでの経緯をかいつまんで説明した。
「ふぅん。1人のクラスメイトのために、神の報酬を使う、ねえ……」
「お前は、俺たちの行動を否定するか?」
「いいや? 俺だって、自分のために報酬を独り占めしようとしている身だ。否定はしない」
「そうか」
多分、白崎ならこう言うと思っていた。
だからこそ、俺はこいつにこの話を持ってきたんだ。
「白崎、お前がなにを思って自分のキャラネームを変えたいと思うようになったのかはわからないが、その目的を曲げて、サクヤのために手を貸してくれないか?」
俺はそこで、白崎に頭を下げた。
「そのかわり、俺にできることならなんでもする。欲しいものがあるならなんでもやるし、持ってなければ必ず調達する。これは、この場に立ち会ってくれたマーニャン――進藤先生が保証する」
「おー。あたしが保証人になってやるぜー。法に触れない範囲のものっていう制限はつけるけどなー」
欲している物があるかどうかはわからない。
だが、今の俺は、こう言うしかない。
どのような要求でも呑む所存だ。
「男に『なんでもする』とか言われても、嬉しくないな」
ごもっともだ。
同意せざるを得ない。
しかし、それでも俺は頭を下げ続ける。
「なら、私からもお願いするわ。この通り、私たちに手を貸して」
「本当になんでもっていうわけにはいかないけど、できる限りのお礼はするから、どうかお願い」
俺に続き、ミナとサクヤまでもが頭を下げ始めた。
彼女たちに頭を下げさせるのは、俺も少し迷ったが、今は白崎を仲間に引き込むことこそが先決だ。
白崎は、ハッキリ言って強い。
最近はあんまり顔を合わせることもなかったから、現在の実力は未知数だが、地下97階層に1人で潜るだけの力は備えている。
仲間になってくれれば、かなりの戦力になるはずだ。
「なー、白崎。こいつらもこう言ってんだから、ここは1つ、手を貸してやってくんねーか?」
そしてさらにマーニャンも、投げやりな態度ではあるが、白崎の説得に回った。
「ここで手を貸してやったほうが、白崎にとってもいいんじゃねーの?」
「…………」
?
どういう意味だろうか。
白崎は白崎で驚いたというような表情を浮かべているし。
「……ふ、ふん。よし、わかった。引き受けてやろう」
「! 本当か!」
「ああ」
よくわからないが、引き受けてくれた。
白崎は強力な遠距離攻撃手段を持つアタッカーだから、味方になってくれるのは、とても助かる。
ここは素直に喜ぼう。
「ただし、さっきの言葉は忘れるなよ」
「う……わ、わかった」
いったいなにを要求されるのだろうか。
予想がつかないだけに、ちょっと怖いぞ。
「じゃあ、部屋に戻って迷宮探索の準備をしてくる。ちょっと待ってろ」
俺が若干の冷や汗をかいていると、白崎はそう言って、部屋のほうへと戻っていった。
「……なあ、マーニャン」
「んー?」
「白崎は俺たちになにを要求してくるつもりなんだ?」
「それは本人に訊きな。あたしからは教えねー」
「……ケチ」
本当、どんなことを要求されるんだろう……。
NAME ダークネスカイザー
JOB ガンマスター
LV 111