集結
ケンゴ、セレス、マーニャン、カタール……それに、フィルとサクヤを加えた6人が俺の目の前に立った。
ちょっと待て。
状況が全然把握できない。
なにがどうなって、このメンツが揃ったんだ。
「……だれか、状況説明を頼む」
俺は額を手で軽く押さえながら、そう呟いた。
「シンが珍しくテンパってんな。いったん深呼吸でもして落ち着こうぜ」
「うるさい。いきなり現れて『助けに来たぜ』とか……わけがわからない」
「俺たちがここに来た理由? それなら、てめえもなんとなく察してるだろ」
「…………」
ケンゴの指摘を受け、俺はフィルのほうを向いた。
このメンツが集まった心当たりがあるとすれば、それはフィルだ。
さっきも彼女は『俺に怒られるかもしれない』と少し意味深な発言をしていたからな。
「フィルはシンが悩んでいることを私たちに相談し、どうにかしてその悩みを解消できないかと訊ねてきたのですわよ」
「そう……か」
俺がいろいろしていたように、フィルはフィルでいろいろしていたってわけだな。
そして、フィルが俺以外に頼るとしたら、それはケンゴやセレスといったメンツになる。
合点がいった。
「この前、俺に会いに来たのは、このことを伝えようとしてか?」
「ん……でも、結局今日まで言えずじまい……でしたけど……」
「それは……俺が悪かった」
フィルが今まで話せなかったのは、俺が聞く耳を持たなかったせいだ。
カルアに狙われる可能性を上げないようにするためだったとはいえ、これについては、全面的に俺が悪い。
そう思った俺は、フィルに頭を下げた。
「……マーニャンも、俺たちに力を貸してくれるのか?」
俺は次に、マーニャンのほうを向いて訊ねた。
「あーそうだぜー。かーなりめんどーだけど、まー……フィルの頼みだからなー」
「そうか」
めんどくさがりなマーニャンまで俺たちに味方するなんて。
フィルはどんな交渉をしたのだろうか。
「というか、大学生や社会人の地球人が地下迷宮に潜ってもいいのか?」
ケンゴたちが仲間になるには、この問題がネックとなるはずだ。
特殊な事情がない限り、大学生以上の地球人は地下迷宮への立ち入りを禁止されてたと思うんだが。
「その情報は古いぜ、シン」
「先日、地下90階層以降の探索が可能になったことで、私たちも地下迷宮に潜ってもよくなりました」
「中高生のトップグループが地下迷宮の探索で力をつけすぎて、あたしらと差がなくなったからっつーのが、解禁の理由だなー」
「まあ、実際のところはケンゴが無理やり話を通したんでござるけどな」
そうなのか。
どれほどの無理を通したのかは、俺には想像することしかできない。
が、俺たちのためにそうしてくれたというのはわかる。
ケンゴにはいつだって頭が上がらないな。
本当、頼りになる奴だ。
「……それで、お前はどうしてここにいるんだ?」
「なんでござるか! その変なものを見るような目つきは!」
ケンゴ、セレス、マーニャン。
この3人は、フィルと長い付き合いがあるから、ここにいてもおかしくはない。
しかし、このカタールという男だけは、どうにも場違いに感じる。
さらっとケンゴたちのなかに混じっているけど、俺はスルーしたりしない。
決闘大会以来の再会になるわけだが、どういった理由でここにいるんだ。
「拙者はケンゴたちの要請を受けて参上した次第でござる」
「ケンゴたちの要請……」
「相応の金銭を支払う代わりに、こいつにはアース神を救出するまで俺たちに手を貸してもらうよう契約したのさ」
「なるほど」
金で雇ったのか。
それならわかりやすい。
無償で俺たちを助けてくれる、とかなら、なにか裏があるんじゃないかと勘ぐっていたところだ。
「安心しろよ。カタルは金で動く男だが、信頼できる地球人だ。それは俺が保証するぜ」
「拙者の名は正確に呼べでござる。信頼できると言ってもらえるのは素直に嬉しいでござるが」
まあ、ケンゴのお墨付きとあらば、カタールと共闘するのもやぶさかではない。
多少ふざけたところがあるが、こいつはなかなか強いからな。
戦力としては申し分ない。
「……レイド戦には、お前も参加する気なのか?」
そして俺は、サクヤのほうを向いた。
ケンゴたちから優先して質問をして、彼女を後回しにしたのは、ただ単純に、俺がどう話を切り出せばいいか悩んだためだ。
たしかに、俺たちの戦いはサクヤの記憶を取り戻すための戦いなのだから、サクヤ自身がレイド戦に参加するのはおかしくない。
けれど、レイド戦に生半可な実力を持つ者を参加させるわけにはいかない。
彼女にはその実力があるのだろうか。
「うん、参加するよ。そのために私は、フィルちゃんと一緒につらい修行を耐えきったんだから」
「しゅ、修行……?」
なんだそれは。
初耳だぞ。
サクヤとフィルは、いったいなにをしていたんだ。
「この子たちはな、俺たちと一緒に『龍の巣』で龍狩りの日々を送ってたのさ」
俺が首を傾げていると、ケンゴが彼女たちについて、説明をし始めた。
「シンに教えると絶対止めさせられるからってんで、今まで黙ってたんだけどよ、この子たちはてめえに追いつくため、血のにじむような努力をしていたんだぜ」
「……そうだったのか」
「おう」
「ケンゴさんたちのおかげで、オレたちもレベル100に……なりました」
レベル100……か。
それだけあるなら、レイドボス戦でも十分活躍できるだろう。
彼女たちのレベルは、以前はレベル70近くだった。
だから、ざっと30レベルは上げてきたわけだな。
ケンゴたちに手伝ってもらったそうだが、それでも大変だったことには違いないはずだ。
「……そうだ、サクヤのプレイヤースキルについてはどうなんだ?」
「え、私のプレイヤースキル?」
「だってお前、アースでの記憶を失ってるんだろ? なら、戦闘に関する記憶もないってことになるんじゃないのか?」
レベルについては申し分ない。
しかし、サクヤにはプレイヤースキルに関する懸念が残っている。
これをパスしないと、レイドには入れられない。
「記憶はないけど、体は覚えてるんだろうね。セレスさんから魔術師職の立ち回りを知識で教えてもらったら、実戦でもすぐ動けたよ」
「シンやフィル以上に物覚えが速くて、教える側としては物足りませんでしたわね」
「な、なに……?」
うん。
相変わらずではあるんだが、サクヤってすごいな……。
サクヤの言う通り、体が覚えていたから実戦も問題なかったのかもしれないが、セレスが絶賛するほどとは。
ならば、レイド戦に参加できるだけの実力は十分備えている、ということか。
いや……でも、しかし……サクヤとフィルを戦わせるのは……。
「少なくとも、私たちは一之瀬くんたちの足手まといにはならないと思うよ」
「だから……オレたちも一緒に戦わせて……もらえませんでしょうか」
「…………」
俺が迷うような素振りをしていると、サクヤとフィルが詰め寄ってきた。
「……危ない目に遭うかもしれないが、それでも俺たちと一緒に来るか?」
「うん!」
「は……はい!」
俺が確認をすると、サクヤとフィルは元気よく頷いた。
……彼女たちの覚悟は本物か。
もはや、ここで彼女たちのレイド戦参加を拒んでも、それは俺のワガママにしかならないのだろう。
すでにミナがパーティーに加わっているんだ。
サクヤやフィルが加わることを、今さら否定できるはずもない。
「……それじゃあ、ここにいるメンバー全員に訊くが……お前たちは管理局の命令を無視して、本当にいいのか?」
そして、俺は最後に、懸念している事項について、みんなに問うことにした。
勝手に神を救出し、報酬を貰うことについて、異能管理局は許可を出していない。
もともと、『ユグドラシル』を完全攻略して大丈夫なのか、という意見も多くある。
そんななかで、俺たちの独断で神を救出すれば、どのようなバッシングを受けるか、わかったものではない。
異能管理局側からのペナルティも、なにかしらは受けることになるはずだ。
こうしたマイナスを受ける覚悟がなければ、仲間としてともに行動することはできない。
ミナはすでに覚悟ができているようだが、はたして他のメンバーは……。
「神様を助けちまえば、あとはこっちのもんだぜ」
「それに、命令違反は私たちにとって日常茶飯事です。気にする必要なんてありませんわ」
ケンゴとセレスも、特に問題はないようだ。
というか、命令違反が日常茶飯事って。
今までなにしてきたんだ、こいつらは。
「別にいーんじゃねーの? ここであたしらが動かなかったら、多分地下迷宮の攻略はここでストップするだろうし。報酬の使い道も大勢に影響を与えるようなもんじゃねーから、そこまで問題視されねーだろ」
「? そうなのか?」
「まー、減給は免れねーだろーけどな。ホント、あたしらには感謝しろよー、シン」
マーニャンは、異能管理局の内部をよく知っている。
だから、彼女が言うことは大体正しいのだろう。
自分の立場や給料を度外視して、俺たちの味方についてくれる。
よく考えると、それって凄いな。
感謝してもしきれない。
この借りは絶対に返さないといけないな。
「減給は嫌でござるが……それも織り込み済みの契約だから、拙者も問題ないでござる」
カタールも、特に問題はないようだ。
どんな契約内容なのか知りたいところだが、それを俺が聞くのは野暮だろう。
ケンゴたちの顔を潰しかねないからな。
その代わり、俺がケンゴたちに報いてやればいいんだ。
「私も、問題なんてなにもないよ」
サクヤも、問題ないらしい。
彼女については、こう言うだろうとは思っていた。
「私がなにを言っても、一之瀬くんはレイドボスと戦うつもりなんでしょ?」
「ああ、それは変わらない」
「だったら、私も一之瀬くんたちと一緒に戦う。これも絶対に変わらないからね」
……サクヤを置いていくって選択肢は、もうないな。
俺がサクヤを助けたいと思う限り、サクヤは俺たちと一緒に戦うつもりのようだ。
もともと、俺にサクヤの行動を制限することなどできないし、彼女を説き伏せる自信もない。
「オレも……シンさんに守られてばかりなのは嫌……です」
フィルも、俺たちと戦う覚悟ができているようだ。
正直、俺はもう、誰にも傷ついてほしくない。
しかし、いつまでもフィルたちを避け続けるのは、彼女たちを侮辱することになるのだろう。
特にフィルは、どんなときだって、俺とともに戦うことを望んできた。
ここで彼女だけメンバーから外すなんてことは、できない。
「決まりね。これからは8人で地下迷宮の攻略に挑みましょ」
ミナが俺の代わりに、まとめの言葉を紡いだ。
俺も、ミナのまとめに異論を挟んだりしない。
「ああ、わかった」
意地を張るのは、ここまでだ。
頼っていいというのなら、俺は仲間を頼りにする。
「? どうしたの、シン。急に涙ぐんじゃって」
「……別に、涙ぐんでなんかない。気のせいだ」
俺はミナに背を向けた。
最近、人を遠ざけることが多い日々を送っていたから、仲間という存在に弱いのかもしれない。
いけないな。
仲間が増えたということは、それだけ敵の攻撃にも警戒しなくちゃいけないんだから、もっと気を張らないと。
「とりあえず、今日はもう夕方だから、迷宮に潜るのは明日にしましょ」
こうして、俺たちはいったん宿に引き返した。
明日から忙しくなる。
そのときは、俺にしては珍しく、明日への期待に胸をたからせながらの帰り道だった。
NAME シン
JOB レイスプリースト
LV 115
NAME ミナ
JOB 剣姫
LV 103
NAME ケンゴ
JOB 剣王
LV 116
NAME セレス
JOB エレメンタルマスター
LV 113
NAME マーニャン
JOB 神聖巫女
LV 102
NAME カタール
JOB 上忍
LV 114
NAME フィル
JOB クノイチ
LV 100
NAME サクヤ
JOB フレイムウィザード
LV 100