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気になる

 ここ数日、私とらい君は、一之瀬さんからいろいろなことを教わっています。

 教わっている内容は、アースの歴史や地理、魔物の生態と戦闘時の対策、長旅のときのちょっとした知恵等々、多岐に渡ります。


 一之瀬さんは、本当に沢山のことを知っていました。

 高校生なら、これくらい当然なのでしょうか?

 多分、違いますよね。


 『テキサス』で一之瀬さんに助けられる前から、《ビルドエラー》という人物については噂程度ですが私も知っていました。

 《ビルドエラー》は強くて残忍で、いつも1人で行動している変わり者。

 私の知識にある《ビルドエラー》とは、そういう人でした。


 強いことについては、まごうことなき真実でした。

 一之瀬さんが戦っている姿を直接見ましたので、これについては間違いありません。


 しかし、残忍ということについては、間違っているように思います。

 一之瀬さんは私を助けてくださいましたし、むやみに人を傷つけるようなことはしないように見えます。

 噂話は所詮噂話、ということですね。


 1人で行動している変わり者、という点に関しましては……どうなのでしょうか?

 確かに、1人で行動していましたが、ことさらにそこを強調する必要はないと思います。

 私だって、いつもパーティーを組んでいた雷君に『兄だから』とアレコレ言われるのが嫌になって、1人で動いたりしていましたし。


 とにかく、《ビルドエラー》と呼ばれている一之瀬さんは、地球とアースを行き来する私たちにとっては有名人でした。

 人によっては、彼こそが地球人プレイヤー最強だと評価していたりするそうです。

 そんな人が私たちの先生になってくれているのです。

 よく考えてみると、これってすごいことですよね?


 ああ……どうしよう。

 私たち、もしかしたら一之瀬さんにご迷惑をおかけしてないでしょうか……。


「どうしたんだよ、水野。足がとまってるぞ」

「あ……ごめんね、雷君」


 歩きながら考え事をしていたら、いつの間にか、とまっていたようです。

 なので私は、数メートル先にいた雷君のところへと走りました。


「もしかして、兄ちゃんのこと、考えてた?」

「そ、そんなことないよ!」

「ホントか? 声がうわずってるけど」

「……え……嘘……?」

「やっぱ考えてたんじゃんか」

「う……」


 さすが、双子の兄妹というべきでしょうか。

 雷君には、どうも隠し事ができません。


「別に隠す必要なんてねーさ。最近の水野って、兄ちゃんのことばっか考えてるみたいだしさ」


 そ、そうでしょうか?

 た、確かに、ここ最近の私は一之瀬さんについて考えることが多くなっている気がします。

 けれど、そんな、指摘されるほどではない……と思います。


「大変だと思うぞ、兄ちゃんを狙うならさ」

「ね、狙ってなんてないよ! ……で、大変って、どういう意味で大変なの?」


 雷君の言い方が引っかかった私は、一応、念のため、ちょっとだけ気になったから、詳しく聞いてみることにしました。

 いえ、ホント、特に理由なんてありませんが。


「友達から仕入れた情報なんだけどさ、《ビルドエラー》ってすごいモテるんだってさ」

「そ、そうなの?」

「なんでも、一時期は《1年生のハーレム男》とか言われてたらしいんだ。最近はなんでか言われなくなってるみたいだけど」

「へ、へえ……」


 は、ハーレム男ですか……。

 ちょっと……意外です……。


 でも、”1年生の”とはどういう意味でつけられたものなんでしょうか。

 他の学年にも、似たような呼ばれ方をする方がいらっしゃる、ということでしょうか。

 よくわかりません。


「しかも、《ビルドエラー》は《流星アイドル》とも仲がいいんだって」

「…………え!?」


 《流星アイドル》といえば、1年前くらいまではテレビによく出てた、元新人大型アイドル『ミーナ』のことじゃないですか!

 そんな方が私たちの先輩にいるということは知ってましたが、一之瀬さんのお知り合いだったなんて……。


 流星の如く現れて、流星の如く消えていったからといって、あだ名に《流星アイドル》だなんて付けるのは可哀想だと思います。

 略称として《流星》と呼ぶ人も多いみたいですが。

 ……って、そんな現実逃避をしている場合じゃないですね。


「本当なの……それ……?」

「ホントホント。どうも、その2人は同じクラスで、高校の入学初日から一緒にパーティー組んでたらしいし」

「そ、そうなんだ……」


 まさか、一之瀬さんがあのミーナさんと仲がいいだなんて、予想外にもほどがあります。

 それでは、あまりにも……。


「……で、でも、普通に、仲のいい”友達”って関係なんじゃない? ”友達”なら、パーティーを組むのも普通だし」

「そうかもな」


 うん。

 絶対にそうです。

 一之瀬さんとミーナさんは、ただの”友達”。

 なにも問題ありません。


「だけど、もしも恋人だったら、水野じゃ勝ち目ないよな」

「か、勝ち目って、どど、どういうことかな!? 私、そういうの全然意識してないし! いきなりなに言いだしてるのかな、雷君は!」


 恋人だとか勝ち目だとか、意味不明なことを!

 今はそんな話をしていたわけじゃありません!


「と、とにかく! この話はここで終わり! さあ、早く一之瀬さんのところに行こ!」


 私は顔を熱くさせながらも、歩く速度を早めました。


 今の私たちは一之瀬さんと合流するための移動中です。

 もう少し歩いた先には、私たちがここ数日使っている広場があります。


 多分、一之瀬さんはその広場にあるベンチで、私たちが来るのを待っていることでしょう。

 ですから、私が歩くのを早めたのも、当然のことです。

 一之瀬さんをお待たせするわけにはいきません。


「今日も、兄ちゃんに『美味い』って言われるといいな」


 なぜかニヤニヤとした笑みを浮かべている雷君は、私が持っているバスケットに目を向けてきました。


 その表情には腹が立ちますが……言っていることには同意します。

 最近の私は、一之瀬さんに食べてもらうために、自作したお菓子を毎日持参しています。

 初めに差し入れをしたクッキーが思いのほか好評だったからです。

 お菓子作りは私の趣味だったこともあり、いろいろ教えてくれることへの感謝の気持ちを込めて作っています。


 ちなみに、今回作ったものはマフィンです。

 外側はサクサクで、中身はしっとりの自信作です!

 一之瀬さん、毎回美味しいと言って残さず食べてくれるけど、今回も喜んでくれるかなぁ。


 そんなことを考えながら歩いていると、私たちは集合場所の見えるところまでたどり着きました。


「……お、なんだ、兄ちゃんってば、またあの女の人と喋ってるな」

「…………」


 広場のベンチには、一之瀬さんと、女性の方が座っていました。

 なにを話しているのかは聞こえませんが、一之瀬さんたちはとても楽しそうにしています。


 ――でも、その笑いが無理をしているように見えるのは、私の気のせいでしょうか。


「あの人、この前兄ちゃんと喋ってた人だよな?」

「う、うん……」


 女性の方は、以前にも、一之瀬さんとあの場所で一緒にいました。


 どういうご関係なのでしょうか。

 恋人ではないと一之瀬さんはおっしゃっていましたが、仲がいいのは確かみたいですし……。

 さらに言ってしまえば、その人はなかなかの美人さんに見えます。


 一之瀬さんも男性ですし、もしかしたら異性として見てしまってもおかしくない――。

 って……なに考えてんでしょうね、私は。


「……あ、女の人、離れてったぞ」


 女性の方がベンチから立ち上がって、一之瀬さんから離れていきました。

 病棟のほうに歩いていっているところから考えますと、おそらく、あの方は診察待ちの時間に一之瀬さんがベンチに座っていたからお喋りをしたのでしょう。

 だとしたら、いろいろ辻褄が合いそうです。

 しかし、そういうことなら、あの女性の方は病気でも患っている、ということでしょうか。

 見た目はいたって健康そうですが……。


 ……このあたりについては、あまり深く詮索しないほうがいいかもしれません。

 こういったことを無暗に詮索するのはよくないですよね。

 でも……やっぱり気になります。


「ほら、水野、いつまでも隠れてないで、さっさと兄ちゃんのとこにいくぞ」

「あ……うん」


 一之瀬さんが1人になったところを見計らって、私たちは物陰から出ることにしました。

 いつまでも、一之瀬さんをお待たせするわけにはいきませんからね。


 こうして私たちは、今日も一之瀬さん指導のもと、アースで生き抜くための知識を学ばせていただいたのでした。

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