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決断の時

 俺達が入学式後にアース世界へ来てから23日が経過した。

 その間の殆どをレべリングに費やした結果、俺達のレベルは11にまで上がった。


 Bコースの連中が去ってから5レベルしか上がっていないが、それはレベルが上がるのに必要な経験値量がガンガン増えているのだから仕方が無い事と言える。

 早川先生からは始まりの町からあまり離れるなと言われているため、安全マージンを十分に取った狩場でしかレべリングができなかったからというのもあるんだがな。


 とはいえ、俺達はレベル以外にも装備品が充実したおかげでステータス的に強くなり、この世界での戦い方にも十分慣れてきたと言えるだろう。

 まあ俺がステータス的に強くなったかについてはやや疑問ではあるんだが。


NAME シン

 JOB 僧侶

 Lv 11


  HP 240/240

  MP 220/220


 STR 0(5)

 VIT 50(78)

 AGI 0(-4)

 INT 0(-18)

 MND 0(-20)

 DEX 0

 LUK 0(3)


 ステータスポイント残り20


 装備[愚者の盾、ラージシールド、脳筋のバンダナ、死霊の鎧、欝の腕輪、鋼鉄のブーツ]


 スキル[ヒールLv4、ヒーリングLv1、プロテクションLv2、キュアLv3、ブレッシングLv1、リザレクションLv2、MP量増加Lv1、戦闘時HP自動回復Lv2、戦闘時MP自動回復Lv2、毒耐性Lv2]



 俺は未だにステータスポイントをどのように振ろうか悩んでいる。

 VITに全振りしたおかげで今はまだ何とかなっているが、そろそろステータスポイントを振っていかないと厳しい戦いになってくるはずだ。


 ちなみに俺はVITとMND以外のステータスにポイントを振る気は今のところ無かったりする。

 攻撃力を上げるSTRはソロで無い限り回復職にとって不要なものであり、INTも同様の理由から振るメリットが少ない。

 AGIはいずれ振ったほうがいいと感じるかもしれないが、今のところはMOBの動きに合わせられているので不要。元々PSが高いプレイヤーにとって無用の長物となりかねないステータスだしな。

 DEXはAGIと同様、場合によっては振るかもしれない。DEXにステータスを振るとスキルが再使用できるまでの時間、クールタイムが短縮されるというメリットがあったりするからだ。

 LUKは盗賊職や趣味人といったジョブなら重宝するかもしれないが、タンクやヒーラーは運任せより堅実さが求められるため、わざわざ振らなくてもいい。


 結果としてVIT、MND以外にステ振りをするならAGIかDEXであり、それも今のところは振らなくても問題ないという結論に落ち着く、


 しかしVITに振るか、それともMNDに振るかは非常に悩む。

 VITに振れば俺はこのまま僧侶でありながらタンクをするというチグハグなビルドを維持し続ける事になり、MNDに振ればレベルのわりに回復量が微妙だけどちょっと硬くて死ににくいヒーラーとして活躍する事になる。


 別にヒーラーをやりたくないというわけではないのだが、やはり俺の本分はタンクだ。

 なのでできる事なら味方の後ろにいるより敵の前に出て戦いたい。

 でも実際のところ俺は回復職なわけで。

 悩ましい。



 また、迷宮探索の方も俺達は順調に進めている。

 盗賊職がいないために慎重な探索となっているが、まだ迷宮としては序盤もいいところだからかそこまで酷いトラップもないようで、怪しい物に近づかなければ特に問題はなさそうだ。宝箱を開けられないのがもったいないけど。


 けれどそんな探索の中、地下9階層を歩いていると、2本の分かれ道があるところで見覚えのある奴らに出会った。


「! ……一之瀬達か。君達も今日は迷宮探索かい?」

「……まあな」


 そこには俺達以外のCコースを選んだ氷室達5人のパーティーが佇んでいた。

 こいつらとはたまに狩り場がかち合ったりしてその度に俺と氷室がいがみ合ったりしていたため、あんまり出くわさないよう気をつけてはいたんだが、今日は運が悪かったようだ。


 ちなみに氷室達のパーティーは騎士、魔術師、盗賊、僧侶、弓兵という構成をしている。

 剣士であるミナは仲間に入れられず、魔術師であるサクヤは被り、武道家のマイは被りである弓兵のユミと一緒に行動している事からほぼ必然的に集まったのだろう。


 Cコースを選んだメンバー10人のうち僧侶が2人もいたのは互いのパーティーにとって幸運だったな。

 もしも1人だったら奪い合いが発生していたかもしれない。

 まあ俺を僧侶としてカウントしていいのか些か疑問だが。


「変なところで会ったがお互いスルーの方向でいくぞ。こんなところで言い争って時間の浪費はしたくないからな」

「ふん、君の言い方には相変わらず憤りを感じるが……不干渉でいるのには同意する。迷宮内でトラブルなど勘弁願いたい」


 外であれば少し見回すと人の姿が見えるが、迷宮内では全く無い。

 たまに今回の氷室達やいつぞやの中学生パーティーと同様に迷宮探索をしているプレイヤーを見かける事があるが、それも頻度としてはかなり低いと言える。

 つまり迷宮内で何か問題が起きても誰かが救出してくれることなんてまず無い。

 だからここで俺達が喧嘩を始めることは自重する必要がある。


「それじゃあ俺達はこの先の道を行かせてもらう。お前達は向こうの道を進め」


 ということで俺は目の前にある分かれ道の一方を指差して氷室にそう言った。

 すると氷室はハァっとため息をつき、俺を見ながら言葉を紡ぐ。


「なんで君にそんな指図をされなきゃいけないのかな? それに向こうの道はさっき俺達が調べたが行き止まりだった。行くだけ無駄だよ」


 どうやら氷室達は既に一方の道を探索し終えて戻ってきたところだったようだ。

 ならもう一方の道を進むか引き返すかのどちらかしかないのだが……


「……途中までなら一緒に動いてやってもいい」

「ああ、この先に分かれ道があったらそこですぐに別行動といこう」


 こいつらに道を譲って引き返すというのは微妙だ。

 結局、俺達は条件付きで少しの間だけ一緒に行動する事にして歩き出した。


 そしてそんな出来事から数分後。

 俺達は下の階へと続く階段を見つけた。


「……この先はボスか」


 クロクロでは迷宮の10階層ごとにボスモンスターが配置されている。

 ならこの先、地下10階層にはボス部屋があるのだろう。

 

「俺達はここを降りてボス部屋の手前まで行こうと思っているが、君達はどうするんだい?」

「勿論いくさ。階段降りてすぐのところにボス部屋があるって訳じゃないだろうしな」


 今回はボス部屋までの道のりだけ確認し、ボスと戦う事はしない。


 この先にボスが待ち構えているのならそれはレイドボスでまず間違いない。

 クロクロのレイドボス戦ではプレイヤー30人が力を合わせてボスを倒すコンテンツであるため、たかだか1、2パーティーが勝負を挑んだところで全滅するのがオチだ。

 ボスと戦うのはもう少しプレイヤーの戦力が整ってからという事になる。


「だがボスらしきものが見えたら全力で逃げるぞ。いいな、氷室?」

「わかっているとも。俺達だってここでボスと戦おうだなんて思ってはいない」


 ボスと戦うには戦力が足りない。

 その事は氷室達も十分理解しているようだった。


「よし、いくぞ」


 氷室達と一緒に行動するのはあまりしたくはなかったが、階段は1つしかないのだからしょうがない。


 俺達は10人でボス部屋があるという地下10階層へと降りていった。


「……ここは一本道か」


 階段を降りきった先にはこれまでとは違って分かれ道など無く、1つの道がどこまでも続いていた。


 そこを俺達は周りに注意しながら歩いていく。


「…………ん? なんか、声が聞こえないか?」


 すると洞窟の奥から子供の声が聞こえてきた。

 それも1人ではなく、2人か3人あるいはもっとといった複数人の声だ。


 俺達はそれを聞いて一旦足を止めた。


「どういうこと? なんでこんなところに子供が……?」


 ミナが疑問の声を発した。


 俺達も高校生だから子供と言っても差し支えないだろうが、奥から響いてくる子供の声は幼すぎる。

 少なくとも小学生かそれ以下の年齢であるように思える。


 しかしそうなると、ここにそんな子供がいるというのは不自然だ。

 地下迷宮へはプレイヤーしか入る事を許されておらず、そして小学生プレイヤーも現在はアースにいない。


 ならこの声は一体何者なのだろうか。


「……いってみよう」


 ここで立ち止まっていてもその答えはわかるはずもない。

 そう思った俺は再び歩き始め、後ろから他のプレイヤー達もついてきた。






「……………………!」


 長い洞窟の先に大きな部屋が見えてきた。


 そしてその部屋の中にはロープで手足を縛られた子供達と――これまでで見た事もない大きさのゴブリンが3体いた。


「なんだ……あれ……」

「見てる場合じゃないでしょ! 早く助けないと!」

「! ま、待って! 1人でいっちゃ駄目だ!」

「ミーナちゃん!」


 動けないでいる子供達に巨大なゴブリン達が近づいていく。

 それを見てミナが走りだし、それに続いてユミ達や氷室達といった他のプレイヤーも駆け出す。


「くっ……!」


 何かがおかしい。

 この違和感のある状況の中でそう思ったものの、結局パーティメンバーとの足並みを揃えないと危険だと判断し、俺も全速力で走りだした。


「その子達から離れろぉ! 『シャウト』!」

「『シャウト』!」


 スキルの射程に収めた氷室とマイがそれぞれタウントスキルを使用してゴブリン達を振り向かせる。


「……ゴブリンロード」


 また、ゴブリン達に近づいたことでソイツらのネームも確認する事ができた、

 そのゴブリン達の真上には『ゴブリンロード』という名前とHPゲージが俺の網膜に映った。


「『ヒール』!」


 マイ達より出遅れる形となったが、やっと射程距離に入ったと見た俺は1匹のゴブリンロードに『ヒール』を与える。

 HPゲージ的には1パーセントも減らないといったレベルであったが、ダメージを受けたモンスターは俺の方を向いてこちらに歩いてきた。


 上手く1匹だけ釣る事ができた俺は他のプレイヤーから離れ、1人でしばらくそいつを足止めする役を買って出る。


「1匹は俺が引きつける! その間にお前達は他2体を倒せ!」

「う、うん! わかった!」


 これによって氷室達のパーティーが5人で1匹、ミナ、サクヤ、ユミ、マイの4人が1匹を受け持って戦うという流れになった。


 俺がいなくてもマイが引きつけているからミナ、サクヤ、ユミは時折ヒールを飛ばせば大丈夫そうだし、氷室達は若干攻撃力が低そうだがそこそこバランスの良いパーティーなので特に問題なく戦えている。

 それに俺の方も守りに徹していれば1人で持ちこたえられそうだ。


 しかしどうにも俺の疑念は拭えなかった。

 ここは地下10階層なのだからレイドボスがいるはず。

 なのにそれがいない。


 俺は内心で嫌な予感を膨れさせながらも、ゴブリンロードの振るう巨大な棍棒を冷静に受け流し続けた。


「はぁ……はぁ……や、やったぞ!」


 そして俺達は数十分という長い時間をかけてゴブリンロード3体を撃破した。


 すると周囲から喜びの声が上がり、それと同時にミナが部屋の中央にいる子供達へと駆け寄っていく。


「き、君達大丈夫? どこか怪我とかはしてたりしない?」


 ミナは黙って俯いている子供達へ向けて心配そうな顔をしながら声をかけている。


 部屋に入った辺りから子供達はやけに静かなので俺も変に思ってはいたのだが――


「え……?」

「!?」



 子供達の中の1人にミナが手を触れたその瞬間、その子達は全員ケタケタと笑い始めて煙と化した。



 その後、奥の壁が突然ガラガラと壊れ始め、それと同時に俺達が通ってきた道も崩れていく。



「な……」


 子供だと思っていたモノは俺達をこの部屋に呼びこむための罠だった。

 この状況を見たらそう考えるしかない。


「おい……あれ……」

「ま、まさか……」


 だが今はそんな事を分析している場合ではない。

 俺達は部屋の奥の壁を突き破ったモンスターに恐怖の声を上げる。



「レイドボス……」



 先ほど戦っていたゴブリンロードよりも更にでかい――キングゴブリンという名のついたモンスターが俺達の前に姿を現した。



 こうして俺に決断の時がやってきた。

 今後のプレイスタイル、そして俺の生き方そのものに関わる重要な場面に直面することとなったのだった。

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