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サクヤ無双

 最近、ユミとマイがパーティーに加わって1つ気になる事ができた。


「ほっ!」

「…………」

「はっ!」

「…………」

「せいやぁっ!」

「…………」


 前衛でMOBからの攻撃を軽やかに避ける軽装の少女、マイ。

 彼女の身のこなしはVRゲームをやり込んでいるゲーマーらしく無駄がない。


 しかし俺にとって彼女の動きは非常に気になった。


 なぜならマイが大きく体を動かすと……揺れるのである。

 金属製の鎧などを身につけず、体の線にフィットした中華風の服を彼女は着ているせいで、その豊満なボディがかなり強調されている。


 つまり俺は前衛で彼女が敵の攻撃を避けるときにボインボインと揺れる胸に視線がいってしまう時があるということだ。

 戦っている最中に何見てんだという話だが、これは男のサガなのだから仕方が無い。


 仕方がない、のだが……


「…………」

「…………」


 サクヤが俺をじっと見ている。

 ここ数日、マイの胸に意識が向くとサクヤの視線が物凄く突き刺さってくる。

 そして彼女は自分のささやかな胸に手を当てて「はぁ……」とため息をつくまでがいつもの流れだ。

 なんというかいたたまれない気持ちを抱いてしまう。


「シンくんっておっぱい好きなんだねっ」

「へぁ!?」


 そんな事を考えているとマイが俺に驚きの発言をしてきた。


「な、べ、別に俺はそんなこと――」

「さっきも私のおっぱい見てたよねっ?」

「……はい。好きです」


 どうやらマイは今まで俺がチラチラ胸を見ていた事に気づいていたらしい。

 本人から訊ねられるとは思わなかったが、ここで嘘をついてもしょうがないので俺は正直に答えた。


「ぐぅ……」

「…………」


 すると少し離れた位置にいるサクヤの口から苦悶めいた声が漏れてきた。


「私もBはあるのに……揉めばいいのか……毎日揉めばいいのか……」


 しかもなんか一人事をぶつぶつと呟いている。


 マイが規格外なだけなんだからお前はあんまり気にしなくてもいいのに。

 サクヤはとことん俺の好みに合わせたいのか。


「それじゃあ私のおっぱい触りたかったりするかなっ?」

「はい………………は?」

「もしも触りたいなら触らしてあげてもいいよっ?」

「!?」


 そこへ更にマイはトンデモ発言を続け、俺はしどろもどろになって言い直す。


「い、いや、そんな触りたいかと聞かれれば触りたいこともなくはないというかなんというか――」

「ぷっはははっ! シン君面白いねっ! からかいがいがあるよっ!」

「…………」


 ……なるほど。

 俺はさっきまでマイにからかわれていたのか。


 いやわかってたさ。

 別に本気で触らせてくれるなんて思っていたわけじゃないさ。


 わかってたけどもしかしたらという気持ちを抑えられなかっただけの事なんだ。

 だから俺は男としてなにも間違ってはいない。


「サクヤちゃんもそんな怖い顔しないでっ。ただのジョークなんだからさっ」

「うぅぅぅ」

「…………」


 俺が心の中で自分を慰めているとマイがサクヤに声をかけている。

 それにつられて俺もサクヤの方を見ると、彼女は低い唸り声をあげて俺達を睨みつけていた。


「……マイさん、私の旦那様を誑かすのは止めていただけませんかね」

「おい誰がお前の旦那だ。適当な事言うの止めていただけませんかね」


 更にサクヤがアホな事を言い出したので俺はすかさずツッコミをいれる。


 サクヤのボケは全部潰しておかないと周りに誤解されかねないからな。


「でもシン様がマイさんのおっぱいに釘付けなのは本当でしょ? 欲情してるんでしょ?」

「欲情とか言うな……それと俺はお前のモノでも何でもないんだからこんなやり取りをしたくらいで怒るなよ」

「シン様は私のモノじゃなくても私はシン様のモノだよ! 私のおっぱいなら盛大に揉みしだいてもいいんだよ!」

「だからそういうこと言うな! ホントに揉むぞコラ!」


 と、そこで俺はつい売り言葉に買い言葉をしてしまった。

 するとそのせいでかサクヤの様子が変わり、俺にずずずいーっと擦り寄ってくる。


「うんいいよ! シン様が満足するまで揉んでいいよ! 私のおっぱいはシン様のモノだよ! さあさあいっぱい揉みしだいちゃって!」

「や……やめろ……俺は絶対触らないからな……」


 物凄い勢いで詰め寄ってくるサクヤの様子に俺は後ずさる。


 正直な話、胸を揉んでいいと言われたら揉みたいとは思う。

 しかしサクヤの場合、ここで誘惑に負けたら既成事実化されて行き着く所まで行ってしまう危険性を孕んでいるように感じる。


 なので俺は彼女の攻勢を前にしても手を出すことなく、何とか諦めてもらおうと思考を回した。


「サクヤ……俺はFカップ以上じゃないと興奮しないんだ。だからお前の胸では物足りない」

「ならシン様が私のおっぱい大きくなるよう毎日揉んで!」

「……更に言うと俺は妹萌えなんだ。だから同級生に手を出す気はない」

「それじゃあ私留年するね! 学費も自分で働いて何とか工面するよ! お兄ちゃん!」

「…………あーでも俺、金持ってない女って嫌いなんだわ。遊べる金無いと楽しくないし」

「わかった! その分も私が何とか稼いでくるね! 額によってはちょっと時間かかるかもしれないけど頑張って貢ぐね!」


 ……ダメだ、強すぎる。


 なんかもうサクヤ相手にどれだけゲスな事言っても諦めてくれそうにない。

 というか完全に貢ぐ発言をしてるがお前は本当にそれでいいのか。

 しかも妹萌えは留年すれば得られるという話じゃないし。


「はぁ……あなた達そろそろその辺にしたらどう? なんか話聞いてて頭痛くなってきたわ……」

「ああ、すまん」


 俺がサクヤに対して敗北しそうになっていると、呆れた様子でため息をついているミナから助け舟が寄越された。

 というか今の会話を聞かれてたと思うと少し恥ずかしいな。


「うん、それじゃあ最後にシン様、ちょっとそこに正座して」

「な、なんでだよ?」

「女子のおっぱいに視線を浴びせるのはマナー違反だから反省」

「……はい、すみません」


 そしてサクヤから意外な正論が出た。


 こればかりは俺に非がある。

 俺はその場に正座して反省する姿勢を見せた。



「えい」

「…………」



 すると突然目の前が真っ暗になった。


「って何してんだコラ!!!!!」


 理由はサクヤがローブの中に俺の頭を突っ込ませたからだ。

 つまり俺の目の前には彼女のパンツ、というかお股がある事になる。

 しかし暗すぎて何も見えない。


 俺は怒りながらサクヤのローブの中から顔を出した。


「シン様の抱く劣情をマイさんから私に向かせようかと思って」

「うるさい。俺はもうお前のパンツを見たくらいでは動揺しない」

「む……それじゃあシン様はパンツ履いてない方がいいのかな?」

「絶対止めろよ!? もうやってる事完全に痴女じゃねえか!?」

「私はシン様だけの痴女だよ! マイさんじゃなくて私をオカズに使うのならオッケーだよ!」

「…………」


 ……ダメだ、勝てない。


 俺はあまりにぶっとんだサクヤの発言にそれ以上何も言い返す事ができなかった。





 そして更に俺はサクヤの恐ろしさを知る。


 翌日、まだ太陽の光も殆ど昇っていない時間に起きた俺の目の前にサクヤがいた。


「あ、おはよう、シン様」

「う、うおおおおおおおおあああああああああ!?」


 目覚めの一番にサクヤの姿を見た俺は驚愕の叫びを上げてベッドから転げ落ちる。


「だ、大丈夫!? しっかりしてシン様!」

「う、うるさい! どうしてお前がここにいる! どうやってこの部屋に入ってきた!」


 俺はさっきまで自分が寝ていたベッドの上にいるサクヤへ怒鳴るようにして問いかけた。


 どうやら彼女は今まで俺と添い寝していたようだ。

 しかしここは男子部屋……現在俺とユミしかいないはずの部屋だった。

 だからサクヤがここにいるのは色々おかしい。


「えへへ……昨日のうちに部屋に忍び込んでたんだ」

「な、なんでそんなことを……」

「それはシン様の寝顔を観察するためだよ」

「だからって添い寝するなよ……」


 なんかもうストーカーというレベルすら超越している。

 サクヤのスキンシップはとどまるところを知らない。

 

「というか……お前俺が寝ている間に何かしてないだろうな?」


 俺はサクヤの行動に貞操の危険を感じてそんな問いをした。

 すると彼女は首を傾げ、顔をニヤッとさせながら口を開く。


「何かって例えば?」

「た、例えばその、き、キスとか……」


 なんか自分で言うと恥ずかしい。

 しかもサクヤは今わざと聞いたようなそぶりだったし、完全に俺の反応で遊ばれてるように思える。


 だがこれだけは聞いておかないと困る。

 俺の気持ち的に。


「んふふ、大丈夫だよシン様。私、そういうのはシン様がしてくれるまで待つことにしたから」


 俺の問いにサクヤはそう答えた。


 それを聞いた俺は、こんなわけのわからない状況であるにもかかわらず若干彼女にドキリとさせられてしまい、慌ててそっぽを向きながら言い繕う。


「そ、そうか。ならいいんだが」


 本当は全然よくない。

 けれどここで彼女に詰問して薮蛇となりやしないかと恐れた俺は、それ以上追求する事を止めてその場に立ち上がる。


「あ、でも色々触ったり舐めたりはしたかな」 

「…………」


 そう思っていたのに蛇は藪の中から普通に飛び出してきた。


 どこを触ったり舐めたりしたのだろうか。

 俺はサクヤにその答えを聞こうとしたものの、そこで爆弾を投下される可能性を危惧して何も言わなかった。


 しかし一応後で全身の臭いを嗅いで確認しておこう。

 念のために。


「2人とも朝から元気だね。そんな大声を出してると宿に泊まってる人達に迷惑だよ?」

「……ああ、ユミか。起こしてしまってすまない」


 そんな俺達へユミが声をかけてきた。

 ユミはまだ寝ぼけ眼だが、変な起こされ方をしたせいか少し不機嫌そうな雰囲気だ。


「2時半か……まだ朝って時間でもないしあとちょっとは寝れそうだけど、もうこのまま起きてようか」

「そうだな。なんかホント悪いな、ユミ」

「いや、いいよ。どうせシン君も眠れないでしょう?」

「……まあな」


 サクヤのせいですっかり目が覚めてしまった。

 ここから後少し睡眠をとるという事はできなさそうに思える。


「……というかサクヤ、お前もしかして今までずっと起きてたのか?」


 なので俺はすぐ傍にいたサクヤに向かってそんな問いかけをした。


 考えてみればなんでサクヤはこんな時間にもかかわらず起きていたのだろうか。

 俺の寝顔を観察するためだけに眠らないでいたとでもいうのか。


「あれ、シン君はサクヤさんのアビリティ(異能)知らないの?」

「アビリティ?」

「私のアビリティは『不眠』だよ! 24時間シン様を見続けられるよ!」


 不眠……だと?


 つまりサクヤは一切眠らずに活動し続けられるという事なのか?


「ちなみにそれっていつまで眠らなくても平気なんだ?」

「もうかれこれ1年以上は寝てないよ」

「マジか」


 それ大丈夫なのか。

 ある意味羨ましいアビリティだけど、1年以上も寝てないとか精神的に問題が起きそうな気がするんだが。


「だから暇な時間が多くてネトゲにはまって……シン様と運命の出会いを果たしたんだぁ……すりすり」

「…………」


 まあ頭のネジが数本取れてるのは確かだな。


 俺の背中に頬ずりしているサクヤを引き剥がしつつ俺はそう思った。


「その様子だと僕やマイのアビリティも君は知らないんじゃない?」

「知らないな」


 あんまり自分のアビリティを意識したくないから俺は他のアビリティスト達が持つ力の話題を振らないし知ろうともしない。

 だから俺がアビリティを知っているクラスメイトはミナだけだった。


「僕のアビリティは『風読み』でマイは『消化』だ」

「風読みと消化……か」

「うん。アースでは普通に風があるから弓使いの僕としては便利な力だね。マイの方はお腹がすくのが早くて困ってるみたいだけど」

「へえ」


 地味なアビリティながらこいつは戦闘中もそれを使っていたのか。

 ユミの放つ矢の命中率は結構良いから相当PS高いんだろうなって思ってたけど、そんなアビリティも関係していたんだな。


 だがマイのアビリティにはあまり利点を感じない。

 入学初日の自己紹介に流し聞いたアビリティは大抵よくわからないものが多かったからマイが特別不遇というわけでもないんだが。


「……と、そろそろ頃合だね。僕達はこれから着替えようと思うんだけど、サクヤさんはまだここにいるつもり? 僕達の着替えシーンでも見ていく?」

「シン様のストリップなら見たいです」

「ストリップなんてしねえからさっさと部屋を出ろサクヤ」


 そんな会話をしているうちに窓の外から日の光が薄っすらと見え始めたので、俺達は狩りをする支度を始める事にした。



 なんだか何気にみんな自分のアビリティを普通に使っているんだな。

 単に常時発動型だから仕方なくって感じなのかもしれないが。


 俺はアビリティを積極的に使うことには否定的だけど、まあ人それぞれか。


「……ん?」


 と、サクヤが部屋から出ていくのを見ながらそんな事を考えつつベッドのシーツを直していると、そこから白い布が姿を現した。



 ……女性用のパンツだった。



「…………」


 これは間違い無くサクヤの私物だ。

 なんでこんなところに置いていきやがった。


 しかも若干生暖かいような気がする。

 もしかしたらこれはサクヤの脱ぎたてなのかもしれない。


 そう思って俺はサクヤの意味不明な行動に顔を引きつらせつつも――その可愛らしいパンツを無意識のうちに顔へと近づけていく。


「…………」

「…………」


 サクヤと目が合った。

 彼女はドアの向こうから顔を半分だけ出し、微笑むかのように口角をニュッと吊り上げながら俺を見ていた。


「……これは違うぞ、サク――」

「うん。前に『ブルーファントム』で『女の子のパンツってどんな匂いするんだろう』ってシン様言ってたよね」


 俺の馬鹿ヤロウ。

 いくら男だけ(表向きは)のギルドで下ネタ話が多かったとはいえ、そんな事を言うべきじゃなかった。


 ぶっちゃけ可愛い女の子の履いていたパンツがあったら嗅いでみたいと思うのが男のサガだろぉ……

 こんなトラップひっかかって当然だろぉ……


「それはシン様にあげる。大事に使ってね」

「ちょ、待てサク……ヤ……」


 サクヤは俺の言葉を聞く前に部屋から今度こそ退室し、とてとてと廊下を歩いていく音が響き渡った。


 俺はパンツを握り締めた状態のまま、「どうすんだこれ」と頭を悩ませていく。


「今回は君の負けだね。シン君」

「ぐぅ……」


 ユミが判定を下したのを聞き、俺はその場に膝をつく。


 その後サクヤのパンツをアイテムボックスの中に入れ、事あるごとにそれを返そうとしたのだが、彼女はそれを「いいんだよ、いいんだよ。なんだったらおかわりもあげるよ」と言って断固として受け取らなかった。

 結果、俺は自制心を崩壊させかねない爆弾をアイテムボックス内に抱えることとなったのだった。

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