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再会

 冒険者ギルドに、クレールが入ってきた。

 彼女はいつも通りのドヤ顔で高笑いをしていた。


「フッハッハッハッ! なにやら揉め事の気配を感じるぞ! 我も混ぜるがいい!」


 ……どうやら、クレールはキィスたちの騒動を嗅ぎつけて、ここにやってきたようだ。

 野次馬根性極まれりって感じだな。


 なにはともあれ、ちゃんと元気にしてたようで良かった。

 今までどこにいるかもわからなかったというのに、こんなところで再会するとは。


「……一之瀬、アレが例のSランク冒険者だ」


 クレールに気を取られている俺へ、ねこにゃんがそう告げてきた。


「……なに?」

「だから……アレが先ほどまで俺が語っていたSランク冒険者……クレール・ディス・カバリアだ」

「…………」


 つまり、なんだ、最近冒険者ギルドを荒らしまわっていたのは、クレールだったというわけか。


 あいつは俺たちから離れて、今までなにをやってんだよ。

 しかも、あいつってSランク冒険者だったんかい。

 そんなの初耳だぞ。


「横から突然しゃしゃり出てきて、一体なんなんですの!」


 俺がクレールのことで驚いていると、リアナが大声を上げた。


「む、なんだ貴様は」

「なんだはこっちのセリフですわ! 関係ない方はとっととどこかへ行ってくださらないかしら!」


 リアナは、突然割り込みをかけてきたクレールに怒っているようだ。


 確かに、キィスたちのイザコザにクレールは関係ない。

 面白半分で混ざってこられても困るだけだ。


「それに、なんなんですの! よりにもよって『死霊王』の名を口にするなんて!」


 と思っていたら、リアナは別のことについても腹を立てているようだった。


「我こそが『死霊王』なのだから、そう名乗ることに差し支えなどあるまい」

「『死霊王』はあなたのようなチンチクリンじゃありませんわ! 馬鹿にしないでくださいまし!」

「な!? 馬鹿になどしていない! それと、我のことをチンチクリンなどと呼ぶな! それを言うなら、むしろ貴様のほうがチンチクリンではないか!」


 ……なんか、話が脱線してきたぞ。


 クレールとリアナ。

 どっちもやかましい系だから、こういうやりとりをすると際限なく言いあいを続けそうだ。


「俺を無視すんな!!! お前ら……この……コラー!!!!!」


 そんなとき、クレールより先に冒険者ギルド内へ入ってきていた仮面の男が、怒ったというように叫びだした。


 ああ、そういえば、あいつもいたな。

 クレールのほうがインパクト的に大きかったせいで、つい忘れていた。

 見た目的に強烈な個性を出しているのに、クレールたちの前では霞んで見えてしまう。


 残念な奴だ。

 とはいえ、ここで完全にスルーというわけにもいかないか。


「なあ、ねこにゃん。あれって、ダークネスカイザーだよな?」

「おそらくな。あの仮面は俺も以前に見たことがある」


 ねこにゃんと同様に、俺もあの仮面には見覚えがあった。

 あれを見たのは、決闘大会中高生部門の二回戦、俺の対戦相手が被っていたものと同じものだ。


 その対戦相手は試合途中に突然逃げ出して、素性は結局わからずじまいだった。

 しかし、そいつが着用していた衣装は、仮面も含め、すべてダークネスカイザーからパクッたものだったらしい。


 また、あの仮面は特注品らしく、普通の店では売っていない。

 つまり、あの仮面を付けている人間は、ダークネスカイザーか、ダークネスカイザーから装備品をパクッた奴のどちらか、ということになる。


 そして、今この場にいる仮面の男の声は、決闘大会で戦った奴とは違う。


「一応確認してみるか」


 ここからでは本人かどうかよくわからない。

 なので、とりあえず本人確認だけしてみようと思い、俺は席を立ちあがってダークネスカイザーに近づいていく。


「あなたもあなたで誰なんですの!」

「……ふっ、やれやれ、訊かれたとあらば答えてやろう。俺の名はダークネス――」

「てい」

「ああっ!?」


 俺はダークネスカイザーの背後に忍び足で回り込み、仮面をはぎ取った。

 仮面の奥には、日本人風の顔があった。


「……どうやら、本人で間違いなさそうだな」


 ダークネスカイザーの素顔を見た俺の網膜には、ちゃんと『ダークネスカイザー』というキャラネームが映し出されていた。

 意図的に表示を隠されていた場合はこの方法で確認することもできないけど、こいつはデフォルトの設定だったようだな。


「な、なんだお前は! か、返せよ仮面!」 

「おっと……悪いな、いきなりはぎ取るようなことして」


 俺の手から強引に仮面を奪っていったダークネスカイザーは、顔を赤くしながらも、怒った様子でそれを付け直した。


「……ん? なんだ、おビルドエラーか」

「俺のことを知っていたのか」

「当然だ。俺より知名度は劣るだろうが、《ビルドエラー》もそこそこの有名人だからな」


 ……いや、少なくともお前よりは有名人だと思うぞ。

 ダークネスカイザーといえば確かに地球人プレイヤーのごく一部では有名だが、それも名前のアレさが有名ってだけだし。

 どういった人物なのかは、今の今まで俺もわからなかった。


 わからなかったけど、変な奴っぽいのは、出会った雰囲気でなんとなく理解した。

 先生いわく、こいつは1人でどこかに行っていたみたいだが、旅先でアース人に『地球人とはこういうものなのか』とか思わせていやしないか、ちょっと不安になる。


「し、シン殿……」


 そんなやり取りをしていたすぐ近くで、クレールが驚いたというように目を見開いていた。


 さっきまで彼女は、俺がこの場に居合わせていることに気づいていなかったようだ。

 まあ、冒険者ギルド内はそれなりに盛況だからな。

 気づかなかったのも無理はない。


「久しぶりだな、クレール」

「あ、う、うん…………ひ、久しぶりだな! シン殿! 元気にしていたか!」

「まあな」


 こうして会話をするのも久しぶりな俺たちは、少しギクシャクとした様子で挨拶を交わした。


「お前こそ、元気にしてたか?」

「わ、我はいつでも元気だぞ!」

「そうか?」


 クレールはダメージヒールもご無沙汰なはずなんだが、本当に大丈夫なんだろうか。

 やせ我慢でもしてるんじゃないだろうな。


「なあ、クレール。久しぶりにヒールでもしてやろ――」

「シンさまーーーーーーーーーーーー!!!!!」

「!!!」


 クレールに向けて問いかけようとしたそのとき、1人の女性が勢いよく俺に抱きついてきた。

 その女性は……ミーミル大陸にいるはずのエルフ少女、エレナだった。


「……え、エレナ? どうしてここに?」

「それはもちろん! シンさまに会うためです!」


 エレナは俺の首に腕を絡め、上気した顔を寄せてきた。

 顔が近い!


「貴様! シン殿に突然なにをしているのだ!」

「ぐえっ!?」


 俺のすぐ目の前までエレナの顔が迫ってきたところで、クレールのストップがかかった。

 エレナはクレールによって首元の服を掴まれ、苦しそうにしている。


 身長的にはエレナのほうが高いため、なんとも締まらない光景だ。

 いや、首元は絞まってるみたいだけど。


「だから俺を無視するなと言っているだろコラァァア!!!!!」


 そんなクレールたちを眺めていると、またもやダークネスカイザーが吠えだした。


 こいつはさっきからなんなんだ。

 無視されるのが嫌いな性質か。


「なあ、さっきからいろいろ話し込んでるとこワリィんだけど、そいつらってシンにぃの知り合いか?」


 と、そこで、キィスが俺に話しかけてきた。


 そういえば、この場にはキィスたちもいたな。

 キィスたちはクレールやエレナ、ダークネスカイザーといった奴らに視線を浴びせている。


 ……あれ。


「さっきまでお前たちに絡んでた男はどうしたんだ?」

「あいつなら『せっかく冒険者の過酷さを教えてやろうと思ったのに……』とか言ってギルドの奥に引っ込んじまったぜ」

「……そっか」


 なんというか、タイミングが悪かったな。

 ああいう冒険者が身の程知らずの冒険者を間引いてくれるのだから、キィスたちみたいな子ども冒険者に絡むのも間違ってはいなかったんだけどなぁ。


 まあいい。

 今はクレールたちを紹介していこう。


「軽く紹介しておく。この仮面を付けた男は俺と同じ地球人で、名前は……ダークネスカイザーっていうよくわからない奴だ」

「よくわからない奴ではない。ミステリアスと呼べ」

「へいへい……」


 ダークネスカイザーについては俺もよく知らないけど、変な奴であることは十分理解した。


「それで、こっちの長い耳の女性がエレナだ」

「え、エレナと申しますぅ……」


 エレナは未だにクレールの拘束から逃れられずにいて、苦しそうな顔をしている。


「……そして、リアナいわくチンチクリンな彼女が……クレール・ディス・カバリア。一応、正真正銘の『死霊王』だ」

「だから我はチンチクリンではないぞ! それに一応とか言うな!」


 俺の紹介が不服だったのか、クレールは怒りながらもツッコミを入れてきた。

 その間もエレナから手を放すそぶりはない。

 もうそろそろ解放してやれよ。


「え、ええぇぇ……ちょっと待ってくださいませんこと……? それじゃあ、あれですの? 私たちのご先祖様と姉妹の契りを交わしたというあの『死霊王』が……こんな馬鹿そうなお人だったというわけですの……?」

「馬鹿そうとはなんだ! 貴様! さっきから我に喧嘩を売っているのか!」


 リアナの物言いにクレールは激高したようで、歯をむき出しにして怒鳴り出した。

 しかし、そんな怒ったという顔をしても、精々子どもが癇癪を起こしたというくらいの可愛らしい姿にしかならず、全然迫力がない。

 見た目って大事だな。


「せ、先生……本当ですか……? その……彼女があの八大王者の1人として数えられる『死霊王』というのは……?」

「こんなことで嘘を言ってもしょうがないだろ」

「で、ですよね……」


 リオも半信半疑な様子だ。


 無理もない。

 俺だって、初めて会ったときに彼女がおどろおどろしい骨の姿でなければ、クロスや早川先生から説明されなければ、こんな話は信じなかった。

 『死霊王』などと仰々しい二つ名を持つには、彼女の姿はあまりにも愛くるしすぎる。


「それより、お前たちのご先祖様と姉妹の契りを交わしたっていうのは、なんの話なんだ?」


 リアナが言った『ご先祖様と姉妹の契りを交わした』という話の内容に興味を持った俺は、そのことをリオに訊ねた。


「僕たちのご先祖様が死霊王と懇意にしていただいていた、という記録があるのですよ」

「なに、そうなのか?」

「はい」


 リオは俺にそう説明すると、クレールのほうに向きなおった。


「貴方様が本当に死霊王であるなら、リアーネ・ディス・フレイアという名に聞き覚えがあるのではないでしょうか?」

「む、確かにそれは、我の盟友の名に相違ない。貴様たちはもしや、あやつの子孫であるのか?」

「はい! その通りです! あの死霊王に、このような場でお会いできるとは!」


 どうやら、リオはクレールのことを死霊王と認めたようだ。

 こんなところで人の繋がりがあるとは。

 世間って狭いな。


「あ、あわわわわ……ほ、ほほ本当に死霊王でしたのぉ……」


 そしてリアナはクレールを見て、奥歯をガタガタさせている。


 さっきまで物凄く失礼なことを言ってたからな。

 怯えるのも仕方がない。


「あんまり気にするな、リアナ。クレールはチンチクリンだとか言われたくらいじゃ怒ったりしない。死霊王がそんな器の小さい奴なわけないだろ?」


 このまま怯えさせ続けるのもなんなので、俺はそんなことを言ってみた。


「う……うむ! そ、その通りだ! 我はあれしきの罵倒で気分を害するほど矮小な存在ではないぞ! ふ、フッハッハッハハっ!」


 すると、クレールは苦笑いを浮かべつつもそう言って、ややぎこちない笑い声を上げた。

 俺のアシストは上手く決まったみたいだな。

 よかったよかった。


 リアナとクレールの仲も取り持てたし、これでやっと落ち着いて話せる――。


「姉者! 大変です!」


 その直後、冒険者ギルドの扉が、再び『バァン!!!』という音を立てて開け放たれた。


「姉者! やっぱり関所を通らずに町へ入るのはマズかったですよ!」

「姉者! 衛兵が我々を追いかけてきてます!」

「姉者! このままだとお尋ね者に――」

「収拾つかなくなるからいきなり現れて場をかき乱すこの流れもうやめろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

「「「ええっ!?」」」


 突然姿を現した三馬鹿龍人族に向かって、俺はキレた。

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