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お茶会?

 新米冒険者とパーティーを組むようになってから、さらに数日が経過した。

 

「今日もお疲れ様。明日は休みにするから、体をゆっくり休ませるんだぞ」


 そして、たまには冒険者にも休息だと判断した俺は、明日を休日とすることに決めた。


 ここまでの新米冒険者育成過程は、まずまずといった具合だ。

 みんな、俺のやり方にきちんとついてきている。

 教える立場としては、とても教えやすい。


「明日は休みかー。でも休みの日って何すりゃいいんだ?」

「休みの日なんだから、休むに決まっているだろ」

「つってもなー……村にいたころは、昼間ならいつも農作業とかやってたし、何かしらしてないと落ち着かないぜ」


 どうやら、キィスは元気が有り余ってるようだ。

 町の外でモンスターを狩り、ヘトヘトになるまで体を動いても、次の日に疲労を持ちこさないような奴だからな。

 今日も、一晩寝れば体力的に十分なんだろう。


「キィス君……私は休みたいな……」

「あ……うん、そうだな。エマは休みたいよな」


 しかし、キィスはエマの様子を見て、『それなら俺も休みに付き合ってやるぜ!』と言って、休日を受け入れた。


 エマは体が病弱で、キィスほどの体力を持ち合わせていない。

 だからキィスは、彼女に気を使って休みを受け入れたわけか。

 相変わらず、この2人は仲が良いな。


「休日をいただけるのでしたら……ありがたくお休みさせていただきます……」

「ああ、そうしてくれ」


 どこかのクラスメイトのように、無理をして倒れられても嫌だからな。

 休むと決めたのなら、しっかりと休んでもらおう。


「クーリも明日が休みで問題ないな?」

「…………」


 キィスとエマが明日の休みに同意したので、今度はクーリに話を振ってみた。

 するとクーリは、いつも通り無言のまま、首をコクコクと縦に振った。


「お前も賛成か。それじゃあ、リアナはどうだ?」


 そして、最後にリアナへ訊ねた。


 基礎体力的な問題か、彼女はいつも、夕方ごろになるとエマ以上に疲れた様子を見せる。

 やはり、お嬢様に冒険者稼業は大変なのだろう。


「ええ、教官が決定したのでしたら、私は従いますわ。まあ、私は休みなんてなくても全然問題ないですけれど?」


 しかし、負けん気は十分にあるらしい。

 疲労の浮かぶ顔で、これだけの強がりを言ってのけるとは。

 なんだか、見ていて微笑ましいものすら感じてしまうな。


「ただ、明日を休日と定めるのでしたら、私から提案がありますわ」

「提案?」


 いったい何を提案するつもりだろうか。

 俺はリアナの声を拾えるよう、静かに耳をそばだてる。


「顔合わせの際にできなかった我が家でのお茶会を、明日に行いたいんですの」

「……なるほど、お茶会か」


 そういえば、以前にリアナは俺たちを自分の家に招待したいとか言ってたっけか。

 彼女はそれを諦めていなかったわけだな。


「まあ……リアナがそうしたいって言うなら構わないが」


 俺は面白いジョークの1つも飛ばせない男だ。

 お茶会なんて行っても、本当にただお茶を啜っているだけになるだろう。

 とはいえ、せっかくの機会だ。

 お招きにあずかることとしよう。


「他のみんなはどうする?」

「俺は構わないぜ! エマもいいだろ?」

「うん……私もいいよ……」


 キィスとエマも乗り気のようだ。


 よかった。

 リアナの家に行くとしても、俺1人だけという展開は心細いからな。

 旅は道連れ世は情けなり、だ。


「…………」

「クーも行くってさ」


 また、クーリも数秒ほど考えるような素振りをしたが、最終的に首を縦に振り、俺たちと一緒にリアナの家へといくという意思を表示した。

 これで欠席者はナシ、と。


「美味しいお菓子と紅茶を用意しますから、楽しみにするといいですわ!」

「うん……リアナさんのお家行くの……今から楽しみ……」

「タダで美味いもん食わせてくれるんなら、俺は遠慮なく食うぜ!」

「…………」


 初めの頃は少し不安だったけど、なかなか良いパーティーメンバーに恵まれたな。

 そう思いながら、俺はリアナたちのはしゃぐ姿を見て頬を緩ませる。


 こうして俺たちは、リアナの家に訪問することとなったのだった。





 リアナ・ディス・フレイアの住居であるフレイア邸は、『ミレイユ』の中心部に居を構えている。


 町の中心部は貴族層が住むエリアで、俺もあまり来たことがなかったから、リアナの家にちゃんとたどり着けるか心配だった。

 けれど、リアナがわざわざ俺たちを馬車で送ってくれたおかげで、ここまで迷わず来ることができた。


 大体予想していた通り、リアナの家はかなりの豪邸だった。

 おそらく、この建物は町で一番デカい。

 まあ領主の家なんだから、それも当然か。


「あら、いらっしゃい、小さな冒険者さんたち」


 そして、玄関先で俺たちを出迎えてくれた女性もゴージャスだ。

 身を着飾る衣装やアクセサリー、その全てが上等そうな代物に見える。

 見たところ、20才前後くらいの見た目をしているが、リアナのお姉さんとかだろうか。


「私の母ですわ」

「初めまして。リアの母、リリーナ・ディス・フレイアと申します」


 ……と思ったら、どうやら俺の予想は外れだったようだ。


 お母さんかよ。

 凄い若そうな見た目なのに。

 いったい今いくつなんだろうか。

 女性に年を聞くのは失礼だってことくらい俺も知っているから、もちろんそんなことは訊ねないけれど、少し気になる若さだぞ。


 にしても、なんだかポワポワしてる雰囲気の人だな。

 そんな様子がこの人をますます幼く見せるのだろう。


 しかし、この人はリアナのような口調じゃないのか。

 もしかしたらって思ったのに、この部分でも俺の予想は外れてしまったな。


「あなたがリアを指導している地球人の方ですね? リアがいつもお世話になっています」

「ぅ……い、いえ……それほどでも……」


 リリーナさんは唐突に軽く頭を下げてきたので、俺はそれにしどろもどろになりながらも返事した。


 なんだろう、すごく緊張してきた。

 学校の先生になって初めて受け持ったクラスの家庭訪問をしているような気分だ。

 そんなのやったことないけど。


「俺の名前はキィス! よろしくな! アナのおばさん!」

「初めまして……エマと申します……」

「…………」

「こっちの無口なのはクーリっていうんだぜ! 気軽に『クー』って呼んでやってくれ!」


 キィスたちはいつも通りな様子でリリアさんに挨拶をした。


 なんだ。

 緊張しているのは俺だけか。

 俺だけカッコ悪いみたいで、ちょっと寂しいぞ。


「ここで立ち話を続けるのもなんですし、なかへどうぞ」


 リリーナさんは俺たちを歓迎してくれるようだ。


 よし、ここからは気分を入れ替えていこう。

 せっかくのお茶会なんだから、楽しまなきゃ損だし、申し訳ない。


「……む? 母上、その者たちはどなたでしょう?」


 と思いながら豪邸のなかに足を踏み入れると、1人の男が俺たちを見て眉を潜めだした。

 リアナの母親と同クラスのゴージャスな身なりからして、多分フレイア家の人間だろう。

 年は俺と同じか、あるいは少しだけ低そうだが、リアナの兄か?


「この方たちはリアのお友達よ、リオ」

「……リアに友達? そんなのいるわけが……ああ、なるほど、この者たちが例の冒険者ということですか」


 リリーナさんから『リオ』と呼ばれたその少年は、1人で何らかの結論にたどり着いた様子だった。


「冒険者を我が家に入れさせるとは、母上はフレイア家を何だと思っておいでですか」

「お兄様! 物言いが失礼ですわよ! それに今は私も冒険者ですわ!」

「ああ……そうだったね。リアも今は冒険者だった。それはわかったから、ちょっと黙ってなさい」


 なんか、カンジ悪いな。

 冒険者を見下しているっぽく聞こえるけど、貴族意識でも強いのだろうか。


「それで、君がリアと他の冒険者たちの監督役を務めている地球人だね?」

「……まあ、そうだが」


 リオは俺に声をかけてきた。

 どことなく眼光が鋭いのは気のせいだろうか。


「……ふむ、あまり強そうには見えないね」

「ちょ! なんてことをおっしゃるんですの! お兄様!」

「僕は率直な感想を口にしただけだ」


 どうやら、リオには俺が弱く見えるらしい。


 今の俺は鎧を着ていないから、見た目的に、どこにでもいる普通の少年くらいにしか映らないだろう。

 けど、それをここで正直に言うか。

 俺と喧嘩でもしたいのか。


「それに年も若そうだ。地球人は大抵が若い見た目をしており、またその外見は龍人族やエルフ族並に維持されると耳にするが、君の場合は実際の年も幼そうに感じる。違うかな?」

「その推測は間違っていないな」


 俺もアースで長い時間を生きてきたが、それでも精神的年齢はまだ高校生くらいだ。

 幼いといえば幼いと言える。


「ふむ……それならやはり、リアを君に任せる意味は尚のこと薄いな。普通に『試練』を受けさせた方が良いかもしれない」


 試練。

 それはアースの貴族層が使う用語の1つだ。

 地球で使われている言葉に当てはめると、『パワーレべリング』が最もふさわしい。


 俺たち地球人と同じく、アース人もモンスターを倒せば少しずつ強くなっていく。

 モンスターの持つ魔素(俺たち的に言うと経験値だな)を体内に取り込むことで、肉体が持つ本来の能力にプラス補正がかかるようになる。


 そして、魔素を体内に取り込むことは、モンスターと直接戦わなくても行える。

 ただ、倒したモンスターの近くにいさえすれば、魔素を取り込めてしまうのだ。

 こうしたギミックを利用し、簡単に強くなる方法を、アース人の貴族たちは『試練』と呼んでいるのだとか。


 俺は『試練(笑)』という心境なんだが、リオはこの概念に対して肯定的っぽいな。


「……試練とか、カッコつけてんじゃねーよ」


 だが、キィスのほうは俺と同じ意見だったようで、ポツリとそう呟いていた。


「君、今何か言ったか?」

「試練だなんて言ってカッコつけんなって言ったんだ。やってることは『養殖』と変わんねーぜ」


 養殖、とはパワーレべリングの俗称の一種として地球で定着している呼び方だが、それはアースでも使われている。

 試練は貴族層で用いられ、養殖は貴族以外の層が使う、というような具合に分けられているけど、行為自体に差はない。


 まあ、それはともかくとして、キィスはやっぱり度胸あるな。

 俺も怖気づいてはいないが、ここまでハッキリと言い返す気はなかったぞ。

 なんたって、相手は貴族様だからな。

 メンドクサイことになるのは目に見えている。


「ほう、どうやら君は、試練をあまり快く思っていないようだな?」

「当たり前だ。楽して強くなれるなんてこと、あるわけねーんだぜ」


 キィスとは、つくづく意見が一致するな。


 確かに、パワーレべリングをすれば強くなれるだなどということはない。

 ステータスの他に、プレイヤースキルも同時に鍛えてこそ、真の強さは得られるのだ。


「楽をして、か。それは心外だな。我々の言う試練とは、一連の技能訓練も込みで行われるのだから」

「技能訓練も?」

「その通り。だから僕も、その辺の冒険者よりは強いぞ」

「うっそだー! お前みたいな奴が強いだなんて、あるわけねーぜ!」


 リオとキィスの言い合いは次第にエスカレートしていった。


 止めるタイミングを失してしまった。

 ここまできたら、あとの流れは1つしかない。


「だったら僕と模擬戦でもしてみるか? 装備は我が家の倉庫にある物を貸してやるから、庭で一戦交えようじゃないか」

「おう! 望むところだぜ!」


 案の定というべきか、リオの口から模擬戦という言葉が飛び出てきた。

 俺にとって馴染みのある言い方に直すなら、これは決闘だ。

 命を奪うことなく、力を比べるだけであるなら、ひとまず俺は傍観しよう。


 こうして急遽、キィスとリオの模擬戦が行われることになった。

 ……俺たちって、お茶会をしに来たはずなんだけどなぁ。

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