初クエスト
俺たちの目の前に、テンション高めのお嬢様が現れた。
服装は豪奢なドレス。
髪は綺麗に整えられた銀色の縦ロール。
手にはセンスを携えていた、どこをどう見てもお嬢様にしか見えない少女が冒険者ギルドのなかに足を踏み入れてきた。
なんていうか、すごいコテコテなお嬢様が出てきたな。
素でこうなのかもしれないが、カタールみたいにキャラ作ってたりするんだろうか。
しかも、このテンションはとある人物に似ている。
名前が一部被ってるけど、ただの偶然か。
まあ、とりあえず今は確認すべきことを確認しよう。
「念のために訊いておくが、あれはなんだ」
「えと……あの子が……リアナさんです……」
「そうか……」
リアナ・ディス・フレイア。
彼女はこの町周辺を纏めて統治している領主、フレイア家出身の子だ。
2人の兄と3人の姉がいて、家柄が貴族でありながらも比較的自由に行動できた彼女は、何を血迷ったのか冒険者になるなどと言いだした。
元々の気質が天真爛漫で手に余るのだとか、そんなような情報を俺は早川先生から教えられていた。
また、人の国『ミッドガルド』は国王がいる、いわゆる君主制だ。
しかし実際は、広大な土地を十数人の領主が分割統治することで成り立っている。
フレイア家もそんな領主の1つなわけで……まあ、そのあたりはどうでもいいか。
俺にとって重要なのは、そうしたフレイア家の令嬢ともパーティーを組まなくてはならないということについてである。
傍にいると常にやかましそうな女の子だ。
あれが俺の担当する4人目の新人冒険者というのは、なかなか厳しいな。
しかし、ここで気圧されてばかりもいられない。
俺はお嬢様に声をかけることにした。
「そこの縦ロール。お前がリアナで間違いないな?」
「縦ロール!? ちょっとそこのあなた! 人を呼ぶのに縦ロールはないんじゃありませんの!?」
「うるさい。遅刻したお前に発言権はない」
お嬢様といえば、俺のなかではセレスが思い浮かぶ。
どんな家柄なのかを直接訊ねたことはないけど、あの物腰の柔らかさは、まさしくお嬢様的身分のソレである。
けれど、このリアナはセレスと対極にあるようなお嬢様像だ。
なんというか、傲慢な貴族様的お嬢様っぽく見えて、非常に絡みにくい。
遅刻したことも、そこまで気にしているようには見えない。
俺の苦手なタイプだ。
「遅れてきたんだから、少しは申し訳ないって態度見せろ」
「レディは外出するときに時間がかかるものなのですわ! 少し遅れたくらいで怒るようじゃ、男性としての程度が知れますわよ!」
うん。
やっぱ俺の苦手なタイプだ。
この子にはスパルタでいこう。
「ていうか、お前その恰好で冒険者やるつもりかよ? 冒険者は汚れ仕事がメインなんだぜ、アナ」
「だからアナじゃないって以前にも言ったじゃありませんの! 私の名前はリアナですわ!」
キィスが『アナ』と呼ぶと、リアナは怒り始めた。
アナって、ニックネームみたいなものか。
リアナだったら『リア』か『アナ』になるだろうけど、あえて『アナ』のほうにするとは。
まあ、多分キィスは素でそう呼んでいるんだろう。
俺みたいに邪推しなければ、普通に良いニックネームだし。
「呼び方なんてどうでもいい。それより、お前の服装のほうが問題だ」
無駄なほうへと進んでいた思考を戻し、俺は冒険者としてのリアナにキィスと同様の指摘を行った。
俺の仕入れた情報によると、リアナは僧侶らしい。
彼女の家系は、代々天職が僧侶だったのだとか。
なので、本来ここに来る際の服装は修道着かそれに準じたものであるべきだろう。
俺みたいな例外もいるけど、それでもドレス姿の僧侶はどうなんだろうか。
防具の補正次第ではそれもありだ。
でも彼女の服は、どちらかというと、おめかし用のものであるように見える。
「フレイア家の者として、町中でみすぼらしい恰好はできませんわ!」
……なるほど。
多分、待ち合わせに遅れたのも、気合を入れて着飾るためだったのだろう。
女性として自分を美しく見せるため努力するのは結構なことだが、だからといってTPOをわきまえないというのは問題だな。
「ここは冒険者ギルド。そして、お前は冒険者だ。これから舞踏会が始まるわけじゃないぞ」
「それくらい、言われなくてもわかってますわよ!」
「だったらどうして冒険者らしい恰好をしないんだ。お前はその恰好でモンスター……魔物と戦うのか?」
「そんなわけありませんわ!」
「…………」
なんか、頭が痛くなってきそうだ。
ハキハキとしているとこは良いけど、それ以外はダメダメだ。
「……お前は、これから俺たちが狩り行くとか考えなかったのか?」
「今日は顔見せだけじゃありませんでしたの?」
「違う。そんなことのためだけに1日潰すほど、俺はヌルくない」
まずは親睦を深めるために云々など、俺は一切考えていない。
パーティーメンバーの名前と役割を確認したら、早速町の外へ行くつもりだった。
俺は座学よりも実戦で覚えさせる派だし、ダラダラしてたら半年なんてあっという間に過ぎてしまう。
半年でこいつらを一人前に育て上げるのが俺のミッションなのだから、モタモタしている暇などないのだ。
「え……そ、それは困りますわ。今日は私たち5人の親睦を深めるために、我が家へお招きするつもりでしたのよ?」
「そんなのは俺の知るところじゃない。とっとと戦闘用の服に着替えてこい」
町の領主が普段どんな家に住んでいるか少し気になるところだが、今は冒険者活動が優先だ。
「うぅ……わ、わかりましたわよ……馬車のなかに装備一式は一応揃えてますから、ちょっと行ってきますわ」
「10分で支度してこい」
何気に用意周到だ。
しかし、それで俺が優しくなるはずもなかった。
「……最低でも15分は欲しいですわ。このドレス、着替えるのがなかなか難儀ですのよ?」
「なら俺が手伝ってやろうか?」
「け、けっこうですわ!」
俺の言葉を受けて、リアナは駆け足気味で馬車のなかへと戻っていった。
「シンにぃって、もしかしてああいうのがタイプなのか?」
「そんなことはない」
さっきの発言はささいなジョークだったんだが、キィスにはそう見えなかったようだな。
女の子の着替えを手伝うとか、本気でやるわけないだろ。
「俺はもっと女性らしい子が好みだ」
「ふーん。まあ、アナは胸ねーし、女ってカンジは薄いよな」
「ちょっと! あなたたちの会話は馬車の中まで聞こえてますわよ!」
「うるさい。お前は早く着替えろ。はい、いーち、にーい、さーん……」
「そうやって私を急かすのやめてくださいませんこと!?」
男同士の会話を盗み聞きするとは、まったくもってけしからんな。
そんなことを思いながら、俺は馬車の傍で時間を声に出してカウントするのだった。
リアナのお着替えが済んだところで、俺たち5人は町から出て少し歩いたところにある『ムルトの森』の入り口付近にやってきた。
なぜなら、本来の冒険者が初めてこなす依頼がコレだからである。
「……この程度のことなら、わざわざ着替えをする必要もなかったんじゃありませんの?」
白の僧侶服に着替えたリアナは、俺の横を歩きながらブツブツと呟いていた。
「やかましいな。どんなクエストだろうと油断をしないのが一流の冒険者だ。普段着のままじゃ、その辺からモンスターが飛び出てきても対処できないだろ」
「でも、この辺りは管理が行き届いていますから、魔物なんて出てくるわけありませんわよ?」
確かに、リアナの言うとおりだ。
始まりの町からムルトの森までの道は、冒険者及び町の騎士団によって、モンスターが徹底的に排除されている。
現に、俺たちはここまでの道中で、モンスターと一匹も遭遇していない。
だからこそ、ここが冒険者の初クエストに利用されているのだろう。
冒険者クエスト、『ムルトの森前に生えている薬草の採取(一回限定)』に波乱など一つも起こらない。
「だから油断するなってシンにぃが言ってるだろ、アナ。魔物が出ないなんて、絶対の確証はないんだぜ」
「あなたはまずその呼び方をなんとかしてくださらない!? いい加減しつこいですわよ!?」
キィスは俺の言っていることをきちんと理解しているようだ。
いい子だ。
にしても、リアナはやっぱり『アナ』と呼ばれるのがイヤみたいだな。
「家族から『リア』と呼ばれることはあっても、『アナ』と呼ぶ人なんてあなた以外にいませんわ!」
「そうなのか。それじゃあこれからはリアって呼ぶぜ」
「家族しか呼ばないって言ってるじゃありませんの! 私とあなたはまだそんな親しい関係じゃありませんわよ!」
「えー、いいじゃねーかよー」
「よくありませんわ!」
「じゃあやっぱお前『アナ』な。もうぜってー変えねーぜ」
「ええ!?」
なんか、リアナはキィスと相性が悪いみたいだ。
だいぶ丸め込められてる。
「キィス君……リアナさんがかわいそうよ……」
「なんでだよ? 俺は『アナ』って良い呼び方だと思うぜ?」
キィスは『リア』より『アナ』のほうが良いと思っているようだな。
まあ、呼び方なんていうのは人それぞれでいい。
おれのほうからは、なにも言わないでおこう。
「お喋りするのもいいが、今はクエスト中だということを忘れるなよ」
俺はキィスたちのやり取りを見ながら注意を呼びかけた。
ヌルいクエストであるとはいえ、それで気を抜いていては不測の事態に対処できない。
モンスターや野盗の強襲に耐えられるよう、多少は気を引き締めていく必要がある。
「にしても、これって本当に冒険者のする仕事なのか? 『町や村から一歩でも外に出たら絶対に油断をするな』って父ちゃんからもよく言われてるから油断しないけど、こんなんじゃ子どものおつかいレベルだぜ」
「まあ、そうだな」
キィスはこのクエストの難易度について疑念を抱いているようだ。
それについては俺も不思議に思ったことがある。
今回受けたクエストは難易度が最も低いGランク。
一度しか受けられないという縛りがあるものの、報酬はわりと良かったりする(ちなみに俺は以前に受けたことがあるので報酬を受け取れない)。
危険性も皆無に近く、おまけに、採取する薬草は町で買うこともできてしまう。
まさしく、子どもがおつかい気分でこなせてしまうクエストである。
「多分、これは冒険者にとってのチュートリアルなんだろう」
「チュートリアル?」
「教育の一環ということだ。今回のクエストで、お前たちは仕事の流れをなんとなく理解するだろ。ギルドはそれを狙ってるんだと思うな」
「ふーん……?」
俺の説明を受け、キィスは首を傾げながらも頷き声を上げた。
本当のところは俺も知らないけど、十中八九当たりだと思う。
一回しか受けられない決まりとなっている理由も、おそらくはそういった理由だ。
また、報酬がそれなりに貰えて、なおかつ一番安全なクエストとなれば、冒険者になりたての人間はまず真っ先に受けるだろう。
モンスターと戦うことを優先したから、俺は後回しにしてたけど、普通最初に受けるならこの薬草採取クエストで間違いない。
こうして考えると、報酬は冒険者ギルドから支給される研修費として見ることができる。
あえて新人に絡む役がいることといい、今回のクエストといい、冒険者ギルドもいろいろやっているなと思わせるものが多々存在する。
今回受けた俺の仕事は、そういった冒険者のアレコレに関する理解を深めるのに役立つ。
早川先生も、俺たちにそれを期待しているんだろうな。
「……ん?」
そんな思考の途中で、クーリが俺の鎧に軽く触れてきた。
こいつは冒険者ギルドからここまで一言も喋っていない。
キィスは喋ったところを見たことがあるみたいだが、本当に喋るのだろうか。
「どうした、クーリ。俺に何か用か?」
「…………」
俺が訊ねると、クーリは首を縦にコクコクと振り、もうすぐそこまでたどり着いていたムルトの森入り口の、とある位置を指さした。
その指の先にあるものは……俺の目では視認するのも難しいけど、なにやら緑色の植物らしきものが生えている。
「もしかして、俺たちが探しに来た薬草がそこにあるのか?」
「…………」
またもクーリが首を縦に振った。
どうやら、本当に薬草が見えているみたいだ。
「すごいな……この距離から薬草を見つけ出すなんて」
俺はクーリの目の良さに感心していた。
森の入り口までの道のりは、まだ数百メートルはある。
しかも、薬草はその辺に生えている雑草の色と見分けがつかない。
「……間違いないな」
だが、クーリの見つけたものは間違いなく薬草だった。
クーリの指差したほうへ進み、地面に生えているその植物をきちんと視認した俺は、そう断言した。
さすがは弓使いといったところか。
無口すぎるのが玉にキズだけど、目の良さは一級品だな。
「ふ、ふん! 薬草を見つけることくらい、私にだってできますわよ!」
そこでなぜかリアナが張り合いだし、姿勢を低くして地面を見回し始めた。
薬草採取のクエストを達成するのには、まだ量が足りない。
なので、張り合いたいなら存分に張り合わせてやろう。
そう思った俺は、リアナとクーリ、それにキィスとエマの4人が薬草探しで競いだしたのを見守り続けた。
子どもたちが無邪気に遊んでいるようで、非常に微笑ましい光景である。
そんな4人の競争の結果はクーリの圧勝で、キィスとリアナはとても悔しがっていた。
キィスはともかくとして、リアナはお嬢様だろ。
これくらいで悔しがるなよ。
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これからも頑張って投稿していきますので、今後ともよろしくお願いいたしますm(_ _)m




