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ロリコンの気配とスキルレベル

「……さっきはありがとう……シンさん」

「別にお礼を言われることじゃない。報酬もちゃんと貰ったしな」


 迷宮地下2階層への階段を下りている途中、傍にいたフィルが感謝の言葉を告げてきた。

 それを聞いた俺は気にする事ではないと軽く答えて頭を掻く。


 実際、さっきのカツアゲで俺達の懐は潤ったし、特に被害らしいものも無い。

 おまけに優秀なプレイヤーを1人確保できた。

 俺達からすればかなりのプラスだったと言える。

 フィルがいれば俺のアレも育つしな。

 良い事尽くめだ。


「今はとりあえずという形で一緒に同行してもらっているが、これからもフィルを俺達のパーティーに加えて問題ないか後で先生に聞いてみるな」

「ん……」


 本当は同学年同士で組む方が交友関係的には良いのだろうが、この子の場合は上手くパーティーに馴染めない。

 そのことを俺は別ゲームでのフィルを通して知っている。


 ならいっそのこと俺達とだけつるんでいればいいだろう。

 こうした方が無理に周囲へ溶け込もうとして苦しい思いをするよりマシだ。


 俺はそんな考えを持ってフィルをパーティーに加え、迷宮地下2階層へと足を踏み入れる。

 そして地下1階層と特に代わり映えしない入り組んだ洞窟内部を探索していると、犬人型MOBのコボルトが3匹、俺達の目の前に現れた。


「『ファイアーボール』!」


 まず最初はサクヤが炎魔法を放って1匹のコボルトを焼く。

 しかし鎧と盾を装備したコボルト相手に魔法1発だけでは倒せず、3匹は一斉に俺達へ向けて駆け出した。


「『ヒール』」


 俺はそいつらに向けて走りながらサクヤが焼いたコボルトへ追い討ちのダメージヒールを与える。

 するとそのコボルトは今度こそHPが0になり、煙となって俺達の前から消え去った。


 また、ただの攻撃魔法でダメージを与えたサクヤより、回復魔法でダメージを与えた上にMOBを倒した俺が最も多くヘイトを稼いだため、残り2匹のコボルトは俺に向けて手に持った剣を振るってきた。

 だが俺はそれを両手に持った2つの盾で軽く防ぐ。


 コボルト2匹は俺の防御を突破できず、その場に足を止めた。


「……シッ!」


 そこを盗賊のフィルが狙い、2匹を流れるように短剣で切りつけた。


 この攻撃は『スリープスラッシュ』と『ベノムスラッシュ』か。

 切られたMOBの片方は眠り、もう一方は若干動きが鈍くなってHPが少しずつ削れていくのが確認できる。


 しかも無詠唱とは大したものだ。

 一応そんな概念があるという事は学校から貰った手引書にも小さくではあるが書いてあったので俺も既に習得しているものの、ミナやサクヤといった高校生連中が未だ習得しきれずにいるそのPSプレイヤースキルを中学生のフィルが使えるとは思わなかったな。


「『パワースラッシュ』!」


 俺がフィルを心から賞賛していると、毒状態に陥っている方のMOBをミナが豪快に叩き切っていた。

 これによってHPの半分以上が消え、MOBは片膝を地面につく。


 そんなところにまたもフィルが飛び込んでMOBを斬りつけ、再びミナが攻撃を加えたところで毒状態のMOBはあっさりHPが0となって煙と化した。


 やはりフィルがいるとMOBの殲滅速度が速い上に安定性が増すな。

 俺はそんなことを思いつつ、眠りこけていた方のMOBがミナの攻撃で煙になっていくのを見ていた。


「流石だな、フィル。俺の動きだけじゃなくミナの動きにも上手く合わせて攻撃できていたぞ」

「……ども」


 『FO』でも俺とフィルはタンクとアタッカーのコンビをよく組んでいたため、それなりに上手く連携ができると思ってはいた。

 けれど今回が初の連携となるミナの攻撃にも合わせられるとは思っておらず、俺はフィルを素直に褒めた。


 さっきの無詠唱といい、アースにおけるフィルのPSもなかなか高いと判断していいだろう。

 フィルの実力を疑っていたわけじゃないけどな。

 教えたことはすぐに覚える子だし。


「……でもそれよりシンさんの方が凄い。話には聞いてたけど、さっき使ってたのがダメージヒールか……ですか?」

「あ、ああ、そうだが」


 しかし今度は俺の方がフィルに感心されてしまっていた。


「……ゲーム初日の時はシンさん達が言うようにオレも失敗だって思ってたけど……それを逆に利用するなんて……やっぱりシンさんは凄い……です」


 フィルはそう言うと目をキラキラさせて俺を見つめてくる。


 なんだか過大評価しているような気がするが、可愛い後輩にそう思われるのは悪い気分でもない。

 だから俺は『FO』内でそうしていたようにフィルの頭を豪快に撫でた。


「と言っても攻撃魔法と同様にそこまで連発できるものではない。複数の敵を相手取るにはフィルの状態異常スキルが重宝する。頼りにしてるぞ」

「……ん、わかった……りました」


 そして俺が頭を撫でながら鼓舞するような言葉をかけると、フィルは首に巻いたマフラーで顔を隠した。

 だがそんなフィルの耳は赤くなっており、おそらく顔が赤くなったのを隠したのだろうということが窺える。


 相変わらず人に褒められるのには慣れていない様子だな。

 こんな事でいちいち恥ずかしがらなくてもいいだろうに。 


 俺はそんな風に思いつつ、フィルの方へ向けていた顔を上げた。


「…………」

「…………」


 そして俺はサクヤと目が合った。

 サクヤは涙目になりながらも黒ローブの前をめくり上げている。


 今日も白か。

 徹底してるな。


「シン様からロリコンの気配を感じる……」

「いやロリコンじゃないから、ロリコンじゃないからとりあえずローブを下げろ」


 ロリコンってなんでだよ。

 俺はただ普通にフィルを褒めてただけだろ。


「年齢だけは……年齢だけはどうしようもないのに……」

「…………」


 けれどサクヤは何かを悔しがるかのように呟いていた。


 お前も気にするほど年取ってないだろ。

 たった2才しか違わない子に変な嫉妬心を燃やすなよ。


「一応言っとくがフィルは仲間だからな。もしコイツに誤射でもしたら追い出すぞ」

「わかってるよぉ……流石の私でもそんな事まではしないよぉ……」

「……そうか?」


 なんというか、サクヤだったらやりかねないという想像をしてしまったんだが、一応これで言質は貰えたからまあ大丈夫だろう。


「でもその代わり私にもナデナデしてぇ……」

「…………わかった」


 その後俺はサクヤの機嫌を直すべく、彼女の頭を撫で続けた。


「シンさんとサクヤさんの関係って……?」

「夫と妻の関係かなぁ……」

「黙れ。適当な事言うとぶっ飛ばすぞ」


 途中でフィルが俺達の異様な関係に疑問の声を出したりサクヤがそれにアホな回答をしたりしていたが、ひとまず変な誤解が生まれるのだけは阻止する事ができた。

 その間ミナが微妙な表情で俺達を見ていたのは言うまでもない。


 こうして俺達は何事もなく(?)迷宮探索を続け、ほどほどの時間が経過した辺りで町へと引き返した。






「『かつて私達が手に入れて倉庫に保管していたものの、そのまま使う事もなく埃を被っていたものなので好きに使うといいですわよ』……か」


 迷宮から戻ってきた俺達が冒険者ギルドにてアイテムの換金をしていると、受付のお姉さんからこんな伝言と装備品のいくつかを渡された。

 差出人はフィル同様、俺がパーティーメンバーとして誘っていた『セレス』というプレイヤーだ。


 確か彼女は前に自分は大学生と言っていたが、どうも文面的に俺達より早くアースに来ていたようだな。


「……セレスさんから?」

「ああ、どうやらそのようだ」


 俺が読む手紙を何とか読もうと爪先立ちになってふらふらしているフィルの問いに答えた。

 

「……先に来てたんだ」

「らしいな」


 どうやらフィルも知らなかったみたいだな。

 まあ俺達は全員アース世界について守秘義務が課せられているから、多分彼女も地球では迂闊に喋る事ができなかったんだろう。


 でも通話機能で連絡を取った時にでも教えてくれれば良かったのに。

 先にゲームを始めたというような後ろめたいモノがあったのかもだが。


「『先達が後続へ過保護に接すると碌なことにはならない、ということはあなたもよく知っているでしょう。だから私達からの助力もそこまで大きな意味を成すものではないと留意しなさい』……だとさ」


 強い装備を身につけたりパワーレべリングをしたりして強くなったと勘違いし、迂闊な真似をして死んでしまわないようにという心配りか。

 つまり今の俺達の身の丈に合った装備を送ったと言いたいのだろう。


「……と言ってもそれなりに良いのが揃ってるな」



 死霊の腕輪 呪 耐久値10000 重量5


 STR+4 MND-4



 死霊の首輪 呪 耐久値10000 重量5


 INT+4 MND-4



 死霊のブーツ 呪 耐久値10000 重量5


 AGI+4 MND-4



 愚者の盾 耐久値20000 重量3


 STR+1 VIT+5 INT-5 MND-5 LUK+5



 吸血の十字架 スキル『吸血』 耐久値12000 重量12


 STR+5 INT+5



 死霊装備3つに加えて俺用の盾、それに敵からMPを吸い取って自分のMPに変えるスキル『吸血』が付属した武器の全5つをセレスは俺に寄越してくれた。


 他2つも良いのだが死霊装備3つはでかいな。

 これでパーティーメンバー全員分の回復ができるようになる。


 また、防御力を上げるだけにとどまらずMNDを下げてくれる盾もなかなか有用だ。


 それに吸血の十字架は鈍器装備扱いのようで、僧侶の俺でも普通に装備できる。

 タンクとヒーラーを兼任するせいでMP消費が激しい俺にとって、敵のMPを吸収できる武器があるというのはかなり嬉しい。

 これらがあればタンクをするのもかなり楽になるだろう。


 俺はそう思いながら死霊装備をミナとフィルへ渡そうとした。


「他の子に首輪はつけちゃダメだからね、ご主人様」

「…………」


 サクヤから念押しをされた。


 自分以外のパーティメンバーに首輪をさせたくないのか。

 というかご主人様呼び止めろよ。

 フィルがこっち見てんだぞ。



 その後俺は結局死霊の腕輪をミナに、死霊のブーツをフィルに渡し、首輪は保留という形でサクヤを鎮める事に成功した。


 




 時間帯的に夜となった頃、俺達は適当に食事をしてから宿へと戻ってきた。


 ちなみに宿が違うからフィルとは途中で別れている。

 送っていこうとは言ったのだが、彼女は首を振ってさっさか走っていってしまった。

 まあとりあえずこの町の治安は良さそうなので1人でも大丈夫だろう。


「何? 中学生をメンバーに加えて行動してもいいかだって?」

「はい」


 そして宿へと戻った俺は早川先生に会い、フィルを預かっても問題ないかお伺いを立ててみた。


「ふむ……まあいいだろう。そのかわりきちんと面倒を見るんだぞ?」


 すると早川先生は二つ返事でそれを了承してくれた。

 まあそれならそれで俺としては楽なんだが……


「本当にいいんですか? そんな簡単にオーケー出して」

「君なら問題あるまい。それで、その中学生というのは何年何組の誰だ?」


 なんだか気持ち悪いくらいに信頼されてるな。


「……2年でキャラネームがフィルっていう女の子です」


 けれど俺はそれ以上考えるのを止め、フィルについて軽く説明した。


「女子……か。君はあれか……? もしかしてパーティーメンバーを全員女の子で固めるつもりか?」

「いや、そういうことはないですが……」


 早川先生は俺の説明を聞いて眉を顰めた。


 なんで女の子だと知った途端にそんな事言いだすんだ。

 確かに俺のパーティーは女子ばっかりだけど。


「フィルは別のゲームで一緒にパーティーを組んでいたんですよ。多分クロクロでも良いセンいくと思いますよ。彼女がいれば迷宮攻略も捗ります」

「そうか……それならいいんだが」


 だがそんな事でパーティー加入を取り下げられても困るから俺はフィルを持ち上げる。

 実際その持ち上げに偽りはない。


「……ところでさっきから気になっていたんだが」

「? なんでしょうか」


 と、そこで早川先生は俺を訝しむような目つきで見始めた。


「君は何故町中でも毒状態なんだ? 普通迷宮からここまで歩いてきたら状態異常も回復するし、そもそも君は僧侶だろう。どうして回復しない?」


 なんだ、そのことか。

 状態異常はかかると名前の横に表示されるからな。

 それにHPも微量ながら減っていってるし。

 見た目大丈夫そうでもバレるか。


「これはスキルレベルを上げているだけですよ」

「スキルレベルだと?」

「俺はタンク兼ヒーラーなので状態異常になるとまずいんですよ。だからこうして安全な時に状態異常耐性スキルを鍛えているわけです」

「あ、ああ……そうなのか……」

「はい」


 アースにおけるスキルレベルはスキルを何度も使う事によって上がる。

 今も毒状態なのはさっきまでいたフィルに『ベノムスラッシュ』でちくちくっと刺してもらい、毒耐性スキルを鍛えている最中だからだ。

 本当は毒状態になって治療してを繰り返したほうが効率的であるものの、毒状態を維持したままでも熟練度的なものは増えていくらしい。


 また、彼女はたった少しといえど、俺の体にナイフを突き立てるのを嫌がっていたが、それでもスキルレベルを上げるためだと言ってなんとか了解してもらった。


 そんなやり取りをしている近くでサクヤが何か羨ましそうにこちらを見ていたが気にしない。

 下手に声をかけて「私も刺したい」とか言われたら俺のリアル精神力が削られる事になるからな。


 今はMOBが毒の状態異常しか使ってこないから毒耐性を優先して上げているが、いずれは『スリープスラッシュ』や『スタンスラッシュ』を使って睡眠耐性、麻痺耐性なども鍛えていくつつもりでいる。

 盗賊職で各種状態異常攻撃が使えるフィルがいれば俺の状態異常耐性スキルもどんどん育っていくというわけだ。


「……しかし毒状態は体が高熱を出しているのと同じ位苦しいはずなんだが……君はつらくないのか? この世界はゲームなどではないのだぞ?」


 俺が軽い調子で答えると、今度は体の心配をされてしまった。


 ゲームなどではない、か。

 そう思って行動しろということであれば同意する。

 人の流れ、町の空気、空の眺め、自身の感覚。

 何を見たり聞いたりしてもここがVRでないという事が理解できてしまう。


 しかしそれは関係無い。


 人生はクソゲーだとかゲームの中こそ俺のリアルだとかそういうことではなく、俺はゲームという存在を崇拝しているのだから。


「俺にとってはゲームですよ」


 だから俺は早川先生にそう言った。


 そして何か言いたそうにしている彼女の視線を無視し、自分のベッドがある部屋へと俺は静かに戻っていった。

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