表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

166/308

迷宮地下40階層攻略後日談

「うむうむ。しばらく足踏みしておったが、迷宮の攻略が大きく進んだようじゃの。めでたいのう」


 俺は今、ロリ神ことクロスと久しぶりに話をしていた。

 彼女は俺たちが地下40階層のレイドボスを倒したことを知ってか上機嫌だ。


 地下30階層攻略から結構時間も経っているからな。

 それなりの進展を見せたことを喜ぶのは当然というものだろう。


「はぁ……でも大変だったぞ。なんだあのモンスターは」


 朗らかに微笑んでいるクロスに俺は軽く息をつきながらそう言った。


 今回戦ったレイドボスは、今まで以上に初見殺しな敵だった。

 下手をすれば2、3人犠牲になってもおかしくなかったほどだ。


「それをわしに言われても困る。迷宮内部の魔物は、わしではなく魔女が配置したのじゃからな」

「魔女ねぇ」


 まあ、クロスが初見殺しを配置しているというわけではないというのは当たり前だ。

 彼女は迷宮の主ではなく、迷宮に囚われている側なんだから。


 にしても、クロスの言う魔女とは、どんな奴なんだろうか。

 『クロスクロニクル』のゲーム設定では、悪しき魔女が神々を迷宮内部に閉じ込めた、という程度のことしかわからないんだけど。


 色々わからないことが多いんだよな。

 たとえば……ああ、そう言えば。


「……クロス。ちょっと聞きたいことがあるんだが」

「ん? なんじゃ?」

「これは確認の意味も込められてるんだが、クロスは自分たちを助けてほしいから、俺たちをアースに転生させたんだよな?」


 そこで俺は、かつてケンゴと話した内容を思い出し、クロスに訊ねた。


「ふむ? 確かにそのとおりじゃが。お主と初めて会ったときもそれらしいことを言ったじゃろ」

「そっか。それじゃあ無事に迷宮の攻略を終えたら、俺たちはどうなるんだ?」

「どうなる、とは?」

「つまり、迷宮を攻略したら俺たちはこの世界から消えたりするのか、って聞いてるんだ」

「おお、そういうことか」


 『ユグドラシル攻略後エンディング説』。

 ケンゴと話をしている最中に出たその噂の真偽を、俺は今ここでクロスにはっきりさせてもらうことにした。


「別にどうもならんよ。まあ、お主たちが望めば、この世界とお主たちの世界を分離し、それから互いに干渉することはないよう取り計らうことはできなくもないじゃろうが、わしが積極的にお主たちを排除することはないぞ」

「そうなのか?」

「お主たちがこの世界の害悪とならん限りは、じゃがな」

「ふぅん」


 害悪というのがどの程度のことを指しているのかにもよるが、この言い方だと、俺たちは地下迷宮を攻略した後もアースにいて良いみたいだな。


 よかった。

 なんだかんだで俺も、この世界には愛着じみた感情を抱いている。

 今更ここから出ていけと言われても嫌だったぞ。


「ちなみに保障されるのは、アースにおけるお主たちの身体のみではなく、異能についても同じことが言える」

「異能も?」

「うむ、わしの管轄とは外れるが、あれはわしらを救い出してもらうことへの対価として渡したものじゃ。好きに使うといい」


 好きに使え、ねえ。

 異能なんてものはないほうがいい、なんてことを俺なんかは思ってたりするんだけど。


「? なんじゃ、なにか不満があるのなら申してみい」

「不満といっていいものかわからないが、そんな対価なら俺はいらないなって思ってな」

「むむ……そうじゃったか」


 俺が正直に答えると、クロスは「うーむ……」と言いながら悩むような表情を見せ始めた。


「一応言っておくと、これはあくまで俺個人の見解だからな。俺たちのなかには異能を手に入れて喜んでいる奴も普通にいるし」


 逆に俺のような、異能なんて欲しくなかった、という奴もいる。

 とはいえ、良かれと思ってした行為が迷惑なだけだったと思わせては、少し不憫だ。

 なので俺は軽くフォローを入れ、クロスの機嫌をとることにした。


「まあ、もともとお主たちの戦闘能力を底上げするために異能を渡した、という面があるし、わしの都合だけで言ってしまえば、お主たちをアースに呼び寄せるため、お主たちの魂とアースの融和性を高めるために異能を仕込んだ、という面もある。お主たちへの報酬としてだけ考えていたわけではないのじゃ」

「へえ」


 何気に結構いろいろな理由があったんだな。

 これは初めて知った。


「それじゃあ、俺たちがアースで死んだら異能を失うっていう事象については?」 

「アースとの繋がりを失ったからじゃな。創造神である『イデア』が作成したお主たちの身体は、アースと地球とを繋ぐ重要な役割を果たしておる。それが失われれば異能も失われる」


 なるほど。

 俺たちの持つ異能やアースにおける体は、アースと繋がりを持つために必要不可欠なものなのか。

 そのどちらもが重要であり、どちらがなくても成り立たない、と。


「なら、記憶についてはどうだ? それも異能と同様に失うリスクがあるものなんだが」

「今日はずいぶん訊いてくるのう。まあわしも暇じゃから、答えてやらんこともない」


 俺がグイグイ質問をすると、クロスは「ふふん」と上機嫌そうに鼻を鳴らした。


 もののついでというノリで訊ねたことだけど、こうもドヤッとした顔をされると意味もなく何かイジワルなことを言ってみたくなる。

 見た目だけとはいえ、子どもが得意げに知識をひけらかしていたら、そう思ってしまうのもしょうがないだろう。


 若干クレールを彷彿とさせる。

 あいつもよく「しょうがない奴め。ふっはっはっはっ」と言って色々説明してくるからな。


「記憶については、お主たちの身体が消滅した時に魂を保護するため、仕方のない処置なのじゃ。死という概念を魂が理解するというのは危険なのじゃよ」

「死を理解する……?」

「そうじゃ。死を理解したら最後、お主たちはアースだけでなく地球でさえも死を迎えてしまうじゃろう」


 俺たちはHPがゼロになっても、完全に死んだわけじゃあない。

 言ってしまえば仮死状態だ。


 しかし、その状態が続くと、クロスの言う魂が死を理解してしまう、ということなのだろう。


 アースでの死が地球での死に関わりかねないというのは、おっかない話だな。

 これは聞かなかったことにするべきか、先生たちに伝えておくべきか、ちょっと悩むぞ。

 下手に死の危険性があると認識されたら、アースにログインするのを禁止されかねない。


「安心せい。わしらもそのあたりについては十分配慮しておる。記憶の欠落も、そういった配慮からくる処置なのじゃ」

「それならいいんだが」

「……まあ、地球でのお主たちが死なぬからといって、そう簡単に死なれても困るからそうしている、という面もないわけではないのじゃがの。それに、お主らの身体と魂は密接につながっておる。間を置かずに何度も死に近しい状態となれば、魂のほうに悪影響が出てしまう可能性も否定しきれん」

「へ、へえ」


 わりと正直な奴だな。

 言わなくても良いことを、言いづらそうにしてではあるものの、こうして喋ってしまうんだから。


 どこまで信じていいものかは不明だが、少なくともクロスに嘘をついている様子はない。

 信じてもいいだろう。


「……話を戻すとじゃな、結論としては、お主たちの存在はわしらが認めておるし、できる限りの助成もした。じゃから、お主たちは何も気にせず、迷宮探索を続けるがよいのじゃ」

「別に俺が気にしてたわけじゃない。心配性な奴らがそういったことを気にしてるってだけだ」

「ふむ……迷宮の探索に否定的な者たちのことじゃな?」


 気にしているのは俺ではないということを伝えると、クロスは渋い顔をしながら「はぁ……」とため息をついた。


「知ってるのか……って、神様なんだから当然か」

「いや、詳しくは知らぬ。わしが知りうるものにも限界があるのじゃ」


 神様なのに相変わらず万能じゃないな。

 お前は本当に神様なのかと言いたくなるときがあるぞ。


 アースにおける神と地球の神では少し意味合いが違うのかもしれないな。

 地球に神様なんてものがいるのかもわからないし、このへんは頭が痛くなりそうだから考えるのはよそう。


「じゃが、お主の所属する組織がわしを無視しているのは、なんとなくわかるのう」

「……それは気づいてたのか」

「接触の手段が限られているゆえ、やむを得ない部分もあるのじゃろうが、わしの存在が話題にならないのを見る限りでは、そう判断するしかないじゃろうて」


 クロスもバカじゃないってことか。

 神様なんだからバカなわけないし、バカだと困るけど。


「それで、クロスはそのことについて怒ってるか? だったら地球人を代表して俺が頭を下げるぞ」

「よいよい。お主に頭を下げられてもなんじゃという話じゃ」


 確かに、俺の頭程度がいくら下がっても、神の怒りなどというものを鎮める効力にはならない。

 なら誰が頭を下げればいいんだって話になるが。


「そもそも、わしは怒っておらんよ。少し遅い始まりじゃったが、迷宮の探索も行われるようになったし、アースの治安もお主のおかげで多少改善されたようじゃからな」


 ちんちくりんな見た目をしているわりに、結構大らかな神様だったようだな。

 感情表現は豊かなわりに、そういう面も持ち合わせていたとは衝撃の事実である。


「……お主、今失礼なことを考えておったな?」

「俺の思考を読んだと……? お前、まさかそんな力を今まで隠し持って――」

「お主の顔にそう書いておるわい」

「ぐ……」


 俺のポーカーフェイスを見破るとは。

 ロリ神のくせに侮れないな。


 ……そんなに俺の考えてることって顔に出やすいのかな。

 こうもいろんな人から言われ続けると俺でも少し気に病んじゃうぞ。


「まあよい。とにかく、わしは怒っておらん。だからお主たちはこれまでどおり迷宮探索を進めてほしいのじゃ」

「あ、ああ、勿論だ。任せろ」


 若干ジト目になっているクロスに俺は苦笑いを浮かべた。


 なにはともあれ、怒ってないようで良かった。


「……ふぅ、久しぶりに話したから少し疲れてしまったのう」

「そうか、それなら今日はこの辺にしておくか」


 クロスが若干話疲れたというそぶりを見せたので、俺はみんなのところに戻ることに決めた。


「50階層も遠くないうちに攻略すると思うから、楽しみに待っていろよ」

「期待しておるぞ」


 しばらくはまたレイド単位でレべリングをすることになるが、なるべく早く地下50階層の攻略をしたいものだ。


「そうそう、そういえばお主はこれからもギルドとやらの集団と共に行動するのかの?」

「……一応、な。でも、なんでそんなことを訊いてくるんだ」

「わしはお主を気にかけておるからの。偶然とはいえ、お主とこうして会話ができるようになったということに運命のようなものを感じておる。そんなお主が、ここ最近機嫌を良さそうにしておるんじゃ。その理由について思索するのは当然じゃろう」


 案外クロスは俺のことをよく見ていたようだな。


 確かに俺は、最近充実しているといっていいかもしれない。

 充実している理由は、俺が【流星会】に加入したということに関係していると言えるだろう。


 仲間と一緒に戦うのは楽しいからな。

 しかも、仲間が多ければ多いほど、その楽しみは増す。


 アースをゲームではなくリアルとして接することにしているが、こういう点ではまだゲームとしての感覚が残っている。

 もともと俺は、みんなと遊ぶといった楽しみが欲しくてネトゲにのめり込んだのだから、これが普通なんだろう。


「それじゃあ、またな。次会うときは地下50階層攻略についてを土産話として持ってくる」 

「うむ。では再び旅立つがよい、異世界より召喚されし探索者よ。わしはお主たちが助けに来てくれることを信じて待っておるぞ」


 こうして俺はクロスに別れを告げ、意識をアースに飛ばしたのだった。






「おい! 遅いぞ!」

「今まで何やってたんだよ! シン!」

「ああ、悪い悪い」


 アースにやって来た俺は、ナバタとカラジマに怒鳴られていた。

 こいつらと絡むのも、もう自然体だ。


 最近のナバタは次のレイド戦に必ず参加すると息巻いているし、カラジマは1組の連中を仕切るので大変らしい。


「まったく……みんな同じタイミングでログインしたはずなのに」


 そして、ミナが軽く頬を膨らませながらそう言った。


 どうやら俺以外のメンバーは全員集合が完了していたようだ。

 少しクロスのところに長居しすぎたか。


「こういうこともあるだろ。気にするな」


 クロスについては内緒だ。

 これ以上、俺が変な奴だとは思われたくないからな。


「そういえば、クラスで初めてアースに来た時も遅れていたな? 君は待ち合わせをすると遅く来るクセでもあるんじゃないかい?」

「そんなクセはない。本当に気にするなよ」


 氷室が追い打ちをかけてきた。


 確かにあのときも、俺はクロスと会っていたせいでクラスメイトと合流するのが少し遅れたんだよな。

 今となっては古い話だけど、そんなことを氷室はいちいち覚えてたのか。


 無駄に記憶力良いな。

 そういうのはもっと他のところに使え。


「よし、それじゃあやっと全員集まったことだし、そろそろ出発しようか」


 と、そこでユミが話をまとめ、町の外へと目を向けた。


 これから俺たちはレべリングのために遠征する。

 パワーレべリングではないものの、以前に【黒龍団】がやっていたのと似たようなものだ。

 迷宮内部でレべリングをするのもいいけど、ずっと地下にもぐり続けるのは気分がめいるからな。


 ちなみに、今回の遠征は【流星会】全員で行う。

 そのなかにはもちろん、俺も含まれている。


 迷宮地下40階層を攻略したあとの打ち上げ会で、俺は正式に【流星会】のメンバーとなった。

 なぜなら、俺が加入することをギルドのみんなが進めてきたからだ。

 みんなとは、2組のメンバーのみならず、1組のメンバーも含まれる。


 俺が異能を偽っていたことについても込みで、こいつらは俺を認めてくれたんだ。

 どうやら、俺がレイドボス戦でカラジマを助けたことが上手く作用して、そういう流れになったみたいだ。

 もしかしたら異能の件で叩かれるかもしれないと思っていたので、この展開は予想できなかった。


 そんなわけで、俺は【流星会】に加わった。

 俺を仲間として見てくれるみんなには感謝だ。


「次の目標レベルは平均60だよっ! 頑張っていこーっ!」

「おおーーーーー!」


 俺はマイの掛け声に乗っかり、町の外へと続く道を歩き出した。


 今までも俺には仲間がいたけど、今回の件で更に増えた。

 ざっと数十人単位の増量で、なかにはまだ俺を認めていない奴もいるかもしれない。


 でも、そいつらとも俺は時間をかけて分かり合えると信じている。

 なんといっても、俺たちは仲間なんだからな。


「ん? 何か良いことでもあった? シンくん」

「いや、別に!」


 すぐ近くにいたサクヤが首を傾げながら問いかけてきたので、俺はそれを軽く濁した。

 今思ったことを口にするのは恥ずかしい。


 俺は頬を熱くさせ、歩く速度を速めていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ