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続、1組勢?

 ユミたちと久しぶりにパーティーを組んで迷宮に潜ってから数時間が経過した。

 そして、腹の虫が鳴るころあいで、俺たちは始まりの町に引き返してきた。


 時間の関係で39階層までは行かなかったが、戦闘は行えたので、仲間の動きを見るという点での収穫はあった。


 俺と別のパーティーになってからも、ユミとマイはちゃんと強くなっていた。

 レベル的には俺と比べると結構大きな開きがあるものの、プレイヤースキルという点においては大きな進歩を遂げている。

 また、氷室たちにしても、ユミマイ姉弟に後れを取ることはなく、長い間パーティーを組んでいたという利点を生かした巧みな連携を戦闘中に何度も見せてきた。


 総合的に見て、俺とフィルを抜いた8人でも地下39階層で十分に戦える戦力を保有していると判断していいだろう。

 地下40階層のレイドボス戦に参加するって奴らなんだから、それくらいは当然か。


 しかし、やはりというべきか、俺たちがレイドを組んだ場合、どうしても弊害ができてしまうようだ。


 一つ目の問題はレベルの差である。

 俺とフィルのレベルは現在65だが、それ以外の8人の平均レベルは45といったところだ。

 この前アギトたちと組んだ際はもっとレベル差が少なかったので、そこまで気にならなかったが、今回のようにレベル差が20もあるというのは戦闘に大きな影響を与えてしまう。


 レイドとしてうまく機能させようとすると、俺とフィルはどうしても手を抜かなくてはならない。

 じゃないと、俺たち2人だけでモンスターを殲滅してしまい、レイドを組む必然性を欠いてしまう。

 一部の細かな装備品をワンランク下げることで多少ステータスを誤魔化したりもしているが、本当にそれでいいのかって話だし、悩ましい話だ。

 もちろん、ボス戦のときは最高装備で事に当たる予定だ。


 二つ目の問題は回復手段だ。

 俺のダメージヒールは、死霊装備を装着することで本来あるべき回復魔法に転じさせることができる。

 しかし、死霊装備をレイドメンバー全員に装着させるわけにはいかない。

 死霊装備を着けると、他のヒーラーからの回復を受けられなくなるし、回復薬を使うのにも一手間かかってしまう。


 さらにいうなら、死霊装備を身に着けているメンバーとそうでないメンバーを戦闘中に区別して範囲回復魔法を飛ばす必要性が生まれ、これがまた結構難しかったりするのだ。

 10人程度のレイドなら、まあなんとか把握することもできるが、30人で動くとなれば至難の業だ。


 なので、現実的な案としては、死霊装備を身に着けた俺たちを遊撃部隊として機能させるか、もしくは俺1人だけ死霊装備を身に着けて、ミナやサクヤは他のヒーラーに回復してもらうかのどちらかになる。

 前者を選んだ場合、俺と一緒に動くメンバーはレイドボス本体と戦わず、取り巻きのザコを殲滅する遊撃的なポジションとして独立することになる。

 後者を選んだ場合、他のヒーラーが請け負う仕事量は増加するものの、俺だけは好き勝手に動くことができるので、レイドボスを押さえるメインタンクもできるだろう。


 レイドの勝利に手堅く貢献するなら前者を選ぶところだが、できることならメインタンクとしてボスモンスターに立ち向かいたい。

 最近はモンスターが全然脅威に思えないので、ここいらで歯ごたえのあるレイドボスと戦いたいのだ。

 このことも、レイドのレベル差問題に次いで悩ましいな。


 ちなみに、俺が死霊装備を全部脱いで別の装備を着こむという案も一応考えたが、それはしない方向でいこうと思っている。

 多分、地下40階層のレイドボスは上位のゴーレム系なので、俺のダメージヒールは効かない可能性が高い。

 そのため、無理に死霊装備を着る必要もない。


 けれど、ゴーレム系以外の取り巻きモンスターには有効だし、装備を一新すると動きの感覚を一から覚え直さなくてはならないので、このままでいくことにしている。

 特に『死霊の鎧』はアースに来てからずっと着ている装備なので、わざわざこれより性能の低い鎧に変えて戦う気にはなれない。

 回復を自力で行なわなければならないという縛りに目を瞑ってでも、俺は装備の使いやすさを選ぶ。


 でもそうすると、俺だけはどうしてもレイドから浮くんだよなぁ。

 レイドを組む場合は、死霊装備の不便な点が顕著に表れてしまう。

 悩ましいことが多いな。


 まあ、レイドボス戦まではそれなりに時間的猶予がある。

 ゆっくり考えていこう。


「……ん? なんだあれ」


 考えをまとめながらも俺はみんなと一緒に帰路を歩いていた。

 だが、宿屋の前に立ちふさがる連中がこっち睨みを利かせているのを見て、なにか嫌なものを感じ取り、歩く速度を緩めた。


「あれは……1組の生徒たちだね」

「1組?」

「うん。シンくんは知らないかもだけど、彼らも【流星会】の一員だよ。あの様子だと、僕たちに用があるのかな」


 用といっても、ろくでもない用である予感がするな。

 ザイールたちとの一件で、俺の1組に対する偏見はかなり根強く残っている。


「やっと戻ってきたか、ユミ」

「あれ、ギルドには僕たちが今日迷宮に潜るって伝えていたはずだけど……」

「それは知ってる」


 数人で固まっている1組連中のなかから、魔術師職らしき恰好の男がユミに話しかけた。

 キャラネームは『カラジマ』か。


「でもよ、もうレイドボス戦のメンバーが決定したように動いてるっていうのはちょっと酷くねーか?」

「酷い?」

「とぼけんなよ。俺らが何に怒っているのか、わからねーわけじゃねーだろ?」


 カラジマの言葉には怒気が見え隠れしている。

 こいつとは初対面だけど、なにに怒っているかはなんとなく読めるな。


「……レイド戦メンバーに1年1組から1人も選ばれてないことについてかい?」

「なんだ、わかってんじゃねーかよ」


 カラジマの考えを氷室が言い当てた。

 これは俺もそうだと思ったから、大して驚くことでもない。


 そして、1組がレイド戦に選ばれなかったのにはちゃんとした理由がある。

 カラジマはそれをちゃんとわかっているだろうか。


「俺らをハブにしてお前らだけ利益を独占するっつーのはよくねーと思うわけよ。そこんとこ、ギルドリーダーはどう考てんのか、聞かせてもらいてーな?」

「利益を独占するだなんて言い方は違うんじゃないかな。僕たちと君たちは同じギルドのメンバーなんだし」

「でも、レイド戦で得た経験値や金、それにドロップアイテムを俺らに還元してくれるってわけでもねーんだろ? だったら利益の独占って言われてもしゃーねーべ」


 まあ、カラジマの言い分もわからなくはない。

 けれど、レイド戦に参加してない奴が何かしらの恩恵を受けるというのも、それはそれで不公平感をあおることになりかねない。

 結局、実力や効率を優先した人選をして、報酬もそいつらで分配するという今のやり方が一番のはずだ。


「俺には君たちがレイド戦のメンバーに選ばれなくて僻んでいるようにしか聞こえないね」

「おいおい、それはちげーぜフローズ」

「……その名前で呼ぶなといつも言っているだろう」


 氷室が自分のキャラネームを言われて怒っている。

 じゃあそんなキザったらしいキャラネームなんて付けなければよかったのに。

 って、これは今どうでもいいか。


「俺たちが選ばれなかったのはどう考えてもおかしいだろ!」

「一体どういう選考をしたらこうなるんだ!」


 カラジマの背後にいる連中から援護射撃が飛んできた。

 その様子からは、自分たちは正しいと思っていることが強く伝わってくる。


「ちょっと落ち着きなさい、あなたたち」


 と、そこでミナが前に出てきた。

 するとカラジマたちは一瞬ひるんだように口を噤んだ。


 ミナの存在は1組を黙らせるだけの力を持っているのか。

 ある意味これはもはやカリスマと言えるな。


「だけどミーナさん……」

「ミナ」

「……だ、だけどミナさん」


 ミナの圧力に負けたカラジマが彼女のキャラネームを言い直している。


 そういえば、『ミーナ』って伸ばした言い方をするとミナは怒るんだよな。

 俺にはよくわからないけど、彼女にとってそこは譲れない部分なのだろう。


「……俺らは不参加なのに中学生が参加するっていうのはどうかと思う」

「俺たちのなかにだって強い奴はいるのに……どう考えても依怙贔屓だ」

「それに≪ビルドエラー≫も参加ってのは……やっぱ気にくわねー」


 1組連中の不満は主に3つあるようだ。

 どの不満も理解できなくはない。


 だが――


「フィルちゃんが強いことは決闘大会の結果が証明している。中学生だとか高校生だとかは関係ないはずよ」


 実力がある奴をメンバーに入れることは当たり前だ。

 それに、年功序列がまかり通るというのなら、レイド戦のメンバーは全員3年生になってしまう。


「メンバーの選定基準も、他のメンバーとの連携を考慮したり、魔術師職の優先度が高かったからにすぎないわ。そもそも、あなたたちのレベルはみんな40もいっていないじゃない。異能だけなら強いっていうかもしれないけど、それで強さを主張できるほど戦いは甘くないと私は思うわ。それでも依怙贔屓だと言うなら、【黒龍団】のセツナさんにかけあいなさい」

「う……」


 また、メンバーの選定はセツナが行ったものだ。

 その場にいる連中全員に確認も取ったが、選定基準は厳正なものだった。

 断じて依怙贔屓などではない。


「で、あなたたちがシンのことを良く思っていないのは……あなたたちのエゴでしかないわ。そんなものを私たちにまで押し付けないで」

「だけど……俺らはザイールたちのことを忘れたわけじゃないし」


 最後に、1組連中が俺のことを気に食わないという点については、どうしようもないな。


 1年1組は俺に対して複雑な思いを抱いているはずだ。

 ザイールたちとの一件は表沙汰になっていないものの、あいつらがアースから突然消えたことと、俺がしばらく行方をくらましたことについてを結びつけて勘ぐる奴は多い。

 噂レベルではあるが、俺がザイールたちを退場に追い込んだという話が囁かれている。それ以前に、俺たちとザイールたちがイザコザを起こしていたのが周知されていたことも、この噂話の真実味を増す後押しをしている、と氷室が前に言っていた。


 実際のところ、この噂話は事実である。

 だから、俺のほうからあまり強く否定することはしてこなかった。

 けれど、それは結果的に見て、あまりよくなかったみたいだ。


 なかには1組のトップグループだったザイールたちがいなくなってラッキーと思っている奴もいるかもしれない。

 が、それ以上に、俺のことを脅威として認識してしまっても、仕方がないことなのだろう。


「俺らんなかじゃ、≪ビルドエラー≫がザイールたちをPKプレイヤーキルしたってことは公式なんだよ。先生たちはそのことを隠してるけどよ」

「確かにザイールは横暴だったし気に食わない野郎だった。太鼓持ちの連中も頭イカレてたよ。だけど、だからといってPKすることはねえだろ」

「で、そんな≪ビルドエラー≫は女の子を侍らせてレイド戦にも参加するって? 良いご身分だな」


 ……女の子云々は今の話に関係なくないか?

 完全に私情入っただろ。


「それにミー……ミナさんにまでコナかけてるしよ」

「つか、俺としてはそれが一番納得いかねえよ」

「ミナちゃんはみんなのアイドルなんだぞ」


 いや……それも関係ないだろ……

 もしかして、こいつらが俺を嫌ってる理由の半分は女の子絡みなんじゃないか……?


「……私はもうアイドルじゃないわ。だから、誰と一緒にいても文句なんてないでしょ」


 俺が若干白い目でカラジマたちを見ていると、ミナは苦虫を噛み潰したような表情をしながらそう呟いた。


「でも、俺たちにとってはミナちゃんはミーナちゃんだよ!」

「ミーナちゃんがアイドルを辞めさせられた理由なんて俺たちにはどうでもいいことだし、もっと自信持ってよ!」

「悪いのは俺たちを認めない社会のほうだ! ミーナちゃんは悪くない!」


 ……なんか話がどんどん脱線してきてるな。

 しかも話についていけない。

 こいつらは一体何の話をしているんだよ。


「……いい加減、私をアイドルとして見るのはやめて頂戴。正直、周りに振り回されるのはもうウンザリなのよ」

「ミナちゃん……」

「あと、シンは私にコナなんてかけてないわ。変な勘違いはしないで」

「ちょ……ミナっ」

「…………」


 俺が首を傾げていると、ミナはそこで話を終わらせて宿のなかに入っていった。

 そして、そんな彼女をマイとサクヤが追いかけていく。


 もうここで話すことなど何もないってことか。

 あの様子だと、だいぶ怒ってるな。


「……僕たちも宿に入ろうか。ここで立ち話をし続けるのも疲れるしね」

「あ、ああ……そうだな」


 ユミの提案を受けてカラジマは空返事をした。


 どうやら、ミナがあんな態度になるとは思っていなかったようだな。

 一組連中は俯き、シュンとしてしまっている。


「……とりあえず、話の続きは部屋でじっくりしようぜ、ユミ」


 そんななか、カラジマは難しい顔をしながら俺たちへ向けてそう言い、仲間を引き連れて宿のなかへと引き返した。


 想像以上に一組連中から嫌われてたんだな、俺。

 まあ、嫌われている要因の一部は「そんなん知るか」って感じのものだったが。


 とはいえ、あいつらはザイールたちと違って無法者というわけではないように見える。

 なので、争うような事態にはならないだろう。


 でも、このままギスギスした関係というのも気持ち悪いな。

 いずれは関係修復のために、なにかをする必要がありそうだ。


 そう思いながら俺は大きくため息をつき、ユミたちと一緒に宿のなかへと入った。

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