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立ちふさがる

「お、戻ってきたか」

「……ケンゴ?」


 アギト率いる【黒龍団】のパーティーと合同で迷宮探索をした俺たちは、外の夕日もすっかり落ちたあたりで始まりの町に引き返してきた。

 すると、宿屋にてケンゴとセレスが俺たちを出迎えてきた。


 ここの宿は高校生の地球人≪プレイヤー≫専用だ。

 治安維持の関係か、そういう配慮がなされている。

 なので、ケンゴたちは別のところに泊まっていた。


 だというのに、こいつらは今ここにいる。

 多分、俺たちに用があってのことなのだろう。


「シン、昨日は楽しかったぜ。また一緒に飲もうな」

「俺は飲んでないけどな」


 ケンゴは俺に近寄り、声をかけてきた。


 今のこいつの言い方じゃ、俺も酒を飲んだ風に聞こえてしまう。

 そういう誤解を周りに与えかねない発言は控えてほしいな。


「け、ケンゴさんケンゴさん。し、シンくんとは昨日、ど、どこまでいったんですか?」

「お前は黙ってろ」


 サクヤは俺とケンゴが一緒に寝泊まりをしたことで、また妄想逞しくしているようだ。

 どこまでもなにも、ここから歩いて5分以内のところにある別の宿屋までだよ。

 それ以上はどこにも行かねえよ。


「≪先読み≫のケンゴ……か」


 俺がサクヤを後ろに追いやっているとアギトがつぶやき声を発した。


「ん? てめえは確か、決闘大会で準決勝まで残ってた……」

「初めまして、剣王。俺のキャラネームはアギト。ギルド【黒龍団】のリーダーを務めています」

「【黒龍団】のアギトか、覚えたぜ。俺はケンゴ。よろしくな」


 ケンゴとアギトはそこで自己紹介をしあって握手を交わした。


 何気にアギトはケンゴに対して敬語を使うのな。

 クレールのときは若干躊躇っていたけど、目上相手に敬語を使うのは普通といえば普通か。


「準決勝だけは最後のほうしか見れなかったんだけどよ、それ以外の試合ではなかなか良い動きしてたぜ」

「剣王に褒めらるほどではありません。俺もまだまだです」

「謙遜すんなよ。シンには負けちまったが、てめえは十分強い。誇っていいぜ」


 ケンゴがアギトを褒めている。


 防御性能、攻撃性能、共に高校生のなかでは間違いなくトップクラスだからな。

 俺もケンゴと同じく、アギトを高く評価している。


「シンくん、どうしよう。このままだとケンゴさんとアギトさんにフラグがふがががが……」


 また、サクヤはふざけたことを言いだしたので、俺は彼女の口を手で物理的にふさぐことにした。


「……てコラ! ペロペロすんな! 今そんなにキレイなわけじゃないんだぞ!」

「シンくんの体なら全然汚くないよ! 全身どこでも余さず舐めとれるよ!」


 サクヤは手の平を舐めてきたので、つい俺は彼女を放してしまった。


 相変わらずサクヤの言動は酷いな。

 俺だから汚くないとか、そんなわけないだろ。

 腹壊しても知らないぞ。


「シンとサクヤさんは随分仲がよろしいですわね」

「そうですよ! 私とシンくんはいつだって深い仲もごもごごご……」

「俺たちのことは気にするな、セレス」

「そ、そうしておきますわ……」


 セレスが俺たちの攻防を見て苦笑いを浮かべている。


 くそう。

 サクヤのせいで右手がベチョベチョだ。


 もういい。

 とりあえず気持ちを切り替えていこう。


「で、ここで待ってたってことは、俺に何か用があるのか?」


 俺は右手をハンカチ(最近持つようになった)でフキフキしつつ、ケンゴたちに疑問の声を投げかけた。


 昨日みたいにまた酒に付き合えということだろうか。

 それなら別に構わない。

 酒は飲まないけど。


 まあ、今回はセレスもいるみたいだし、ケンゴもそんな要求はしてこないだろう。


「おう。実はな、そろそろ俺らは町を離れようと思ってよ」

「なのでシンたちにお別れの挨拶をしに来たというわけですわ」

「ああ……そうなのか」


 なんだ……ただ単に遊びに来たってわけじゃなかったのか。

 もう別れることになるのは、ちょっと残念だな。


「挨拶が済んだらすぐに出るのか?」

「一応そのつもりだぜ。俺らももう少しゆっくりしたかったんだけどなぁ」

「私たちもそれなりに忙しい身ですからね」


 もっとゆっくりしていってもよさそうなもんなんだが、忙しいなら仕方がないな。


「セレスはもうちょいここに残っててもいいんだぜ? 俺さえ戻れば一応は問題ねえんだからよ」

「ケンゴさんだけでは何をしでかすかわかりませんので、その提案は謹んでお断りさせていただきますわ」

「そうか、あんがとよ」

「いえいえ」


 ケンゴとセレスは相変わらず仲がよさそうだな。

 こういうことはこちらから訊ねたりしないけど、やっぱりこいつらって付き合ってるんじゃないか?


「? どうした、シン」

「いや、なんでもない」


 恋愛系の話題を振ったせいで自身に飛び火をくらうことは避けたい。

 俺は首を傾げているケンゴに手を振りながら、さっきまでの考えを頭の隅に置いた。


「フィルも元気で暮らせよ。あともっとメシ食えメシ。てめえはもうちょい太ったほうがいいぜ」

「ケンゴさん、言い方をもう少し考えましょう……まあ、私もフィルは少しふくよかになったほうが、女性として魅力的に映るかもしれないと思いますけれど」


 そして、ケンゴたちはフィルにちょっとしたアドバイスを与えていた。


 フィルは見た目細いからな。

 ガリガリというわけではないけど、ケンゴたちが心配するのもわからなくはない。


「えっと……シンさんはどう思……います?」

「そうだな。俺もケンゴたちの意見に賛成だな」

「ん……わかった。もっといっぱいご飯食べる……ます」


 フィルは最終的に俺の好みに合わせるみたいだな。

 というか、フィルもまだ成長期なんだから、食事の量を増やすくらい気にしなくてもいいだろう。


「あれ、シンくんはお肉のついた女の子のほうが好みだっけ? なら私太るよ」

「いや、あくまでほどほどのが良いんだからな?」


 サクヤが不穏な発言をしたので俺は釘を刺した。


 なにも、俺は太った女性に惹かれるとか、そういうことを言っているわけじゃあないぞ。

 ただ単に微ポチャくらいのほうが、俺を含む男にとっては嬉しいという一般論を言っているだけなんだから。


「つまりマイくらいのが良いってわけね」

「ああ、なるほど。確かに私も、マイって良い体してるなあ、とかお風呂に入るときによく思うよ」


 そこでミナが会話に交じり、サクヤと一緒になってマイを褒め始めた。


 良い体という言い方はアレだけど、まあ……マイは理想的なムチムチバインバインだからな。

 俺もミナたちに同意せざるを得ない。

 裸は見たことないが。


「か、体であれば我も負けてはいないと思うぞ?」

「あー……はいはい」


 俺が無言で頷くのを見てかクレールが張り合いだした。


 クレールはマイと比べると背が小さいものの、胸は同じくらいある。

 いわゆるひとつのロリ巨乳だ。

 実際には合法ロリ巨乳と呼ぶべきか。


 しかし、胸以外はそこまでムチムチしているわけでもない。

 標準的な少女体型だ。

 マイとクレールのどちらが良いかは完全に好みによって分かれるだろう。


 ちなみに俺ならクレールのほうがいい。

 いや、俺は別にロリコンとかそういうんじゃないけど。


「なんだったら、あとで我の肉体美を隅々まで確かめてみるか?」

「……そういうことを公衆の面前で言うな」


 ケンゴたちがこっち見てるんだぞ。

 あんまり変なことをこいつらの前で言わないでくれ。


「なんか今、すっげえイラッときちまったぜい……」


 アギトのパーティーメンバーであるカイトたちが俺に厳しい視線を向けてきた。

 俺はそれを見て冷や汗を流しつつも、表情はクールなままを維持する。


「く、クレールさんには負けるけど……そういうことなら私のも確かめてほしいな?」

「……お前もそうやって混ぜっ返すのやめろ」

「ぐみゅみゅみゅみゅ……」


 サクヤのふざけた発言のせいでカイトたちの睨みは五割増しアップだ。

 顔を左右から両手で潰すくらいのお仕置きはするべきだろう。


「し、しんきゅん……ちゅー……」

「タコ顔だからってついでにそういう冗談飛ばすのもやめろ」


 俺に顔をプレスされながらもサクヤは唇を突きだしてくる。

 こんなときにチューする馬鹿がいるかよ。

 100年の恋も冷めかねないチューだぞ。


「フィルも負けてらんねえな」

「ん……負けられない……です」


 そうした俺たちのけん制を見ながらケンゴとフィルが話している。


 あんまりフィルを焚きつけるなよ。

 サクヤはもう手遅れだけど、フィルには純粋に育ってほしいんだから。


「さて……そんじゃあそろそろ俺らは行くかな」

「そうですわね」


 アホな雑談を終え、ケンゴたちは再び真面目な様子を取り繕った。


 もう行ってしまうのか。

 これが今生の別れというわけでもないけど、しばらく会えないと思うと、やっぱり寂しく思ってしまう。


「……ケンゴ、セレス。近いうちにまた会おうな」

「おう。次に会うときは俺もさらに強くなってっから、昨日勝ったからっていつまでもテングになってんじゃねえぞ?」


 テングになった覚えはないんだが。

 まあ、今度ケンゴと戦うときは昨日より熾烈を極めることになるというのは確かだろう。

 俺のほうも気を引き締めていかないとだ。


「んじゃ、最後に握手でもしておくか」


 そしてケンゴは俺に向けて右手を差し伸べてきた。


「……あー、今回は左手でな」


 俺もケンゴと握手をするために右手を差し伸べようとしたが、すぐさま引っ込めて左手を前に出した。


 ハンカチで拭ったとはいえ、さっきまで俺の右手はサクヤの唾液でベチャベチャだったからな。

 右手で握手をするにはちょっと抵抗がある。


「そんなもん俺は別に気にしたりしねえんだが……まあいいか」


 ケンゴは軽く笑みを浮かべ、俺とガッシリ握手を交わした。


「では私も」


 すると次にセレスが前に出てきたので、俺は彼女とも握手をした。

 そんな俺たちの横ではケンゴとフィルが握手をしている。



「じゃあ、またな。てめえらも迷宮のレイド戦や中間テストとかで色々大変だろうけど、ほどほどに頑張れや」



 結局、この場にいる連中全員と握手を交わしたケンゴは別れの言葉を口にした。



 …………。



「中間テスト?」

「? さっきマーニャンに会って聞いたんだが、来週に中間テストやるんだろ?」

「……あ」


 今まで色々あったせいで、すっかり忘れていた。

 アースの時間の流れに順応しすぎていたと言ってもいいだろう。


 中間テスト。

 その存在は突如として、俺たちが進める迷宮攻略の前に立ちふさがることとなった。

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