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精霊王の祝福

「……え」


 俺に攻撃魔法は効かないということを説明すると、セレスは苦笑いを浮かべた。

 今起きた現象を端的に教えただけなのだが、その事実は彼女にとって受け入れがたいものであるようだ。


 無理もない。

 攻撃魔法は効きませんとか、魔術師相手に言ったら「ふざけんな!」と怒られても仕方のない能力だ。

 『精霊王の祝福』は欲しいと思って手に入れたスキルではないが、これには今までそれなりに助けられているため、周りからどんなことを言われても言い返したりはしない。

 どのような罵りでも、俺は甘んじて受け入れよう。

 まあ、セレスは罵ったりなんてしないだろうが。


「……そんなパッシブスキルがあったなんて初耳ですわ……シンはどこでそれを?」

「それは秘密だ」


 このスキルは精霊王から貰うしか取得手段がない。

 しかも、こういったスキルを無制限に人へポンポンと与えることもできないらしく、地球人≪プレイヤー≫で『精霊王の祝福』を得ているのは俺だけなのだとか。

 クレールから貰った『死霊王の加護』も同様だな。


 なので、このスキルの取得方法を無暗に誰かへ教えることは控えたほうがいいのだ。

 この情報が広く出回って、精霊王のところに人が殺到しても迷惑をかけるだけだからな。

 それ以前に『アルフヘイム』へ行くこと自体がまず不可能だろうから、余計な心配だろうけど。


「……まあそういうことだから、試合を再開するぞ! セレス!」

「!」


 これ以上この話を続けても意味がない。

 そう思った俺はセレスのほうへと再び駆け出した。


「くっ!」


 するとセレスは早打ちの初級魔法を放ってきた。


 だが、もはや俺はそれを避けることすらしない。

 彼女の魔法は……俺に当たる直前に全て消え去っていく。


 こうなるから魔法に当たるのは嫌だったんだよな。

 『精霊王の祝福』を持っている時点で、俺は魔術師職相手に無双ができてしまう。

 だからこそ、この理不尽が知られないよう、セレスの放つ魔法を全てかわしきっての勝利を目指したのに。


 けれど、知られてしまったのならしょうがない。

 わざとらしく避けてセレスから不評を買いたくないので、速攻で決めさせてもらおう。


 とはいえ、一応この魔法耐性には穴が存在する。

 直接対象者に作用する類の魔法は普通に効くという穴だ。

 俺が『プロテクション』や『ブレッシング』を自分にかけても無効化しないことが、その証明と言える。

 また、俺からそう離れていない超至近距離――『精霊王の祝福』による魔法障壁の内側からの魔法なら、打ち消されずに攻撃を加えることも可能だろう。

 が、こういった弱点をここでつらつらと喋るほど俺も迂闊ではないし、甘くもない。


 それに、それらの弱点を突くには、どうしても俺と距離を詰める必要がある。

 けれどインファイトなら俺が圧倒的有利。

 魔術師職で接近戦を得意とする人間はまずいない。

 これはセレスも同様だ。


 しかし、もしかしたらアースに来て以来、近距離戦闘も鍛えているという可能性もある。

 なので、試合が終わるまでは気を引き締めていこう。


 そう思った俺は、セレスの挙動を注意深く観察しつつ『クロス』を振り上げた。


 だが、それより早くセレスの言葉が試合会場に響き渡る。



「参りましたわ」



 セレスは棄権した。

 右手を挙げ、審判に向かって自分が負けたということを彼女は告げた。


「セレス選手棄権! よって勝者! シン選手!」


 審判が彼女の宣言を聞き入れ、この試合の勝敗を会場全体に知らせた。


「流石にこれ以上戦うのは無意味でしょう。ならシンここで棄権するのも止む無しですわ」

「……そっか」


 確かに、この戦いの勝敗は『精霊王の祝福』というスキルの存在がある時点でほぼ決していた。

 実際には俺に勝てる可能性もゼロではないが、自分の手札で勝つことは不可能だとセレスは判断したのだろう。


 セレスのスキル構成を詳しく教えてもらったわけじゃないから断定もできないけど、あれだけ多彩な魔法を習得していてなおかつ闇魔法にまで手を出すというのは厳しいはずだから、多分使えないのだろう。

 至近距離での戦闘も、俺に敵うほどではないとすれば、ここで降参するというのも一つの手だ。


「シンも女性を叩く趣味なんてないですわよね?」

「当たり前だ」


 ここで試合が終了してくれるなら、こちらも心情的にはありがたい。

 あのまま試合が続いても、抵抗できないセレスを『クロス』で叩くという内容にしかならなかっただろうからな。

 もちろん俺は女性を叩くことに喜びを感じるようなこともないので、ここで終わりにしてくれるなら素直に受け入れる。



 そうして俺はセレスに勝った。

 不完全燃焼な形になってしまったのは残念だが、しょうがない。

 この鬱憤はこれからの試合で晴らそう。






「なんだか尻すぼみな試合内容であったな」


 闘技フィールドから観客席のほうへと向かって歩いていた俺は、途中の通路でクレールに声をかけられた。


 彼女の後ろにはミナ、サクヤ、フィル、それにケンゴもいる。

 どうやら俺が来るのを待ってくれていたみたいだな。


「言ってくれるな。こっちも微妙に納得してないんだから」


 『精霊王の祝福』は俺に大きなアドバンテージを与えた。

 しかし、こういう試合をするという場合においては、どうにも邪魔に思ってしまう。

 贅沢な話だな。


「あのまま戦ってもあんまり面白い内容にはならなかったと思うから、あれでいいんだよ。クレールだって俺があのスキルを持っていることは知っているだろ?」

「ふむ……まあ知っているが」


 俺の説明を受けたクレールは眉をひそめはじめた。


 クレールは俺が『精霊王の祝福』を持っていることに、あまり良い感情を抱いていないらしい。

 前に精霊王とのやりとりを話したときも「ぬぬぬぬぬ……」と言いながら眉間にしわを寄せていた。


 多分、そういった特別な力を俺に与えているのは自分だけという自負でもあったのだろう。

 だからか、これ関連の話題を出すと彼女はすぐにスネる。


「私が魔法以外の攻撃手段にも精通していたらよかったのですけれど」


 俺たちがそんな会話をしているところへセレスもやってきた。

 どうやら彼女も、このまま観客席へ行って次の試合を見るつもりらしい。


 彼女は俺に負けても特に落ち込んだりはしていない様子だ。

 自分で棄権したわけだから、落ち込まないのも当然といえば当然かもしれないが。


「不甲斐ない結果に終わってしまい、申し訳ありません」

「いや、貴様が悪いと言っているわけではないぞ」


 セレスがクレールに頭を下げた。

 しかしクレールは別にセレスを責めているわけではないらしく、軽く手を振って言葉を付け足した。


「シン殿に魔法が通用すれば、試合の結果もどうなっていたかわからん内容であったしな」


 確かにそうだ。

 俺に魔法が効きさえすれば、勝っていたのはもしかしたらセレスのほうだったかもしれない。

 そう思わせるだけの強さを彼女は有していた。


「セレスさんはとっても強かったです! 同じ魔術師職として凄いと思いましたよ!」

「私も同感です。今回はシンがちょっとおかしかっただけで、他の選手と当たっていたらもっと上に行けたと思いますよ」

「ん……気にする必要なんてない……です」


 サクヤ、ミナ、フィルもセレスの強さを認めているようだ。

 ここでもしセレスが弱いだの何だのと言う奴がいたら俺がとっちめてやるところだった。


「そうだぜ。シンもセレスもここアースに来てからかなり強くなった。勝敗がどっちに転んでもおかしくないと俺は思ってたぜ」


 と、そこでケンゴが俺たちの話しに加わってきた。


 どっちに転んでもおかしくない、か。

 でも、それはお前からしたらすでに勝敗は知っていたんじゃないか?


「ん? なんだその目は?」

「いや、ケンゴだったら【未来予知】で俺たちのどっちが勝つかを予測してるだろって思っただけだ」

「ああ、そういうことか……それなら俺にもわかんねえよ。アビリティジャマーの制約上、今の俺は数秒先が見通せる程度の力しか出せねえからな」

「え、そんなキツイ制約なのか?」

「前回の大会でもそれなりの制約がされてたんだが、それでも勝っちまったからな。しょうがねえよ」

「へえ……」


 やっぱり異能制限導入の要因にはコイツが絡んでいたんじゃないだろうか。

 俺はケンゴへの疑惑を確信に変えつつ、軽いため息をついた。


「なにはともあれ、二回戦突破おめでとさん」

「ありがとよ」


 ケンゴはこちらに向けて拳を出してきた。

 それに同調するように俺も拳を前に出し、それをコツンと合わせる。


「ここまで来たら、俺と戦うまでぜってえ負けんじゃねえぞ、シン」

「わかってる。俺が勝ち進むまで精々高みの見物でもしていろ」


 また、俺たちは決勝で戦うことを誓い合った。


 ケンゴと戦うまであと二回勝つ必要がある。

 そこでは誰と戦うことになるだろうな。


「……にしても、シンへ調教ができなかったのは心残りですわね」

「まだ言うか……」


 次の試合へ思いをはせていると、セレスは「はぁ」と大きくため息をついていた。

 よほど俺を試合会場でいじめたかったらしいな。


「サクヤさんやフィルの様子を見る限りでは問題なさそうですけれど……本当にこの子は大丈夫?」


 そしてセレスはサクヤたちのほうへと目をやり、心配そうな目つきで訊ねた。


「問題あるまい。少し硬いところがあるが、最終的には男を見せてくれると我は信じているぞ」


 するとクレールが代表するかのようにそう言って、俺の腕に腕を絡めてきた。


 男を見せるって。

 具体的にどうしろっていうんだよ。

 いや、言わなくていいけどさ。


「最後の三人目はやはりあなたでしたか……まあ、死霊王がそうおっしゃるのであれば、私もこれ以上は何も言いませんわ」


 どうやらセレスはクレールの言葉を信じるらしい。

 死霊王だから信じるみたいな様子だけど、果たしてそれで本当にいいのやらだ。


「でもフィルを泣かせたらただじゃおきませんから、そのときがもしも来たら覚悟なさい、シン」

「あ、ああ。わかった」


 俺もフィルが泣く姿を見るのはもう嫌だ。

 セレスに言われるまでもない。


「さて……そんじゃあ席に着くか。そろそろ次の試合が始まるぜ」

「おっと……もうそんな時間か」


 話し込んでいるうちにそれなりの時間が経過していたらしい。

 闘技フィールドには既に第二試合で戦う選手が対峙したようで、試合開始を告げる審判の声が聞こえてくる。

 なので俺たちは空いている観戦席を探し始めるべく移動し始めた。


 そうして俺たちはその後の試合を観戦し続けたのだった。






 決闘大会一般部門本戦第二回戦



 第一試合

 ●セレスVS○シン


 第二試合

 ●ジンVS○セツナ


 第三試合

 ○アギトVS●KURAUDO


 第四試合

 ●金ちゃんVS○ヴォルス

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