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必中

「決闘大会一般部門本戦! 二回戦第一試合、セレスVSシン! 決闘開始!」


 闘技フィールドにて対峙した俺とセレスは、審判の合図を聞いて臨戦態勢に入った。


 俺とセレスの間にはそれなりに距離がある。

 僧侶職であり光魔法なども扱えない俺は近距離攻撃しか行えないものの、魔術師職であるセレスは遠距離攻撃に特化している。


 つまり、セレスからは絶対に近づいて来ない。

 だったらここは、俺のほうから彼女に詰め寄るしかないだろう。

 そう思った俺は彼女より先にアクションを起こすことにした。


「シンにしてはのんびりしていますわね。補助魔法を忘れていますわよ?」

「……『プロテクション』、『ブレッシング』」


 だが決闘が始まり、俺が走ろうとした矢先にセレスから指摘が入った。

 なので俺はその場で補助魔法を自分にかけた。


 別にかけようがかけまいが違いはない。

 けれど、彼女からそう言われてしまえば、ちゃんとかけるしかないだろう。


「どうにも戦いに身が入っていないようですわね」


 そんな俺を見たセレスが呆れたという様子でため息をついている。

 普通であれば、今のは確かに俺の落ち度であるから反論のしようがない。


「悪い、セレス。それじゃあ仕切り直して始めるぞ!」


 俺は今度こそセレスに向かって走り出した。


 セレスとの距離なんて数秒で詰められる。

 また、近距離からの攻撃にさらされた魔術師職なんて俺の敵ではない。

 とはいえ、セレスもそう簡単に距離を詰めさせてはくれないだろう。


 この勝負は、いかに俺が彼女へ近づけるかにかかっている。


「そんな簡単に近づけさせるわけがないでしょう」


 セレスはそう言いながら、炎、氷、雷、土の球を空中に作り、俺に向けて飛ばしてきた。


 これは魔術師職が扱える初級魔法の『ファイアボール』、『アイスボール』、『ライトニングボール』、『クレイボール』か。

 初級とはいえ、無詠唱かつほぼ同時のタイミングで4つの魔法を発動させるというのはサクヤでもなかなかできない芸当だ。

 流石はセレスといったところか。


「フッ!」


 しかし、ここでセレスが魔法を飛ばしてくることは俺もわかりきっている。

 事前に心構えができていれば、こんな球を避けることは造作もない。


 セレスの放つ遠距離攻撃魔法は、彼女の持つ【必中】という異能のおかげで恐ろしい命中精度を誇っている。

 並の相手なら苦戦するところだが、俺に限ってはそうならない。


 狙ったところへ正確に飛んでくるゆえに、攻撃の軌道が素直だ。

 これには彼女の性格が表れているのだろう。


 どこにくるかが大体わかっていれば、簡単に避けることができる

 もちろん、セレスのほうも偏差射撃くらいお手の物なのだが、俺はその偏差射撃を予測したうえでの回避をすることにも一日の長がある。

 俺はセレスの放った球が命中する前に、姿勢を低くしつつも横っ飛びをして、真横と真上に飛来する攻撃を完璧にかわした。


「やりますわね、シン」


 けれど、それで楽勝ムードにさせてくれるほどセレスも甘くない。

 セレスは再び魔法の球を俺に向けて飛ばしてきた。


「くっ!」


 それを俺は大きな動作で避け続ける。

 本当はもう少しギリギリの回避を行えるのだが、今回はこうする他ない。


 にしても、魔法の連射速度が早すぎる。

 クールタイムがかなり少ない。

 多分、セレスはDEXに多くポイントを振っているんだろう。


 俺はセレスやケンゴに自分のステ振りや装備などについてを詳しく話していない。

 向こうもまた、そういった情報を俺に教えてくることはなかった。


 なので、セレスのステ振りがDEX寄りになっているであろうことも今知ったわけだが、それは彼女らしいと納得もできる。

 威力よりも手数で勝負を決めるやり方が、かつてゲームのなかで行っていた彼女の戦法だったからな。


「どんどんいきますわよ!」


 セレスの正確無比な魔法が俺に向かって立て続けに降り注ぐ。

 それを俺はとにかく必死になって避けることしかできない。


 これはもはや弾幕だ。

 セレスに近づくどころの話じゃないな。

 現状では避けるので手一杯だ。


「……そんなに撃ちまくってたら、すぐにMPが切れるんじゃないか?」

「心配ありませんわ。全ジョブ中MP成長率が最も高い魔術師職を甘く見ないほうがよろしくてよ?」

「ふーん……」


 初級魔法なら大したMP消費にもならないだろうしな。

 それに当然、装備やアイテムでMP増大もしているはずだ。

 聞くだけ野暮なことだったか。


「それより、あなたのほうは使わないんですの?」

「何のことだよ」

異能アビリティのことに決まってますわよ。あなたはまだこの決闘中に一度も自分の異能を使っていないですわよね?」

「…………」


 まあ、使っているか使っていないかと聞かれれば、使っていないな。

 セレスの魔法を避ける時に使おうか少し迷ったが、一応体術だけで避けられそうだったので、ここまではなんとか異能なしでかわしきっていた。

 我ながらよくやるよ。


「使うまでもないと思っているのなら……私にも考えがありますわよ?」


 別に使うまでもないとかそういうわけじゃないんだが、セレスにとってはそう見えたようだ。

 そう見られても仕方のないことをしてしまったわけだから、あまり強くは言えないけど。


 でも今、考えがある、とセレスは言ったな。

 ここから何かをするつもりなのだろうか。

 俺に異能を使わせるような何かを。


「さあ! 行きますわよ!」


 何をするつもりなのかはわからないが、いつでも異能を発動できるようにしておこう。

 俺はセレスを見ながら最大限の警戒を行い、彼女の挙動をつぶさに観察する。


「……?」


 セレスは先ほどと同じように、『アイスボール』を俺に向けて飛ばしてきた。


 一体何がしたいんだ。

 よくわからないな。


 しかし、ここで当たってしまうわけにはいかない。

 なので俺は、セレスの放った魔法を避けるべく、体を横に移動させた。


「!?」



 魔法でできた氷の球は、俺の横を通り過ぎる直前になって軌道を変えた。

 軌道が変わったその先には――俺がいる。



「くっ!」


 そこで俺は、この大会までに体系化した異能、【時間暴走】――≪身体加速フィジカル・アクセル≫を発動した。


 アビリティセンサーに引っかからないギリギリのラインで俺の体が加速する。

 そして、目の前まで迫った氷の球を、俺は強引に体を捻ることによって再び避けた。


「なっ!?」


 すると氷の球は再び軌道を変え、俺に向かって飛んできた。


 これはもしかして……追尾されているのか?

 何かに当たるまで魔法の球は俺を追い続けとしたら非常に厄介だ。


「私の異能を甘く見ましたわね?」


 セレスの異能は【必中】。

 その異能を持つセレスの命中精度はずば抜けて高い。

 素手で石を投げるにしても、弓で矢を放つにしても、今のように魔法を飛ばすにせよ、セレスが行うと間違いなく的に命中する。


 ただし、的とセレスの間に遮蔽物があるか、的そのものが動き回っているという場合は当たらないこともある。

 これについては、セレスの【必中】が込められた投擲物は彼女の手を離れた時点で異能の効力を失うからと推測されている。

 そういった情報を俺はかつてセレスから聞いた覚えがあった。


 なので、【必中】などという仰々しい異能を持つセレスの攻撃を避けることは可能であることも知っていた。

 だからこそ俺は、セレスの攻撃を完璧に避けることで勝利を収めようと考えた。


 しかし、これは知らない。

 セレスの攻撃に追尾能力が備わっているだなんて情報は知らなかった。

 完全な初見だ。


 もしかして、セレスの異能はアースに来てから更なるパワーアップを果たしたのか。

 より的へと当たる、正真正銘の【必中】へと、その力を変貌させたというのか。


「……チッ!」


 俺は【時間暴走】を使って、追尾するセレスの魔法から逃げ回る。


 これはもうどうしようもない。

 避けるのではキリがなさすぎる。


 どうする。

 小盾で弾くか。

 いや、それはできない。

 なんといっても、俺には――


「どんどんいきますわよ!」


 背後からしつこく追ってくる氷の球をどうしようか迷っていると、セレスは更なる魔法を俺に向けて放ってきた。


 あれは『ファイアアロー』、『アイスアロー』、『ライトニングアロー』、『クレイアロー』か。

 さっきまで使っていた魔法より威力が高く、速度も速い中級魔法。

 セレスはそろそろ本気で俺にダメージを与えようとし始めたわけだ。


「ぐっ……!」


 それらの中級魔法は俺の逃げる速度よりも早い。

 逃げ切ることは不可能か。


 ……だったら。


「!」


 俺は追尾する魔法を無視し、セレスに向かって駆け出した。

 すると彼女はやや驚いたというような表情をし始めた。


 盾で魔法を遮れないならセレスに遮蔽物替わりを果たしてもらおう。

 自分の魔法を食らえ!


「そうはさせませんわよ! 『ウインドウォール』!」

「うおっ!?」


 しかし、セレスはそこで魔法を唱えた。

 彼女が『ウインドウォール』と口にした瞬間、彼女の周囲に風が巻き起こり、俺はその場で一旦足を止めた。


「近づいてきた時の対策もしているに決まっているでしょう! 私を甘く見ましたわね! シン!」

「くっ!」


 そして背後からは複数の魔法が俺に向かって飛んできている。

 だが、それを今の俺は回避できない。


 なので俺は念のために一応・・・・・・・、こちらに飛んでくる魔法に小盾をかざす。


「流石のシンもこれなら手も足も出な……い……?」

「…………」



 魔法は……小盾に当たる前にすべて消え去った。



「ど、どういうことですの……これは……?」


 セレスは今の現象を見て、明らかにうろたえている。


 無理もない。

 普通、魔法があんな形でレジストされることなんてないからな。

 防具などの効果で無効化することはあるけれど、当たる直前に消え去ったりはしない。


 さらに、魔法によって吹き荒れていた風も、いつの間にか消え去っている。

 これはセレスにとって、とても不可解な現象だったはずだ。


「あー……悪い、セレス」

「…………?」


 もはや勝負はほぼ決してしまったと残念に思いつつ、俺はこの場で説明することにした。



「俺、スキルのおかげで魔法攻撃は効かないんだ」



 魔術師職であり、攻撃は全て魔法に頼るほかないセレスに向かって、俺を魔法で倒すことは不可能であると告げた。

 攻撃魔法が無効である理由は今更言うまでもなく、スキル『精霊王の祝福』を取得している結果である。


 セレスが【必中】という異能を持っていても関係ない。

 俺に降りかかる魔法は一部の例外を除き、ほぼすべて無効化されるのだから。


 魔術師にとって、俺以上の天敵は存在しないだろう。


「……え」


 そんな俺のスキルを説明すると、セレスは引きつった笑みを浮かべた。


 ですよねー。

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