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初対面

 決闘大会一般部門本戦一回戦



 第一試合

 ○セレスVS●殺助


 第二試合

 ○シンVS●カタール


 第三試合

 ○ジンVS●ヒロ


 第四試合

 ●フィルVS○セツナ


 第五試合

 ○アギトVS●フォックス


 第六試合

 ●クルミVS○KURAUDO


 第七試合

 ○金ちゃんVS●カイト


 第八試合

 ○ヴォルスVS●ピー太





 一回戦の結果が書かれたトーナメント用紙を見ながら、俺はフィルを慰めていた。


「うぅ……」

「そんなに泣くな、フィル。俺がきっちり仇をとってやるから」


 フィルはセツナに負けてからずっといじけている。

 俺やケンゴの負けず嫌い精神が、いつの間にかフィルにも伝染していたのだろうか。


「せっかく……シンさんと再戦するチャンスだったのに……」

「……俺ならいつでも相手してやるぞ?」

「でも……」

「…………」


 多分、こういう公式の場で俺を負かせてみたいと思っていたりするのだろう。

 だから俺の慰めは的外れもいいところだ。


 しかし、こうでも言って何とか慰めないと落ち着かない。

 俺はフィルが泣くところなんて見たくないからな。


「それにしても……あのアギトって人とセツナって人……凄く強いわね」

「うん……そうだね……」

「我もあの二人が突出した何かを持っているということは感じ取れたぞ」


 そんな俺たちの近くでミナ、サクヤ、クレールが【黒龍団】の連中の話題を出してきた。


「カイトって人も【黒龍団】メンバーだったみたいだけど負けちゃったから、あのギルドでトーナメントに残っているのは2人だけってことになるわね」

「それでも、シンくんを含めた高校生が3人も一般部門で勝ち上がるなんて、ほとんどの人が予想できなかったと思うよ」


 【黒龍団】のリーダーであるアギトと副リーダーであるセツナは二回戦への進出を決めた。

 俺が言うことでもないが、一般部門で高校生が勝ち上がるというのは快挙と言えるだろう。


 セツナは中学生のフィルを倒したわけだから、観客からしたらそこまで大したことでもないという反応みたいだが、俺とアギトは違う。

 俺の対戦相手だったカタールも、アギトの対戦相手だったフォックスも、地球人≪プレイヤー≫のなかではそれなりに名が通っていたらしい。

 そんな奴らを高校生が倒したということで、俺たち未成年組への評価は格段に上がっただろう。


 現に、今も俺の背後からヒソヒソと俺の噂話をしている連中の声が聞こえてくる。


「あれが中高生の七強とか呼ばれてる≪ビルドエラー≫か……」

「まさかカタールがやられちまうなんてな……この大会ではあいつが決勝でケンゴと戦うって思ってたのに……」

「でも≪ビルドエラー≫ってなんだ? ビルドを失敗したってことか?」

「あいつは見た目戦士職だけど実際は僧侶職なんだよ。だからそう呼ばれてるんじゃねえの?」

「マジで? 僧侶職が大会の本戦に残ってんの?」

「さっきの試合見ただろ。あいつ、僧侶職にしか使えない魔法を使ってたから、まず間違いなく僧侶で合ってるよ……ビックリだぜ」

「マジか……ああ、だからアレの倍率があいつだけやけに高いのか……」

「おい、その話をここでするのはやめろ」


 みんな俺が僧侶であることに驚いているようだ。

 まあ、俺も回復役が前に出てガツンガツンと殴りあうような肉弾戦をしていたら「おいちょっと待て」と言いたくなる。

 俺のバトルスタイルは王道ではなく邪道であり、パーティープレイを前提としたものではないように見えるはずだ。

 多分、俺はソロだと思われるだろうな。


「……で、周りにいる可愛い子たちはなんなんだ?」

「お前それも知らねえの? ミス・地球人≪プレイヤー≫コンテストで上位に入賞した子や優勝した子もいるんだぞ?」

「いや……知らねえよそんなの……」

「でも、あの子らに話しかけるのはやめとけよ。≪ビルドエラー≫が動くらしいから」

「さっきの試合みたいにしつこく叩かれるのは勘弁願いたいね……」

「ああ、まったくだ。あの試合見ててカタールが可哀想になっちまったよ」

「触らぬ神に祟りなしってか。俺、あの髪の長い子が結構好みだったんだけど」

「俺はあのマフラーを巻いたゴスロリの子が良いな」

「えっ、お前ロリコンかよ。マジ引くわ」

「おい……いきなり冷静なツッコミすんなよ……」


 ……なんか言いたい放題してくれてるな。

 というかミス・地球人≪プレイヤー≫コンテストってなんだよ。

 そんなのがあったなんて初耳だぞ。

 それ絶対非公式で開かれた催しだろ。


「次は私と当たりますわね、シン」

「なかなか面白そうな組み合わせだな。どっちが勝つか、俺も楽しみだぜ」


 と、俺が周囲に聞き耳を立てているところへセレスとケンゴがやってきた。

 セレスとは先ほど交わした約束通り、次の試合で戦うことが決まっている。


 ≪スナイパー≫のセレス。

 普通に戦えばかなりの苦戦を強いられる強敵だ。


「……? 浮かない顔をしていますわね?」

「ん……ああ、まあ、ちょっとな。なんでもない」


 セレスの指摘を俺は濁した。


 あんまり考えすぎてもしょうがない。

 なるようにしかならないんだから、ここでグダグダ悩んでもしょうがないのだ。

 しかし、戦いようによってはある意味縛りプレイになるので悪くはない。


「セレス、俺は絶対負けないからな。どんな結果になっても泣くんじゃないぞ」

「それはこっちの台詞ですわ」


 俺たちは互いに自分が勝つという意思を相手に伝え、闘志を燃やし始める。

 また、セレスは俺の隣にいるミナたちに視線を向け、ニコリと微笑んだ。


 あ、そういえばミナとサクヤがセレスとケンゴに会うのは初めてだったな。


「セレス、ケンゴ、紹介する。こっちが剣士職のミナでこっちが魔術師職のサクヤ。2人ともアースで俺とよく一緒のパーティーを組んでいるクラスメイトだ」

「初めまして」

「あ、えっと、初めまして」


 俺がミナとサクヤを紹介すると、彼女たちはセレスたちに向かってペコリと頭を下げた。


「で、こっちはミナと同じく剣士職のケンゴで、こっちがサクヤと同じ魔術師職のセレス。この2人はゲームでよくパーティーを組んでいた、いわゆる俺の同類だ」

「初めまして、お嬢ちゃんたち。シンとフィルがいつも世話になってるぜ」

「初めまして。シンたちから話はよく聞いていましたわよ」


 また、ケンゴとセレスも軽く頭を下げて挨拶を交わした。


「シンが迷惑かけてたりしてねえか? もしなんかあったら俺がとっちめてやるから、遠慮なく相談しな」

「おい、いきなり何言ってんだよ。俺はミナたちに迷惑なんて……あんまりかけてないぞ」


 いきなり俺に関してだけそんなことを言うとか、ケンゴは俺をなんだと思ってるんだ。

 もしかしたらミナたちに何かで迷惑をかけているかもしれないけどさ。


「大丈夫です。ちょっとだらしないところもありますけど、彼は私たちにとても優しく接してくれていますから」

「そっか、ならいいんだけどよ」


 ミナの発言を受けてケンゴが「フッ」と笑っている。

 なんがそんなにおかしいんだよ、ケンゴ。


「シンくんにはむしろ毎日お世話になってます! 末永くお世話になりたいです!」

「こっちも余計なことを言うな」


 そしてサクヤのほうは意味深なことを口にした。

 案の定、ケンゴは笑ってるし、セレスは苦笑いを浮かべている。


「ええっと……もしかして、中高生部門の決勝でシンとキスをしたっていう女の子の一人は……?」

「はい! それは私です! シンくんのファーストキスは私がいただきました! ちなみに私のほうもファーストキスです!」

「そ、そう……」


 サクヤの言葉を続けて聞いたセレスが片手を額に当て始めた。


 どうやらだいぶ困っている様子だな。

 俺はもう慣れたもんだけど、初見ではサクヤの発言に対応することは難しいだろう。


「いや、シン殿の初めては我が貰ったぞ。あの大会以前に一度そういう機会があったのでな」

「!?」


 そこでクレールの横やりが入り、サクヤが驚愕といった表情を顔に浮かべた。


 そういえばそうなんだよな。

 だから俺はサクヤにファーストキスを奪われていないし、通算でいうとクレールがサクヤやフィルより一回分多いということになる。

 フィルはあの場にいたけど、サクヤはいなかったから今まで知らなかったのか。


「え、ちょっとちょっとちょっと、ちょっと聞いてないんですけど。私、そんなこと全然聞いてなかったんですけど」

「いや……特に聞かれることもなかったから黙ってたんだよ。それにあれは軽いものだったし、俺にとって不可抗力なものだったからノーカウント扱いしてたし」


 俺がファーストキスでなかったことがよほど予想外だったのだろう。

 サクヤは焦った様子で俺に詰め寄ってきた。


「うーー……んー……でも、私の初めてはシンくんにあげられたから許すよ」

「そ、そうか……」


 なかなか難しい表情をしているが、サクヤは自分の中で何かを割り切ったようだった。

 俺はそんな彼女の様子を見てホッと息をつく。


 ――が。


「……て、ちょ、近い近い近い。顔が近い。何しようとしてんだよサクヤ」

「何って、ファーストキスを貰えなかった埋め合わせ?」

「いやいやいや。こんなところでいきなりチューしようとするなよ。周りの奴らがこっち見てるぞ」

「じゃあ人目のないところにいこう」

「いやいやいや、そういうことでもないからな? 人目のないところに行ってもチューしないからな?」


 サクヤは突然俺の唇を奪いにきた。


 多分、クレールに対抗意識を燃やした結果なんだろうけど、ここで流されたりしないと俺は決めている。

 なので俺は絡みつくサクヤを引きはがし、そんな様子を見ながら大声で「ぶはははは!」と笑っているケンゴを睨みつけた。

 ケンゴは俺が困っているのを見るのがよほど楽しいらしい。


「……随分とモテるんですのね、シン? 私、少し驚いてしまいましたわ」


 セレスのほうも、そこまで顔には出さないものの、サクヤの行動にはそれなりに驚いているようだ。

 まあ、セレスから何を言われても、俺は甘んじて受け入れよう。


「これはますます矯正のし甲斐ができました」


 だが……次のバトルは熾烈を極めそうだな。

 しかし、どんな戦いになっても関係なく、セレスがどう思っていても関係なく、俺は次も勝たせてもらうつもりだ。


「俺はお前が相手だからって手は抜かないし、負ける気もないからな」

「それでこそシンですわ」


 セレスは俺の性格をよく知っている。

 それに俺のほうだって、セレスのことはある程度理解している。


 なので俺たちはお互いが何を思っているか、ちゃんとわかっている。


「……そろそろ決闘開始の時間だな。続きは闘技フィールドでしようぜ、セレス」

「ええ、そうですわね。それでは行きましょうか」


 こうして俺たちは闘技フィールドのほうへと歩き出し始めた。


 セレスとのガチバトルか。

 実のところそれは初めてのことなんだが……さて、どうするか。

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