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決闘大会一般部門一回戦

「さあ行くでござるよ! ケンゴの弟子!」

「俺の名前はシンだ!」


 俺とカタールによる決闘が始まった。


 決闘開始という文字列が網膜に映った瞬間、カタールがこちらに向けて走り出す。

 まずはそっちから来るか。


 俺は『クロス』と小盾を持つ手に力を入れなおし、カタールを迎え撃つために体の重心を下げた。

 それと同時に、俺は二つの魔法を発動させる。


「『プロテクション』! 『ブレッシング』!」


 前回の大会ではこういった補助魔法を使う機会などなかったが、今回は違う。

 俺の制約はAランク相当の異能制限とダメージヒールの使用禁止のみであり、ヒット制で負けるということはない。


 一般部門に参加する奴は全員レベル50以上だからな。

 俺だけVITが高すぎるということもないため、他の参加者と同じ『HP半減により敗北』というルールが適用されている。


 ならば防御力を上げる『プロテクション』も、最大HPを上げる『ブレッシング』も効果的であるということになるのだ。

 大会規定で回復魔法の使用は禁止されているため(多分、決闘時間が無駄に長引くのを防ぐためだろう)に僧侶職は相変わらず不利なのだが、この二つの魔法があるだけで俺は十分だ。


「戦士職ではなく僧侶職であったか! しかし拙者は容赦などしないでござるよ!」


 俺が魔法を使ったのをうけてカタールが叫んだ。


 油断してくれるならこちらも楽だが、容赦しないというのでも別にかまわない。

 むしろ、僧侶職だからといって甘く見られても嫌だから安心したぞ。


「ハッ!」


 カタールが手に持った忍者刀で俺を突き刺そうとしてきた。

 なので、俺はそれに合わせて小盾を動かし、忍者刀を軽く受け流す。

 そして一連の動作として『クロス』を叩き込もうとした……が、カタールはあっさり後退して俺の攻撃を避けた。


 やっぱりそう簡単には食らってくれないか。

 【時間暴走】を使えばすんなり当てられるだろうが、それはまだ時期尚早だ。

 ダメージヒールを使わないという条件が付加されている場合における俺のバトルスタイルで、容易に【時間暴走】を見せるべきではない。


 今の俺は『クロス』による連続攻撃で相手の防御力を下げ、HPを削っていくという戦術で勝つことが求められている。

 そのため、一撃必殺的、短期決戦的な攻撃はどうしてもできない。


 『クロス』を一度、二度当てる程度だったら【時間暴走】を使えばできるものの、そこから先が上手くいかない可能性がある。

 下手に逃げられでもして俺の異能を警戒されたらとてもメンドウだ。


 しかも、これはまだ決闘大会の一回戦だ。

 これからあと四度戦うことを考慮しなければならない。

 今から全力で戦ったら、最後のケンゴ戦でバテバテになるし、この後で戦う奴らに対策される恐れもある。


 加えて、カタールの異能がなんなのかもわからない状況では、迂闊な行動は慎むべきだろう。

 この男の異能がもしも攻撃的なものであった場合、下手な動きをすれば手痛いカウンターを受けかねない。


 ゆえに、ここではまだ様子見に徹し、相手が隙を見せるのをじっと待つことが得策だ。

 俺はそう判断し、カタールの攻撃を冷静にさばき続ける。


「くっ……やはり固いでござるな……僧侶職とはとても思えん……」

「……そりゃどうも」


 そして5分ほどが経過した頃、カタールがいったん離れて悔しそうに歯を噛みしめ始めた。


 まあ、一度守りに入った俺の防御を突破できるのはケンゴくらいのものだからな。

 フィルの攻撃もたまに入るが、それは大抵が俺に問題があった場合だ。


 おそらく、カタールのプレイヤースキルはフィルと同等か少し上といったレベルであるように感じる。

 つまりは俺が隙を見せない限り、カタールは俺にダメージを与えることがまずできないというわけだ。



 また、やはりどこか動きにぎこちなさが見え隠れしている。

 カタールはとりあえず強いと言っていいのだが、もしかしたらさっきケンゴがそれっぽいことを言っていたように、こいつは女や子ども相手には本気を出せないんじゃないだろうか。


 だとしたら残念だな。

 敵ではなく子どもと見られているんだとしたら、それは俺に対する侮辱に他ならない。


「おい、カタール。お前は俺を舐めているのか?」

「舐めてなどござらんよ。拙者はいつだって真面目でござる。ニンニン」


 いや、今完全に不真面目入っただろ。

 どうにもこいつのキャラが上手くつかめないな。


「しかし……手を抜いていると思われてしまったのなら謝罪するでござる。そして、ここからは倒すべき好敵手として認め、拙者も本気を見せてしんぜよう」


 が、どうやら俺のことをちゃんと強敵だと認識してくれるようだ。

 俺はカタールの言葉を聞き、やっとこいつの本気が見れるのかと思って口元を緩ませる。


「食らえ! まきびし!」

「…………」


 カタールは地面に鉄か何かでできたトゲ……まきびしをばらまいた。


 これはなんだ。

 まきびしなんて俺には通用しないぞ。

 俺はいつも通りの動きができるように死霊のブーツを履いているが、その靴の強度はなかなかのものだ。

 多少トゲを踏んだところで壊れたりしないし、貫通したりもしない。


「カタール……お前は一体何を………………!」


 目の前にいる男が何をしようとしようとしているのかわからなかったので訊ねようとしたその瞬間、僅かな音の違和感を耳にした俺は背後に飛び引いた。

 すると俺が元いた場所に上空から降ってきた手裏剣がカカカッ!と突き刺さった。


 俺がまきびしにとらわれて下に視線を向かせ、その一瞬に空へ手裏剣を投げたのか。

 なかなかコスいマネをしてくれるな。


「起爆!」

「!?」


 そう思っていると、俺の足元が突然爆発を起こした。

 爆炎が俺を包み込み、HPバーが一割近く削れる。


「チッ、本人もなかなか固いでござるな……」


 ……どうやら今のもこいつの攻撃だったようだ。


 いつの間に罠を張っていたんだか。

 地面にざっと目を通すと、なにやら札のようなものが何枚か落ちている。

 闘技フィールドと似た色をしているので気づかなかった。

 おそらくはあれが今の爆発の正体だろう。


 俺を手裏剣で後ろに下がらせるのも戦術の内だったわけだな。

 とはいえ、今の爆発で受けたダメージは微々たるものだ。

 そこまで深く考える必要もないだろう。

 次はもう引っかからない。


「小手先の技では俺を倒すことなんてできないぞ」

「く……ならば直接攻撃でダメージを与えなければいけないようでござるね……」


 今の攻撃が大した結果を生まなかったことは、こいつにとって少し想定外だったようだ。

 こちらが大した被害を受けていないのを見たカタールはいよいよ本腰を入れたという気配をかもしだしている。


 ならばそろそろくるか。

 ケンゴが気を回して俺に語らなかった、こいつの異能が。


「ゆくぞ! 分身の術!」

「!?」


 カタールが叫んだその瞬間、闘技フィールド内に5つの人影が現れた。

 そいつらは全員カタールと同じ姿をしており、俺のほうに忍者刀を向けている


 これはおかしい。

 俺のアース知識に『分身の術』などというスキル、魔法はなかった。

 なら、もしかしてこれがカタールの異能か?


「フッフッフッ、驚いているでござるな?」

「お主が今している想像は概ね正しいでござるよ」

「拙者の異能アビリティは【分身】。しばらくの間、己の分身を生み出すというAランク指定の異能でござる!」


 ……なるほど。

 時間制限付きとはいえ、自分の分身を生み出すとはな。

 これは確かに強異能と言って差し支えないだろう。


 俺はカタールに囲まれながらもそう判断し、どこからの攻撃にも対応できるように警戒心を強めていく。


「さあ! 行くでござるよ!」


 カタールは叫びながら俺に向かって一斉に刀を振り下ろしてきた。


 これは、分身のどれかに本物が混ざっているパターンか、それとも分身体全てが本体そのものであるか。

 今の俺にはどちらなのかわからない。


 とはいえ、それもすぐに大体わかるだろう。


「な、なに!?」


 前後左右から次から次へと攻撃が飛んでくるが、今まで通りといった調子で俺は避けていく。

 するとカタールは驚愕といった表情を顔に張りつけた。


 悪いな、カタール。


「俺、実は個人戦よりも集団戦のほうが得意なんだ」


 そう。

 俺の主戦場は多人数戦闘。

 一対一で戦うより、複数の敵を相手にして立ち回ることのほうが俺にとってなじみ深い。


 MOB相手でもそうなのだが、時には俺を倒そうと躍起になって十数人のプレイヤーが同時に襲いかかってくるようなこともある。

 そして、相手がどのような動きをするのか把握できている状態であれば、俺はそういった複数の敵から長時間身を守ることも可能だったりする。

 人はそんな俺を「チート乙」と言って煽るが、これは紛れもなく俺自身のプレイヤースキルによる技術だ。


 ゆえにカタールが何人に増えようが、そこまで危機に陥るわけではないのだ。

 むしろ、これでカタールの持つ異能の正体が割れたことで、これからの戦闘が非常に楽になる。


「フッ!」

「!?」


 俺は一瞬だけ【時間暴走】を発動させ、目の前にいたカタールを『クロス』で突く。

 するとカタールの分身は全員動きが鈍った。


 どうやらさっき俺が考えた推測は後者で合っていたようだ。

 この男の異能、【分身】は全ての分身体が本体であり、一人一人が受けるダメージ、マイナス効果は全員が負うことになるんだろう。


 だったら話は早い。

 俺は攻撃を避け続け、さっきまでより動きが悪くなったカタールに『クロス』でカウンターを取る。


「お前、異能を使ってから動きが荒くなってるぞ」

「ぐっ……」


 図星を突かれたのか、カタールは苦い表情を作った。


 おそらくは分身体それぞれに意思があるわけではなく、一つの意思ですべて動かしているんだろう。

 手数は増えたが、その分攻撃が雑になっている。

 加えて、現在は『クロス』のマイナス補正も働いている。


 本来なら多少動きが悪くなっても手数が増えたことで圧倒できるのだろうが、俺に対しては逆効果にしかならなかったな。


 そう頭の中で判断した俺は、防御から一転して怒涛の攻撃を繰り出す。


「そんな攻撃じゃ俺を倒すことなんてできないぞ! カタール!」

「ぐぅぅぅ…………っ!」


 もはや勝敗は決した。

 あきらかに動きの鈍ったカタールに、俺は容赦なく『クロス』を叩き込み続けた。


「そこまで! カタール選手HP半減! よって勝者! シン選手!」


 こうして俺はカタールをHP半減にまで追い込み、一回戦を勝利した。


 最後はあっけない幕引きとなったが、俺みたいなのが相手じゃなかったらこいつはトーナメントでも上位に食い込めただろう。

 ケンゴの言うとおり、この男は間違いなく強敵だった。


「……かッはッはッは……お主……なかなか強いな……流石はケンゴの弟子」


 カタールが仰向けになって倒れた状態のまま、呟くような声を発した。

 それを聞いた俺はカタールに、決闘開始直後の言葉をもう一度ぶつける。


「俺のことはケンゴの弟子じゃなくてシンと呼べ」

「なかなか細かいことを気にしているな……まあいいだろう……次に戦う機会があれば拙者が勝つ……待っていろ……シン」

「ああ、それでいい。また遊ぼうぜ、カタール」


 そうして俺はカタールに名前を呼ばせ、いつの日にかまた訪れるであろう再戦を約束したのだった。

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