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ニンジャ

「久しぶりに会ったが、相変わらず変な奴で安心したぜ」


 カタールが俺たちのもとから去ったところで、ケンゴはそんなことを言い出した。


 変な奴で安心したって。

 それは本当に安心していいものなのか?


「……というか、あいつって地球でもあんな口調なのか?」


 だが、俺もあいつの喋り方は変だと思っている。

 しかも今日は紫色の装束を着て、背中には忍者刀を携えている。

 あれほどコテコテな忍者もきょうび珍しい。


「そんなわけねえだろ。あいつのはただの演技だよ」

「あ……そうなんだ」


 けれど、流石にあれが素というわけではないようだった。


「地球でのカタルは普通にリーマンやってた真面目な奴だ。あの口調だったり服装だったりは本人の趣味で、異能開発局に転職してアースに来るようになってから本格的にやりだしたんだぜ」

「へ、へえ……」


 まあ……せっかくの異世界なわけだし、はっちゃけたくなる気持ちもわからなくはないな。

 アースにいる俺たちの体は地球の体よりも丈夫でよく動くし、創作物で出てくるような忍者の動きを再現することも可能だ。

 元々忍者に憧れていたとかなら、そういうのになりきろうとしてもおかしくはない。

 全然忍んでいるように見えないのがアレではあるが。

 外国人がコスプレしている忍者みたいな感じだ。


「でも気をつけろよ。あいつは変な奴だが、強いぜ」


 俺がカタールのなりきりをまだまだ甘いと評価していると、ケンゴがそう忠告してきた。


 強い、というのはカタールの実力についてだろう。

 前に俺はあの男と戦ったことがあり、プレイヤースキルに関してはそれなりにあると判断していたものの、まさかケンゴから念押しをされるとは思わなかった。


「シンは前にあいつと戦ったって言ったよな? でも多分、そのときは手を抜いてたと思うぜ」

「まあ、手を抜いてたっていうのは確かだと俺も思う」


 しかし、手を抜いていたといっても、それには限度がある。

 余程手を抜いていたのなら、あの時の俺は相当目が曇っていたと言わざるを得ない。


「あいつは基本的に自分の実力を隠すタイプだからな。こういう場にならねえと本気を出してくれないってのはやりずらいぜ」

「へえ」


 常に余裕を持って事に当たるという安全志向の人間なんだろう。

 前にカタールと戦ったときに俺も少し思ったことだな。

 それがあったから、あいつはケンゴの弟子ではないと断定したんだ。


 だが、この安全志向というのは別に悪いことではない。

 むしろ、なかなか血なまぐさいこの世界を生き抜くのに、その志向はとても重要であるはずだ。

 ケンゴの弟子ではなくても、俺はそんなカタールを評価していた。


「それにあいつの異能は……て、これを言うのはフェアじゃねえよな」


 ケンゴは更に言葉を続けようとしていたが、そこで考えを改めたらしく、どこか意味深なことを口にする。


 気になる言い方だな。

 でもここで無理に聞いたら戦う楽しみが減るかもしれない。

 カタールのほうも俺の異能を知らないだろうし、俺もあいつの異能を知らない状態で戦うほうが望ましいだろう。


 俺やケンゴは敵と戦うとき、必ず勝つと思って戦う。

 けれど、対等な条件下で戦えないのなら、勝ちたいという欲も勝つ喜びも半減だ。

 なのでケンゴの配慮は俺にとって正解と言える。


 相手のことを入念に調べるというのも勝つためには必要なことだが、それでやる気が削がれるのであればしないほうがいい。

 最善手を取り続けることが最高の結果を生むとは限らないのだ。


「ただ……あいつはマジモンのニンジャだぜ。油断してっと、てめえでも負けちまうかもしれねえな」

「へえ」


 俺が負ける、ねえ。

 それを本当にケンゴが言っているのだとしたら、あの男は本当の実力者ということになる。


 面白い。

 あいつの名前を見たときは少し肩透かしを食らった気分だったが、ケンゴの保証がある今となっては違う。


 待ってろよ、カタール。

 すぐにお前をぶっ倒してやる。


「なんか、途端にやる気出してんな。やっぱ強い奴とヤりあえるのは嬉しいか?」

「当たり前だろ。俺はお前と同じ、生粋のバトルマニアなんだから」

「そうだったな」


 ケンゴは俺の回答を聞くと、口元をニヤリとさせる。

 それにつられて俺も笑みを浮かばせ、お互いの顔を見てニヤニヤ笑いあう男同士の図がここに誕生した。


「コホン……お二人とも、そろそろその辺にしておきません?」


 と、そんな俺たちへセレスが声をかけてきた。


 今の俺たちは傍から見たらちょっとアレだったか。

 トーナメント表の前で見つめ合ってるもんだから、周りにはこちらを見ている奴が結構いる。

 変な想像をされてないといいんだけど。


「……じゃあ場所を移すか。ほら、行こうぜ、フィル」

「ん……」


 傍でずっと黙りこくっていたフィルの肩を叩き、俺は控室のほうへと歩き始める。

 すると彼女は同調するようにして、俺の腕に触れてきた。


「お」


 そんなフィルを見たケンゴが少し驚いたというような顔をした。


「へえ、多分しばらくは進展しねえだろうなって思ってたんだが、案外やるな、色男」

「うるさい。これは別に……そういうんじゃないし」


 これはただのスキンシップだし。

 キスとかはしちゃったしデートも済ませちゃったけど、俺とフィルは別に恋人とかいう関係にまでは発展してないし。

 友達以上恋人未満的なアレだし。


「でもフィルのほうはまんざらでもなさそうだな?」

「ん……オレとシンさんは……仲良し」


 フィルは頬をほんのりと朱に染め、ケンゴに向かってコクリと頷く。


 俺とフィルの仲良しレベルはもはやカンストに近い。

 鎧越しではあるが、彼女が俺に密着するのを見てそう判断した。


「それにしては、他にも2人、親しい女性がいるそうですわね、シン?」


 ケンゴの次はセレスが俺たちにそんなことを言ってきた。

 俺はそれを聞いて顔を引きつらせる。


「……知ってたのか」

「噂程度のことは耳にしていますわよ。なんでも、中高生部門の決闘大会で優勝した≪ビルドエラー≫は観客へ見せつけるかのように、その場で女の子3人とキスをしたとか」

「別に見せつけてはいねえよ」


 事実が歪曲している。

 あのときのは俺にとって不可抗力なものだったはずなのに、セレスの言い方だと俺が積極的に女の子とチューしたみたいじゃないか。


「フィルは気にしていないようですけれど、不特定多数の女性とそういうことをするのはいただけないと私は思いますわね」

「う……」


 とはいえ、チューしたことは事実なわけで。

 セレスの言葉をあんまり否定できない。


「トーナメントで私と当たったときは覚悟しておきなさい。私が徹底的に矯正してあげますから」

「……お手柔らかに頼む」


 どうやらセレスは俺とガチで戦う気らしい。

 しかも結構ハードなお仕置きをする気満々って感じだ。


 本気で戦うっていうなら、俺はそれでもいいんだが……うーん……


「まあ……実際に戦ってみればわかるか」


 俺はとある予想をして苦笑いを浮かべた。


 今考えたことはあまり気にしないほうが良いだろう。

 理不尽すぎるからな。


「3人とも頑張れよ。決勝までの間、俺は観客席から応援してるぜ」

「私と当たる前に負けたら笑いものにしますから、気をつけなさい。シン」

「オレも……頑張ります……」


 こうして思考を切り替えた俺は、決闘大会参加者が集まる控室へと行くために歩き始めた。


 なにはともあれ、まずはカタールを倒すことに集中しよう。

 ケンゴが含みのある言い方をしていたことから、強敵であることは間違いないだろう。


 俺は一回戦目から激戦になると予感し、二ヤリと口元を緩めた。






「む、やっと姿を現したでござるな!」

「ああ、待たせたな」


 一回戦第一試合が終了し、第二試合の出場者である俺が闘技フィールドに着くと、早速カタールが声をかけてきた。

 カタールは短剣を手にしており、もう戦闘準備は万全といった様子だ。


「そんなに俺と戦いたかったのか?」

「いかにも! さきほどまではケンゴを打ち倒すことのみが拙者の祈願であったが、あやつの弟子を前哨戦で倒すことができるのであれば、それも悪くないのでな!」

「ふぅん」


 こいつは随分とケンゴを敵視してるんだな。

 いや、敵視というかライバル視か。

 まあどっちでもいいな。


「でも、俺がこの大会に参加したのがお前の運の尽きだ」


 こいつがケンゴをどう思っているかなんてどうでもいい。

 そして、こいつはこの大会でケンゴと戦うことはできない。


「ここでお前は俺に負けることになるんだからな」

「……ほう。お主もなかなか、ケンゴに似て自信過剰な男でござるな」


 自信過剰か。

 確かに、俺もケンゴも自分が負けるだなんてことは考えない。

 これは、それだけの実力をつけたという自信があるからだが、俺たちが生まれつきの負けず嫌いであることが理由として大きいだろう。

 俺たちは自分が負けることをとにかく嫌う。

 ゆえに強くなろうと必死にもがく。


 その結果、俺たちはネット内で最強タンク、最強アタッカーなどと呼ばれるほどに強くなった。

 最強なんて称号は、ただ周りの人間がそう呼び出したというだけで、実際には俺たちより強いプレイヤーはいたと思う。

 けれど、曲がりなりにも最強などと呼ばれるほどにまで強くなったことは確かであるはずだ。


 だから、俺はこの大会でも自分の最強を証明する。

 カタールを倒し、その先に待ち受ける対戦相手も倒し、最後に俺と同じく最強と呼ばれたケンゴを倒す。

 そのために俺はこの大会に参加したんだ。


「さあ、そろそろ始めようぜ。俺はお前とお喋りするためにここへ来たわけじゃないんだからな」

「それは拙者も同意である。ここからは戦うことで語り合おう! でござる!」


 だからござるいらねえよ。


 俺は内心でそうツッコミを入れつつ、そろそろ始めてくれといった視線を審判のほうにやる。

 すると審判は首を縦に振り、試合開始の合図を出すべく右手を挙げた。


 この審判は毎回空気が読める人でとてもありがたいな。

 っと、集中集中。


「それでは決闘大会一般部門本戦! 一回戦第二試合、シンVSカタール! 決闘開始!」


 こうして俺たちは決闘を開始した。

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