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関係話

「ちょっと勿体ないことしちゃったかもしれないわね」


 【黒龍団】のリーダーであるアギトと副リーダーであるセツナが去ったところでミナがぽつりと呟いた。


「さっきの勧誘話がか?」

「そうよ。だってあの人たちについていけば、今より早くレベルが上がると思うんだもの。あなたは否定的みたいだけど、レべリングに関してだけなら私は【黒龍団】のやり方に拒否感もないし」

「ふぅん」


 異能をフル活用したパワーレべリングであるとはいえ、【黒龍団】は積極的に強くなろうとしている。

 それにミナのバトルスタイルは異能に頼った部分があるから、あいつらのやり方にはそれなりに理解があるわけだ。

 彼女の場合、あいつらについていっても特に支障はなかっただろう。


「でも、やっぱり今自分がいるギルドを裏切る気にはなれないわね。【流星会】は【黒龍団】のやり方をよく思わないかもしれないし」


 ギルド【流星会】は1年2組が主体となっているため、異能の面で劣った生徒が多い。

 ゆえに【黒龍団】の異能のフル活用でレべリングをするということもできないため、やっかみも生まれやすいだろう。


 そんな【流星会】に強異能持ちのミナがいられるのは、おそらくは彼女の持つ人徳のなせる技だろう。

 元々彼女がMMO初心者だったっていう面も上手く働いたのかもしれない。


「まあ、それはいいわ……で、私としては今の話よりもっと話さなきゃいけないことがあると思うんだけど?」

「? なんだその話って?」

「……あなたたちについてよ。これでも私はあなたたちのことを心配してるんだからね?」

「ああ……それか……」


 俺たちの人間模様についてという話題を急に振られ、俺は苦笑いを浮かべた。


「……というか、こうなった原因の一つにミナも関わってるんだからな?」

「私?」

「そうだよ……お前がフィルに俺たちの交わした約束を漏らさなかったら、こんなことにはならなかったと思うぞ?」


 ミナがフィルを焚き付けたからこそ、俺たちは決勝戦であんな赤裸々なことをしでかしてしまったと言える。

 結果的にフィルとの関係は壊れなかったから、悪いことだと思っているわけじゃないけど。


「だって……フェアじゃないでしょ? フィルだって……その……あなたのことが好きだったのに、あなたはいきなりサクヤとつき合いだして……」

「う……」


 痛いところを突かれたというような声をあげて、サクヤも俺同様に苦笑いを浮かべ始めた。


「それに、私は決勝戦を終えたらあなたたちが本当のカップルになるんだって思ってたから、だからその前にフィルと決着はつかせておかないとって……そう思ったのよ」

「……そっか」


 なんだかんだで、ミナの行動は俺たちを思ってのものだったみたいだな。


 あの決闘大会で優勝したら、俺とサクヤはキスをして、晴れて本当の意味での恋人として付き合うつもりでいた。

 だから、あの時までに俺はフィルとちゃんと向き合うべきだったんだ。察しのいいフィルに甘えて、お互いに距離を取っていればいずれ問題は解決すると言い訳して、俺はフィルと話すことを避けていたんだ。

 そんな俺の様子を見てミナが発破をかけたってことか。


 なんだ。

 結局、悪いのは俺じゃん。

 つくづく恋愛に関してはダメダメだな、俺。


「ミナ……そんな気苦労をさせてしまって本当に悪かった」


 俺はミナに頭を下げた。

 すると彼女は軽く手を振って話を続ける。


「それはどうでもいいわ……それより、今の私はあなたたちの今後についてが心配なんだけど?」

「俺たちの……か」


 それはつまり、俺、サクヤ、フィル、クレールがどんな関係になるのかをミナは気にしているってことなんだろう。


 まあ、そりゃ気にするわな。

 男の友達がハーレムみたいなものを作って、女の友達がそれに含まれてるんだから。


「あんまり気にしなくても大丈夫だよ、ミナ。私たちは今の関係で十分幸せだから。だよね、フィルちゃん?」

「ん……シンさんが離れていくより……今みたいな関係のほうが100万倍良い」


 しかし、サクヤとフィルは今の関係で満足しているようだ。

 正式には誰も俺とは付き合っていない状態だが、キスを済ませてしまった俺たちは、もう友達以上の関係になっていると言っていいのだろう。


「我も今の状態は悪くないと思っているぞ」


 ……だがクレールはなんなんだろうか。

 サクヤとフィルとの関係はいざこざがあった後の和解による結果であるからいいけど、クレールはちゃっかり俺たちのなかに潜り込んできたわけで。

 別に嫌ってはいないし、キスをされたり優しさを向けられたりして嬉しいとか思っちゃってるものの、このまま彼女をサクヤとフィル同様に近しい存在として受け入れていいものなのか。


 とはいえ、ここでクレールを除け者にすると、なんだか仲間外れにしたみたいで据わりが悪い。

 悩むところではあるが、ひとまずサクヤとフィルが何も言ってこない以上はこのままの関係でいいのだろう。


「今、シン殿から熱烈な視線が飛んできた気がするぞ」

「気のせいだ」


 ジロジロ見過ぎていたのがいけなかったのか、クレールは頬を染めてニッコリとした笑顔を俺に向けてきた。

 今日も無駄にくそ可愛いな、チクショウ。


「……まあ、あなたたちが全員それでいいっていうなら、私もこれ以上口を挟むことはしないわ……ただ、シンには最後に1つだけ言っておくわよ」

「な、なんだ? ミナ?」

「この子たちみんなと仲良くするなら全員平等に扱いなさい。で、もしもこの子たちを泣かせないよう振る舞えないなら、なにがなんでも好きな子を1人に絞りなさい。いいわね?」

「わ、わかった」


 ミナの忠告は心にしみる。


 好きな子が同時に複数人できてしまったというこの状況はあまりよろしくない。

 言ってしまえば、俺は男版ビッチである。


 「惚れた女は全員幸せにしてやるぜ!」という気概が俺にあれば、こんなに悩まなくてもよかったんだけどな。

 そこまでの境地に到達すれば、ある意味男気(?)が溢れていると言えなくもないのに。


 こうして俺たちはロビーをあとにし、朝食をとりに外へ行く準備を済ませるため、再び部屋へと戻っていった。


 昨日は大会で疲れたので、今日は基本的にお休みだ。

 後で道具屋に足を向けようと思っているが、とりあえずはのんびりしよう。


「……シンさん」

「ん? どうした、フィル」


 部屋に戻ったところでフィルが俺に話しかけてきた。


「オレは……シンさんのことが好きです」

「……ああ、知ってる」


 フィルが俺のことを好いてくれているのはもう十分理解している。

 いまさら言われるまでもないことだ。


「それで……シンさんも……オレのことが好き……なんですよね?」

「…………ああ、まあ、そうだ」


 そして俺がフィルを好きだということも既に知られている。

 もう相思相愛ってことになるな。


「じゃ、じゃあ……シンさんのほうからも……キスとか、してくれません……か?」

「…………」


 だが、俺はフィルだけを好きになっているわけではなく、他の子も好きな状態だ。

 こんな状態でフィルにキスとかしてしまうのは……なんというか、不純な気がする。

 なので、フィルからこんなおねだりをされても、俺はどうしていいのか悩む。


 二度も三度も変わらないと思ってしまえば、できないこともないが……


「フィル……そういうのは――」

「ご、ごめんなさい……やっぱり、無理ですよね……」


 俺がやんわり断ろうとするとフィルは表情を曇らせ、顔を俯かせてしまった。


 …………。


「……今回……だけだからな」

「え……ぁ……ん……」


 そんなフィルを見た途端、俺は胸が締め付けられ、ついその行為を許してしまう。

 俺はフィルを強く抱きしめ、そのまま彼女の唇を奪った。


 あー。何やってんだろ俺。


「…………これでいいか?」

「……ん……ありがとう……ございます」

「いや、礼を言われることでもないんだが」


 こんなのは不純だが、あのままフィルを悲しませた様子にはしておけなかった。


 二度も三度も変わらないと思うしかない。

 俺って流されやすいのかもしれないな。


「オレ……ずっと不安……だったんです。もしかしたらシンさんが……無理してオレのことを好きだと言ってるんじゃないかって……」

「! そんなわけないだろ。俺はフィルのこと……本当に好きだぞ」

「ん……それが今のでよく……わかりました」


 フィルは俺の胴体に腕を巻きつかせ、強く抱きついてきた。


「シンさん……大好き……」


 そしてフィルはそう言って、俺の胸板に顔を擦り付け始めた。


 俺はそんなことをしてくるフィルが愛おしく感じられ、彼女の頭を優しく撫で――


「シンくん。私たちは平等に、ね?」

「ギュっと抱きしめるところもセットで頼むぞ」

「…………」


 すぐ近くで黙って見ていたサクヤとクレールが俺に注文を付けてきた。


 つまり、今フィルとしたことを自分たちにもしろということか。


「……わかったよ」


 こんなのはものすごく不純だ。

 だが、彼女たちがそう望むのならやってやるさ。

 なにがなんでも俺は彼女たちを平等に見ることにしよう。


 ミナとの会話で少し吹っ切れてしまったのかもしれない。

 まあ俺も好きな子とキスをすること自体は嫌じゃないからな。

 でも、あんまり慣れないことを連続でやらせないでくれ。

 刺激が強すぎる。


 こうして俺はサクヤとクレールにも同様の処置を施した。

 それ自体は上手くできたと思うのだが、結果的に俺の頬はしばらく熱さが引かなくなってしまった。

 なので、ミナが訝しむような視線を部屋から出てきた俺に向けてきたのは言うまでもない。


 こんなことしてるけど、俺は結構純情なんだよ。

 俺は顔を赤くしながらも、心の中でミナにそう呟いた。

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