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準決勝

「第三試合一回戦! シンVSミナ、決闘開始!」


 審判の声が闘技フィールドに響き渡った瞬間、ミナは俺の方に向かって走り出した。

 それを見た俺も盾を構えて、彼女の攻撃に備える。


 今回の俺の装備は神器『クロス』と死霊の大盾だ。

 小盾のほうが細かい動きに対応できるが、ミナの大剣に対抗するには大盾のほうが安定する。


 そして現在のミナはアビリティジャマーを身に着けていない。

 これは、早川先生や審判が俺相手にハンデは必要ないと判断したからだろう。

 なのでミナは一回戦同様、正真正銘の全力で戦ってくる。


 大剣二刀流の≪流星≫、ミナ。

 お手並み拝見といこうか。


「はぁ!」


 ミナが俺に近づき、右手に持った大剣を振り下ろしてきた。


 これは盾を使うまでもない。

 俺はそう判断し、体を左に移動させる。


「ふっ!」

「!」


 するとミナは、振り下ろした大剣の軌道を無理やり変化させ、俺に向けて横切りを放ってきた。


 普通、大剣でこれほど急激な軌道変化は行えない。

 高重量の物質を慣性に逆らって動かすには、それ相応の力が必要になる。

 なのにミナは、細腕でそれを軽々とこなして見せた。

 それは通常であるなら不可解な事象だ。


 ということはつまり、これにはミナの異能アビリティ【重力制御】が関わっていると見て間違いない。


「ぐっ!」


 しかもミナは、攻撃をヒットさせる瞬間には重力を高くしているようで、大剣を防いだ大盾を持つ俺の腕に大きな衝撃が加わった。


 ミナの攻撃はかなり重い。

 とてもレベル40そこそことは思えない破壊力を秘めている。

 必要に迫られてのことではあるだろうけど、これがあったからこそミナは効率的な狩りが行えていたのだろう。


「やぁっ!」


 そしてミナは俺に怒涛の連撃を繰り出してきた。


 一つ一つの攻撃が軽やかかつ重い。

 軽くする作業と重くする作業をここまで素早く切り替えられるとは思わなかった。


 俺と違って、ミナは自分の異能を相当使いこなしている。

 これなら、中高生の中でも上位の実力を持っていると言っていいはずだ。


 しかし、俺はさらにその上を行く。


「くっ!」


 俺はミナの連続攻撃が収まったところを見計らって、『クロス』を彼女の腕に軽く当てた。

 その程度の攻撃ではダメージを与えることなんてできやしないが、武器に宿るスキルがミナを蝕むのには十分だ。


「……へえ」


 ミナは俺の攻撃がヒットした瞬間に空へと飛びあがって距離を取った。


 おそらくはダークネスカイザー(偽)と同様、自分の体に異常がないかを確かめようとしての行動だろう。

 俺の戦いをちゃんと見ていたってわけだな。


「……あなたの新武装に関して特に聞くことはしなかったけど、もしかしてそれってとんでもないチート能力が備わってたりするの?」


 空に浮いているミナが俺に問いかけてきた。


 彼女の口からチートという、いかにもな言葉を聞くようになるとはな。

 大分俺たちに毒されてきたじゃないか。

 ってそれはどうでもいいか。


「まあな。多分、ミナが想像している通りのチート性能を持ってるぞ」

「ふぅん」


 俺の答えを聞いたミナは眉間にしわを寄せつつ、ゆっくりと地面に降り立った。


「つまり、そう何度もあなたから攻撃を貰うわけにはいかないってことね」


 どうやら今ので、俺の持つ武器がどのような性能を秘めているのか大体読めたようだな。

 元々積極的に隠す気なんてなかったからいいんだけど、ここできちんと状況を整理する能力も備わっているとなると、ミナの評価を更に一段階上げざるを得ない。


 目の前にいる女が強敵であると認識し、俺は口元を軽く緩ませる。


「本当に強くなったな。腕っぷしにしろ、判断能力にしろ、お前はもう一人前のプレイヤーだ」

「私だっていつまでも初心者じゃないのよ。人は日々成長していくものなんだから」

「そうだな」


 成長という意味では、ミナに限らず俺にも当てはまる。

 俺のプレイヤースキルだって日々磨かれているんだ。


「今ならあなたとも十分に戦える。うかうかしてると、あなたでも負けちゃうわよ」

「いや、それはどうかな」


 ミナと実力の差は縮まったかもしれないが、それでも俺はまだまだ彼女の先を行っている。


「こいよ、ミナ。上には上がいるってことをわからせてやる」

「……言うじゃない。それじゃあお言葉に甘えてッ!」


 俺の挑発に乗ってきたミナは、二本の大剣で再び攻撃を始めてきた。

 剣スキルの遠距離技『エアリアルスラッシュ』でけん制を行い、それを俺が大盾でそれを弾こうとしたところを狙ってミナは詰め寄ってくる。


 今回はさっきまでとは違って、大盾の位置が悪い。

 大盾は広範囲を防御できる反面、重量が大きいせいであまり大きく振り回すことができない。

 『エアリアルスラッシュ』は俺の大盾を誘導するための囮だったというわけか。


 とはいえ、それもリカバリーできないレベルではない。

 俺はミナの攻撃をこのまま馬鹿正直に受けないよう、その場から数歩後ろに下がる。

 それによって得た一瞬の時間的余裕で、けん制の防御に使っていた大盾を大剣の防御に回す。


 剣そのものによる攻撃の一撃目は俺が下がったことによって空振りとなり、二撃目以降は大盾によって完全に防がれる。

 ミナからしたら歯がゆい結果となった。


「どうしたミナ。お前はこの程度か? 俺はまだ一発も攻撃を貰ってないぞ?」

「…………ッ!」


 俺はミナに『クロス』を叩き込みながら更に挑発を加えた。

 すると、ミナは睨むような視線をこちらに向け、より鋭くて重い攻撃を絶え間なく繰り出してくる。

 けれど俺は、そんな彼女の攻撃をすべて弾き、あるいは避けて、確実に『クロス』を当てて状況を優位に持っていく。


 まだまだ青いな。

 こんな軽い挑発にさえ乗ってしまうんだから。

 煽り耐性もまたプレイヤースキルの一つであるというのに、ミナにはそれがないようだ。


 もっと精進しろよ。

 お前は今より更に強くなるはずだからな。


「詰みだ、ミナ」

「う……」


 10発ほど攻撃を加えられたミナの動きは目に見えて悪くなった。

 これではもはや、俺に一矢報いることさえ敵わないだろう。


「まだ……まだ終わってなんていないわよ!」

「!」


 だが、そんな予想は誤りだった。

 ミナはその場で大きく跳躍し、俺に向かって落ちてきた。


 技の名前は流星斬。

 かつてミナが練習しているところを見たことがある。

 【重力制御】で身を軽くすることにより高度を得て、落ちる際は身を逆に重くすることで破壊力を上げるというオリジナルスキル。


 しかしこれは動作が大きく、簡単に避けてしまえるという弱点を持っている。

 ゆえに、この技を使うには対象が足を止めているか鈍足でなければならない。


 なのにここで俺相手に使うとは、博打にでも走ったか?


「……!?」


 と思った瞬間、体がとてつもない重さを感じ始めた。

 それによって俺は地面に膝をつき、動きが封じられてしまう。


 ……もしかして、ミナは自分だけでなく空間にまで【重力制御】を適用させる技術を編み出していたのか。

 だとしたら非常に厄介だ。


 ミナは【重力制御】を敵の足止めにも使用し、流星斬を確実に当てる工夫を凝らしてきた。

 足止めも可能であるなら、流星斬はもはやミナのみが扱える最強剣技と言っていいだろう。


「やあッ!!!」


 数倍、数十倍という重力が乗った二本の大剣が上空から迫りくる。


「ぐぅッ!!!」


 片手では持ち上げられないほどに、今の大盾は重い。

 なので俺は『クロス』から手を離し、両手でなんとか大盾を動かすことによって、頭上から迫るミナの大剣を防いだ。


 その際は激しい衝撃が盾越しに伝わってきたが、それでも俺は守りに成功したのだった。


「まだまだぁッ!!!」

「!」


 俺に攻撃を与えられなかったミナは、悔しがるそぶりも見せずに再び飛び上った。


 また今の攻撃をするつもりか。

 というかよく考えてみると、これでは俺がミナに攻撃するタイミングがほとんどないじゃないか。

 流星斬は攻防一体の技だったというわけか。


「……だが、甘いぞ」


 けれど、この技には弱点と言えるものがまだ存在する。

 それを今教えてやるよ、ミナ。


 俺は大盾をわきに置き、両手で『クロス』を持ってミナが落ちてくるのを待った。


「!?」


 そんな俺の挙動には驚いたのか、遠目で見るミナの表情は驚きに満ちていた。

 だが、ここでミナが流星斬を止めるわけもなく、俺に向かって勢いよく落下を始める。


「フッ!!!」

「がっ!?」


 そして俺は強力な重力に逆らいつつも、ミナの腹に向けて『クロス』の突きを放った。

 「斬る」という動作を行うミナより早く、俺の「突き」は彼女の懐に入っていった。


 確かに流星斬は強力だが、こうしてカウンターを取ることも容易な技だ。

 一直線にしか落ちてこられないミナは俺の攻撃を避けることができない。

 かつて校舎前でミナが軌道を変えられず、俺に向かって飛び込んできた時と同様に。






「そこまで!」


 審判の声が闘技場に響いた。

 俺は立った状態で、ミナは倒れた状態で、この試合の結果を聞き届ける。


「ミナ選手HP半減! よって勝者、シン選手!」


 ミナは俺から受けたカウンターによってHPバーを合計で半分切り、仰向けに倒れた。

 結果としてはこうなったが、先ほどの突きが間に合わなければ俺の方が倒れる結果になっていたかもしれない。


 ミナは本当に強くなった。

 そう思いながら俺は口元を緩め、彼女に手を差し出す。


「……ちゃんと決勝も勝ちなさいよ」

「ああ、勿論だ」


 俺はミナの手を握って体を起こさせながら、次の戦いへの勝利を誓った。


 こうして俺はミナと行った準決勝を勝ち、決勝へと駒を進めたのだった。

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