波乱の二回戦
決闘大会本戦第二回戦
第一試合
シンVSダークネスカイザー
第二試合
フローズVSミナ
第三試合
ああああVSフィル
第四試合
ねこにゃんVSマイ
【Noah's Ark】とはなんだったのか。
そう思わざるをえない試合結果となった。
今大会でギルド【Noah's Ark】から参戦したメンバーはクロード、カンナ、紅、アキ、ナナシの5人だ。
16人という枠の中に5人も入っているのだから、それはすごいことであると言えるのだろう。
しかし、そいつらは全員本戦の一回戦で敗北することとなった。
理由については色々ある。
まず、なんだかんだで2組は1組と違って自分の異能に頼らない分、プレイヤースキルという点で質が高い。
なので、異能に制限をかけられた強異能持ちの1組生徒は2組に後れを取ることとなった。
紅やナナシがそれに該当しているような様子だった。
そしてクロードも腕に『アビリティジャマー』を付けていたことから、今回の戦いがあいつの本気というわけではないのだろう。
だが、クロードの場合はそんな異能制限の他にも何かあったような雰囲気だった。
ミナと戦っている時、攻撃をためらうそぶりが多く見られた。
あれは一体なんだったのだろうか。
また、アキに関しても敗因はクロードと近い。
アキは対戦相手のダークネスカイザーと戦ってしばらくすると途端に焦り始めていた。
多分、例の計算結果とやらに狂いが生じたのだろう。
だとするとアキは擁護不可能ということになるが。
……まあ、負けた奴らのことはどうでもいいな。
あれだけ俺と戦うようなことを言っておいて、結局一回戦で当たったカンナだけとしか戦えなかったというのは、不甲斐ないにもほどがあるけど。
「まずはみんな一回戦突破したね! おめでとう!」
「ええ、ありがとう、サクヤ」
「いやー、私はホントギリギリだったんだけどねっ」
「マイは危うく火だるまになりかけるところだったよね」
俺の傍にいたサクヤ、ミナ、マイ、ユミはみんな笑顔で言葉を交わしている。
一応本戦に残った俺、ミナ、マイは3人とも2回戦に進んだわけだから、喜ばないわけがない。
かくいう俺も喜んでいたりする。
優勝することを目標に掲げているが、一つ一つの戦いの結果を蔑ろにしているわけじゃないからな。
「次はミナと氷室が当たるんだな」
「ええ、そうね」
二回戦第二試合では、それぞれ一回戦を勝ち上がったミナと氷室が対決する。
どっちが勝って俺と戦うことになるだろうか。
できれば成長度合いを直に確認したいので、ミナの方に勝ちあがってもらいたいものだ。
「マイはねこにゃんさんとだね」
「うんっ。あの人って可愛いキャラネームしてるけど、すっごく強いから気を引き締めていかないとっ」
俺の隣でユミとマイがそんな会話を交わしている。
ここまで勝ち残ってきた奴が弱いわけなんてないからな。
名前に惑わされると痛い目にあいかねない。
そういった意味ではねこにゃん同様、ああああという名前と呼んでいいのかすら微妙な奴も油断ならない相手だ。
ああああの対戦相手はフィルだから多分負けるだろうけど。
「……フッ。なかなか楽しそうにしているな、君たちは」
「…………」
と、そこまで考えたところで、俺たちの前にクロードが姿を現した。
こいつよく顔を見せにこれたな。
普通あれだけ大物ぶって煽ったにもかかわらず、俺と当たる前に負けましたなんて珍事を犯したら、恥ずかしくて話しかけられないだろう。
「……で、この場合はどうなるんだ?」
「どうなるって何がだい?」
「サクヤのことだよ。これでお前はサクヤを諦めるのかって言ってるんだ」
「それか……」
俺の問いかけを受けたクロードは、髪を軽くかきあげてサクヤに視線を向ける。
「サクヤさんのことは諦めない。いつかきっと僕が目を覚まさせてあげるから、それまで待っていてくれ」
「…………」
クロードの熱烈な愛をサクヤは無言のまま軽く受け流す。
というか完全に無視だな。
「……でも今はそれとは別件で、僕にはやることがある」
「? やること?」
なんだろう。
こいつはサクヤの件以外にも何か用事があるのだろうか。
「ミナさん」
「……なんですか?」
俺が首を傾げていると、クロードはミナの前まで歩いて彼女に声をかけた。
なるほど。
さっき戦ったミナに用があったのか。
これが負けた腹いせで、ミナへ何かちょっかいをかけようとしているというのであれば俺が割って入る所存だが、果たしてどうか。
「僕は君に惚れた! 君は僕のエトワールだ! ≪流星≫のミナさん!」
「……………………は?」
クロードの発言を聞いた俺たちは全員その場で固まった。
……え、なにこの人。
サクヤのことが好きなんじゃなかったの。
何いきなりミナを口説いちゃってんの。
何エトワール(星)とか言っちゃってんの。
「おいちょっと待て! お前はサクヤが好きなんだろ!」
「勿論好きさ。だが可憐な花を愛でずにはいられないのがこの僕だ!」
「お、おう……」
ヤバい。
こいつは生粋のハーレムヤロウだ。
もしかして、さっきの戦いで動きがおかしかったのはミナに惚れたからとかか……?
なんか……コイツと話すのはもう馬鹿らしくなってきた……
「試合中に君から強い視線を向けられたその時、僕は愛の奴隷となってしまったんだ! さあミナさん! 今度は君が愛の奴隷となる番だよ!」
「い、いやよ! あっちいって! あなたみたいなのは私のタイプじゃないわ!」
「そんなことを言わずに! 一緒に夜空を見ながら星座について語り合おう!」
「私は別に星とか興味ないから一人でやってちょうだい!」
クロードとミナのやり取りを聞いていると頭が痛くなってきた。
なので俺はこいつらへ向けた目を掲示板の方へと戻して気を入れなおす。
「……で、俺の相手はダークネスカイザーか」
俺はトーナメント表を見て次の対戦相手を再確認した。
「シンくんなら次も楽勝だね!」
「いや、そうとも限らないぞ」
ダークネスカイザー。
名前は完全にふざけているが、プレイヤースキルは一級品と言っていい。
ジョブは弓兵職らしいのだが弓を使っておらず、その代わりに短剣を用いて対戦相手のアキを圧倒していた。
しかしスキルは全く振っていなかったので、俺同様にどんなジョブであってもそれなりに戦えるっていうタイプなんだろう。
ジョブの補正に頼らず素の強さで十分戦える敵というのは一番厄介だ。
「まあ、最終的には俺が勝つさ」
けれど、俺は誰にも負ける気なんてない。
相手がどれほど強くとも、俺は絶対に勝つ。
なので俺は勝利の女神たるサクヤのほうを見てニッと笑う。
「二回戦突破したらまた出迎え頼んだぞ、サクヤ」
「うん!」
そして俺は次の戦いへ赴いたのだった。
決闘フィールドにはすでに審判と俺の対戦相手が立っていた。
「おぉ、待ちくたびれたぞ、≪ビルドエラー≫」
「…………」
対戦相手の男が俺に声をかけてきた。
男はパーソナルデータを伏せているようで、名前もジョブも見ただけでは判断できない。
というか、表示をいじったんじゃなくて、ただ単に黒い仮面をつけているから表示されないのかもしれないが。
そう。
俺の目の前にいる男は仮面をつけている。
黒い仮面をつけ、黒い服装で身を包んでいる。
これがこの男――ダークネスカイザーの通常装備だ。
全身を黒で統一しているうえに仮面をかぶるというその姿は中二病精神をくすぐられるものがある。
けれど、そんな服装をゲーム外で平然と着ることは躊躇われる。
こんな姿で街を歩けば、職質されるか「なんのコスプレですか?」と問われることうけあいだ。
ダークネスカイザーという名前も相俟って非常に痛々しい。
中二病の権化がそこにいた。
「やっと≪ビルドエラー≫と戦える機会ができて俺は嬉しいぞ」
「? そうなのか?」
「そうだぞ。俺はお前と戦うためにこの大会に参加したといっても過言じゃない」
「……へえ」
見てくれはアレだが、中身は案外まともそうだ。
でも、俺と戦うために参加したというのはどういうことか。
一応俺はこれでも回復職なんだが。
地球のオンゲーで俺と戦いたいっていうならわかるが、アースで俺と戦う意味はあんまりないぞ。
「ん? 別におかしなことじゃないだろ? だって≪ビルドエラー≫っていったら中高生世代最強候補の一人として数えられてるじゃない?」
「そうなのか?」
初耳だな。
俺のプレイヤースキルやレベルはそれなりに知られているだろうから、そんな風に囁かれていても不思議じゃないんだろうけど。
「【黒龍団】のアギトとセツナ、【Noah's Ark】のノアとクロード、【流星会】のミナ、それに≪ビルドエラー≫の六人を最近では中高世代の六強と呼んでいる人が多いぞ」
「へえ」
【黒龍団】と【Noah's Ark】の四人はともかくとして、ミナまで中高生の強者として見られているとはな。
なんだかんだでミナもかなり強くなっているから意外ではないんだけど。
しかし、五人の中にフィルが入っていないところを考えるに、知名度の問題も絡んでいるんだろう。
なら、この大会で七強に増える可能性もあるな。
もし八人にまでなったら劣化八大王者だ。
「まーそういうわけだから、お手柔らかにお願いしますわ」
「あ、ああ、こちらこそ」
そして、そろそろ決闘を始めろという審判の視線を受けて、俺たちは頭を下げあった。
やっぱりこいつはマトモそうだな。
クラスは1年1組らしいから、ザイールたちと元クラスメイトってことになるんだろうけど。
ザイールたちみたいなのは例外か。
あいつらとの騒動以来、俺に突っかかってくる一組もいないし。
大体の奴らはちゃんとした常識を持っているようで安心した。
ダークネスカイザーっていうネーミングセンスはどうかと思うけど。
「それでは第二試合一回戦、シンVSダークネスカイザー、決闘――」
観客席から聞こえる騒音の中、審判の声が響き渡る。
「……?」
その途中、ダークネスカイザーに動きがあった。
奴は腰に着けていた短剣をシュッと引き抜いて俺の方に投げてきた。
審判が決闘開始と言い切るまで相手に攻撃をするのは禁止されているはずなんだが。
もしかして、これは審判が決闘開始と言い切った直後でのヒットを狙った攻撃か。
このタイミングなら不意を突けると判断したのだろう。
だが俺には効かない。
俺は対戦相手の先手必勝な攻撃を弾くべく小盾を――
「――開始!」
審判の声が響き、俺の網膜に決闘開始という文字が浮かび上がった。
決闘開始という文字が浮かび上がったのだ。
「!?」
短剣が見えなくなった。
決闘の開始を告げる、その文字に隠されて。
俺はこの時確信した。
ダークネスカイザーは――決闘をやりなれた、対人戦のプロであると。