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決闘大会中高生部門一回戦

「一回戦頑張ってね! シンくん!」


 闘技フィールドへと続く廊下を歩いている途中、サクヤから応援の言葉を貰った。


 サクヤはどうも落ち着かない様子でそわそわしている。

 戦う本人より緊張してどうするんだ。


「サクヤ、心配しなくても俺はそう簡単に負けたりなんてしないぞ」

「! うん! そうだよね! シンくんなら優勝も余裕だよね!」

「……ああ」


 優勝、という言葉を聞いて、俺の脳裏に先ほど見たトーナメント表が浮かんだ。

 もしかしたらサクヤもそれを考えているのかもしれない。


 俺はこの大会で優勝するつもりだ。

 そして、多分これから行う戦いは、不測の事態が起こりさえしなければ決勝までまず問題なく進むことができると思う。

 だが、おそらく決勝は厳しい戦いとなるだろう。


 なぜなら……



「……あ」

「…………」

「…………」



 闘技フィールド傍にある休憩室の扉の先から、突然フィルが現れた。

 彼女は俺とサクヤを交互に見やり、表情をどんどん沈ませていく。


 なんでこうもよくフィルと鉢合わせするんだ。

 今はお互いに顔を合わせづらい時期だというのに。


「……よ、よう、フィル。お前も決闘大会に――」

「――――っ!」


 俺ができるだけ普段通りに声をかけようとすると、フィルはピクッと肩を震わせて廊下を走り去ってしまった。


 ……まあ、こうなるかもしれないとはわかっていたことだけど、やっぱり避けられるのはつらい。

 あいつとは恋人という関係になれなくても、良い友達という関係は維持したかった。

 色恋沙汰が絡んだ以上は、もうそれも無理なのだろうか。


「フィルちゃん……いっちゃったね……」

「そうだな……」


 俺とサクヤはフィルが走っていった方向を見ながら、ため息をついた。


 もしかしたらフィルは俺がサクヤと付き合うと決めたことを怒っているかもしれない。

 だとしたら、その鬱憤はまず間違いなく決闘大会の本戦……決勝の舞台で爆発することになるだろう。


 そうなったとき、はたして俺はフィルに勝てるだろうか。

 俺はこの大会の決勝戦で当たるであろうフィルのことを思い、そんな不安を抱いていた。






「先に俺と当たったが運の尽き! クロードの出番はないね!」


 クロードの取り巻きその1である≪鉄腕≫のカンナは、闘技フィールドに立つ俺に向けてそんなことを大声で言い放ってきた。

 それを聞いた俺は、フィルとの一件で沈みかえていた気持ちを闘争心に意識して塗り替えていく。


 今の俺と当たったが運の尽き。

 なかなかに自信満々な様子ではあるが、勝つのは俺の方だ。

 彼女にはここでご退場願おう。


 決闘のルールは基本半減勝負。

 ただし、選手によっては俺のように異能使用制限がかけられていたり、何かしらのステータスがダウンする装備を身に着けての戦いとなっている。

 俺の場合は装備で誤魔化せないほど防御が高すぎるという点を考慮して、俺と戦う相手の勝利条件のみヒット制が適用されている。

 そのため、俺の枷は右腕に巻かれている『簡易式アビリティジャマー』だけだ。


 また、俺が相手ということで、カンナの方は何の制約も付いていないようだ。

 つまり、俺の勝利条件は異能を存分に使えるカンナのHPを半減させるということになる。

 ダメージヒールが使えれば一瞬でケリが付くところではあるが、それが今大会で禁止されている以上、別の手段を用いる必要がある。


 俺はアイテムボックスから小盾と神器『クロス』を取り出した。

 この装備で戦うのがベストだろうからな。


「第一試合! シンVSカンナ! 決闘開始!」

「さあいくぞ≪ビルドエラー≫! 俺の拳の前に跪きな!」


 そして審判による試合開始の宣言がなされ、網膜に『決闘開始』の文字が現れた瞬間、カンナは俺との距離を一気に詰めてきた。


 彼女のジョブは武道家職。

 ゆえに、ここで近づいてくることはわかっていた。


 俺は至近距離にまでやってきたカンナがどう動くか予測して、小盾を持った左手に力を入れなおす。


「……くっ! なかなかやるねえ! 流石は元タンク!」

「俺は今も現役タンクだ」


 カンナの放つ細かい拳の連打を俺は小盾で受け流し続ける。


 敵が1人で大規模な攻撃を仕掛けてこないタイプの場合は、大盾よりも小盾の方がいい。

 大盾はカバーできる範囲が広いがその分重く、小盾はその逆だ。


 取扱い的には小盾の方が扱いやすいとされているが、小盾はちゃんと極めようとすると、守備範囲が小さいため、大盾よりプレイヤースキルが必要になってくる。

 しかし、その分極めるととても強い。生半可な攻撃はこの小盾1つを軽く移動させるだけで防げるんだからな。


「……チッ!」


 どうやら相手は俺に攻撃が当たらないことでヤキモキしている様子だ。


 しかし、なかなか強いな。

 不用意なスキルの発動はせず、使ってくるにしても出だしが速くて隙もあんまり大きくないスキルを使っている。

 加えて、その使用するスキルは全て無詠唱なので、スキルの発動を予備動作のみで捉えないといけない。

 出だしの速いスキルを多く所有する武道家職でこれをやられると結構キツイ。


 とはいえだ。

 カンナの攻撃に俺が対応できないというわけでもない。


「1」

「っ!」


 俺はカンナの動きを予測し、右手に持った神器『クロス』を当てる。

 カンナの左肩に軽くヒットしただけでダメージも全く与えられていないが、俺の攻撃は問題なく当てることができていた。


「はっ! そんな攻撃じゃ『頑丈』の異能を持つ俺にダメージを与えることなんてできやしないぜ!」


 だがダメージを与えられなかったのも事実。

 カンナは今の攻撃で俺が恐るるに足らずとみたのか、鼻を鳴らして挑発めいた言葉を放ってきた。


 異能『頑丈』。

 それは俺も事前に行った情報収集で知っていた異能だ。


 噂によると、カンナはこの異能によって普通の人より体が頑丈になっているのだとか。

 つまり、前に俺へ向けて言い放った「俺の拳は岩をも砕く」というのはあながち誇張でも何でもなく、拳が岩以上の硬さを秘めているという意味で合っているのかもしれない。

 それプラス、異世界アースにおけるステータス補正も加わって、カンナの防御力、および攻撃力はだいぶ跳ね上がっているのだろうと推測できる。

 なので、こいつに生半可な攻撃は効かないと考えた方がいいだろう。


 だけどそれは「あくまで通常なら」という但し書きが付く。


「2、3、4、5」


 俺はカンナの隙を見計らって『クロス』を執拗に当て続けた。


「ぐっ……?」


 するとカンナの表情は次第に厳しくなり始め、俺が攻撃を15発当てたところでようやくHPにも僅かに変化が現れてきた。


「16、17、18、19」

「ぎっ……な、なんだ?」


 何が起きているのかカンナにはよくわからない様子だ。


 まあ初見ではわかりづらいだろうな。

 俺の攻撃がヒットするたびにステータスにマイナス補正がついていっているだなんてことは。


「20、21、22、23、24」

「がっ!? く……やめろ! このやろう!」


 だが目に見えて減少し始めたHPゲージを見てある程度状況が理解できたらしいカンナは、『クロス』による打撃攻撃を食らわないよう、回避を重視した動きを始めだした。


 しかし、それももう遅い。

 『クロス』の攻撃によって蓄積されたステータス低下はAGIにも及ぶ。

 カンナはすでに最初の頃の俊敏さが嘘のように鈍い。

 そんな動きでは俺の攻撃を避けることなんてできやしないぞ。


「25、26、27、28、29……」

「ぐあっ!? ぎ……っ!?」


 こうして俺はカンナを『クロス』でしつこく叩き、VITとAGI、それにHPをごりごり削っていく。

 対するカンナも抵抗を試みているが、基本的に至近距離からでしか攻撃できない武道家職が足を奪われた時点で勝敗は決していた。


「やめろこの……くそっ!」

「ここでやめてたまるか! オラドンドンいくぞカンナァ!」

「ひっやめ……ひぎぃ!」


 カンナが涙目になってきたが俺は容赦などせずベチンベチンし続ける。


 事前に立てたこの作戦、「攻撃力が低いなら相手の防御力を下げればいいじゃない作戦」はカンナに有効だったようだ。

 わざわざSTRが上昇する装備を多く身に着けて物理攻撃特化にしたかいがあったな。


「そこまで!」


 俺が計39発の攻撃を加えたところでカンナのHPは半分となり、そこで審判から試合終了の合図がなされた。


「カンナ選手HP半減! よって勝者、シン選手!」

「「「ワアアアアアアアアアアア!!!!!」」」


 そして勝者である俺の名が審判の口から出たところで観客席から盛大な拍手と歓声が湧きあがった。


 結果的に見ると俺はカンナを完封したことになるが、周りで見ている側にとっては何が起きているのかイマイチよくわからなかっただろう。

 でも、観客は俺がプレイヤースキルのみでカンナを圧倒していたところを見ていたわけだから、こうして喝采してくるのも不思議ではない、か。


「な……なんだったんだよ……今のは……」


 また、俺の攻撃を直に受け続けたカンナは小さく疑問の声を上げていた。


「俺をただの回復職だと思うなと仲間に伝えておけ」


 なので俺はカンナにそう言い残し、休憩室へと足を向けたのだった。

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