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MPK

 NAME ミナ

 JOB 剣士


  LV 1


  HP 132

  MP  80



 俺のパーティーメンバー、ミナは剣を武器にして戦う剣士だ。

 剣士のジョブにはアタッカーの役割が割り振られている。

 だから攻撃手段が貧弱である俺がタンク、ミナがアタッカーという役割をこなせばいいだろう。


 そう考えた俺は、クラスメイト達から大きく離れた位置にあった沼地フィールドにて、大きなカエルを盾で押さえつけていた。


 あまりゲーム的な足止めではないが仕方が無い。

 俺にはタウント(挑発)スキルも足止めスキルもないんだからな。

 VRMMO内の俺がプレイヤーやMOB相手によくしていた物理的な足止めを実行せざるを得ない。


「よし、やれ」

「お、おーけー……」


 大盾を上から押し付けられて動けずにいるMOBモンスター『ビッグフロッグ』を前にし、ミナがやや躊躇う様子を見せつつも剣を数度突き刺す。

 するとビッグフロッグは体から血を噴出しながら痙攣し、やがて動かなくなって白い煙と化した。


 それを確認した俺はメニュー画面を開いてアイテムボックス内の中身をリストアップする。

 俺のアイテムボックス内にはビッグフロッグの死骸とF級魔石が入っていた。


 金については後で町に戻ると更に追加でビッグフロッグの肉1匹分につき50ゴールド、F級魔石1つにつき30ゴールド手に入る。

 そういうクエストが冒険者ギルドという依頼斡旋所にあったのは確認済みだ。


 ここに出てくるビッグフロッグは討伐ランクがFランクで基本的に単独行動をしており、仲間意識が薄くて同種が誰かに攻撃されていてもあんまり気にしない――つまりADD(増援)に悩まされないらしいので俺はここを狩場に選んだ。

 また、ビッグフロッグは時々能力低下の粘液を飛ばすのだというが、こうして上から押さえつけてしまえば問題ないだろう。


「……経験値は3か。レベルアップまであと10匹は倒す必要があるな」

「うげぇ……」


 更に経験値の入りも確認して呟き声を上げると、ミナがとても嫌そうといった渋い表情で変な声を上げてきた。


 多分血がリアルすぎて引いてるんだろう。

 俺もアースでの狩りがここまでエグイとは思わなかったからな。

 これもアースがVRではないということを理解させられる事柄だが、それと同時にドロップアイテムが自動的にアイテムボックスへ収納されるというところが納得いかない。

 そう思うとメニューやらステータスやらアイテムボックスやらもどう解釈していいのやらなんだが。


 まあいい。

 そんな事を考えても仕方が無い。

 今の俺達がやらなきゃいけないことはレベル上げだ。


 だから俺はすぐ近くに寄ってきたビッグフロッグへ向けて再び盾を押し付けてミナを呼ぶ。

 時々飛び跳ねたりして押さえつけるのが難しいが、そこまですばやいMOBでもない。

 俺達は一匹ずつ淡々と確実に倒していき、経験値と金を増やしていった。


「……ん?」


 と、そんな時、沼地の奥から変な集団がやって来た。

 先頭には覆面を被った人間が走っていて、それを十数匹ほどのビッグフロッグが追いかけている。


 そいつらは段々と俺達の方へと近づいてきて――


「……まさか……MPKか?」


 MPK(モンスタープレイヤーキル)

 MOBを意図的に集めて他のプレイヤーに押し付け殺させるその手法が脳裏をよぎった。


 この辺りのMOBは集団で襲ってくるという事がないという情報を町で仕入れていたからこそ選んだ狩場だ。

 なのにあれだけの数のMOBが固まっているというのは意図的としか思えない。


「逃げるぞ! ミナ!」

「え? で、でも――」

「あのビッグフロッグの数はマズイ!」


 さっきまでは一匹づつ狩っていたからダメージも受けていないが、十数匹という数を相手にしたらミナを守りきる自信が無い。

 俺は戦士職でも騎士職でもないから挑発スキルなんて持っていない。

 なら集団戦になった場合狙われるのはダメージディーラー(DPS)のミナだ。


「あ……」


 ここで彼女を死なせてしまっては面目が立たない。

 そう思った俺はミナの手を取って走る。


「くっ……!」


 しかし先頭にいる覆面を被った軽装の人物は俺達より足が速かった。


 覆面は俺達の方を向きながらも、軽く追い抜いていく。


「……え?」



 そしてその覆面は忽然と姿を消した。



 一体何が起きたのかわからない。

 だが目の前から覆面の……プレイヤー・・・・・が消えてなくなったことだけは理解できた。


 また、これでMPKは確定なのだろう。

 プレイヤーだったのかどうかについては顔を隠していたために判別が不能だったせいで俺の推測ではあるが、あの覆面は俺達を殺しにきたのだと断言できる。


 なので俺はこの窮地を打開するためにミナへ命令した。


「……ミナはこのまま走れ。俺はビッグフロッグを倒してくる」

「え!? だ、だったら私も――」

「お前は邪魔だ。足手まといだからさっさと逃げろ」

「な――」


 驚愕といった表情をしているミナから手を離し、俺はビッグフロッグへ向けて駆け出す。


 キツイ事を言っているのはわかっているが、こうでも言わないと逃げてくれそうにないからな。

 それに1人で戦った方が安全だろうというのも確かなことだ。


「いくぞ!」


 俺は走りながらもアイテムボックスを開いて小盾と棍棒を持ち替える。

 攻撃力が低い俺がMOBを倒すのには多少時間がかかるだろうが、最終的に勝てば良い。


 目の前にビッグフロッグが迫る。


「うらあ!」


 すぐ近くまで来た一匹の巨大なカエルに俺は棍棒を振るう。

 一撃では死なない事なんてわかりきっているため、最初に攻撃した一匹を執拗に殴り続けた。


 その最中、左右から押し寄せてくる他のMOBに押し潰されないよう立ち回り、大盾で塞ぎ、棍棒でけん制する。


 だが十数匹もいるMOBに囲まれている状態で攻撃を貰わないということもできず、俺は背後にいた敵から体当たりをくらってしまう。


「ぐっ!」


 しかしそれは大したダメージにはなっていない。

 今の攻撃で俺のHPゲージが1ドットほど減ったが、これなら後数十発は貰っても平気だろうと確信が持てた。


「!?」


 けれどそんな余裕も僅かに揺らぐ。

 3匹のビッグフロッグが今までとは違う動きをしたかと思うと、俺に向かって黒い粘液を吐き出してきた。


 この攻撃は初めて見る。

 2匹分の粘液は盾で防ぐことができたが、1匹分のだけは俺の体に付着してしまった。


 すると俺の体の動きが若干鈍くなったように感じ始めた。


「……『ヒール』! 『キュア』!」


 何のバッドステータスを得てしまったのかわからないものの、俺は回復魔法と治療魔法を自分自身に振りかける。


 ……治らなかった。


「くっ……」


 魔法は確かに発動した。

 なのに俺のHPは回復しないしこの状態異常らしき体の鈍さも治らない。


 若干重い体を無理矢理動かしてやっと最初に攻撃したビッグフロッグ1匹を倒したところで俺は再び治療魔法を使用してみる。

 しかしやはりどうしても治らず、そのまま次のMOBを倒すべく棍棒を振るう。


 『キュア』は状態異常を治す回復魔法の一種だが、これで治らないとするなら今の俺は毒や麻痺とは違ったバッドステータスを受けている事になる。

 つまりは事前に調べた通り能力低下――ステータス低下の攻撃なのだろう。


 これは珍しくも何ともないので今がどういう状況なのか理解できるのだけれど、『ヒール』で俺のHPが1も回復しないというのは予想外だった。

 普通はMNDが無くても少しは回復したりするもんだと思うんだか、この異世界ゲームのルールではそうなっているのか。


 というかもしかしてここでの『ヒール』はMNDで割と自由に威力が決められる計算式になっていたりするのか?


 だとしたらアレが使えたりするかもしれないが――



「シン!」

「な……」



 と、そんな事を分析しているとミナの声が響いてきた。

 ミナがMOBに囲まれている俺のところへ駆けつけてきて、一匹のMOBを剣で斬りつけていた。


 逃げろって言ったのにどうして来たんだ。


「バカヤロウ! さっさと逃げろ! ミナ!」

「いやよ! 1人で逃げるなんて! それより2人で早く倒しちゃいましょう!」


 俺が声を荒げるとミナもまた怒鳴り調子で言い返してくる。

 そうこう言っている内にミナは1匹のMOBを倒した。


「く……」


 あんなことをしてはタゲがミナの方に移ってしまう。

 タンクはヘイト(敵対心)を溜めて常に敵MOBから標的ターゲットとされなければならない。


 だがアタッカーが無闇に攻撃をし続けるとヘイトが溜まってMOBがそちらに流れる。

 下手なアタッカーがよくする行為だ。


 俺はそれを危惧して冷や汗を掻きながらもミナの方を見た。


「…………?」


 けれどMOBは俺を攻撃するばかりで、一向にミナの方へ行く素振りがない。


「……へえ」


 この状況を見て俺はとある可能性――回復魔法によってかなりのヘイトが俺に集中しているのかもしれないと思い、自分へ向けて更に回復魔法をかけ続けた。



 MOBからヘイトが集まるパターンは大きく分けて3つある。

 一つ目は敵MOBに攻撃する事、二つ目はタンク職が持つタウント(挑発)スキルを使用する事、そして三つ目は回復魔法を使用する事だ。

 細かく見ていけば他にも色々あるのだが、この3つは殆どのMMORPGで採用されている。


 つまり今、目の前にいるMOBは回復魔法を使用している俺にヘイトを溜め、ミナの方へは流れなくなっているのだ。

 俺の回復魔法は回復量が0だったんだが、多分回復魔法を使うこと自体のヘイトが大きいのだと思われる。

 だとするともしかしたら回復量に応じてヘイトが溜まるといった概念は無いのかもしれない。

 流石にタウントスキルほどヘイトを溜める魔法ではないだろうからな。


 そう考えた俺は一筋の希望を見出して回復魔法を連発する。

 途中でMPが尽きそうになるものの、予め町で買ってポケットに入れていたMP回復ポットを飲んでゆるゆると回復しつつ凌ぎ続けた。


「ぐっ!?」


 しかしその途中、黒い粘液を再び受けた後に使用した回復魔法には何か痛みのようなものを感じ、更に俺のHPが減った。

 それを見た俺はこの現象に一つの確信を持ちつつ、HP回復ポットも飲んで戦い続ける。


 そしてその後も俺達は戦闘を続け、どれだけの時間が経過したのかもわからない頃にようやくビッグフロッグを全て倒す事に成功した。


「はぁ……はぁ……ど、どんなもんよ! やればできるじゃない!」

「…………」


 俺とミナは2人とも無事に生き残った。


 だがいくつか気になる事ができた。

 俺はメニュー画面を開いて自分のステータスを確認する。



 NAME シン

  JOB 僧侶

  Lv 2


  HP 104/159

  MP  2/128


 STR 0(6)

 VIT 50(56)→55

 AGI 0(-2)→-3

 INT 0

 MND 0→-1

 DEX 0→-1

 LUK 0→-1


 ステータスポイント残り2



 VIT、AGI、MND、DEX、LUKの数値が1下がっていた。

 これは『キュア』では治療できないステータス低下系の状態異常、さっきのMOBが吐いた粘液の効果によるものだろう。


 ……今なら試せるな。


「……『ヒール』」

「ぎゃわっ!?」

「…………」


 俺がミナにヒールをかけてみると、彼女は奇声を上げた。

 また、彼女のHPが削れたのを俺は見た。


 これは確定と言っていいだろう。

 回復量が0だった時ももしかしたらと思っていたが、これでアースにおけるヒールの仕様を完全に把握できた。


「……まさかダメージヒールがあるなんてな」


 良い事を知った。

 MPK野郎は俺達を殺す気だったのだろうが、今回は検証する手間が省けてラッキーだ。


 俺は口元をニヤリとさせて思考を続ける。


「ちょっと、いきなりわけわかんない事を人にしておいて謝罪は無いの?」

「ああ、悪い」

「かるっ……まあいいけど。それで、さっきから何をぶつぶつ独り言喋ってんの?」

「それについては町に戻る途中にでも話す。だがその前にアタッカーとしてのヘイト管理についてみっちり教えてやる。覚悟しろ」

「お、お手柔らかに……」


 俺はこの現象を使えると判断し、レべリングを中断して町へと引き返す事にした。


「あと……なんで引き返してきたんだ。お前には逃げろと言ったはずだが?」

「だから1人で逃げるなんて嫌だって言ってるじゃない!」

「そんな事を言ってもだな……」


 アースでの死は重い。

 クロクロではあったはずの死に戻りという概念が無い今、完全に死んでしまったら二度と生き返る事は無い。



 それはつまりアースからの永久追放を意味しており、加えて俺達の持つアビリティ(異能)……それに関連してとあるモノも何故かその際消えてなくなるのだそうだ。

 この情報はまだ一般公開されていないが、俺達学校生徒、クロクロプレイヤー全員には伝えられている。



 俺達は死にたくないと思っている。

 おそらくミナも同じだろう。

 なのに彼女は引き返してきた。


 だから俺はどうしてそんな事をしたのか詰問していた。


「……というか、あなたは本気で私が死ぬとか思ってたの?」

「? どういうことだ」

「私の異能を忘れた?」

「…………あ」


 けれど俺のそんな疑問はわりとあっさりと答えが出た。


 彼女のアビリティは【重力制御】。それを使えば空に浮く事だって簡単にできる。

 ならもしも自分の身が危険であると判断したら空に飛んで緊急離脱をするという事もできたのか。


 そう考えるとさっきまでの俺は滑稽だ。

 必死になって彼女を守ろうとしていた自分を思い出して頬が熱くなる。


「でもまあ……私を心配してくれてたのは嬉しかったわよ……ありがと」

「……どういたしまして」


 俺がミナからそっぽを向いて頭を掻いていると、彼女は感謝の言葉を述べてきた。

 少し気を使わせてしまったようで申し訳なく思い、俺の頬はますます熱くなる。


「とにかくさっさと戻ろう。ここからは俺も結構役に立つってことを証明してやるから」

「いや別に役立たずだなんて思ってないわ……って置いてかないでよ! もう!」


 こうして俺は後ろから怒ったような声を出しながらついてくるミナと一緒に町へと引き返した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 盾殴りなんてロマンアツすぎだろ…!! 最高です
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