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前振り

「何……シン殿とサクヤが……?」

「あ、ああ、そうだ」


 月曜日。

 アースにログインした俺とサクヤはフィルとの一件を加味し、墓地へと赴いてクレールに会った。

 そこでクレールに俺たちが付き合うことにしたと説明すると、彼女は「むむむ……」と言いながら眉間にシワを寄せた。


「まあ……こうなる可能性は元々高かったが……ふむぅ……」


 クレールもフィルと同じく俺のことが好きだったみたいだからな。

 俺が他の女の子と付き合うなんて話を聞いたらショックを受けるだろう。


「うーん……んー……よし、あいわかった。我は貴様達を祝福しよう。おめでとう、シン殿、サクヤ」

「あ、ありがとう、クレールさん」


 けれどクレールは少し悩んだ表情を見せながらも俺たちの門出を祝福してくれた。


 どうやら俺のことはもう吹っ切れたようだな。

 ちょっと惜しいとか思ってしまうけど、新しい恋でも探せ、クレール。


「我は二番か……まあ仕方あるまい……物語の勇者も多くの女性を娶っていたしな……」

「…………」


 ……と思っていたが、なんかまだクレールは俺のことを諦めていない様子だった。


 そういえばウルズ大陸って基本的に一夫多妻制なんだよな。

 だからクレールも俺に女が一人や二人できたからといって諦める必要はないのか。


「シン殿、サクヤには黙っておいてやるから、我に甘えたくなった時はいつでも甘えに来るが良いぞ」

「いや……それをサクヤのいる前で言われてもな……」


 浮気の誘いが大胆すぎる。

 普通そういうことはサクヤに聞かれないようこっそり俺に伝えるもんだろう。

 案の定サクヤこっち見てるし。


 俺しないよ?

 浮気なんて全然しないよ?


「あ、あーと……シンくんがクレールさんと何をしても私は怒ったりしないから安心してね?」

「いやだからしないって……」


 サクヤはどうも俺に気を使いすぎている。

 「私がシンくんの彼女です」的オーラを出しても俺は良いと思うんだけど。

 もしかしたら俺と恋人になるまでの過程が卑怯だったとか思ってフィルやクレールに申し訳ないとか感じていたりするのだろうか。


「今俺と付き合ってるのはサクヤなんだ。だからもっと胸を張れ」

「……張るほど胸ないもん。クレールさんのほうがおっぱい大きいもん」

「なぜここで自虐」


 やっぱりサクヤはクレールやフィルの前では強く出れないみたいだ。


 というか別にサクヤの胸はそんな小さいというわけじゃないと思うんだが。

 確かにクレールやマイと比べれば小さいし、ミナも結構あるからサクヤが胸囲で勝てそうなのは年下のフィルくらいしか身近にいない。

 でもそこまで気にする必要はない程度には膨れているように見える。

 胸パッドとかをいっぱい詰めていたりした場合は別だろうけど。


 しかしここは一応フォローしておくか。


「サクヤ、たとえ小さくても俺は触るとしたらクレールの胸よりお前の胸の方を触りたい。なぜならお前が俺の彼女だからだ」

「!  し、シンくん……そ、そんなに触りたいなら今触ってくれてもいいんだよ!」

「い、いや……今はちょっと……」


 いかん。

 押してはいけないサクヤのスイッチを押してしまったようだ。

 でもここで触ったらなし崩し的に色々なことをしてしまいそうになって色々危ない。

 俺だって一青少年として彼女とそういったスキンシップをしてみたいと思ってはいるが、あくまでそれは順序良くだ。


「キスの前にボディタッチをするなんて不健全だと思いますので……」

「あ……そっか……それじゃあ続きはまた今度、ね?」


 俺が心の準備をするのを待ってくれるサクヤがとても愛おしい。

 前まではイケイケゴーゴーだったのに今は俺の意見をちゃんと受け入れてくれている。

 これも彼女になったことで余裕を持てるようになったからかね。


「貴様達はいつまで我の前でいちゃついているつもりだ? 気を使ってしばらくは二人っきりにしてやろうと思っていたりする我も少し考え直してしまうやもしれんぞ?」

「……すまん」


 そんな俺たちの会話に若干棘のある言い方でクレールが割り込んできた。


 さっきまでの会話はクレールからしてみればイラッとしたことだろう。

 反省だ。


「ああ、あとクレール。今日は俺たち地球人主催で大会が行われるんだが――」


 そして俺はこの流れを変えるべく、クレールに決闘大会についてを話した。

 クレールは俺の話を聞き終えると、「気が向いたら見に行こう」と言ってそそくさと地下神殿に戻っていった。


 こうして俺たちはクレールへの報告も済ませ、決闘大会が開かれる始まりの町へと戻ることにしたのだった。






「フッ、逃げずにちゃんと来たようだな、≪ビルドエラー≫」


 始まりの町南部に建てられているコロッセオのような円形の闘技場にやってきた俺とサクヤはそこでクロードと出会った。

 クロードは指で髪をくるくるさせながら俺たちに視線を向けてニヤリと笑う。


「待っていてくれ、サクヤさん。今日こそは君の目を覚まさせてあげるからね」

「……私の目はいつでも覚めてるよ」


 サクヤはクロードの言葉を受け、傍にいた俺にだけ聞こえるという程度の声を漏らした。


 今のは独り言みたいだな。

 どうやら本当にサクヤはクロードと、というか俺以外の男と話す気がないようだ。


「……まあ、そういうわけだから、君は僕と当たるまで負けるんじゃないぞ」

「ああ、わかってるさ」


 お前に当たるまでとは言わず、俺はもうこの大会で全勝する気でいる。

 だからお前はただの通過点だ、クロード。


「お前の方も俺に当たるまで負けるなよ。当たる前に負けたら盛大に笑ってやるからな」

「その心配は無用さ。なんたって僕は≪神に愛されし男≫なのだから!」

「お、おう」


 やっべー……

 こいつ超やっべー……


 そんな大仰な二つ名を平然と名乗れるあたり大物と呼べるのかもしれないけど、できればお近づきになりたくない人種だ。


「だが本当に不可解な男だね。聞いたところによると君は回復職なんだろう? 今大会で回復職の参加者は君だけだぞ? この意味がちゃんとわかっているかな?」

「当たり前だ」


 そんなことはこいつに言われるまでのことでもなく知っている。


 回復職は基本的にパーティープレイをすることでこそのジョブだ。

 ソロによる狩りの効率を極めた型もゲームによってはあるが、今回のような一対一で行われる決闘で他のジョブに勝てるような対人戦闘特化型はない。

 断言すると語弊が生まれるかもしれないが、あえて回復職で対人戦をやるくらいなら他のジョブで戦った方が結果は出やすいはずだ。

 他のジョブ、剣士や戦士とかのほうがスキルの面で充実しているからな。


 回復職が他より秀でている面として回復があるから、それを使って長期戦に持ち込めば勝てる見込みもあるものの、攻撃面でかなり劣っているために泥試合となる可能性が高い。

 しかも回復職はソロで活動しているという場合以外で戦闘のノウハウを磨く機会が少ない。

 並の回復職プレイヤーならプレイヤースキルの差で他のプレイヤー勢に押し切られてしまうだろう。


 ゆえにこの大会で回復職が勝ち残ることは難しく、参加自体しないという結論に行きつくというわけだ。


「でも俺はタンクだ。それに≪ビルドエラー≫の名は伊達じゃない。普通の回復職と同じ扱いをされても困る」

「フッ、そうだったね。タンクがメインの回復職。タンクとしてのプレイヤースキルだけで僕と同じ六強と呼ばれるようになった君に訊ねることでもなかった」


 六強?

 なんだそれは。

 俺っていつの間にかそんな括りの中に含まれてたのか。


「しかし回復職であることには変わりありません」


 そんなことを考えているとクロードの取り巻きである4人の女性、アキ、カンナ、紅、ナナシがやってきた。


「本大会で回復職が本戦に駒を進める確率はそこそこありますが、一回戦を勝ち上がる可能性は1パーセントもないとIQ300の頭脳を持つ私の計算結果が告げています」

「だよな。もし本戦でぶち当たっても負ける要素なんてねーもん」

「光魔法の対策さえすれば回復職の攻撃なんて高が知れてるからねえ」

「……ゴミ」


 そして彼女たちは回復職であるというだけでなかなかに辛らつな言葉を俺へ投げかけてきた。


 なんか感じ悪いな。

 そっちがその気なら女相手でも容赦なんてしないぞ。

 試合で当たったら徹底的にペチンぺチンしてヒイヒイ言わせてやる。


 だからそう相手を睨むなサクヤ。

 いつぞやのように殴りかからないだけマシだけど。


「俺にそんなことを言っていられるのも今のうちだ。俺はこの大会を優勝する気でいるんだからな」

「な、何……優勝……? 君は優勝をする気でいるのか……?」

「当たり前だろ。わざわざどこかで負けるとか思って大会に出る馬鹿がいるか。さ、いくぞ、サクヤ」

「あ、う、うん!」


 こうして俺たちは宣戦布告をしあって別れた。


 どいつと戦うことになっても俺は負けたりなんて絶対しない。

 なんてったって俺は負けず嫌いだからな。

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