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参加条件

 アースからログアウトした俺たちは、次の日の土曜に学校のグラウンドをひたすら走り続けていた。


 これは平日の昼間にログインしてよく寝ている俺たちの健康状態を維持するために行わされている体力づくりの一環で、毎週土曜日に行っているものだ。

 そして日曜日の休日を挟んで、月曜日には再びアースへログインする。


 ログイン時間の長さで生徒個人のカリキュラムが少し違うものの、大体こういったサイクルで俺たちは今まで生活していた。


「はぁ……はぁ……そっか……一之瀬君も、出ることに……したんだね……」

「はっ……はっ……ああ、……まあ、な……」


 そういうわけでグラウンドを走っている最中、俺はユミこと弦義と話していた。

 弦義は寮で俺と同室だからいつでも話せるんだが、こういったマラソンの疲れを紛らわすために軽く話していたりする。


 ちなみに俺は寮の4人部屋を弦義と氷室の3人で使っている。

 寮生活初日、高校入学初日に俺たちがCコースを選んだため、ほぼ自動的に部屋割りを決められてしまった。

 Cコースを選んだ1年2組の10人中7人が男子で、最後の二部屋をどう割り振るかと決めることになった際、氷室の組んでいたパーティー4人から「氷室が俺たちと仲が良さそう」として俺、弦義、氷室の3人と他4人で別れることになったのだ。


 ぶっちゃけそれって氷室がハブにされたんじゃないか?って思って少し同情したりもしたが、氷室パーティー4人は特に悪気があったわけでもないらしい。

 まあそういうことで俺は弦義だけでなく氷室とも相部屋となっている。


 加えて言うと女子の方も、Cコースを選んだミナ、サクヤ、マイの3人が一つの部屋を使っているらしい。

 あっちは普通に仲良く寮生活が送れているのだろう。

 女子寮に行く機会なんてないから想像することしかできないけど。


「へぇ……一之瀬も、出るつもりなのか……なら……いつぞやの……リベンジが……できるかも……しれないな…………」


 また、走っている弦義の隣には氷室もいて、俺たちの会話に割り込みをかけてきた。


 なんだよお前は。

 お前とは仲良く話したりなんてしないぞコラ。


 だが一応クラスメイト兼同じ部屋を使っているよしみで少しくらいは付き合ってやろう。


「リベンジ……ねぇ……はっ……はっ……てことは、氷室も……出るつもりか……?」

「勿論だ……俺は……前のような……失態は……犯さない…………」

「……ふーん」


 前に俺と戦った時から氷室は対人戦のプレイヤースキルも磨いているらしく、異能を使わないという条件なら中高生で上位の実力者だと噂されているらしい。

 真偽のほどは知らないけどな。

 氷室のあれこれなんて知りたくもないし。

 ただ噂としてたまたま小耳にはさんだってだけの話だし。


 でもそういった噂が流れるほどに強くなっているのなら、次に氷室と戦う際は前回のような余裕勝ちもできないだろう。

 異能の方は知らないだろうが、氷室は俺のダメージヒールの概要を詳しく知る数少ない人間のうちの1人でもあるしな。

 大会でダメージヒールを使うことはおそらくないだろうが。


「当たったときは……よろしくな……」


 俺は氷室と再戦することを少し楽しみだと感じてそう言った。


 どれほど強くなったか見てやろう。

 って氷室に対してはすごい上から目線だな、俺。






「ふむ……決闘大会に出場したい……か」

「はい」


 午前中にあった『体育』の授業も終わり、月曜日まで自由になった俺は休息を取る前に早川先生のところを訪れた。

 早川先生は職員室で昼ご飯らしきコンビニ弁当を食べようとしているところだったが、俺が相談を持ちかけると快く話を聞く体勢を取ってくれた。


「確かに、競技規定の変更に伴ってレベル差がある者同士でも十分対等に戦えるよう配慮が行われることにはなったが……」

「……やはり俺じゃ厳しいですか?」


 積極的にレべリングを行う中高生のレベル帯は大体が15~30といったところだ。

 迷宮地下30階層を突破した生徒限定でなら平均レベルも30以上にはなるのだが、それでさえも俺と比べるとレベルが倍違う。

 それだけの差を覆すには相当のハンディキャップが必要になってくる。


 ゆえに早川先生は俺が大会に出場することに難色を示しているのではないかと思うのだが……


「条件付きではあるが許可しよう」

「え、本当ですか?」

「本当だとも。ここで私が嘘を言う女に見えるか?」


 まあ早川先生は基本的に嘘を言ったりはしないな。

 前にレベルの件でうそをついてるんじゃないかとか思った時があったけど、それはただ俺が勘違いしただけだったし。

 ってこれはどうでもいいことか。


「それで、その条件というのはなんでしょうか?」


 話を戻して俺は早川先生に大会出場の条件を聞いた。

 すると早川先生は「うむ」と頷いてから指を一本立てた。


「まず一つ目として、ダメージヒールの使用は禁止だ」

「でしょうね」


 ここで俺が他の生徒からどう見られているかというおさらいをする。


 一言でいうなら俺は『回復職なのにメインタンクをやっている変な奴』だ。

 本来なら回復職は後衛、中衛というポジションで味方を回復、援護することが仕事のはずなのだが、俺はそのセオリーから逸脱して前衛で盾役、すなわちタンクをこなしている。

 一応サブタンクとしてなら回復職がタンクを務めるというのもアリだが、戦士職や騎士職がやるタンクとくらべると見劣りするため、メイン盾をしている俺の評価は必然的に低くなるのだ。


 また、俺がタンクを行える理由は、プレイヤースキルで無理矢理こなしているという点とVIT全振りという回復職にあるまじきステ振りをしている点、そしてダメージヒールという裏ワザが活用できる点にある。


 この3点のうち、プレイヤースキルと初期にVIT極のステ振りをしたことに関してを知る人は結構いる。

 だが、ダメージヒールに関しては早川先生からなるべく秘匿するよう命じられているためにあんまり知られていない。

 アースに来て初期の頃の俺を詳しく調べればダメージヒールについてを知ることもできるだろうが、そんな物好きはまずいないだろう。


 つまり俺は「回復職だけどVITに極振りしてるからタンクしますよ」というふざけたアンポンタンなのだ。

 こんな情報だけで判断するなら、「だったらお前普通に盾職選べよ。その方が効率的だから」とか「回復職選んだんなら回復役に徹してくれよ」ということになってしまう。

 本当は更にダメージヒールという切り札があるからこそタンクがこなせるわけだが、それを知らない周りの連中から受ける評価は散々なものとなる。


 ならダメージヒールの概要を開示してもいいんじゃないか?という話になるが、そうは問屋が卸さない。

 高威力のダメージヒールが使えることとパーティプレイは両立し得ないからだ。


 俺の場合は色々な補正を得ているということと、仲間に死霊装備を身に着けさせるということ、自分自身のプレイヤースキルを駆使して上手く運用できるということでその二つを両立させてはいるが、並のプレイヤーが俺の真似をしたらまず間違いなく中途半端な存在となって役立たずになる。

 回復職は普通に回復職としてのステ振りを行ってパーティープレイをしてくれた方が周りとしてはありがたいのだ。


 ということで、どこかの回復職が俺の真似をする可能性をできる限り少なくしたいがために、早川先生はダメージヒールを公衆の面前で披露することを躊躇しているというわけだ。


「二つ目は異能使用の禁止。大会に出場する際はアンチアビリティアイテムを装備した状態で戦うことになるだろう。そうじゃないと君の場合は勝負にならないからな」

「わかりました」


 この件についても順当なところだろう。

 俺の持つ異能アビリティ、【時間暴走】は使ってしまうとかつてザイールたちを瞬殺した時のような戦いができてしまう。

 元々俺は地球人≪プレイヤー≫の前で自分の異能を大っぴらに使うことは控えているから、それに折角の大会なのにそんな興ざめもいいところな異能を使ってぶち壊しにするのも気が引けるので、早川先生に言われるまでもなく異能は使わない方針を取るつもりだった。


 だから俺はこの条件を聞いて軽く頷いて了承の意を告げる。


「そして三つ目の条件は決闘のルールについてなのだが……君への攻撃にはヒット制を適用する」

「ヒット制ですか……いいですよ」


 ヒット制とは決闘における一発勝負の延長線上にあるようなルールだ。

 制限時間内に相手へ攻撃が何回ヒットしたか、もしくは規定数の攻撃を先に当てる、というようなことで勝敗を決める。


 多分これは俺の防御力が高すぎることへの措置だろう。

 マイナス補正のある装備を数多く着させるというようなやり方もあるだろうが、流石に30レベル以上も差があり、なおかつそのレベル差で得ているステータスポイントもすべてVITに費やしている俺に傷をつけるのは生半可な攻撃じゃ不可能だからな。


「……本当にいいのか?」


 と、そこで早川先生は俺にそう問いかけを行ってきた。

 しかし俺はそれが何を示してのことなのかわからず首をひねる。


「なにがです?」

「これだけの縛りを加えられても君は大会に出場するのかと聞いているんだ。普通これだけ不利な条件を科されたら嫌になったりするものだろう?」

「ああ……別に、そんなことは全然思いませんよ?」


 なるほど。

 どうやら早川先生は大会出場の条件を聞いた俺が全く引かないことを気にしたようだ。


 でも実際のところ問題ない。

 三つ目の条件以外は、普段そういうことを想定しながら行動しているからな。


「むしろそれだけでいいんですか?」

「…………」


 俺の問いかけを受けた早川先生は絶句したというような表情をしながら見つめてきた。

 しかし俺の方は何一つ表情を変えることなく、先ほどまでと同様に涼しい顔を維持し続ける。


「……はぁ。本当に君は規格外のようだな。進藤先生たちが絶賛するのもわかるよ」


 すると早川先生は天井を見上げて大きくため息をつきつつ、その後すぐ俺の方を再び向いた。


「先ほど伝えた3つの条件を呑むというのなら大会出場を許可しよう。細かい点については後日伝える。出場の申請は私の方でやっておくから、その辺についても心配はいらない」

「ありがとうございます、早川先生」


 どうやら大会には出場できるらしい。

 俺は大会出場を許可してくれた早川先生に軽く頭を下げた。


「あと……これはずっと気になっていたことなんですが」

「? なんだ、まだ何か用があるのか?」


 そして早川先生はそこで話が終わったと思ったのかコンビニ弁当に手をかけようとしていた。

 もうここで退室した方が良いのかもしれないが、これは一応聞いておいた方が良いだろう。


「早川先生たちはサクヤ……日影さんの行動を把握していましたよね?」

「まあ、ある程度はな」

「だったらどうして日影さんのレべリングを無理にでも止めなかったんですか? 先生という立場なら容易に止められましたよね?」


 俺が聞きたかったのはサクヤについてだ。

 サクヤがフラフラになるまでレべリングをしていたのは早川先生たちが知っていても何らおかしくない。

 だが、それならなぜサクヤを止めてくれなかったのだろうか。


「それは……――」

「んなこと知ってどうするっつーんだよ、シン」


 苦虫をかみつぶしたような表情をしている早川先生が口を開いた瞬間、俺たちのところにマーニャンこと進藤先生が現れた。

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