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ズレた彼氏

 ベッドの上でいちゃいちゃした俺とサクヤはいい加減起きようという結論に至って着替えを済ませた。


 まだ俺たちはキスすらしていない間柄だが、気持ち的にはすでにバカップルのそれになりつつあるような気がする。

 ただ手を握りながら見つめ合ってお喋りをするというそれだけでとても嬉しいと思ってるんだから始末に負えない。

 これでキスとかそれ以上のことをし始めたらどうなっちゃうんだよ。


 俺はサクヤとこれからするかもしれないアレコレを想像しながら、自分の求めていた恋愛はこういうものだったなと思って口元を緩ませる。


 もしかしたらサクヤは俺の恋愛観に合わせてくれてるのかもしれない。

 だがそれならそれで、サクヤが俺を思ってくれているということになって益々嬉しくなってしまう。

 そしてサクヤに我慢を強いているなら代わりに彼女の要望を何でも聞き入れたくなる気持ちに駆られたりしていた。


 今の俺は思考がもうお花畑状態だ。

 こんな状態の俺をかつての俺が見たら「気持ち悪い。死ね」と言うかもしれない。


 しかし今の俺はハッピーだから何も問題ない。

 そのような罵詈雑言などそよ風のごとく受け流せる精神に到達している。


 つまりは無敵。

 もはや向かうところ敵無しといった気分になっていた。


「「あ」」

「「「「あ」」」」


 けれどそんな浮かれ気分のままサクヤを引き連れて部屋から出ると、そこで偶然ミナ、ユミ、マイ、氷室の四人と出くわしてしまった。


 こいつらも同じ宿に泊まっていることは知っている。

 とはいってもこのタイミングで会うなんて思ってもみなかった。

 部屋の中にベッドが一つしかない一人部屋から俺がサクヤの手を握りながら出てくるという言い逃れなど一切できないこの状況を見られるだなんて予想だにしていなかった。


「…………」


 ミナは俺の部屋をノックしようとしていた姿勢で固まっている。

 おそらくみんなは俺に用があって直接ここにきたんだろう。

 さっきまで寝るために通話機能を切ってたのが仇になったか。


「お……おは、よう」

「……おはよう」

「おはよう!」


 硬直を解いたミナが若干動揺した様子を見せながらも朝の挨拶をしてきたので、俺たちもひとまず挨拶を行う。


 今は朝というよりもう昼に近い頃合いだ。

 ミナたちは狩りをしに行っていなかったのか。

 毎日顔を合わせてたんだから昨日こいつらに予定を聞いておけばよかった。


「おはよう。迷宮に居なくて心配してたんだけど、なんか今日は2人ともすごく仲良さそうだね」

「おはよっ! で、何々? その手はいったい何なのかなっ?」


 続けてユミとマイが挨拶して、俺たちの仲の良さについても言及してきた。


 一緒に部屋から出てきたからといっても、俺たちはそこまでやましいことをしていたわけではない。

 だからここで誤解を解くべく言い訳をしてもいいわけだが、それをするメリットは浮かばないので訂正もしない。

 でもニヤニヤしているユミとマイを見ていると無性に恥ずかしくなり、俺はその場で黙りこくってしまった。


 というか一応狩りには行ってたのか。

 心配させてしまったのなら申し訳ないことをしたな。


「……へえ。ついに一之瀬は折れたわけか」


 また、氷室が面白くないものを見るかのような目つきをしながら呟いた。


 こいつは彼女とかいなさそうだからな。

 リア充を祝うほどの度量を持ち合わせてはいないんだろう。


「まあ、そんなところだ。今日から……というか昨日から、サクヤは俺の彼女になった」

「そういうことだよみんな!」


 とりあえず俺はこの場で言い訳するのも男らしくないと思い、サクヤとの関係をミナたちへ正直に言った。


 本当はお試し期間みたいな扱いになっているんだけど、この辺は説明する意味がない。

 それに俺はもうサクヤと本気で付き合っている気分だ。

 周りから公認カップルと見られても支障はないだろう。


「……ふーん……ま、あなたたちならお似合いじゃない? 良かったわね、サクヤ。初恋が実って」

「うん!」


 ミナがサクヤに祝福の言葉をかけた。


 彼女は俺たちの関係を一番知っている立場にいたし、サクヤと最も長い時間を過ごしている。

 多分ミナとサクヤは親友のような間柄だ。

 サクヤを祝うのは当然の反応だろう。


「……このことはフィルやクレールにちゃんと言うのよ?」

「わ、わかってる」


 そして更にミナはフィルとクレールの名前を小さな声で出して俺に注意を促してきた。


 あいつらにはサクヤとの関係をしっかり伝えておかないといけないと俺も理解している。

 言うべき内容をきちんとまとめたら会いに行こう。


「ま、その辺りをしっかり考えてるならいいわ。それで、これからあなたちはデートとかでもしに行く予定?」

「いや。俺たちはこれから迷宮に潜ってレべリングをするつもりだが?」

「恋人ができてもブレないシンくんもステキ!」

「…………」


 ミナの問いに答えると、彼女は微妙に眉をひそめだした。


 サクヤは半日休んだだけで大分元気を取り戻した。

 とはいえ、たかが半日で完全に疲れを取りきることなどできないはずなので、もう少し休ませようと思ったのだが、サクヤは「でも部屋の中でシンくんとお話しする以外にも色々したいな。あ、勿論お話しすることが嫌なわけじゃないよ」と言って俺を外に連れ出そうとしてきた。


 なので俺は「だったら軽く狩りにでも行くか?」と言ってサクヤをレべリングに誘ったのだ。

 俺が外で積極的に行う活動と言えばそれだからな。

 久しぶりにサクヤとパーティーを組んでの狩りは楽しそうだ。


「……あなたねえ……普通恋人ができたら色々やることあるでしょ? なにレべリングしに行くとか言ってんのよ?」

「え。いやでもこれはサクヤも良いって言ってくれたし……」


 どうやらミナは俺とサクヤが恋人同士になったにもかかわらずいつも通りの日課をこなすことに難色を示しているようだ。


 確かに俺も自分に彼女ができたら、しばらくの間その子とデートしたりお喋りしたりイチャイチャしたりするのが普通だと思う。

 だけど俺たちは元々廃ゲーマー。一緒にレべリングをしたりすることもいわばデートと言って良いような気がする。


「はぁ……あなた馬鹿でしょ?」

「ば、馬鹿ってそんなストレートに言うなよ……」

「そう言いたくなったんだからしょうがないわよ。サクヤはあなたに合わせたに決まってるでしょ? あなたが『レべリングをしないか』って言えばサクヤは文句も言わずについていくわよ」


 ……それは……言えてるかもしれない。

 サクヤは俺がすることなら何でも肯定しそうな雰囲気がある。

 だから俺がレべリングをすると言ったらサクヤもそれに乗っかるという図式が成り立つ。


「でもサクヤも本心ではあなたとしたいことが他にあるんじゃないの? たとえばデートとか」

「……そうなのか、サクヤ?」

「え、ええっと……」


 ミナと俺の問いかけを受けたサクヤは若干悩むようなそぶりを見せた。

 つまりサクヤはミナの言っている通り、ちゃんとしたデートがしたいと思っていたりするのか。


「ほら、サクヤも本当はレべリングよりも他にやりたいことがあるじゃない。彼氏になるんだったらそのくらい察してあげなさいよ」

「う……」


 なかなかミナは鋭い。

 サクヤの心情を俺なんかよりよく理解しているようだ。


 俺は今まで女性と付き合ったことがない。

 でもそんなこととは関係なしに、彼氏彼女となった次の日に恋人と狩りをするというのはちょっとズレていたようだ。

 一応レべリングを軽くでもするというのは俺とサクヤの親交を深めるためには良いと思っての判断だったんだが、できたてほやほやの恋人同士ですることの優先順位としては下か。

 反省しよう。


「ごめんなサクヤ。気づいてあげられなくて」

「! ううん! シンくんが謝ることなんてないよ! 私もレべリングしたいなって思ったのは本当のことだし!」

「だけど今はそれよりデートとか恋人らしいことがしたかったんだろ? 俺に気を使って隠さなくてもいいぞ」

「えうぅ……ま、まあ……確かに……恋人らしいことはしたいなーって思ってたけど……」


 そっか。

 なんだかんだでサクヤもちゃんと女の子らしい感性はあったんだな。

 だったら俺もちゃんと彼女の期待に応えてやらないとだ。


「ならデートをしよう、サクヤ」

「え? で、デート?」

「そうだ。よし、そうと決まれば鎧なんて外そう。デートにこの格好は無いからな」


 俺が全身を包む鎧を見て着替えるという意思を告げると、サクヤは上目づかいでこちらを見た。


「ええっと……本当にいいの?」

「いいだろ別に。恋人なんだから遠慮するな」

「う……うぅ……シンくぅん!」


 サクヤは俺の言葉を聞くと途端に涙目となって抱きついてきた。


 今までの俺ならここで「離せ馬鹿ヤロウ!」と怒鳴っていたところだろうけど、カップルとなった現在はむしろウェルカムなので快く受け入れる。

 するとそんな俺たちを見ていた氷室が「チッ」と舌打ちをした。


「恋人同士いちゃつくのは構わないが、そういうことは俺の目の届かないところでやってくれないかい? 見ていて非常に不愉快だから」

「なんだよ氷室。もしかしてお前サクヤのことが好きだったとかか?」

「そういうわけじゃあない……はぁ、もういい。後は勝手にしろ」


 どうやら氷室は俺たちのアツアツっぷりを見て嫌気が差したようだな。

 元々こいつには嫌われていたから、これ以上嫌われたって別にどうも思わないけど。


 それに氷室がサクヤに気があるだなんて俺も思っちゃいない。

 あいつはどっちかというとサクヤよりミナとかのほうが好みだろう。

 何気にあいつも元<ミーナちゃんファンクラブ>の会員だったらしいからな。


 けれど、もし氷室がアタックとかしたらミナは軽くあしらうだろう。

 ミナは男ファンに対して冷たいからな。

 よくアイドルなんてやれたもんだ。


 だがミナも女の子だからいずれ……


「……ん? 何よ?」

「いや、別に」


 一瞬、ミナが誰かと付き合ったらというもしもの可能性が頭をよぎった。

 でも実際のところその可能性は無いような気がする。


 どういうわけか、ミナが誰かと付き合っているビジョンが浮かばない。

 ミナのルックスなら男なんて選び放題のはずなのに、誰かと色恋をしている彼女の姿が想像できないのだ。

 まあ……そんなことを考える意味なんてないか。


 俺の彼女はサクヤだ。

 ミナがフリーだろうが誰かと付き合おうが俺には関係ない。


「デートをするならウルズの泉付近に最近できた地球人経営の洋菓子店に行くと良いと思うよ」

「ああっ、あそこってケーキがすっごく美味しいんだよねっ!」


 俺がミナのことに気を取られていたら、ユミとマイがそんなアドバイスを寄越してくれた。


 洋菓子店か。

 甘いものなら俺も嫌いじゃないし、サクヤも前にお菓子を美味しそうに食べていたところを見たことがあるので多分大丈夫だろう。

 デートと言っても今決まったことだから、どこにいくかなんて決めてないし。

 興味もあるからちょっと行ってみるか。


「わかった。貴重な情報をありがとうな、ユミ、マイ。それじゃあ一旦着替えなおすか」

「うん!」


 こうして俺はサクヤと一緒に部屋へ戻り、普段着へと着替えてデートの準備を始めたのだった。

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