異世界でゲームをする男
「おい! 楽しんでるか! ゲーマー共!」
それはとあるゲーマーの叫びだった。
自分を知る周囲の人々から拒絶され、虚構の世界に引きこもった少年の叫びだった。
「しけたツラしてんじゃねえ! 負けそうだからってなんだ! 勝てそうにないからってなんだ! そんなツラしながらゲームしてんじゃねえよ!」
少年の見つめる先にはレイド級のボスモンスターが佇んでいる。
クロスクロニクルオンラインにおいて、レイド戦とは30人のプレイヤーがレイドボスに挑むコンテンツ……であった。
しかし、現在ボス部屋に存在するプレイヤーの数はたったの10人。
それに加えて退路も塞がれている。
少年達にとって絶体絶命の場面と言えた。
「ああそうさ! 今俺達はヤバイ状況に追い込まれている! 負けそうな戦いを前にして挫けそうになっている! でも! でもなあ! 負けそうになった時こそ俺達ゲーマーの真価が問われるんだろうが! 負けそうだって思っても投げ出さず、目の前の敵をぶっ倒したいって思えるかどうかが俺達とライトゲーマーの違いだろうが! 目の前の敵をぶっ倒すために俺達は24時間ゲームしてんだろうが!」
けれどそんな中、少年は叫び続けた。
この世界から永久退場しかねない事態になってさえ、彼はゲームとしての楽しみを仲間に語り続ける。
それは仲間外れにされた少年の、誰かと一緒に遊びたかったのだという切実な思いから発露した言葉であった。
「この絶望的状況を切り抜けて! 目の前にいる敵をぶっ倒せたら! それはもう最高に楽しい瞬間が待っていると思わねえか! 強い敵を倒した時の喜びを味わいたいとは思わねえか! ゲームで一番楽しいその瞬間を皆で分かち合いたいとは思わねえか!」
戦闘をメインに置いたゲームにおいて一番楽しい瞬間。
それは敵を倒したときである。
また、敵が強ければ強いほどに倒した時の喜びは増す。
強大な敵を仲間と協力して戦うレイド戦における醍醐味の1つがこれだ。
「俺は味わいたい! 分かち合いたい! お前達だってそうだろう! そんな最高の瞬間に立ち合いたいだろう!」
故に少年は問いかける。
この場にいる9人、その殆どがヘビーゲーマーであり、協力して敵を倒すという楽しみを知っているのだと信じて。
「だったら勝とうぜ! 今! 俺達はコイツをぶっ倒すんだ!」
故に少年は立ち上がる。
この異世界――リアルで死ぬことがどのような意味を持っているのかを理解していながら、それでも彼はゲームとして戦い抜くことを決めた。
「さあゲームの時間だ! 廃人共! 盛大に遊ぼうぜ!」
故に少年はVRMMORPG(仮想現実大規模多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム)であるクロスクロニクルオンラインに酷似した異世界の地下迷宮最前線で、大盾を持って前へ出る。
回復職である少年シンは盾僧侶として、レイドパーティーのメイン盾をこなすべく、敵の前に立ち塞がったのだった。