旅立ち
ここは、人族の国でも最北端の山中にある小さな集落。
今日、一人の青年がこの村を旅立とうとしていた。
「本当に行ってしまうのか…」
「さみしくなるねー」
「おにいちゃんいっちゃやだ…」
青年の見送りには村の子供からお年寄りまでほぼ村の全員が集まっていた。
「すいません、どうしても果たしたい約束があるんです」
青年は見送りのみんなに頭を下げるとともに言った。
「そうかい…」
「がんばりなよ」
「おにぃ…ちゃん…っ‥っ」
そして、青年は最後まで泣いている女の子の目線があうようにしゃがむと優しく声をかけた。
「なにも一生会えなくなるわけじゃないよ。いつかまた、この村には戻ってくるからね」
「ほんと…?」
「ほんとだよ」
女の子の目を見ながらうなずく。
「お兄ちゃんがうそついたことがあった?」
「ない…」
「おちついたら戻るからね」
「うん」
「じゃあいつもの約束しようか」
「うん!」
女の子は少し元気を取り戻し小指をたてて右手を青年の前に出した。青年はそれを見て自分も小指をたてて女の子の小指と組む。
「「ゆ~びき~り……・・・・・・」」
女の子と青年が歌い、周りの大人はそれをほほえましく見守っていた。
そして、女の子との約束が終わりいよいよ出発の時がきた。
「いろいろと本当にありがとうございました」
「気をつけてな~」
「いつか必ず戻ってこいよ」
「やくそくだからね~!」
青年は最後に挨拶をし旅立っていった。村のみんなは青年の姿が見えなくなるまで見送り、青年は最後に一度だけ振り返り手を振ると見えなくなっていった。
青年の姿が見えなくなった後。
家に帰る者、仕事に戻る者動き始めた中で青年について話す者がいた。
「しかしあの青年は何者だったんだろうかね」
「さあね、でもあの若さであの強さだそうとう過去になにかあったとは思うが…」
「過去の詮索なんてやめとけ。過去に何があろうとあいつはあいつだよ。無償で村を救うようなお人好しなやつだよ」
「そうだな」
「がんばれよ、村を救ってくれた英雄さん」
そう言うと、残っていた者たちも各自村の中に戻っていった。