第7話「球技大会」
10月、可憐が委員長になって初めてのイベント球技大会が開催されることになった。俺は可憐のためにも俺自身のためにもこの球技大会は負ける訳にはいかなかった。
「お前ら! 今年こそは勝つぞ!」
「「うおおおお!」」
今日は球技大会のメンバー決めだったが俺は黒板を叩いてみんなのやる気を煽った。昨年、俺は可憐達と野球に参加したのだが決勝で惜しくも海渡が吐血して競技を続けることができなくなって負けてしまった。俺は今年も去年のリベンジとしてまた野球に挑戦することになった。
「海渡。お前。今日から大事を取って学校を休め」
「え。今からって球技大会まで一月くらいありますよ」
「お前はうちの主砲だ。また去年のようなことがあっても困る。学校はいいから休め」
「そ。そんな。やっと登校できるようになったのに」
海渡の居合い抜き打法は貴重な戦力だ。昨年は海渡のホームラン連発で俺たちは準優勝まで行けた。最後に海渡が離脱しなければきっと勝っていただろう。ここは大事を取って休んでもらうことにした。
「渡さんはどちらですか?」
「僕ですけど何か?」
「これに乗ってください」
「これって担架じゃ」
「早く手遅れにならないうちに!」
「礼音君これって」
「お前のためにいい病院をリザーブしておいた。お大事にな」
「そ。そんなー」
海渡は担架に載せられ救急車で病院に向かった。これで主砲は大丈夫だな。そこに美咲がじとっとした目付きでやってきた。
「相変わらずひどいんじゃない」
「今回は勝ちにこだわりたいんだよ。これくらいはしないとな」
「美咲。お前は今日から素振り千回がノルマだ」
「なんで。私がそんなことしなければならないの!?」
「今回勝てたらお前がほしがっていた真空管ラジオをやるから頼むよ」
「仕方が無いなあ」
美咲は仕方がなさそうに近くの椅子を持って素振りを始めた。
「ね。私は何をすればいいですか?」
「恵梨か……。恵梨は何もしなくていい」
「ひどくないですか? 私にも何か課題をくださいよ」
「そうだな。お前はセーフティバントの練習をしろ」
「セーフティバント? それって何ですか?」
「このビデオを見て研究しろ。研究したら後はバッティングセンターに通い詰めろ」
「分かりました! 早速研究してみます」
そう言うと恵梨はどこかに消えて行った。全くバッティングセンターでセーフティバントの練習なんて迷惑なやつだ。
「さて。可憐」
「何?」
「お前は今回もピッチャーだ。今日から俺とキャッチボールを日課にするからな。覚悟しろよ」
「えー。めんどくさい」
「去年のように後半球威を落とすなんて許さないからな」
「ボール、投げるの疲れる……」
「だから練習するんだよ。今から練習すれば三振取りまくりだぞ」
「別に取らなくていい」
「ここで活躍すればみんな可憐のこと認めてくれると思うぞ。やって見る価値は絶対ある」
「……」
あまり乗り気ではないようだったが俺の言葉を聞いて可憐は黙って考え込んでいた。
「やってみる」
「よし。じゃあ。今日から練習だからな」
俺と可憐は暇をみつけてはキャッチボールをした。放課後はもちろん、学校にグローブを持ち込んで休み時間も使ってキャッチボールをした。
放課後は家の近くの公園でボールが見えなくなるまでキャッチボールをした。
「なんだか懐かしいな。昔はよくキャッチボールしたよな」
「うん。やったね。懐かしいね」
と言っても可憐はボール投げがうまくなくて俺はキャッチボールというよりはボール拾いの方が多かった気がする。その頃の俺はあまりに可憐を構いすぎて友達を無くしてしまってまともに遊んでくれるのが可憐だけになっていたので嫌がる可憐に無理やりキャッチボールの相手をさせていた。
今現在も前よりはましにはなっているが絶妙に取りづらい所にボールを投げてくるのでとても疲れる。
「はあ。はあ。ちょっと休憩しようぜ」
「まだ30分くらいしかしてないけど……」
「このまま続けたら俺が死んでしまう。可憐。お前はしばらくそこの壁に投げて練習してろ」
俺はそう言うと地面に寝転がった。コンクリートの地面は熱い体を冷やしてくれてとても気持ちがいい。可憐はえい。えい。言いながらコンクリートの壁目がけてボールを投げている。俺は野球にそれほど詳しくはないが可憐の投げる姿はとてもひどかった。あれではまともなボールはいかないだろう。
「可憐。ちょっと来い」
「ん」
俺は可憐にボールの握り方から投げるまでの動作を事細かに教えてやった。中々癖が治らないようで最初はかなり苦労したが何日か根気よく教えているうちにとりあえずはまともなボールは返ってくるようになってきた。なんだってそうだが最後まで諦めないことだ。焦らないで少しずつ頑張っていけば必ず目標に近づくことができる。可憐の学校での印象も少しはよくなっていけばいいなと思った。




