第6話「魔王クラスを統べる」
先生に授業を妨げたことで俺は注意を受けた。その後の昼休みに可憐にさっきの提案を再びした。
「可憐。お前クラスの委員長をやらないか?」
俺は可憐にクラス委員長をやらせることにした。このクラスの代表者となって頑張ればみんなもそのうち可憐のことを認めてくれるかも知れない。悪いイメージだけが先行しているので可憐の良さをみんなに知ってもらえれば絶対にみんなも可憐のことを好きになってくれるそう思ったからだ。我ながらいい考えだ。
「そんなのできないよ」
「可憐には無理よ。何言っているの」
「そんなことは無い可憐はやればできる子だ。ほら昔から言うじゃないか。可愛い子には旅をさせろってさ」
「それは何か違う気がします」
「いや。でもやってみてくださいよ。ごほ。ごほ」
「海渡。お前……退院したのか?」
「ああ。こんな大事な時に寝ているなんてできないですからね。ごほ。ごほ」
今まで気付かなかったが海渡はいつの間にか退院したようだった。正直存在すら忘れていた。すまない。
「可憐。いいのか。お前このままだとこれからも今のままだぞ」
「だから。可憐には無理だって」
「うるさいな。お前は黙ってろよ!」
「何よ!」
美咲は俺の右足の肉が一番少ない脛の部分を思い切り蹴った。この馬鹿力女め。
「痛! この野郎。表にでやがれ!」
「私。やってみるよ」
「「え!」」
俺と美咲が教室の外で因縁の決着をつけようとしたところで可憐が決意を表明した。委員長をやるということだ。俺は無理くりにでもやらせるつもだったが自分から決意してくれたので正直意外ではあった。
「おーし。よく言ったぞ。可憐。後は俺に任せろ」
「ねえ。大丈夫なの? 可憐。クラス委員長だよ。図書委員長とは訳が違うんだよ」
美咲は心配そうに図書委員長を敵に回すような発言をしていたが可憐は一大決心したような顔をしていた。それでこそ真木家のお嬢ちゃんだ。
俺たちの学校のクラス委員は一応半年の任期だ。ただ誰もやりたい人がいないことが多いので前期でクラス委員長をやったものがそのまま後期もやることになることが多い。みんな嫌がる役職だから就任できる勝機はある。いまのクラス委員長も別にノリ気でやっているわけではないで誰か他にやりたい奴がいれば代わるはずだ。男子と女子から一人ずつ選出されるので俺もサポートとして立候補することにした。
その後、クラス委員が選出される日になった。俺たちは事前に打ち合わせをして可憐を全面サポートすることにした。副委員長に美咲が立候補することにし、他の恵梨と海渡も可憐が困った時は手伝うことに決めた。
「えー。誰かクラス委員やるやついないか? いないのか。いないなら委員長はそのままにするぞ」
可憐はクラス委員長をやることを決心したが恥ずかしがっているのか中々手を挙げない。このままでは決まってしまう。無理強いはできないが俺は少々イライラして前の奴の椅子を蹴っていた。可憐の後ろの席の美咲は我慢できずに可憐を鉛筆で突っついて早く手を挙げるように促している。
「わ。私やります」
ようやく自信なさそうに手を挙げる可憐。まさかの人物が手を挙げたので教室はざわついた。ひそひそと陰口が聞こえる。
「か。可憐か。わ。分かった。他にはいないか」
「俺もやるぞ」
約束どおり俺も手をあげることにした。
「なんで。魔王がクラス委員なんか……」
「じゃあ。お前がやるかクラス委員長」
俺はクラスメイトの田中なんとか言った奴がふざけたことを言い出しので思わず喧嘩腰に言ってしまった。
「俺はそんなものはやらないよ」
「だったら可憐がやっても問題は無いだろ」
「……まあ……な」
「みんなもいいよな!」
誰も何も言わなかった。自分はやりたくはないが魔王の血を引く可憐が自分たちのクラスの代表になるのはどうなのかと思っているのだろう。何て勝手なんだ。
とにかく俺と可憐はクラス委員長に就任し、美咲が副委員長に就任した。可憐もヤルと決めたからには頑張ると健気に宣言してみせた。
その後、可憐はクラス委員が集まる集会で邪険にされたり、クラスで何かを決めるときに誰も手伝ってくれないなどということもありながらも健気に任務を務めた。俺も励まし続けた。俺の力が足りないところは美咲や恵梨がサポートしてくれた。海渡はあまり学校に来ないことが多かったので役に立たなかった。
最初はクラスの連中も可憐のことを陰で批難していたが可憐の頑張る姿を見て、だんだんと認めるようになってきた。可憐はいい奴なので当たり前と言えば当たり前だ。可憐がクラス委員長になって3ヶ月くらいするといつの間にかクラスでは無くてはならない存在になってきた。今では委員長。委員長とみんなから頼られている。
「委員長。ここ教えてくれよ」
「いんちょー。次の移動教室どこだっけ?」
「委員長~。アイテムが取れないんだよ」
「委員長。昼飯代が無いんだよ。頼む! お金貸して!」
可憐の努力の成果だがクラスの中では今では可憐ことを悪く言う奴は一人もいなくなった。これが学校全体に広がれば可憐も学校で過ごし安くなるだろう。俺たちも可憐の友達として安堵していた。これからはきっといい方向に進んでいくはずだ。俺たちはそう信じていた。あの事件さえ起きなければ……。