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お隣は魔王家  作者: kaji
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第4話「赤い瞳に涙」


 美咲の家を出て、家に帰る道すがら俺は可憐のことを考えていた。美咲達と馬鹿なことをやっているときは気にはならなかった。いや、気にしないようにしていたが可憐はこれからどうなるだろう。またこの前のようなことがこれからも起きるかも知れない。今までは被害は小さかったが下手すると人が死ぬ自体が起きないとは言えない。そうなった時に俺は果たして可憐が撃てるだろうか……。

考え事をしているといつの間にか自分の家の前まで来た。隣の可憐の家を見る。とても魔王の血を引く一家の家とは思えない程普通だ。俺はしばらく可憐の家を見つめた。きっと可憐は起きているなら畑にいるだろう。きっと苗一つずつに名前をつけるという気持ち悪いことをしているだろう。思わず俺の顔に笑みが溢れる。あいつは変な奴だが悪い奴じゃない。

 躊躇したが俺は結局可憐に会いに行くことにした。可憐のことが気になったからだ。たぶん可憐がいるだろう真木家の庭に行った。真木家の門をくぐり裏庭に回った。案の定可憐は畑いじりをしていた。一番好きな畑いじりをしているのに心なしか元気が無いように見えた。俺は思い切って声をかけた。


「可憐……もういいのか?」

「礼音。う……うん」


俺の出現に少々驚いていたが俺に少し目線を上げて、再び畑仕事に集中し始めた。俺は可憐に近づいて可憐が作業している近くにしゃがむ。


「……」

「……」


無言で作業する可憐。俺も可憐の作業を邪魔したくは無かったので黙っていた。作物の成長を妨げる雑草をひたすら抜いて捨てる。その作業を繰り返していた。

 しばらく可憐の畑仕事を見つめていると可憐はトマトをちぎって俺に差し出してきた。


「私がいなくなったらこれを私だと思って……」


これは俺の突っ込み能力が試されているのか……。冗談にしては笑えない。彼女は彼女なりに覚悟しているのだろうか。あの馬鹿親父が余計なことを言ったのだろうか。俺には可憐が何を考えているのか分からなかった。俺が一番可憐のことを理解しているはずなのに。


「分かったよ。これを可憐だと思ってサラダの付け合せにして食べるよ」

「……うん」


結局俺はつまらないコメントしかできなかった。

可憐は俺の言葉に笑いも突っ込みせず再び視線を畑に戻して作業に戻った。


「私……来年はスイカを作ろうと思うんだ……うまくできたら一緒に食べようね」

「ああ。楽しみにしているよ。そのスイカでボーリングをしよう」


 果たしてその日は来るのだろうか。でも俺だけはその日があると信じるしか無い。可憐にはいつまでも畑仕事をさせてあげたい。だが俺に何ができるのだろうか。勇者の血を引いているとはいえ、俺には何も特別な能力はない。俺の先祖ならどうしたのだろうか。俺は自分の能力の無さに絶望した。

 家に戻るとじいさんに自分の部屋に来るようにと言われた。志麻遊音(しまゆおん)。勇者の力を受け継いだ最後の世代。ある程度の魔法を使えるという話は聞いたことがあるが俺は一度も見たことは無い。腰の曲がった禿頭のじじいだが未だに威厳は損なわれてはいない。親父もじいさんにだけは頭が上がらない。俺はじいさんの前に行くと未だに緊張して嫌な汗をかく。じいさんは志麻家の敷地内の離れに住んでいるので俺はそこに向かった。

 離れまで行くとじいさんは離れの縁側に座っていた。世界を救ったという俺の先祖が亡くなってから一番色濃く勇者の血を受け継いでいる俺のじいさん。いくら老いているとはいえただ座っているだけで何かオーラのようなものを感じる。


「こっち来てここに座らんか」

「……はい」


俺はじいさんの言う通りに爺さんの横に座った。俺は異様に緊張していた。何か悪いことをした訳では無いのに何を言われるのか恐怖していた。


「可憐のことじゃがの。わしとしては今すぐに処分するべきじゃと思う」

「そんな……」

「じゃが可哀想な気がするでも無い。まだ今のところ被害も少ないことじゃしの」

「何とかなりませんか? 俺が可憐を抑えて見せます」

「抑えるとは? 礼音。お前に可憐が抑えられるのか? どうやって?」

「そ。それは……」


 じいさんの迫力にびびってしまって俺は言葉に詰まってしまった。俺には具体的な方法もビジョンも無い。ただ漠然と可憐を抑えると言っているだけだ。俺が何か言うのをじいさんは辛抱強く黙って見ている。

 俺が何も言えないでいるとじいさんはやれやれといった感じで俺の肩に手を当てて俺に語りかけた。


「……。礼音がお前がそう言うのじゃったらわしがとやかく言うことでは無いな。ただ覚えておくのじゃ。手遅れになったとき一番傷つくのは他ならない可憐じゃということを……」

「……」


俺は何も言い返せなかった。確かにその通りだ。もし可憐の覚醒で何も関係が人が傷ついたり死んでしまったら一番傷つくのは可憐だ。


「礼音。お前はどういう選択をするのじゃろうな。わしはお前の選択を見守ることにするとしようかの」

「それは可憐を処理はしないということですか?」

「事が起きるまで静観するということじゃよ。事が起きてお前が何もできない時にはわしは祖先の言葉を実行するだけじゃ」

「分かりました」

「では後は礼音。お前に任せたぞ。……わしのような選択をしないようにな」

「……? あの今何と?」

「いや。何でも無い。色々疲れたじゃろ。もういいぞ」

「はい。失礼します」


 何かじいさんが呟いたような気がした。その時、俺はその先の話を聞こうかどうしようか迷ったが結局聞かなかった。その先の話を聞くのがなぜか怖かったからだ。


 次の日、今日は可憐も学校に行けるようだったのでいつものように畑まで可憐を迎えに行って一緒に登校することにした。今日も可憐は元気が無い。学校に行きたくないのかいつもよりも歩みが遅い。口数もいつもよりも少ないし俺も昨日のじいさんの言葉が引っかかって何て声をかければいいのか分からなかった。


「私何で生まれてきたんだろ……」


 急に可憐はぼそっと呟いた。昔はよく聞いた言葉だったが最近は聞かなくなっていた。俺の中で小さい時の色々なことがフラッシュバックする。俺は彼女の口からこんなことを再び聞きたくはなかった。俺は思わず涙が溢れそうになったが何とか耐えた。


「私今までいいことなんて何もなかった。気がついたら魔王、魔王って言われていじめられて……私、魔王じゃないのに」

「……可憐」


 可憐は泣いていた。燃えるような赤い瞳を冷やすかのように大粒の涙が可憐の瞳から零れ落ちた。俺はどうしようもできずに黙って可憐の傍で可憐が泣き止むまで立ち尽くしていた。

 俺は何とか泣き止んだ可憐を学校まで連れて行ってから授業中ずっと考えていた。俺は間違っていたのかも知れない。今までは可憐の悪口を言う奴、いじめる奴は俺がぶっ飛ばせばいいと思っていた。でも俺が何人、何十人ぶっ飛ばそうが可憐の印象が変わらない限りはずっとこの状態が続く。今まで俺が十数年付き合ってきたが昔と今の現状はが殆ど変わっていない。このままだといつまでも可憐は自分の境遇に涙するだろう。俺もそんな可憐を見ているのはとても辛い。

 俺は決意した。可憐のイメージアップ作戦決行しよう。みんなに可憐の良い所を分かってもらおう。いくら時間がかかってもいい。時間ならいくらでもある。可憐が悲しまなくてもいい世界を俺が作ってやろう。そのためにはどうしたらいいだろうか。俺は必死に無い頭を使って考えた。何となく明るい未来が見えてきた。この時はそう思っていた。

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