第五話「可憐vs美空(前編)」
第五話「可憐vs美空(前編)」
前回の恵梨と美空の対戦で「るい~だ」が潰されたことで、恵梨はひどく落ち込んでいた。美空というと前回の対戦は終盤から殆ど覚えていないようで次の日もけろっとしていた。今日はわざわざ昼休みに礼音達の教室に来ていた。
「あとはあなただけです。可憐さん」
「可憐ちゃんどうする?」
「私、レベル上げが……あるから無理~」
最近可憐は、某有名RPGに夢中だった。今も食事をしながら白い携帯ゲームでピコピコしている。
「可憐ちゃんやりたがってたものあったじゃない」
「私、何かやりたがってたっけ」
「この間テレビを見ながら、これやりたいって言ってじゃないですか? 草むらで鉄砲で打ち合いするゲームですよ」
「それはサバゲーですよ。恵梨さん。サバイバルゲーム」
「私それやりたいです」
「細かいルールは私に任せて。美空もそれで異存ないわね」
「わたしはそれで構いません。どんなルールでも負けませんから」
「とりあえず美空、海渡チームと私たち他のメンバーで対決することにしましょう。百人人対百人のサバイバルゲームね。武器はこちらで用意するから頭数は揃えてきてね」
「なんだか……大事になりそうだな」
「それでは勝負は……そうね。準備もあるから二日後の放課後に学校にて行います。では解散!」
美咲の号令に美空は自分の教室に帰っていった。
◇
「百人たってどうやって用意するんだよ」
「それは恵梨に任せて、前回の屈辱は晴らします」
前回の『八時間耐久シュークリーム大食い対決!』で「るい~だ」は渡兄妹によって破壊されてしまい今は休業状態に陥っていた。それで今は学校の食堂で「るい~だ」勇者記念学園支店として営業している。
「あてがあるのかよ」
「はい。任せてください。可憐ちゃん絶対に勝ちましょうね。恵梨は可憐ちゃんの味方だからね」
恵梨は可憐の手をぎゅっと握った。
「ん?」
可憐は何のことだか分かっていないようだった。
◇
お昼が終わると、恵梨は携帯である人物にかけていた。ツーコール目でその人物は電話に出た。
「恵梨です。可憐隊招集です……ええ、今すぐにです」
恵梨は一番奥のD棟の一階の一番隅の教室に向かっていた。そこは今はいらない椅子や机などを置いておくために使われている教室で一応鍵はかかっているのだが、誰かが鍵を閉め忘れていたらしく、それ以来一番奥のドアは開くようになっていた。
恵梨は教室のドアを開け、中に入っていった。中は黒いカーテンが引かれ、真っ暗だった。そこに頭に黒い頭巾を被った集団が狭い教室に数えきれないほどいる。服装は制服なのでこの学校の生徒だと思うが、スカートを履いている者、スラックスを履いている者など様々だ。
恵梨は教壇に立つとしばらく周りを見回した。その様子を見て、ざわついていた教室内は一気に静まった。
「副隊長さん。人数をお願いします」
「可憐LOVE隊五十七名、可憐様を生暖かく見守る会三十二名、KSC(可憐様サポーターズクラブ)十一名、計百名です」
「少ないですね。正直がっかりです」
「申し訳ございません。急な招集でしたので」
「まあいいでしょう。みんな。ついにこの時が来ました。我々、可憐隊は可憐さんに見つからないように極秘裏に活動しておりましたが、ついに日の目をみることになりました」
教室中からは「ついにこの日が来たかー」「待った甲斐があったぜ」「俺はこのために今日まで生きてきたんだ」などとみんなそれぞれ話しているのが聞こえる。
「詳細は今渡している用紙に目を通して確認してください。恵梨達はこの戦いは可憐さんのために必ず勝たなくてはなりません。みんな力を貸してくれるでしょうか?」
恵梨の声に応じて、同意の声が教室中からあがった。それを聞いて恵梨は胸をなでおろした。
「お前達。恵梨達には負けの二文字はない。よく覚えておけよ! いいな! 可憐! 可憐! 可憐!」
「「「可憐! 可憐! 可憐!」」」
恵梨が右腕を振りあげて叫ぶとそれに合わせて、教室中から可憐コールが鳴り響いた。このコールはお昼時間ぎりぎりまで続けられた。
◇
サバイバルゲーム当日の放課後。礼音達はA棟屋上に集合していた。
「ルールはこんなもんね」
美空が事前に配っていたルールが書いている神にはこのように書いてあった。美空、海渡率いる渡軍団と可憐、礼音、美咲、恵梨率いる魔王軍団の対戦。渡軍団の大将美空か魔王軍団大将可憐のどちらかが討ち取られるまで勝負が続く。または屋上に置かれたフラッグを取られたら終了。対戦場所は勇者記念学園のA棟とB棟に別れて行われ、三階建ての一階に渡り廊下があるが、そこ以外からは行き来はしてはいけない。一撃喰らえば退場とする。対戦時間は二時間とするなどなど箇条書きにされていた。
「武器はこれ使うから、みんなの分あるから順番に受け取ってね~」
らいとせーばーのような七十センチ程の金属製の筒のようなものを受け取った。握るところに四つほどボタンがある。一番上の透明なプラスチックのカバーの下の真っ赤なドクロマークのボタンが非常に気になる。
「千九百八十円ね。まいどあり~」
「え! 金取んの?」
「当たり前でしょ。慈善事業でやってるんじゃないのよ。糞虫(弱)、雑魚(中)、ホモサピエンス(強)神(危険)レベルまでの五段階選べます。絶対に雑魚レベルから電圧をあげないでください。はい。どうぞ。まいどあり~」
「それであの怪しい人がいっぱいいるのですが」
礼音が周りを見ると、黒いスーツにサングラスの集団が恐らく百人ほどいる。
「私の父の部下ですが何か?」
美空さんは何をやっている人なのだろうかと礼音は気になったが聞けなかった。
「それと恵梨こいつらは何だ?」
それに負けずと劣らず黒い頭巾を被った明らかに怪しい集団がいる。頭巾の下は大体の人間が学校の制服を来ているので、この学校の生徒だと思う。ただ筋骨隆々の半裸の人やアロハを来ている人、明らかに小学生並みの小さい子や腰が曲がっていて杖を付いているおじいさんらしき人もいる。これが恵梨の言うあてなのだろうか?
「私のお友達ですよ? 悪いです?」
「いや……悪くはないが……なんというかさ」
「ついにこの時がきたぞおおおおお! おまえらああああ!」
「うおおおおおお」
恵梨の雄叫びに合わせて咆哮した。
「私たちも負けない。今日負けたら減俸ですからね。気合いれてくださいね! 」
「おおおおおおお!」
美空の声に合わせて黒スーツ軍団も咆哮した。ものすごく怖い集団だ。
「それでは五時開始ですので定位置についてください」
「可憐さん。私負けませんからね」
「……」
美空が可憐に挑発を仕掛けたが、可憐は無視していたというか、携帯ゲームに夢中でした。
二十分後に、対戦を開始することを決めて、美空達はB棟へと向かって行った。
「美咲。先生には何て許可取ったんだよ」
「うん? あー。大規模な避難訓練をしますからと言ったら許可取れたよ」
「まじかよ」
大丈夫か。この学校。
「それよりも作戦決めましょ」
「そうだな」
相談の結果、美咲率いるB棟に侵入するアタックチームとA棟の防衛をする恵梨チームに別れることにした。
「礼音は屋上で可憐を守って。病み上がりだし。その代わり人数はもらっていくからね」
「ああ。どうぞ。居ても邪魔なだけだ」
「じゃあみんな絶対勝つぞー!」
「「「「おー」」」」
魔王軍団全員で気合を入れて、各持ち場に散らばった。大将の可憐はゲームに夢中のようで、屋上にあるパラソル付きのテーブルセットの椅子に座ってのんきにしている。テーブルの上にはジュースやお菓子が満載だ。なぜか、屋上を満喫している。
『ゲームスタート!』
ゲームの開始が宣言され、学校中から地響きと唸り声が響き渡った。礼音は頼むから普通に終わってくれと心から屋上から祈っていた。