表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お隣は魔王家  作者: kaji
26/29

番外編お隣は魔王家D第三話「恵梨VS美空(前編)」

 対決方法は美空が強引にくじ引きによってきめることになった。理由は恵梨が実現不可能な勝負方法ばかり(逆立ちで四国一周やうぉーりーを探せ!等)提案するので、各自が対決方法を書いて可憐お手製の紙で作ったボックスに入れてそれを引くことになった。

「それでは引きます!」

 美空がボックスを右手でぐるぐるとかき混ぜて、一つの紙を取り出した。紙をいそいそと開き、凝視する。美咲は残った美空らを見つめ叫んだ。

「発表します! 八時間耐久シュークリーム大食い対決!」

「また……すごいのが来ましたね」

「誰が書いたのでしょうか」

「やった~。私の書いたのだ」

 可憐さんが書いたものようだ。意外に酷な例題だと美空は思った。可愛い顔をしてあなどれないとも思った。

「可憐さん、なぜこの例題なのですか?」

 海渡が聞いた。

「おいしそうだから……かな」

「可憐。あんたは食べられないのよ」

「え~。残念」

 可憐はしょんぼりして、俯いた。それほど、シュークリームが食べたかったのだろうか。八時間も……。

「ちなみに他のは何なのですか?」

 美空が気になって美咲に聞いた。自分の考えたものの他にどんなものがあったのか気になったからだ。

『屋上からバンジージャンプ早飛び対決(美咲)』

『えんどう豆早移し対決(海渡)』

『るい~だ 人気メニュー早当て対決(恵梨)』

『トマト祭り(?)』

 美空は一番ましだったかもと思った。ちなみに美空は『百人斬り(笑)(美空)』という紙を入れた。美空はアメが大好物なので甘いものは得意中の得意としている。この勝負は勝ったも同然だ。

「え~。それでは時間は明日の朝四時より、るい~だにて行います」

「朝早いですね」

「お店があるから仕方がないのです」

「それでは解散!」

 みんな口々にぶつぶつと言いながら解散した。恵梨と美咲は明日のシュークリームの準備のためにるい~だに向かった。可憐は礼音のお見舞いのために、病院に向かうことにした。

「私は今からお腹を空かせるために走りこみをします。兄さん付き合ってください」

「私は、これから礼音くんのお見舞いに……」

「そんなのはいいですから早く来て下さい」

 海渡は美空に引きずられて走りこみに付き合わされることになった。


      ◇


 礼音は救急車にて勇者記念病院のVIP室に運び込まれた。緊急手術ならぬ備え付けの僧侶さんに回復魔法をかけてもらった。おかげさまで全治三ヶ月が三日に短縮された。バラバラだった足の骨も回復。医者に「八割回復しましたが、絶対安静ですよ」と三回も言われた。何かの前振りなのだろうか。

 可憐は礼音に菊の花をお見舞いにもってきてくれた。美咲に俺が喜ぶからもっていけと言われたそうだ。何も疑問に思っていない可憐は可愛かったが、美咲は後で潰そうと思った。

それはいいのだ……いいのだが。

「……」

「お前は何しに来た」

 先ほどから黙って座っている「るい~だ」と書かれた鉢巻に白の調理服に白のミニスカーとの少女が座っている。ラーメン屋「るい~だ」の一人娘、恵梨だ。起きたらいつの間にかいたのだ。じっと座っているので、見つけたときにはあまりの驚きにまた骨を折りそうになった。

 礼音は恵梨に先ほどから話しかけているのだが、何も喋らず窓の外を見ていた。礼音も諦めて放って置くことにした。しばらく礼音はステーキの焼き方辞典を読んでいると急に恵梨はしゃべり始めた。

「恵梨ですね。パパのるい~だを継ぐのが夢です」

「おい。急に何の話してんだ!」

 恵梨が唐突に語りだしたので、礼音はびっくりした。せっかくウェルダンの正しい焼き加減の章を真剣に熟読していたのに台なしだった。

「……恵梨ね。パパのるい~だを継ぐのが夢なんです」

パパってあのアメコミに出てきそうな筋骨隆々の親父のことだろう。あれで元聖職者だから恐れ入る。あれはパパではないパパというのはアメリカのドラマに出てくるようなスマートでスーツを着ていて、「週末はレストランでディナーだな」なんていうのが、パパというものだ。

「恵梨の先祖が教会から破門されて、恵梨のパパは一人でるい~だを立ち上げたんです。パパはラーメンなんて作ったこと無かったけども、ラーメンなら結構楽にできるだろうと思って、つてを頼ってラーメン屋の修行に出たんです。そこでパパはうーんと苦労して、何人のラーメン職人を血祭りにしたか数えきれないってこの間パパは笑いながら話していたんです。恵梨の目標はね。るい~だを大きくしたいんです。今のるい~だを百人収容可能な三階建てにして、ゆくゆくは全国展開が目標です。私のオリジナルの齧るラーメンさえあればきっと全国制覇(齧るラーメンについては第五話参照)も夢じゃないと思うんです」

 恵梨は誰に喋っているのか分からないし、話がどんどん飛んで結局何を話したかったのかよく分からなかった。とりあえず礼音は齧るラーメンで全国制覇は絶対無理だろうと思った。そんなものを普及させる前に礼音はその麺を一本ずつへし折ろうと決意した。

「おい。一人で勝手に盛り上がるなよ」

「……ごめん。恵梨負けないからね!」

「だから何の話だよ」

「じゃあね……齧るラーメン置いていくから元気だしてね」

「お……おい。だから何の話なんだよ! てか置いてくなよ。いらないよ」

 恵梨は齧るラーメンをピラミッド型に積んで置いていって勝手に出ていってしまった。結局、何をしに来たのだろうか。


      ◇


 場所は変わって、渡家では美空と海渡が言い争っていた。三時間も走りこみに付き合わされた海渡は死にそうであった。このままでは殺されてしまうと思った海渡は美空にこの対決を止めるように促すことにした。

「美空さんいい加減にこんなことは止めてください」

「兄さんが何と言おうとも私は止めませんから」

 先ほどから海渡は冷静に美空がこの対決を止めるように説得しているのだが、美空は全く聞く耳を持たなかった。

「とにかく私は全員倒して見せますから見ていてくださいね」

 美空はそう言うと白装束を翻して、自分の部屋に引っ込んで行ってしまった。

「全く美空さんには困ったものです」

 海渡は一人残され、ため息を吐いた。仕方がないので海渡は指を鳴らして『渡軍団』を呼ぶことにした。


      ◇


「絶対に家から出さないようにしてください」

 黒スーツの『渡軍団』渡家の私営軍隊(詳しくは番外編2~海渡編2参照)の一人、コードネームプリンに海渡はそのように命令した。

「海渡様のご命令でも無理です」

 気の弱そうなプリンは前回のトラウマがあるのか、あろうことか海渡の命令を断った。

「そうですか。ではとんこつはどうですか?」

 とんこつと呼ばれた『渡軍団』軍団長は恭しく海渡の前に跪いた。

「海渡様、私がどんな手を使ってでも止めて見せます」

「とんこつ……任せましたよ」

「お任せください。このとんこつ二度も負けはしません」

 とんこつは前回、美空に破れてからより一層鍛錬に励んでいた。そして、今度こそ主人の命令を遂行してみせると意気込んでいた。


      ◇


 次の日の早朝三時頃、広間で勝負に出かける支度をしている美空の所にとんこつが慌てて駆けこんできた。

「お嬢様、海渡様が吐血なさいました」

「どこなの?」

 最近は体調がよかった海渡ではあったが、ごく稀に吐血することがあったので、美空は一瞬背筋が凍った。

「こちらです」

 とんこつに連れられるままに美空は兄の部屋からどんどんと遠ざかっていった。美空は少しおかしいなと思ってはいたが、それよりも頭は兄のことでいっぱいだった。

「兄さん! どこなの! とんこつどこですか! といいますかここって地下室じゃないの?」

 美空がとんこつに連れてこられて場所は渡家の地下室前だった。鋼鉄製のドアが威圧感たっぷりで、簡単には破られないようになっていた。普段は緊急用の食材などの保管場所で使われていて殆ど来ることはなかった。美空も前に来たのがいつなのか思い出せないくらいだった。

「海渡様はおむすびを食べながら地下室を通りかかり、思わず落としてしまい、地下室に入った所で吐血なさいました」

「本当?」

「本当であります。このとんこつ。嘘は申しません。それよりも早く海渡様がお待ちです」

「そうね。兄さん!」

 とんこつは美空が地下室に入ったことを確認すると素早くドアを閉め施錠した。とんこつの作戦は美空を地下牢に閉じ込めることだった。

「え! ちょっと何するの?」

「お嬢様。申し訳ございません。お嬢様にはしばらくここで大人しくしていただきます」

「とんこつ……。後でひどいからね」

 とんこつは今まで美空に受けた教育と言う名の暴力を思い出し、冷や汗をかいた。

「……全ては海渡様のご命令なのです! 私は悪くないのです。申し訳ございません~!」

とんこつは泣き叫びながら走り去った。

「こら! とんこつ! 帰ってこいー」

 ガンガンと鋼鉄製のドアを叩くがもちろん開くことはなかった。どうやら兄にまんまとはめられたようだ。後で、とんこつには地獄を見てもらうことにしようと美空は思った。


 シーン。


 とんこつがいなくなるととたんに静かになった。家の人間でもめったに来ることはない地下牢なので、当然誰も来るはずはなかった。

「どうするの。これ?」

 美空は地下室で呆然としていた。食料はあるので当面はどうにかなるのだが、これでは恵梨との対決時間に間に合わなくなってしまう。美空は頭を抱えて座り込んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ