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お隣は魔王家  作者: kaji
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番外編お隣は魔王家D「第二話 美咲VS美空」

第二話「美咲VS美空」


 放課後、美咲と美空は学校の屋上にいた。勇者記念学園はA棟、B棟、C棟、D棟と分かれていて、それぞれに屋上がある。学校のA棟とB棟の屋上を使っての綱引き勝負をすることになった。ちなみにA棟とB棟は十メートルほど離れていて、綱は日本綱引き協会認定の長さ三十六メートルの綱を使うことにした。綱は恵梨がどこからか用意してきたらしい。校舎は三階建てだ。いくら勇者記念学園のGショックと言われているほど、耐久性には自信のある美咲でも落ちたらただでは済まないだろう。

 そのためにA棟B棟の間にはマットと礼音が控えていた。

「落ちたら絶対キャッチしなさいよね!」

「無理だから! たとえキャッチできたとしても俺の腕が持たないから!」

 勝ったほうが海渡を自分のものにできる。というか美咲には全く利益が無いような気がする。A棟には美咲、B棟には美空が控えている。それとA棟に審判として恵梨が、モブとして可憐がいた。海渡はまだ保険室にいた。美空は足袋を脱ぎ、裸足になった。

「こちらの方が力、出ますから」

「私はこれを外すわ。これが外す日が来るとは思ったけど」

 美咲は両肩に付けていたプロテクターを外した。美咲がプロテクターを地面に放り投げるとものすごい音が轟いた。なぜ美咲が普段付けていないプロテクターを付けていたのかについては誰も突っ込まなかった。

「僭越ながら恵梨が審判をさせていただきます。レディー……ファイ!」

 A棟にいる恵梨が屋上の端ぎりぎりに立ち、試合開始を宣言した。その瞬間綱にものすごい力が加わり、綱がギシギシとしなりだした。当初の予想ではパワーがある美咲に分があると思われていたが、今の所、互角の勝負だった。パワーの美咲と技術の美空。美咲は単純な腕力だけだが、美空は重心を出来る限り低くして、体重を思い切り後ろに持ってきている。

 美咲がパワーで引っ張ると、美空はそれに対抗して技術で押し戻す。一進一退の攻防である。

「やるわね」

「あなたこそ」

 互角の勝負いや、よく見ると若干美咲の方が優勢か。さすがのパワーの持ち主である。

「さすがは美咲さんです」

「美咲ちゃん頑張って~。美空ちゃんも頑張って~」

 恵梨がその様子を見て、感嘆の声をあげ、可憐はどっちを応援していいのか分からずとりあえず二人とも応援することにした。

 聞いた話では美空は子供の頃にりんごを素手で割り、タウンページを引き裂き、ジャ○プを引き裂いたが、ガン○ンは引き裂けなかったという逸話を持っている。

「○ンガンの厚さは異常だよね。仕方がないよね」

「人も殺せる程の厚さと重さを持っているガンガ○。立ち読みすると腕が筋肉痛になってしまいますよね」

「その話題はもう止めなさい! 気が散る!」

 可憐と恵梨の脳天気な会話に美咲は思わず切れた。しかし、なぜ互角なのか。その答えは美空の足力にある。美空は異常なほど土踏まずが発達していて、足力が半端ではないのだ。子供頃から美空は父の教育の一環で靴を履くことが許されなかった。学校も裸足で登校していた。そのおかげで異常なバランス感覚を手に入れた。美空は天然のエアーマックスを完備しているのだ。

「美空さんそんな危険なこと止めてください」

「兄さん。私絶対に負けませんから」

 B棟に海渡が現れた。それを見た美空はちらりと海渡を伺うとうれしそうな声をあげた。

ただ、それよりもマジックが……。海渡のちょび髭とカールの揉みあげはそのままだった。

(兄さんものすごく説得力がないです)


      ◇


「恵梨達は暇ですからトランプでもしましょうか」

「うん」

 恵梨と可憐は暇を持て余してトランプの銀行を始めだした。礼音も最初は気が気で無かったが一向に勝負がつかないのを見て、トランプに入れてもらうことにした。

 それにしてもだいたいそのそもそもなぜ綱引きなのか。試合前に礼音は美空に聞いていみたのだが、美咲の話によると綱引きは世界的な勝負の方法で、日本では国境争いに使われ、アンコールワットにも神々が大蛇を引き合っているレリーフが残っているらしい。それなので勝負と言えば綱引きしか考えられないらしいのだ。まずその考えがよく分からない。

 美咲のことだから電球のメーカー当てクイズとか、このリモコンはどのテレビのリモコンか当てクイズとか、テレビとDVDプレイヤーの配線早取り付け対決やCDの円盤投げ飛距離対決や自転車自家発電対決など自分の有利な勝負をするかと思ったが、誰もが予想がつかない綱引き対決に決めた、何か美咲なりの考えがあるのかもしれない。

「私と言ったら綱引きでしょ!」

 などとさらりと言っていたが、全くそんなイメージはないし綱引きをやっている所など見たことがない。どうせ昨日の夜にプロジェクトなんちゃらを見て、感化されたに違いない。あの番組の演出力は異常だ。あれを見ると、あまりのかっこよさに次の日からその仕事をしたくなる。この間、二時間スペシャルで缶拾いで生計を立てている人の特集をやっていたが、俺は次の日から思わず缶拾いをしていた。その効力も三日しか持たないが、あのナレーションと音楽と映像の融合は異常だ。


     ◇


 二時間後……。

「美空さん、膝がぷるぷるいっているみたいですけどそろそろギブアップした方がいいんじゃない?」

「そっちこそ、汗かきすぎじゃないですか」

「ふふ、私は10%も本当のパワーは出してはいないのよ」

「奇遇ですね。私もです。私は5%も出していませんよ」

「バカね。私は……」

「私も……」

 さすがの美咲と美空もそろそろ体力がやばくなってきたのか、小学生並みの口論で相手を罵り始めた。説明するのが、忘れていたが、これは勝負が着くまで終わらない時間無制限の綱引きガチンコ勝負だ。

「トランプも飽きたので、うのでもやりましょうか? 海渡くんもやりましょう」

「は、はい」

 海渡も飽きたのか、B棟からA棟に移ってきていた。海渡を交えてうの勝負となった。礼音はそろそろやばい気がして、うのはやりたかったが、所定の位置に戻ることにした。

「ほら、さっさとギブアップしなさいよ。今なら許してあげるわよ。はあ!」

「う……。誰が! あなたの方こそ、負けを認めてくださいぃぃ!」

 美咲と美空は最後の力を振り絞ってお互いに、綱を引っ張りあった。今や二人ともヒートアップして屋上ぎりぎりの位置まで進んで、引っ張り合っていた。二人とも落ちそうになりながらもなんとか踏ん張っていた。


ブチ!


 瞬間、嫌な音がしたかと思うと、綱がA棟とB棟の間で切れた。美咲と美空はバランスを崩して、結果的には二人とも落下した。

「きゃあああああ!」

「兄さーん! 助けてくださーい」

「マジで! なんで落ちてるの?」

「どろーつーです。海渡くん」

「またですか。可憐さん。リバース」

 恵梨が急いで、屋上の端まで行って見下した。可憐と海渡はうのに夢中だった。


      ◇


 空綺麗だなと礼音が自然のロハスに身を任せていると、嫌な音が、聞こえてきた。その後、美咲と美空の二人が地面に向かってもみ合いながら落ちてくるのが見えた。

「え! 二人もかよ!」

 礼音は迷った。どちらを助けるのか。おそらく自分の力では二人とも助けることはできない。礼音の中で見えない選択肢が現れた。


A、美咲を助ける。

B、美空を助ける。

C、二人とも助ける。

D、見て見ぬふりをして、うのに混ざる。


 礼音にはどれも選ぶことができなかった。そうこうしているうちに二人とも落ちてきている。もう迷っている訳にはいかない。礼音は新たな選択肢を選ぶことに決めた。

「秘技! 空中お姫様抱っこ!」

 礼音は思い切り、低い体勢にすると、思い切り跳躍した。礼音は二階くらいまで跳躍すると美咲と礼音をお姫様抱っこでキャッチした。

 恐ろしいほどうまく決まったが、この秘技は着地を重視していない技であった。二人分の重みを一身に受けて、礼音は急激に地面に叩きつけられた。


バギボギゴギ!


     ◇


 礼音は着地に失敗した。曲がってはいけない方向に足が曲がり、まさかの両足骨折をしてしまった。

「いてててて、なんで俺がこんな目に」

「おかげで助かったわ。礼音たまには役にたつじゃない」

「礼音さんお陰さまでした。ゆっくりと治してくださいね」

下まで下りてきたみんなに見送られて、礼音は救急車に乗せられた。

「礼音……必ず戻ってきてね。わたし待ってるね。」

「礼音くん、差し入れにラーメン届けますからね」


 ファンファンファン


 礼音を乗せた救急車を見送ると、なんとなく切ない気分になった。さようなら礼音。二話ほど登場しないが、お大事に……。


      ◇


「負けたわ。私の負け。あなただけよ……私にあれだけ張り合えたのはあなたは今日から勇者記念学園の全自動洗濯機よ。私、空気洗浄機は返上するわ」

 なぜか美咲は負けを認めて、美空と堅い握手を交わした。

「ありがとうございます。でもその二つ名はいりません」

「そう……。やっぱり今風なハイビジョンテレビの方がよかったかしら」

「そういう問題ではありませんから……美咲先輩は気にせずにこれからも空気洗浄機を名乗ってください」

「そう……」

 美咲はなぜかさびしげだった。

「兄さん。私勝ちましたよ」

 兄に抱きつく美空。この匂いだ。学校のプールの塩素みたいな匂いがする兄の匂いを嗅いでいると美空は安心した。

「うん。よくやりましたね。美空さん。もう十分ですよね。帰りましょうか」

「ううん。私にはまだやるべきことがあります」

「まだあるのですか?」

「兄さんに仇なすものは一人残らず滅ぼさなくてはなりません。兄さんごめんなさい」

「次はあなたです!」

 美空は海渡から離れると、可憐と将棋中の恵梨を指さした。

「いいでしょう。勝負方法は私が決めていいのですよね?」

「構いません。私は負けませんから!」

「恵梨は必ず、みさっきっちと病院送りにされた礼音くんの足の仇は取ります。美空さん今から病院の予約を入れておいたほうがいいと思いますよ」

「あなたこそ二度とラーメンが作れない体にしてあげるから」

 バチバチと二人の間に火花が散った。また再び、美空の勝負が始まるのだ。早くも礼音を失ってしまい、海渡は不安で


仕方がなかった。次は誰が犠牲になるのか、いつまでこの対決は続くのか。本当にこの対決は必要なのか。礼音はこの連載中に帰ってくることができるのか。そんなことを考えていると、海渡は思わず、ため息を吐いていた。


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