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お隣は魔王家  作者: kaji
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十六話「俺は可憐が撃てるのか……前編」

 礼音が悲鳴を聞いて教室の外に出ると、校舎の外に巨人がいた。全身包帯に巻かれ、鎖で繋がれた三メートルは超える巨人が校舎を破壊している。礼音はとても現実で起こっている光景だとは信じられなかった。

『生徒の皆さん落ち着いて批難してください。先生の指示に従い、批難してください。繰り返し……』

 轟音と共に批難を促すアナウンスが繰り返し校舎に響いた。礼音はもう一度巨人を見た。右肩に誰かが乗っているように見える。その人物から禍々しい赤い楊炎のようなものが見える。礼音はそれが誰なのか見た瞬間に分かった。

「可憐!」

「礼音どこに行く! 批難しなさい」

「礼音くん。恵梨も行きます」

「僕も行きます。美咲さんも心配ですし」

先生の制止の声を無視して、恵梨と海渡と一緒に巨人のいる方に向かった。走りながら、あれが可憐では無ければいいと考えていたが、それも無駄な考えだなと礼音は思った。あれが可憐で無かったら誰があの巨人を生み出したというのか……可憐しかいない。信じたくは無いがそう考えるしか無かった。

 校舎から外に出ると、美咲が頭から血を流して、倒れていた。

「美咲……大丈夫か」

「あ……礼音。可憐が……」

 指を指した方向は巨人がいた。やはり間違いないようだった。可憐がこの巨人を生み出したのだ。

「可憐が……急に……別人になって……それから巨人が」

「礼音君。早くお父さんに連絡しないと」

「あ。ああ」

 こうしているうちにも巨人は学校を破壊している。あまりにも現実的に理解出来ないことが起こりすぎて礼音の思考は停止していた。電話をかけようと携帯を取り出したが、何で親父に電話をかけなければならないのか。そもそも何でこんなことになっているかなどと意識が次々と混線し、やがて礼音の頭の中は真っ白になってしまった。


      ◇


「あ。ああ」

「礼音君。早くお父さんに連絡してください!」

 海渡が礼音を揺すったが反応が薄い。海渡は礼音に叫んだが、耳には入っていないようだ。海渡は早々に礼音に見切りをつけた。

「礼音君は駄目です。恵梨さんは他の生徒の誘導と礼音君と可憐さんの家に連絡してください。美咲さんは……」

「私は……大丈夫。行けるよ」

 よろよろと立ち上がる美咲は立ち上がったが、あまり大丈夫のようには見えなかった。それでも可憐を何とかしなくてはいけないと海渡は思った。

「それでは行きますか」

「海渡様どうぞ」

 一人の女の子が剣を持ってきた。海渡はその剣を受け取った。

「誰?」

「僕の一族の一人ですよ。先ほど連絡して家から届けてもらいました」

「私はこれでいくよ」

 美咲はポケットから銀色の鉄のナックルを取り出した。

「私はいつでも礼音を殴れるように常備しているの」

「ふふ。礼音君。僕たちは可憐さんを止めに行きますよ」

「……」

 海渡は礼音に話しかけたが、反応が無かった。海渡はしばらく待ったが、諦めることにした。

「行きましょう」

 美咲と海渡は巨人に向かって駆けて行った。礼音は呆然として立っていた。


     ◇


「礼音君……どうしたんでしょうか」

「きっと今の現実を受け入れられないのよ。私たちだけでやらなくちゃ」

すぐに巨人の前にたどり着いた。目の前で見るとその巨大さに足が引けた。不気味な咆哮をあげながら巨人は破壊し続けている。

「どうする? これ」

「とりあえずこちらに意識を集中させましょう。このままだと巨人が市街に行ってしまいます。うまく背後に回りこんで、足元に攻撃を集中させて動きを止めましょう」

 そうはいっても普段人間を相手にすることはあってもこれほど巨大な化け物を相手にしたことはない。それでもやらなければならない。

「行きましょう」

「う。うん」

 海渡と美咲は左右に別れて巨人の背後に回りこんだ。海渡が先に巨人の背後に回り込み右足を攻撃した。

「く……効かない!」

 足にも巻かれた鎖に弾かれ、海渡の剣技も巨人に傷ひとつ付けることができなかった。

「はあああああああああああ」

 続いて、美咲が巨人の左足に向けて叫ぶような声をあげて右拳を突いた。

「……っ!」

 岩をも砕くと言われた美咲の攻撃もまるで効いていないようだった。しかし、こちらに意識を集中させることには成功したようだ。包帯と鎖の間から見える赤い巨人の右目がこちらを向いた。

「美咲さん。距離を取りながら攻撃しましょう」

「う……うん」

 踏潰そうとする巨人を必死に避けながら攻撃を繰り出すが、美咲と海渡は致命打を与えられずにいた。


     ◇


 礼音は震えながら呆然としていた。今までの苦労が水の泡だ……。可憐のためにクラス委員長に立候補したり、球技大会で優勝したりして、やっと可憐もクラスに溶けこんできた。これからだっていうのにどうしてこんなことになったんだ。礼音の頭の中に一つの言葉が浮かんだ。


『魔王が再び覚醒する自体になったら迷わず撃て』


 志麻家に伝わる使命。今こそその時なのだろう。物心がついたころからじいさんに、嫌って言うほど聞かされてきた言葉だ。

「そんなこと……可憐を撃つなんてできない」

 礼音は膝を抱えてしゃがみ込んだ。体の震えが止まらない。自分が可憐のことを傷つけることに対して恐怖していた。

(このまま全てが上手く収まってくれればいい。俺が悪い訳じゃない。俺は精一杯やった)

「礼音……お前はそこで何をしているんじゃ」

 顔をあげると俺のじいさん志麻遊音と俺の親父志麻紫音がいた。二人とも剣を携え、武装していた。

「じいさん、親父、可憐が……」

「礼音。私たち一族の使命を忘れたのか。今こそその時、さあ剣を取れ」

 親父は無理やり剣を礼音に渡した。今まで訓練していた模造刀では無い本物の剣だ。ずしりとした重みが本物だと感じられた。礼音は走馬灯のように可憐との思い出が浮かび、ぶるぶると手が震えて、剣を落としてしまった。

「俺には……可憐が傷つけることはできない。くっ」

 礼音は親父の持っていた剣で思い切り殴られた。反動で礼音は地面に投げ出された。

「ならそこで見ているのだな。可憐ちゃんがこの町を潰していくところをな」

「……」

「礼音。お前には失望した。邪魔だ。どこかへいけ」

 親父は冷たく言うと、俺に背を向けた。

「紫音。部隊の展開はどのくらいかかるのじゃ」

「急いでも二十分はかかるかと」

「そうか。ではわしが食い止めるしかないじゃろうな」

「お願いいたします。では私は準備がありますのでこれで」

 親父が礼音に一瞥も投げずに去っていった。

「礼音よ。一番傷つくのは可憐ちゃんなのじゃよ」

「……」

「わしは行くぞ」

「……」

 溜息を吐いて、遊音は去って行った。


     ◇


 限界が来ていた。海渡は元々体力がないのと、美咲は頭のダメージが意外と大きいこともあり、最初のキレのある動きを失っていた。

「はあ、はあ、はあ……全く勝てる……気がしませんね」

「ま……まだよ。諦めないで」

 幾度と無く、剣で引き裂き、拳を食らわせたが、全くダメージを与えている手応えが無かった。海渡は子供が木の枝で大木を一生懸命殴っているような気がした。美咲はと言うと骨は折れてはいなかったが、もう手の感覚が無かった。

「やはり、巨人は無理そう……ですね。ごほごほ」

「本体を狙うしか……無いのかな。海渡大丈夫?」

「僕は大丈夫ですよ。ごほごほ……ふう」

 海渡は吐血していた。元から長くは生きられない身だったので、死ぬのは怖くなかった。ただ、可憐だけは放っておけなかった。

「可憐さん! これはどういうことですか? ごほごほごほ」

「……」

 巨人の背にいる可憐は無表情で、海渡達を見下ろした。礼音は可憐が今まで何度か覚醒している所を見たが、こういったケースは初めてだった。

「無駄よ。私も何度か呼びかけたけども、何も反応してくれなかった。ただ……」

「ただ何ですか?」

「一言だけ……ユオン許さないって」

「ユオン……」

「海渡危ない!」

 海渡は美咲に突き飛ばされた。その美咲は巨人の鎖に薙ぎ払われ、校舎の外壁の二階部分にぶつかり、ゆっくりと落下していった。

「美咲さん!」

 海渡は美咲に駆け寄った。美咲を抱き起こしたが、美咲の意識は無かった。

「美咲さん! しっかりしてください! ごほごほ……あ」

 骨が何箇所も砕かれ、見られる状態では無かった。息はしているようだが、このままでは危ない。

「こんなときに礼音君は……ごほごほ……」

 そこに巨人迫り、今にも海渡達を踏み潰そうとしていた。海渡は美咲を抱えて、何とか巨人から踏み潰されることは避けた。

「く……」

だが、巨人の鎖の一撃をまともに食らってしまった。美咲共々、海渡も校舎にぶち当たった。

「ま……まだ……」

 海渡は失いそうな意識を何とか保ち、剣を探して這いずり回った。だが目の前がよく見えない。

「剣……が……どこだ。誰か……僕の剣を探してください」

 意識が混濁する中、海渡が思い浮かんだのは一人の少女だった。その子のことを考えると自然と涙が流れた。

「美空……ごめん。兄さん約束守れそうにない……」

剣は海渡の手から数メートルの位置にあったが、目前にして海都は血を吐き散らかして意識を失った。その光景を可憐と巨人は何の感情もなく見下ろしていた。


      ◇


 そこに老人がやってきた。倒れている海渡達を見ると、申し訳なそうな悲しい表情に一瞬なったが、すぐに顔を引き締めた。

「ユオン……」

「久しいの。意外に出てくるのが早かったの。魔王」

 前回、魔王を可憐の中に封じ込めてから十年も経っていなかった。金沢恵梨の祖母、菊花の見積もりでは十年は持つはずだったが、遊音の魔法が十分で無かったのか封印が早く、しかも殆ど前兆も無く、解かれた。こんなことならもっと警戒しておくべきだったと思ったが今更そんなことを考えても遅かった。

「ユオン、我は嬉しく思う。またあんたに会えてこうしてやりとりできる。こうして力も大分、元に戻った」

 可憐は嬉しそうに愛しい人に出会った喜びを表現するかのように微笑んだ。遊音は考えていた。やはり、封印では駄目だ。可哀想だが、可憐ごと魔王を葬るしか無いと。

遊音はあまり、巨人ヘラクレスを出現させるのは気が進まなかった。いつか礼音に語ったが、魔法は無闇に使うものではない。元々、自分は魔法を使うものではない。長く生きてきて止むに止まれず、使うことになったのだ。魔法を使うと、恐ろしいほどの吐き気と頭痛が襲い体で全体を蝕むように痛みを伴う。だが、体が昔ほど動かなくなった今、魔法に頼るしか方法は無かった。

「いでよ。魔王の使い魔たる鉄の巨人ヘラクレス。現界に出現し、我に従え」

 ユオンの呼びかけに応じて、鉄の鎧を着た三メールは超えるほどの巨人ヘラクレスが出現した。

「わしが全ての元凶じゃ。覚悟せい!」


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