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お隣は魔王家  作者: kaji
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番外編2~海渡編2~


 書斎で海渡は父親に妹の美空を渡家から追い出すということを言われた。海渡はなぜ父親が急にそんなことを言い出すのか分からなかった。

「なぜですか?」

「海渡のためだ。このままだと海渡お前は美空に襲われるぞ」

 海渡は美空が海渡を好きなことはうすうすは気づいていた。身の危険を感じたことは何度でもあった。今まで何もなかったのが不思議なくらいだった。海渡はなぜ自分のような者に美空が好意を抱いているのか不思議だった。

「それとな。前からお前の母親からどちらかをよこしてくれと言われていたんだよ。海渡は跡継ぎだからやれないから美空をやるしかないんだ。分かってくれ」

 海渡の母親渡遥香わたりはるかは一年ほど前に家から出ていた。離婚はしていないが、所謂別居中である。父親の性格がアレなので嫌気がさして出ていってしまった。母親が父に最後に言った言葉は「あんたは一生洗車していればいいのよ!」だった。海渡もそれに対しては激しく同意だったが、仮にも自分の父親なので捨てる訳にはいかなかった。

「このことは美空には話したんですか?」

「話たさあ。で、話たら何ていったと思う?」

「……分かりませんが」

「『あなたがそういうことを言うのでしたら、わたしはあなたを殺して、兄と駆け落ちします』だってよ。刀を向けられてさすがの私も肝を冷やしたさあ。おお、怖い」

 海渡は目に浮かぶようだと思った。

「だいたい、私の何が気に入らない。なぜ海渡が好かれるんだ。将来大きくなったらパパと結婚するっているイベントもなかったし、私のことをパパとも呼んでもくれないし、最近は近づくだけでドリアンの匂いを嗅いだような顔つきをするし。とにかく私は気に入らない。海渡。同じ血が流れているのになぜ私だけが嫌われるんだ!」

「父さんキャラが崩れています」

「うるさい! 作っていたに決まっているだろうが! これが素の私だ。とにかく海渡には協力してもらうからな」

 拓海は駄々をこねて、無理やり海渡に協力させようとした。海渡はこんなんだから母親と美空に嫌われるんだと思ったが、父親に逆らう訳には行かないのでしぶしぶ了承することにした。

「分かりました。それで私は何をすればいいのですか」

「最終手段として美空に母親の所に行くように説得してくれればいい」

「最終手段……ですか?」

「もう手はずは整えてある。それが成功すれば、海渡は何もしなくてもいい。とにかくここで待っていろ。私は先に美空を説得に行ってくる」

「分かりました」

 拓海は海渡を残して書斎から出て行った。拓海は美空が来るまで知恵の輪をすることにした。


 美空は部活を終えて、車で渡家まで向かっていた。心のなかは兄のことでいっぱいだった。今日は何を作ってあげようか。何と声をかけてあげようかと考えていた。それを考えるだけで美空は思わずうれしくなっていた。渡家の前まで車が近づくと美空はいつもと様子が違うと思った。家の前の門の前に黒いスーツを着た男達が大勢立っているのだ。美空はこの男達のことをよく知っていた。美空が刀の指導をしている『渡軍団』だ。

 『渡軍団』は渡家お抱えの総勢四十人の私営の軍隊。普段は老人ホームにボランティアとして働きに出ている。頭はスキンヘッド、サングラスに黒いスーツに帯刀。コードネームで呼ばれている。

 車から出た所で美空は囲まれた。ガタイのいい男達に囲まれてさすがの美空も体を緊張させたが、懸命に虚勢を張った。

美空「何? 邪魔だけど」

プリン「お嬢様。旦那様のご命令で、お嬢様を力づくでも連れていけということでしたので、どうか抵抗なさらないでください」

美空「あの人は余計なことを。で? なぜ私に刀を向けるの」

フランクフルト「お嬢様。これだけは分かって頂きたいのですが、これはですね。旦那様がやれというので私どもは決してお嬢様に逆らうわけではございません」

美空「そんなことを聞いているんじゃないのよ!」

チーズ「おい。どうする? お嬢様。怒ってるぞ」

唐揚げ「どうするって。旦那様のご命令だぞ。やるしかないだろ」

なんこつ「正直、俺。旦那様よりもお嬢様の方が恐ろしいんだけど」

焼きプリン「おい! お前。お嬢様の前でなんてことを」

 大の男達が寄り集まって相談していた。ある意味シュールな光景だった。その様子を見た美空は怒りが頂点に達した。

美空「で。何なの。どうするの」

焼きそば「やるしかないだろ。そのための渡軍団なんだ!」

ごま塩「そうだな。いくらお嬢様でも俺たちが束になってかかればなんとかなるだろ」

美空「来ないならこっちから行くけど」

かにぱん「お嬢様。我々を舐めない方がいい。我々は今日のためにボランティアで鍛えてきた。お嬢様。謝るなら今のうちですぞ」

美空「かにぱん。あんたが一番先に死にたいようね」

おにぎり「みんな! 一斉にかかれ」

きゃべつ「お嬢様覚悟!」

チョコレート「はあああああ!」

 黒いスーツの軍団が美空に向かって襲いかかった。美空は溜息を吐くと、男達を待ち構えた。


五分後……。


かいわれ大根「お嬢……様。もう……勘弁して……ください」

美空「まだよ。あんた達が二度と私に逆らわないように体で覚えてもらうから。ほりゃあ!」

キムチ「ちょちょちょ。お嬢様。私の指はそういう風には曲がりませんよ。ぎゃあああああ!」

スーパーボール「止めてください。私たちは何も悪くありません。旦那様に命令されただけなのです。そんな……ひどい! うわあああああああああ!」


 玄関先には渡軍団が悲鳴をあげて大勢地面に倒れていた。残るは『渡軍団』軍団長コードネーム「とんこつ」だけだった。

「後はあなただけよ。とんこつ」

とんこつ「さすがはお嬢様です。ですがこのとんこつ……ただではやられませんよ」

 とんこつは渡拓海の右腕。元は名家の師範代だったが、家が没落して幸か不幸か渡家に拾われた。それからは拓海の良きパシリとしてコンビニに毎日通う毎日だった。

 とんこつは刀を上段に構え、刀を木刻みに揺らしている。これがとんこつの江戸時代からある流派の構え。かつては多くの門下生を抱え、隆盛を極めたが、今では使い手はとんこつだけになっていた。

美空「とんこつ。あなたは私には勝てない。分かっているでしょう」

とんこつ「分かっております。ですが旦那様に拾っていただいたこの命です。惜しくはありません」

美空「何か変に話が重いんだけど……。私も飽きたし。行くね」

 美空には構えというものは存在しない。両手をだらんと下げて、徐々にとんこつへと向かって行った。とんこつは何度も組み稽古を美空としているので、美空の強さと恐ろしさは十分に知っていた。自然と体はいつの間にか後ろへと後退していた。

「ぐ……」

「とんこつさん。下がったら勝負にならないよ。向かって来てくれないと」

「お嬢様。覚悟!」

 とんこつは意を決して、飛びかかった。捕らえたと思ったら美空は目の前から消えていた。

「とんこつ。私はここだよ」

 美空はいつの間にか背後に居た。美空の「雷切」がとんこつの首もとに添えられていた。完敗だ……。とんこつはそう思った。

とんこつ「お嬢様。殺してください。旦那様のご命令を遂行できないとんこつは生きている資格などございません」

「ふう……。大丈夫だって。今から私があの人を懲らしめてあげるから。誰が一番偉いのか分からせてあげるから。悪いけど通るよ」

「……はい」

 とんこつは刀を落とすと、膝から崩れ落ちた。美空はとんこつの脇を通って家に入っていった。『渡軍団』総勢四十人は十分程で壊滅した。俺たち今日からお嬢様に付いて行こうと彼らが思ったのは言うまでもなかった。

「さて、あの人をどう痛ぶるかな」

 美空は父親をどうやって痛ぶるか考えながら門をくぐって家の敷地内に入った。家の敷地に入ると家の前に一人の男が立っていた。真っ白いスーツを着て、名刀「鬼斬」を右手に持ち、たばこを咥えている。渡拓海。渡家現当主にして美空の父親。趣味は車の洗車。座右の銘は「洗車して何が悪い。人間だもの」拓海はたばこをスーツの胸元に入れていた携帯灰皿で丁寧に消すと、美空に向かって言った。

「よくも私の軍団を倒してくれたな。私の娘でも許さんぞ。それとここから先へは通さん。海渡は私のものだ!」

 拓海はそう言うと「鬼斬」を目の高さに真一文字に構えた。美空はやれやれこの親父は仕方がない。兄さんは私のものだ。誰にも渡さない。ましてやあんただけには絶対に渡さないと心のなかで思った。海渡を巡る父親と娘の戦いは避けられないようだった。


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