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お隣は魔王家  作者: kaji
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第十三話「過去編~勇者vs魔王~」

第十三話「過去編~勇者VS魔王~」


「魔王よ。久しぶりじゃな。あまりわしの孫をいじめないでほしいものじゃな」

 礼音の意識が失われた所に、公園の中に一人の人物が入ってきた。古ぼけた黒いマントを羽織った初老の人物はゆっくりと、可憐と礼音の側に歩を進めて行った。その人物は志麻遊音、礼音の祖父であり、勇者の力を受け継いだ最後の世代の一人と言われていた人である。

「ユオンか……我は会いたかったぞ」

 可憐はぐったりとしている礼音を地面に離した。気絶はしているようだが、命に別状はなさそうだ。それを見て、遊音はほっとしているようだ。

「勇者ユオン……ずいぶんと老いたな。前に会った時はもっとふさふさとしていたぞ」

 可憐は遊音の姿を見て、少しがっかりとした表情を見せた。

「久しいの。魔王。百年ぶりか。やはり出てきたの」

 百年前、まだふさふさだった頃のユオンは転生した魔王を倒した。その時、ユオンは直感的にまた魔王は転生してくるなと感じていた。ユオンは今日まで魔王が現れたときのために準備を進めていた。

「我は恨みを晴らすために何度でも蘇る」

「……」

 ユオンは白い口ひげを右手で触りながら、じっと可憐の話を聞いていた。

「ユオン……我は貴様の血を継ぐものを根絶やしにするつもりだ」

「わしはあれから考えておった。きっとお主はわしの前に現れる。その時、どうするのが一番よいのか。そこでわしは一つの回答に行き着いたのじゃよ。お主が何度倒しても現れるのならば、封じてしまえばいいだろうということじゃ。よってわしはお主を封じることにした」

「それだけ老いて我を封じるだと。笑わせるな! その老いぼれた体では自慢の剣技は披露できまい」

 可憐の目が真っ赤に光り、体中からゆらゆらと赤い楊炎のようなものが見えた。

「そうじゃな。じゃがのわしにはお主からもらった力がある。その気になればわしはここから一歩も動かずとも、お主を捉えて見せれるがの」

 ユオンの人生は魔王を倒すためだけにあった。前回の戦いでユオンは魔王に勝ちはしたものの魔法の副作用で老化が一気に加速した。頭は禿げ上がり、足腰も日常生活に困るほどに弱った。今のユオンは、肉体的には見た目と同様の初老の老人ほどの力しか持っていなかった。

「我の力を忘れたとは言わないだろうな。前回、遅れは取ったが、今のユオンなら確実に殺れる」

そう言うと可憐は右手に魔力を集結させた。それに呼応して大気が震えた。それを見たユオンは両目を閉じ、魔法を唱えるため集中した。

「いでよ。魔王の使い魔たる鉄の巨人ヘラクレス。現界に出現し、我に従え」

 ユオンの呼びかけに応じて、鉄の鎧を着た三メールは超えるほどの巨人がユオンの前に現れた。かつては、勇者パーティーを苦しめた。魔王の使い魔ヘラクレス。その鉄の鎧は魔法を弾き、右手に持った鉄の棍棒は大地をも砕く。どんな攻撃も恐れず、その肉体が滅びるまで肉体は再生し続ける。ヘラクレスは勇者パーティーの一人の魔法使いによって、氷漬けにされて、永久封印されていたが、今は魔王から力をもらったユオンの手の内にあった。

「グオオオオオオ……」

 ヘラクレスは咆哮した。まるで、久しぶりの外の世界に出たことを喜んでいるかのようだった。

「ぐ……」

 可憐はヘラクレスを見て、顔を歪ませた。可憐は魔力を集結させ、閃光のような光の球をヘラクレスに向かって、放出した。地面を引き裂きながらヘラクレスへと向かって、光の球が疾走する。ヘラクレスに光の球が直撃したが、蠅でも払うように、棍棒でなんなく弾いた。

「な!」

「……はあ、はあ……お主の方がヘラクレスの力を知っておるじゃろうが」

 ユオンは立っているのがやっとだった。ヘラクレスを動かすのに魔力は尋常ではないほど消費した。血が異常に高ぶり、頭が万力で締められるように痛んだ。ユオンは意識を保っているのが、やっとだった。

何度か、可憐は光の球を放つが、ヘラクレスには全く効かなかった。魔王最強の使い魔は今も健在であった。

「そんな小さな入れ物では思うようにいかんじゃろ」

「言うようになったな。ユオン! その力は元々、我のものだ」

 可憐に転生し、寄生している魔王だったが、母体となる可憐がまだ魔王の力を十分に出すには未熟であったので、ほとんど力を出すことができずにいた。無理をすれば、可憐の体が引き裂かれる恐れがあるので、無闇に力を使えない。

「このあたりで終わりにしようかの。ヘラクレスよ。魔王を捕らえるんじゃ」

「グオオオオ……」

 ヘラクレスは可憐目がけて、鉄の棒を振るった。鉄の棒はものすごい轟音で、可憐に迫った。可憐は直撃を避けたが、鉄の棒が大地を引き裂いた。大地が弾け、土砂が可憐を襲った。呪文を駆使しながら、可憐は襲いかかる土砂を避けた。

可憐は今までの経験上、分が悪いと感じてはいたが、この勝負逃げる訳には行かないと思い、攻撃対象をユオンに絞り、閃光を次々と繰り出すが、全て、ヘラクレスに塞がれてしまった。

「くそ。自分の使い魔ながら、隙の無さに恐れ入る」

 可憐は能力の制限がありながらも勝機を見つけるために数々の呪文を使ったが、ヘラクレスの前には無力に等しかった。勝負はユオンがどれだけヘラクレスの魔力の消費に耐えられるか、可憐がヘラクレスの手から逃げ切れるかにかかっていた。

 可憐とヘラクレスのイタチごっこが一時間ほど経った所で、先にユオンの魔力が尽きる前に可憐の体力が切れた。体力切れによる集中力の欠如により、可憐はヘラクレスの弾けた土砂に巻き込まれた。一撃食らっただけなのに幼い可憐の体は言う事を効かなくなった。

「なんてもろい体だ! これだから人間の体は不便だ……く」

 動かなくなった体を無理やり動かそうとしたが、魔王の思いとは裏腹にその体はわずかに動くだけだった。ヘラクレスは可憐を左手で捉えて、補足した。

「魔王よ……もう終わりにしよう。あれは不幸な出来事じゃったんじゃ。あれから人も世も移り変わった」

「我は許さない。あの裏切りは我の心を業火のように燃やす。この想いはどんなに世が移り変わろうとも変わらない」

「……」

 一瞬悲しそうな顔をユオンは見せたが、すぐに気持ちを切り替えた。ユオンと魔王は幾年も同じような話を交わしてきた。今まで、一度も分かり合うことができず争いを繰り返してきた。今回も無駄かと悟り、ユオンは嘆息した。そして、新たに決意を固めた。魔王を封じるということを……。

 ユオンは目をつもり、精神を集中させ、右手に力を込めた。魔王を封じ込める呪文「サプレイション」を唱えるためだ。元は勇者パーティーの僧侶サイカの魔法。邪悪なものを魔力によって封じる魔法。サイカが一番得意とした魔法でヘラクレスを封じた氷で封じる「フリーズ」と同義の魔法。ユオンは金沢恵梨の祖母、菊花きっかからの手ほどきとサイカの残した魔道書にてこの呪文を習得した。モルモットで成功はしていたが、人間に対して、使うのは初めてだったので不安要素もあったが、ユオンには今までの経験上、失敗しない自信があった。

 ユオンは右手を可憐に付き出して呪文を唱えた。ユオンの手から出た光の球が次々と、可憐を覆い尽くした。

「ユ……オン、我は絶対に許さない……からな。必ず、戻って来て見せる」

「何度でも、来て見るんじゃな。その度にわしは貴様を何度でも封じ込める」

 光が可憐の中に吸い込まれ、消えてなくなると可憐は静かに地面に倒れた。全てが終わるとユオンに疲労と魔力を使ったことによる吐き気と激痛が襲いかかり、思わず座り込んでしまった。

「げほ…げほ……。やはり魔法は使うものではない……」

 今朝、礼音に言ったこと思い出してつぶやいた。その礼音は、土砂に埋もれて気絶していた。ユオンは自分の孫ながら、あまりの脆弱さに溜息をもらした。

「やはり、足腰だけ鍛えたのは失敗じゃったか。明日からはもっと鍛えんとな」

 ユオンは懐から最近、使い方を覚えた携帯を取り出して、礼音の父親、志麻紫音しおんに電話をかけた。紫音はワンコールで電話に出た。家に礼音とユオンにいないことに気づいた紫音は、電話の先で街中を探しまわっていたと怒鳴っていた。

「紫音か。悪いが迎えに来てくれんかの。情け無いのじゃが、動けなくなってしまった」

 ユオンは紫音に場所を告げて、電話を切った。ユオンはしばらく座り込んで何も考えず、ぼんやりとしながら、果たして魔王はどれだけ封じ込められるのか考えていた。恐らく、十年、可憐が成人する前には封印は解かれるだろう。それまでに新たな対処方法を考えねばならない。ユオンは紫音が迎えにくるまで、いつの間にか暗くなってしまった公園でやがて来る未来について考えていた。


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