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お隣は魔王家  作者: kaji
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第11話「魔王との出会い」

俺が自分のことを僕と呼んでいた頃、僕には友達が今よりもそれなりにいた。今より朝

の鍛錬もそれほどきついメニューでもなかったので、遊ぶ時間もそれなりにあった。僕は毎朝、ひたすら走らされていた。じいちゃん(注1)に「勇者に必要なのは下半身じゃ」とか言われて、そのころは、純粋な子供だった僕は毎朝十キロ信じきって、ひたすら走っていた。

 朝のランニングから帰ると、隣の家の二階の部屋で女の子が、こちらを見つめているのが見えた。毎朝僕は、走っているが帰って来ると必ずその女の子は部屋の二階から姿を見せていた。僕はお隣りだが、その女の子と面識はなかった。ここだけの話だがじいちゃんの話によるとお隣は魔王の家らしい。僕達はその魔王を監視するためにいるらしいのだ。

 僕は、お隣さんとほとんど会ったことはなかった。何度か父親らしき人と母親らしき人は見かけたことはあったが話は交わしたことがなかった。部屋にいる女の子に関しては、外に出ている所は一度も見たことがなかった。その時は知らなかったが、じいちゃんの考えで、余計な私情を持たないように、僕にはお隣りとは極力接触は避けるようにしていたようだ。


『ただ、僕たちは出会うことになった。それは避けられないことだったのかもしれない』


 その日、僕はいつもの日課の朝のランニングをしていた。僕は、最近、勇者に下半身の強さなんて必要あるのかなとじいちゃんに対して疑惑を抱いていた。父さんの話ではすごい人らしいのだが、僕にはただの禿げたじいさんにしか見えなかった。

走ったことにしてランニングコースの途中にある駄菓子屋「山田屋山田」(注2)でラムメイト(注3)のラムネでも買おうかと考えていた。このラムネは他のラムネとは一線を画していて、当社比5、5457倍の炭酸が魅力の商品だ。特に僕はフィーバーダイナマイトレモン味が大好きだった。なぜかこのラムネは「山田屋山田」にしか置いてなかった。今思うと変な店だった気がする。他の店では見たことのないお菓子や気持ちの悪い色のジュースがいっぱい置いてあった。お店の人も気持ちの悪い兄ちゃん(注4)で、長い黒髪になぜかいつも甚平を着ていて、雪駄を履いていた。僕は最近このラムネにハマっていて、いつもじいちゃんに可愛い孫の振りをしてお金を巻きあげて、このラムネを買いに行っていた。僕はたぶん日本で一番、このラムネを飲んでいたと思う。

その山田屋山田の前に今まで見たことがない女の子がいた。ただの女の子なら僕は気にもしていなかったが、日本人離れした白いというか銀色の髪に僕は、目を奪われた。僕の気配に女の子が振り向いたときには息を飲んだ。燃えるような赤い瞳に僕はしばらく彼女を見つめていた。しばらくして正気を取り戻すと、慌てて店の中に入った。

店の中ではいつもの山田屋の兄ちゃんが、見たことのない赤い色のジュースを並べていた。僕はまた懲りずに変なジュースを入荷させたんだなと思った。

「おー。よく来たな。坊主これ飲んでみ。サンプルだけどサービスするからよ」

兄ちゃんは僕に、その赤い色のジュースを押し付けてきた。ジュースのパッケージを見るとモサモサの髭をはやしたメキシコ人が「これが俺のパワーの秘訣さ!」とニヒルに笑っているイラストが載っていた。味はメキシカントマト味と書いてある。ポテトチップでも無いのに、そんな味のジュースで製品化して大丈夫なのだろうか。

「兄ちゃんは試飲したんですか?」

「俺? 俺が飲むわけねえだろ。こんな変なジュースを飲む奴の気がしれねえって」

「……」

 といいながら兄ちゃんはけらけらと笑っていた。それを売っているやつの方の気が知れない気がすると僕は思った。

「とにかく飲んで見ろって、もしかしたら新しい世界が開けるかもしれないぜ。感想よろしくな」

 僕は、店の外にある木のベンチに座ってメキシカントマト味のジュースを飲んでみることにした。恐る恐る一口飲んでみたが、トマトと炭酸が絶妙に混じり合ってはっきり言って糞まずかった。

「ぶふぁ。まず……なにこれ」

ぶん投げようか、放り投げようか悩んでいると、視線を感じた。先程の女の子がこちらを見つめているのだ。僕のジュースが飲みたいのだろうか。

「飲みたいの? 言っとくけど激まずだよ。命の保証はしないよ。いいの?」

「……うん」

 僕は女の子にメキシカントマト味のジュースを渡した。女の子は珍しいのか、ジュースをいろんな角度で見たり、透かしたりしていた。しばらく色々試した後で、一気に飲み干した。

「まず! なにこれ……」

女の子は飲んだ時と同様に盛大にジュースを吐き出した。さすがにこのジュースはある程度まずいジュースに耐性が無い人間には厳しいレベルの飲み物だ。吐き出しても仕方がない。

「だから言ったでしょ。貸して。後は僕が飲むから」

 僕は、女の子からジュースを受け取って飲んだ。何口か飲むと、意外と行けるかもしれないと思うようになってきた。ただ心臓の悪い方にはおすすめはしないレベルのジュースだ。

「なんでそんなに普通の顔をして飲めるの? 私そんなにまずいジュース初めて飲んだよ」

「まずいからいいんじゃない。普通ジュースをこれだけまずくは作れないよ。しかもそれを世に送り出そうとするその根性というか、ずうずうしさがすごいよ。作った人の顔が見てみたくない?」

「確かにずうずうしいとは思うけど……。なんでそんな変なジュース飲んでるの?」

「別に僕も好きで飲んでる訳じゃないけど、ここの兄ちゃんがくれるから飲んでるんだよ。あの兄ちゃん、僕のこと実験台か何かと勘違いしてるんだよ」

「ふーん……このお店って色々と変だよね」

 そう言って女の子は店に置いてある「食べられるものなら食べてみろ! 石頭せんべい」(注5)を手に持って不思議そうな顔をしていた。僕はこの店しか知らないので、何が変なのか分からなかった。

「君ってどこから来たの?」

「あっち」

 そう言って彼女は指を自分の家の方角に指した。それだけでは普通の人は分からないと思う。偶然だと思うが、僕もあっちの方に家がある。

「あっちって?」

「実は私、今日初めて一人で家から出たの。できたら家に連れてかえって欲しいんだけど……」

 僕は、このお嬢さん面白い冗談を言いなさんなと思ったが、どうも本気のようにも見える。僕は方角も同じだし、暇なので連れていくことにした。

「別にいいけど近づいたら教えてね」

「うん……ごめんね」

 女の子は申し訳なさそうに、謝ってきた。僕が先に歩くと、女の子は一メートル程距離を空けて付いてくる。

 特に会話もなく、黙々と歩くと僕の家の前まで付いてしまった。結局、彼女のうちはどこだったんだろうか。振り返ると、彼女は立ち止まっていた。

「ありがとう。お陰で無事に帰れました」

「も……もしかしてお隣さん」

「うん。そう。私は知ってるよ。志麻さん家の礼音くんでしょ。私は志麻可憐。またあしたね」

 白い髪を翻して、志麻可憐は僕の家の隣に消えて行った。まさか、あの二階の部屋から僕のことを見ていた女の子だとは思わなかった。これが僕と可憐の出会いだった。この出会いが僕の運命を大きく左右することになったのである。




注1 じいちゃん

志麻遊音ゆおん。年齢不明。志麻家の敷地内の離れに住んでいる。基本的に「うむ、ごほん」しか喋らない。最近のマイブームは将棋。王手と言いたいから始めたらしい。好きな食べ物は「びっくりラクダ」のチカラコブハンバーグ。


注2 山田屋山田

「山田屋山田」は二代目にうつった後に潰れる。原因はファイナルダイナマイトソーダ味を輸入しようとして、渡米するが、コカインをパンツの中に0,000001グラム隠していたのを見つかって捕まる。戻ってきたが、その頃から二代目が具合を悪くして、万引きで店が潰れてしまった。


注3 ラムメイト

 アメリカのデトロイトに本社がある飲料品メーカー。変わったジュースが魅力で、一部の熱狂的なファンに支えられている。代表作に「フィーバーダイナマイトレモン味」「ランダムミックスフルーツ味」がある。


注4 気持ちの悪い兄ちゃん

山田真一。27歳。元有名国立大学卒、国家公務員。駄菓子屋を営んでいた店主が病気で亡くなったのを機会に店主の意思を継ぎ「山田屋山田」を再開。先代から「新しい感動を……」をという意味を履き違え、現在のお店のラインナップとなった。


注5「食べられるものなら食べてみろ! 石頭せんべい」

 株式会社「大豆」の開発番号1131-6543のお菓子。日本人のアゴを根本的に鍛えてやろうというコンセプトを元にうるち米を特殊製法で加工。十年の歳月をかけて完成させた自信作。挑発的なネーミングとパッケージが話題を呼んだが、食べられない人が続出して、発売から一週間程で姿を消した。


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