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お隣は魔王家  作者: kaji
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番外編「魔王のクリスマス」

 俺の先祖は勇者だ。かつては魔王を見事に打ち倒して英雄になったがそれも今は昔、世代が代わるごとに人々から勇者の権威は薄れ、今に至ってはただの普通 の人に成り下がっている。俺も勇者の血筋は付いているが血を受け継いでいるだけで別に特別な能力は持ちあわせていない。ただ俺たち勇者の一族には一つの決まりごとが残っている。


『日々鍛錬を怠らず、魔王を常に監視し、有事の際は魔王を撃て』


 俺たち一族はこの格言を守り、日々の鍛錬を怠らず魔王を常に監視することになった。その結果俺たちの家の隣に魔王の一族が住んでいる。なぜ勇者の家の隣に 魔王が住んでいるのかわからないが俺のじいさんが言うにはその方が便利だからという単純な理由だった。まあそうだろうけどもそれでも隣同士で住まなくても いいんじゃないかと思う。

そのお隣さんの魔王の血を引く真木可憐(まきかれん)がクリスマスパーティーをやったことがないという。そこで俺と恵梨(えり)美咲(みさき)海渡(かいと)でクリスマスパーティーを開いてあげることになった。

 場所は恵梨の実家のラーメン屋『るい~だ』で 開催されることになった。さすがにラーメン屋だけあって醤油ラーメン、ケーキ、みそラーメン、ギョーザ、チャーハン、ローストビーフ、野菜炒め、塩ラーメ ンと豪華なラインナップだ。俺はこの店にはあまりいい思い出が無いのだがあまり気にしないようにした。ただ恵梨の親父がじっと俺のことを睨んでいるのが非常に気になるがラーメンで気分を紛らわせた。

 終始和やかなムードでクリスマスパーティーが進んでいたがそのなかで可憐が問題発言した。


「サンタさんっていつ来るんです?」

「……」


 可憐を抜いた俺たちは顔を見合わせた。サンタ……だと。


「可憐。悪いけどそこの自販機で果汁75%ジュースを5本買って来てくれないか? オレンジ1本、アップル1本、グレープ1本、ミックス1本、パイン1本で頼む」

「ジュースいっぱいあるけどこれじゃだめなの?」

「駄目なんだ。可憐には言って無かったが俺は一日に果汁を1リットル摂取しないとクエン酸が氷結してしまうんだ。悪いけど頼むよ」

「全く。しょうがないから買って来てあげるよ」


 少々可憐はいらいらしていたがまあそれはいいだろう。可憐が買いものに行っている間に俺たちは作戦会議をすることにした。


「ねえ。今のってギャグだよね?」

「まさか高校生にもなってサンタなんて信じている訳ないと思います」

「いや。でもあの可憐だぞ」

「……」

「ただいま。重かったよ。しかもすごい雪降って寒いし」

「おお。悪かったよ。俺はパイン飲みたかったんだよ」


 可憐は手いっぱいに缶ジュースを抱えて戻ってきた。意外と早かったな。


「なあ。可憐? サンタっていると思うか?」

「いる? いるってどういうこと?」

「……」


 これはまじっぽい。俺に対してこの人何言っちゃってるの。これだから勇者は困るわねと言いたげな顔をしている。


「一回しか言わないから聞いてね。サンタはね。北海道の山奥に住んでいてシーズンオフの夏は魚を取って暮らしいるってお父さんが言ってた」

「へー。北海道で。へー。へー」


 おれはへーしか言えなくなった。あの親父適当なことを。


「それでサンタさん来ます?」

「ど。ど。ど。どうかなあ? 美咲君?」

「え? 私。そうだねー。どうかなあ? 恵梨ちゃん」

「えー。私は分かりませんね? サンタ専門家の海渡君はどうですか?」

「わ。私か? ごふごふ。急に体調が」


 みんなどう応えていいのか困っているようで責任をなすりつけあっている。


「な。なあ可憐。たぶん。サンタはここには来ないぞ」

「なんで。ですか?」

「いや。あのな。サンタは煙突から入ってくるものだろ。この『るい~だ』には煙突は無い。サンタが入れる。入り口は無いんだ。つまり無理なんだ」

「うちに来るサンタさんは玄関から入ってきますよ。まいど~って言ってとりあえずこたつでみかん食べてますよ」

「玄関……から」

「こたつで……みかん」


 誰だ。そいつは。とりあえず俺の知っているサンタではないぞ。玄関から挨拶して入ってくるサンタ。ふざけているにも程がある。


「悪い。可憐。コンビニでからあげを買って来てくれないか?」

「やだよ。めんどくさい。だいたい、何で私ばっかり」

「1000円やるから余りは好きなもの買っていいから頼むよ」

「やった。100%キャベツサラダ買おうっと」


 うきうきしながら出て行く可憐。可憐は基本ベジタリアンなので野菜が好きなのだ。


「何者だ。そのサンタは」

「もしかして? 親戚の人ではないですか? 三太さんとか」

「おれは初めて聞いたぞ。そんな親戚」

「私も知らない」

「せっかくだから見たいとは思わないか?」

「私は何か怖いのですが……」


 俺たちはあーだこーだ言いながら意見を出し合った。結局、話し合うより直接見たほうがいいんじゃないかと言う結論に至って可憐の家に行くことに纏まった。


「ただいま」

「おお。おかえり。寒かっただろう。サラダはあった?」

「普通のサラダしか置いてなかった。あのコンビニ品揃え悪すぎるよ」

「な。なあ。これからみんなで可憐の家に行ってもいいか?」

「いいけど? なんで?」

「俺たち。そのサンタ(三太?)に会ってみたいんだよ。紹介してくれよ?」

「来るのはいいけど今年もいるか分からないよ」

「そ。それでいいから頼むから付いて行かせてくれ!」

「そんなに必死に頼まなくても……じゃあ行こうよ」

「よ。よし! やった。やったぞ」


 みんなで可憐の家にいくことになった。果たして魔王の家に毎年出入りしている。サンタとは何者だろうか。

 可憐の家の前に来て、俺はやたらと緊張していた。俺の緊張をよそに可憐はずかずかと自分の家に上がり込んだ。俺は仕方がなくその後を付いて行った。

 可憐の家に上がると居間のこたつに座っている赤い服を来た怪しい人物がいた。可憐の親父と談笑している。あのシルエットは確かにサンタだ。サンタがこたつに座ってみかんを食べているのだ。俺は思わず駆け寄った。


「誰だ。お前は!」


 肩を掴んで振り向かせる無理やり振り向かせた。顔は白い髭に覆われているがこの顔には見覚えがある。こいつは……。


「お……親父。ごふぁあうおお!」


 横から急に殴られた。俺は不意打ちだったので居間から転がり落ちて、その勢いで玄関から外に出てしまった。一瞬意識が飛んだが何とか意識を保ち、家の中を見ると俺のじいさんが仁王立ちしていた。


「可憐ちゃん。お帰り。今年もサンタが来てよかったの」

「うん。よかった。それより大丈夫。礼音。すごい飛んだけど」

「あいつは大丈夫じゃ。慣れておるからな。ではまた来るからの。ほらお主らも出ないか」

「え。あ。可憐。またね」


 そう言ってじいさんは恵梨と美咲と海渡を連れて外に出てきた。じいさんは俺たちの前に立つとこう言い放った。


「お主ら命が惜しかったら今夜のことは他言せんことだ。特に礼音。お前は今日見たことは忘れろ。いいな」

「は。はい」


 言いたいことだけ言ってじいさんは自分の家に戻っていった。全く何がなんだか分からない。しかし俺の親父がサンタ……とは。


「礼音君。どうしました?」

「俺今年一番ショックだ。あの堅物な親父がサンタなんて……」

「礼音君。ごほごほ。今日は炭酸水で飲み明かそう。付き合うよ」

「私も付き合うよ。なんだかうまく表現できないこのやりきれないこの気持ちを発散したいよ」

「では戻りましょうか? 私の家『るい~だ』に」


 俺たちはみんなで肩を組んで、『るい~だ』に戻った。どうやら今年のクリスマスは忘れられないクリスマスになりそうだ。俺はこれからどんな顔して親父に会えばいいのだろうか。


クリスマス企画で瞬発力だけで、書いたものです。よろしくお願いします。

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