かこめかこめ
敦士は動物が苦手だ。
傍に寄ってこられるのはまだいい。じっと見られるのはちょっとつらい。触るなんて以ての外で、「抱いてみろ」と言われたらたぶん泣いてしまう。もちろん泣くのは敦士だ。
どうして、と足元に猫を侍らせた優真に訊かれた。
優真自身がどう思ってるかは知らないが、彼は動物に好かれる性質だ。今だってほら、ぐりぐり、ごろごろ、にゃあにゃあ。猫はご満悦である。
心外だった。どうしてそんな平気な顔をしていられるのか、と訊いてみたいのは敦士のほうだった。
彼らの温かさは生き血の温かさであり、彼らの柔らかさは生肉の柔らかさだ。
あの小さな身体いっぱいに詰め込まれ、彼らが動くたびにその皮膚の下で蠢き犇き存在を主張するのはグロテスクな臓物なのだ。
こわく、ないのか。
「意識しすぎだ。そこまで考えたら怖いに決まってる」
溜息混じりにやんわり諭された。そうかなぁ、ともごもご呟く敦士は、優真と一定の距離を置く。
兄とは逆に、あまり動物に好かれないらしい秀人を盾にして。
近付いてこないか。触れてこないか。じっと猫の様子を伺う。
「ねぇ、あっくん」
「ん?」
「あのさぁ、」
人間だって、同じだよ?
君が今触れてる僕の肩には血が流れてるし肉があるし骨があるし。
何より君の腹の中にだって内臓がぎっしり詰まっているじゃないか。
こわくないの?
「……なに?」
不思議そうに、首を傾げる敦士。
気付かなければそれで良い。意識したらもう駄目だ。
同じ人間に触れることさえ「気持ち悪い」と感じてしまったら。
この世の中で、敦士が生きていける場所が無くなってしまう。
秀人はすべてを呑み込んで、替わりの言葉を紡いだ。
「今度さ、動物園行こっか。『ふれあい広場』とかあるところ」
「え゛」
「秀人、今の話聞いてたか?」
「きーてたよ」
人間と動物の境界線があんなにはっきりしてる場所、どこか他にある?