第二章 運命と選択 第一話
第二章 運命と選択
緑豊かだったこの国、いやこの世界中に、核の雨が降り注いだという。
汚染立入禁止地帯、食料難、ホームレス割合など少しずつ緩和されているものの、
30年以上経過した今でも戦争の爪痕は残っていると石川さんは言っていた。
我々しょくにんの誕生も戦争が産んだ産物だ。
そんなニホンは貿易しやすい事もあり、ほかの国と比べればやはり復旧はかなり進んでいる。
しょくにんも人口比に対して世界トップクラスの存在らしい、これは資料室の書物で知ったことだ。
俺達は14年前に人工胎盤から誕生した。
14年間、一体どれだけの人の飢えを手助けしてきたのだろうか…
第二章 第一話
「しょくにんが誕生して30年以上経過した だが未だにこの国では飢え死にする人がいる!
しょくにんに投じてきた巨額の金を、しょくにんではなく我々に人間に使ったら!
いったいどれだけの貧困を防げただろうか!!」
テレビで黒い綺麗な服を着た人が唾を飛ばしてまで必死に喋っている。
「ったく しょくにんのお陰でどれだけ飢えを凌げていると思ってんのよ…」
舌打ちをしながらサラはテレビを消した。
「おいサラ!なんだ偉そうなアイツは」のぶながは朝食を食べながら口から食べ物を飛ばした
もちろん朝食には俺かのぶながの肉が使われている
「アイツは民声党のトップよ、反しょくにんで票を得ているだけの迷惑な奴らよ」
サラも怒っているようだ、そしてのぶながにティッシュと布巾を渡した。
「俺達しょくにんに選挙権は無いのは知ってるけど、しょくにんに投票権を持たせたら
この国はどう変わるのだろうか」そのうちしょくにんがトップの政党がでてくるかもしれないな
「さて、あんた達、今日は私の仕事を手伝いなさい デルタももう腕は平気でしょ?」
サラに保護されて一月以上経過した。その間に腕も元に戻りになっていた。
特に行く宛もないので、俺ものぶながもここに居座ってすっかりユキの遊び相手になっている。
「仕事ってなにすんのさ」いつのまにかユキとトランプをして遊んでいたのぶながが言った。
「外しょくの仕事は二つ、しょくにんの保護と、難民の手助け
今日は難民がいないか見回りに行くのよ」なにやら大量のパックに入った食べ物をリュックにいれた。
「はいユキ上がり~のぶのぶ罰ゲーム!」 「え~また俺が罰ゲームかよぉ」 全く緊張感のない二人だ。
「ま、いいか、散歩もしたいし。行こうぜデルタ」
「のぶなが、俺達に選択権は無いから行くしか無いんだよ」
「ユキはどうする?」デルタはサラとユキを見た。
「私もお手伝いしたい!」とユキは行く気満々なのでみんなで行く事になった。
地下を歩いていると、地下広場の方からなにやら騒がしい声が聴こえてきた。
「我々民間人はしょくにんによって沢山の飢えを救ってもらった。だが、しょくにんはその事を知らず、
施設内で過ごしているだけだ。もっとしょくにん達に自由を与えようではないか!
活旗党に清き一票を、そして人間としょくにんの共存をみんなで叶えましょう!」
「アイツ~良いこと言うじゃぇか」テレビの男と同じような服を着た彼に向けて思わず拍手をするのぶなが
「あれは活旗党の党員ね、表ではそういうけど、裏では闇市を仕切っていたり、
ハンターも所属してるって噂もあるわ」
「え、そんな噂があっても政党として参加できるの?」
「まあ、あくまで噂だから 良いこと言ってしょくにんを寄せ集めて、
機が熟したらハンターが狩って、頭部を闇市で流す なんていう噂よ」
「確かに筋は通っているな」思わず俺とのぶながは頷いてしまった。
「でもよ、リスク無くして自由なんかえられないよな
俺はしょくにんにもっと知る権利があってもいいと思うぜ」
ほぇ のぶなががすごく大人な意見を言っている。なんて珍しい。
「明日雪でも降るんかな」
「ん?なんか言ったかデルタ」
「いやいや、さすがのぶなが公 お勉強させていただきました」
なんてことない 攻守逆転しているが、いつもの会話だ。
そんなくだらない会話をしながら歩いていると、道で転んでいる子供を見つけた。
「サラ、あの男の子で合ってるよな? 膝を抱えてうずくまっている。怪我してるんじゃないのか?」
「本当ね 行きましょう!」外しょくの仕事にとりかかった。
男の子は転んでしまったようだ。パンパンに膨らんだリュックから応急セットを取り出して、
男の子の手当てをした。なんて手慣れた手つきなんだ。
「デルタ さっき男の子かって聞いたわよね?まだ性別の見分けはつかない?」
「いや、大人はわかるんだが、子供はどっちかわからない時がある。」
「え、デルくん 私はわかるよね?」
「あたりまえだ ユキはかわいい女の子だよ サラは…」
「なに? 今晩あんたの脳でも提供してくれるの?」
「いや、素敵な女性だ そんだけさ」
「ふ~ん」
「ちなみに、石川さんは男だし、資料室のマナミさんは女だ 性別というのを知らなかったが、
なんとなく施設にいるときから見た目の違和感を感じていたが、性別が答えとは思わなかった」
「なんで教えてくれなかったんだろうな あの勤勉なデルタくんですら知らなかったんだから
意図的に教えてくれなかったとしか思えないな」
「まあそれはいろいろとあるんだけど、あんたたちはそのうちちゃんと知ることになると思う。
今は何でもいいから少し私の荷物持つの手伝ってくれるかしら」
は、はい と言いながらのぶながと荷物を分け合った。
「よし、今日の活動はこの辺りでおしまいでいいわね 帰りましょ」
4人は余った食材を食べながら歩いて帰っていた。
「ところでさ、ユキの年齢は聞いていたけど、あんた達の年齢聞いていなかったわ。今何歳なの?」
「誕生日までは知らないが、俺ものぶながも14歳だ」
「えっ14歳!?私と7歳しか変わらないじゃない」とユキは驚いていた。
「ユキは7歳か 人間の子供ってちっちゃいな 俺たちが7歳の時は今より少し小さいぐらいだったか?
本格的な収穫が始まったのは6歳だったもんな?」デルタは頷いた。
「じゃああんた達は第3世代ね」
「第3世代? しょくにんにも世代があるのか?」これは初耳かもしれない。
「なんだい勤勉なデルタ君 そんなことも知らないのかね 君は
第一世代は戦争捕虜から産み出されたしょくにん
第二世代は初めて人口胎盤から誕生したしょくにん
そして俺達第三世代は本格的に量産が始まったしょくにんだ」
「な、なんでそんなことのぶながが知ってるんだよ 今日はのぶながに鼻を明かされてばかりだ」
「第一世代のしょくにんの治験は志願者で構成されたと聞いているけど、
初期の実験段階はジュネーブ条約に思いっきり引っかかる事をしていたと聞いたことがあるけど、
それほど人類は窮地に立たされたのだということもわかるわ」
「結果的に人類を救うことになるといえ、犠牲の上に成り立っていると考えると、
素直に喜んでいいのかわからないもんだな あれ?のぶながは?」
のど乾いた~と言いながらいつの間にかユキと二人で自動販売機で飲み物を買っていた。
「あの子たち ホント仲いいわね」
「はは、似た者同士ってやつだろうな」
「サラは俺たちを助けれくれた時、怖くなかったのか?君は再生しないだろ?」
「銃を撃つのは初めてじゃなかったからまあそこまで怖くなかったわ
地下まで追ってくるハンターも地下に撃ってくる愚かなハンターもめったにいないわ
地下への発砲は一発退場だからね」
「人を撃ったことは…」
「実は一度被弾ならしたことはあるの エビスの施設から家出したしょくにんを庇おうとして、
まあかすった程度だっからもう痕も残っていないけどね。でも人に当てたことは無いわ」
「それはよかった 意外と修羅場くぐってきてるんだな」
「昔、私も財団で保護されたのよ その時に助けてくれたのはしょくにんだった おそらく第一か第二世代
だからその恩返しのつもりで働いている」
今日はサラの意外な一面を知った。
「サラ、少し変なこと聞いていいか?」
「なによ 改まって」
「サラは、その… やっぱり俺達しょくにんの頭 食べてみたい物なのか?」




