最終章 第9話 のぶなが-5
第9話 のぶなが-5
机に座っているときにサラが声を掛けてきた。
「え、何その赤い本は!?」
「ああ、これな、施設の資料室で見つけて、持ってきたんだ。
これ、俺が見たときは第1~第3世代のしょくにんの特性が書いてあったんだ」
サラが首をかしげる。
「施設にそんなものがあるの?到底そうは思えないわね」
「ああ、おそらく元研究員が書いた物だと思う。
技術的な言葉が多すぎて未だに理解できない部分もある」
空白が多い、おそらくまだ書いている途中だったんだ。
「それに勝手に書いていいの?」
「ああ、まあ怒られるかもしれないが、
たびたび日記のように書いてきた」
デルタ曰く、マナミさんは何の本だかわからないがそのうち返しに来いと言ったらしい。
「で、サラから聞いたデルタの話もここに書いている」
サラが驚いた顔で俺を見る。
「あんた、意外とまめなのね」
「意外とは余計だ。だがこの姿を見て何度か驚かれたよ、あいつに」
今でこそ明かそう。
「サラ、これを本にしたい。
製本を手伝ってほしい。それが4つ目のお願いだ」
サラは考える間もなく答える。
「いいわ。なにか当てがないか父さん達にも聞いてみるわ」
「父さん?君は難民孤児だろ?」
「お前もか…ったくしょくにんってやつは…小月よ、孤児の私を引き取って育ててくれたの。
今のユキと一緒よ。全くね」
「なんと!だからお前たちも小月という苗字なのか、8年越しぐらいに知ったよ」
人間って難しいな。と少し感じた。
それからは4人であーでもない、こーでもないといい、
半年ほどかけてこの本が完成した。
「サラ、これを製本してもらうのか、これは楽しみだ」
俺とあいつの物語をこの本に詰め込んだ。
そして、あいつの幸福論、俺達が作った開放隊の活動、詰め込めるだけ詰め込んだ。
「この本、肝心なタイトルが無いじゃない」
「タイトルはすでに決めてある。それは…」
あ、そうだ。伝え忘れていた。
「サラ、製本したら3冊ほしい。あとあの本も返しに行かなくちゃな」
「わかったわ。楽しみにしてて」
そこから二カ月待った。もう施設を飛び出してから10年ほど経過しただろうか。
もはやよく覚えていない。
「サラ、ロージー、ユキ、今まで世話になった。本当にありがとう」
俺は深々とお辞儀をする。
「のぶのぶ、世話になったってどういうこと?」
決めていたことだ。この先どうするかは。
「ああ、俺は施設に帰るよ」
勢いよく食いついてきたのはロージーだ。
「ちょっと!あたしと同じ計画を立てるのやめてほしいんだけど!」
「え?いやそれは知らないって」
お前の計画など俺は聞いていないぞ。
「まあまあ二人とも、一応訳を聞こうかしら。なんとなくそんな気がしてたけど」
サラは場をなだめる。
「本当におっかないな、サラは。
俺はあいつと一緒にしょくにんの行く末を見届けることにした」
いいか、続けるぞ?
「罪の意識で帰ろうとしていた。俺みたいなのが外にいてはダメだ。
でも、本を書いているうちに、なんかこう俺たちの未来を見届けたくなったんだ。本心だ」
サラは少し寂しそうな顔をした。
「そう…じゃ、いずれ外しょくに残るのは私一人だけになってしまうわね」
ぼそっと、私も施設に転職しようかしら。
と聞こえてきた。
「ユキ、大学を卒業したら、お前は施設で研究者となり、
より良い研究のために勤しむんだ」
うなずいたユキの顔は、もう一人前の大人の顔だ。
もっとユキと一緒にいたかった。
「ロージー、お前はデルタの遺志を継ぐ第一人者だ。
その役目、俺のように霞ませるな」
ロージーは俺の肩を力強く叩いた。
あんたと一緒にしないでって言葉で刺してくる。
「そして、サラにはこの本を家出したしょくにんに読ませてあげてほしい。
そして、俺達を見守ってくれたように、しょくにん達の道しるべとなってほしい」
なんて大層な事を言ったが、
それはいつものサラのままでいることだ。
「サラ、本当に世話になった。今までありがとう。
多分サラとはもう会えないかもしれない」
俺は手を出した。
「のぶなが、成長したわね。あいつの分まであなたの命を全うしなさい」
サラは俺の手を握った。力強く握ってきた。
だがサラとは施設で何度か会うことになる。
それはまた別の話だ。
「ユキとロージーは、もしこっちに来たら会おう。
俺は職員として施設に戻るつもりだ」
「そうは言うけど職員になれるの?」
サラが釘を刺してきた。
「なんだサラ、知らないのか?
家出して戻ったしょくにんは、
別の施設に行くか、施設の職員として働くことになるんだ」
サラは驚いた顔をしていた。
「まさかあんたに教えられるとはね」
俺はサラとロージーと固い握手をし、
思わずユキをだっこしてしまった。
「ユキー!本当に大きくなったなぁ」
「ちょっと恥ずかしいよやめてよのぶのぶ」
なんてことない、俺達の日常だ。
「あ、そうだ、サラ 小月の名、使わせてもらうぞ」
「私の名前じゃないけど、好きにするといいわ。みんなそう言うと思う」
「のぶのぶ、それってどういうこと?」
その横のロージーも気になっているようだ。
「いやだってのぶながの名前で施設には帰れないだろ!
他の世代でも知っているしょくにんは普通にいるわけだ。」
「なるほど、確かにそうね…じゃ、あたしも貰うは、小月の名!」
サラはロージーにも好きにして頂戴と答えた。
「じゃ、皆、もしまた会えたらな」
俺は振り返らず外しょく本部へ向かう。
手筈は小月がやってくれることになっている。
B地区 13番階段 。
俺達が立ち上がり歩み始めた場所だ。
そんな階段を横目に見て俺は歩いた。
こうして俺は手引きをしてもらい、
安全に施設に帰った。
そんな俺がまず一番最初に会いに行ったのは石川さんだ。
「おお、懐かしいな、のぶなが」
その姿はすっかり老いている。
「石川さん、今度は俺も職員になるからよ、またよろしくな」
そう言って握手を交わした。
「デルタとは仲直りできたのか?」
あいつ、石川さんとも会っていたのか。そりゃ当然か。
なら覚悟を決めて言わなければならない。
「石川さん、デルタは俺が殺してしまった…俺のせいで死んだんだ」
その言葉を聞いたとたん、
彼の表情が暗くなった。
「そうか、逝ってしまったのか…
良ければ詳しく話してくれないか」
俺は持ってきた本をみせながら起きた事柄を話した。
「そうか、実にあいつらしい。
のぶなが、変わってワシが許すと言おう」
何言っているんだ石川さん。
「やめてくれ、俺は許されるつもりなんかないんだ」
「そうじゃない、デルタの親父として言うんだ」
「え?父親??」
「ああ、実の娘もいるが、デルタはな、
俺が精子提供をして産まれたしょくにんだ。
だからの、どうも依怙贔屓してしまった」
俺は、最悪の形で借りを返してしまった。
「石川さん…ほんとにゴメン。ゴメン」
彼は俺の背中を優しくさすってくれた。
「のぶなが、まあ同僚として仲良くやっていこう」
「はい、よろしくお願い致します!
あ、俺もう一人速攻会いに行かないといけない人がいる」
俺は部屋から出た。
なぜその人に最初に会わなかったというと、怖かったからだ。
俺は恐る恐るドアを開けた。
「こ、こんちゃ~」
目の前に映る赤い髪の女性がすぐに俺を睨む。
まるで後ろの部屋に来いと言わんばかりに手招きされる。
恐る恐るその部屋に足を運ばせた。




