最終章 第八話 のぶなが-4
第8話 のぶなが-4
関係者だけ集めてあいつの葬儀を行った。
サラ、ユキと同じ苗字の小月という夫婦、
クモ、カレーラ、ロージー、ユキ、サラ、そして俺だ。
普通のしょくにんは身柄の扱いに関しては、
施設側の許可なしに何もすることができないが、
保護中の身でなければ、特に必要ない。
焼け跡から残った骨は、首元の骨と頭部の骨だ。
身体の骨はほぼ原形をとどめていない。
「み、みんな、お願いがあるんだ」
一斉に俺を見る。
「俺、昔あいつと約束してたことがあって、
どこでもいい、骨の一部を欲しい。
埋めたい場所がある」
サラが渡してくれたのは右側の頭蓋骨だった。
「行ってきな、でも必ずここへ戻ってきなさい」
俺はありがとうと言い残し、場を後にした。
「約束、俺が破ったんだ。ごめんな」
俺は遺骨をリュックに入れて、薄暗い山道を歩く。
「お前は覚えてるかわからないけどよ、
いずれまたここに来ようと言ったんだぜ」
日本で一番高い山へ、いずれ二人で行こうと約束した。
「あの日は俺たちが明確に別々の道を歩み始めた日だったな」
あの時、お前の誘いを飲んでいればこんな結末にはならなかった。
その後ものぶながは暗い道を黙々と上り続けた。
空が青く染まってきたころ、山頂についた。
「デルタ、俺の目を通して見てみろ、
お前は俺の中にいるんだろ?」
約束した景色。
「この国の夜明けだ。美しいな」
この景色は、人生で見た景色の中で最も美しい景色だった。
一生涯、この景色を超える美しさは無いだろう。
俺は胸に刻んだ。
俺は持っていたスコップで地面を掘った。
そこにデルタの遺骨を埋めて手紙も埋めた。
「これで新人類しょくにんのデルタの22年間の物語は終わりだ」
俺は帰路に就く。
開放隊のアジトに戻ることにした。
「みんな、すまない。俺の身勝手な計画に巻き込んでしまった。
特にキジ、お前には死んでも死んでも償いきれない。俺は本当に愚かだった」
黙るしかなかった。
報告書はすべてサラが書いてくれた。俺の単独行動だと。
「しょくにん開放隊はこれにて解散にする。
みんな、俺のわがままに付き合ってくれて本当にありがとう。
そして、しょくにんの国が実現できず申し訳ない」
クモが口を開いた。
「でもよ、皆どう思ってるかわからないが、
俺はこの3,4年すごい楽しかった。
生きているという実感がした。それは本当だ」
続けてカレーラも口を開く。
「それだ、俺は生きている。と実感できた。
これはここにきてから初めて経験したことだ」
すっかり傷が治ったキジは
「のぶながさん、まだまだこれからですよ。
なんかこう見えてきた気がします。
僕たちの目指す道が」
3人はこんな俺にまだ声を掛ける。
「だからのぶなが、また一からやっていこうぜ?仕事も増えてきて収入も増えたんだ」
「そうですよ、人間として生きていくレールを引いてくれたのはのぶながさんです」
こんな言葉を聞けてうれしい。
そうか、俺が欲しかったのはこういう日々なのかもしれない。
「ありがとう。だが、俺はこの船の舵はもう切れない」
都合がよすぎる。選んだ自由に対する責任が軽すぎる。
「ここまで組織を大きくできたんだ。
みんながこの世界で幸せに生きられるよう願っている」
幸せ、幸福論、あいつが目指していた幸福論を少し知りたい。
俺はアジトを後にした。
振り返らずに歩き続けた。
インターホンを押す。
何も言われず扉のロックが外れた。
「おかえりなさい、のぶなが。片付いたの?」
サラ、君はどこまで知ってるんだ。
「サラ、頼みがある」
「さーて、どんな頼みかしらね」
それも見透かしているのか?あんたは恐ろしいな。
「頼み事は四つある。
一つはしばらくここに居させてくれないか?保護中扱いしてほしい。
だが金は払う。当然だ、俺は人間だから」
ふ~んというサラに、有り金をすべて渡した。
「ま、受け取っておくわ、使わないけどね」
「そんなこと言うな。
そして二つ目は、あいつの話をできるだけ詳しく聞かせてほしい」
今は、あいつを理解したい。それしか考えられなかった。
「でもその二つはユキとロージーにも許可を取りなさい。
そして二人からも話を聞きなさい」
そうだな、だが、二人は許してくれるだろうか。
「で、残りの二つは?」
ほんと、どこまでも冷静だな君は。
「三つめは、個性 という物を教えてほしい。
それが答えなんだろ?」
あいつが教えてくれた最後の言葉、
あいつはたくさんの事を俺に教えてくれた。
その最後が個性というやつだ。
「教えるまでもないけど、まあ一応教えるわ、あとでね」
俺だってなんとなく見えている。ただこうピースが合わないんだ。
「四つ目はまだいい、その時が来たらお願いさせてもらう」
伝えたいことは全部言った。
「わかったわ、二人ともお出かけしてるから、帰りは夕方よ」
夕方…あと何時間だ…。
シーンとした部屋で空調が動く。
こんなにこの部屋は声以外で色んな音がしていたとは知らなかった。
まずはロージーが帰ってきた。
俺を見ると表情が曇る。
「ロージー、聞いてほしい」
「なによ」
「あいつの幸福論、お前はどこまで理解している?」
「ん~一応デルタが残したノートがある。これで一緒に勉強していた」
記録に残るのは本当に助かる。
「俺にも幸福論を教えてほしい」
ロージーは間髪入れずに
「嫌っ 絶対に嫌!」
「た、頼む!」
「だってあなたはデルタとは違う道を歩んだじゃない!
だから知るだけ無駄よ?」
わかっている。だがそれでも…
「それでも知りたいんだ。あいつのことが」
それを聞いてロージーは黙ってしまった。
サラがロージーの肩を優しく叩く。
「ロージー、彼に教えてあげなさい。
デルタが家出したしょくにんにしてあげたことは何?」
ロージーは悩んだ。
「デルタは、勉強会の実施、外しょくへの勧誘、施設に戻るための手引き、そして…」
あいつはどこまで見据えていたんだ。
教えてほしいデルタ。
「のぶながの元へ案内を…していた」
「そうよ、デルタはしょくにん達一人一人の意見を尊重した。
あなたもデルタを追うなら、これ以上は自分で考えなさい。
それがあなたの選択よ」
「す、少し考えさせて」
ロージーは立ち上がり部屋に行こうとして。
「おれ、答えが出るまでここに泊ってもいいか?」
「好きにすれば」
そう言い残し、彼女は部屋に入った。
ほどなくしてユキが帰ってくる。
「ユキ、おれまたしばらくここで暮らしていいか?」
ユキは顎に手を当て考える。
「のぶの…のぶなが、悪いけど私まだあなたのこと許せていないの」
その言葉を聞いたとたん、
聴力を失ったかのようにボーッという音しか聞こえなくなった。
しかしそれはすぐに回復する。
「心の整理の時間が欲しい。でも、条件が一つある」
ユキは指を一本立てる。
「私と真剣勝負、将棋で。私に勝ったらここにいてもいい」
「わかった」
振り駒の結果、俺は後手だ。
15手ほど進む。
ああ、デルタ、お前はちゃんとユキの中でも生きているんだな。
懐かしい陣形だ。
すんなり進んでいた対局だが、
突然ユキの手つきが止まる。
「のぶなが、誰からその陣形教わったの?」
「ユキ、攻め手が雑だ。俺をなめるな。
俺は施設で何回あいつにズタボロにされたと思ってるんだ」
二人は本格的に守り将棋の形に動いた。
勝負は翌日まで持ち越したが、
ユキの前半の雑な攻め手があだとなり、
攻めゴマを俺に与えてしまった。
そして俺が隙をついて一気に畳みかけた。
「私の負けね」
「お前、あいつから攻め手は教えてもらってないのかよ」
「違うわ。油断していた。
のぶながが守りの将棋をするとは思わなかった」
ユキ…ありがとう。
「のぶなが、あなたの陣形にデルくんの影が見えた」
ユキは布で顔を隠す。
おいおい、それはこっちのセリフだっていうの。
二人で対局を振り返る。
ユキとこんな話をするのは初めかもしれない。
「のぶなが」
ロージーが話しかけてきた。
「なんだい、お前もやるか?」
「これを読んで少し勉強してからなら口きいてあげる」
ロージーのノートには、デルタメモと書いてあった。
ありがとう。みんな。
「また世話になる。でもいずれ出ていく」
そう言い残して俺はデルタの残したノートを開いた。




