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最終章 第7話 のぶなが-3


7話 のぶなが-3


キジ


僕はお腹をさすっているその手を、シャツの中へ忍ばせた。

重たい、持ったことがあるのに更に重たく感じる。


腕を伸ばしすぐにトリガーに手をかけた。


銃口がぶれる、そんなことを気にする余裕はなかった。


だがそんな重たい銃とは正反対でトリガーは恐ろしく軽かった。



のぶなが


「あ~キジは上手くやってるかな…」


送り出しは緊張した。

だが、直接自分で動かない分、待つしかできない。


不思議なもので、

そうなる意外と焦らないという事がわかった。


「あいつには、しょくにんの世界を作るとか言って、

部下に強盗をさせて、俺ほんと何やってるんだろう」


焦ってしまったんだ。

何の成果も出せない自分に。


「俺がやりたかったことって何だろう」

自由な暮らし、縛られない時間、そして人として生きること。


「だが、やっていることは仕事をしているだけ…」

それってどうなんだろう。


わからない。何が正しくて何が悪いのか。


悪い…

「悪なのは俺だデルタ!俺は一体何をしているんだ!?」


だがもう遅い、いや引き返せる?


「キジにストップをかければ間に合うか!?」


本当に何を考えていたんだ今まで。

だが何をすればいいのかもわからない。


「友を悪の手に染めて、おれは…」

トランシーバーを手に持った。

一度ボタンを押す。


一呼吸おいて言う。

「すまなかったキジ、作戦は辞めよう!」

間に合うか。間に合ってくれ。


トランシーバーのボタンを離そうとした、その時。



ドカーーン!


破裂、いや爆発音が聞こえた。


俺はとっさに武器弾薬庫を見た。


右手のほうから煙が上がっている。

そして、弾薬庫の壁が崩れていた。



夢中で走る。

「キジ!大丈夫か!」


心拍数が跳ね上がる。

やった。やってしまった。


取り返しのつかないことをした。

だがもう遅い。遅かったんだ俺は…



崩れた壁から顔を覗く。


「そっちには近寄るな!」

など叫んでいる声など俺には入らない。


俺が見た光景は、

尻もちをついたキジの姿だった。


「キジ!無事か!」


空いた穴から俺は部屋に入る。

何かぐにゅ とした感触が伝わる。


「なんだこれ…脚?」

俺が踏みつけたものは脚だった。


俺はとっさにキジを見る。手足がちゃんとついている。


「誰のだこれ」


俺は右の棚のほうを見た。

崩れた棚の中に一人の男が横たわっている。


その男の右の腕と脚が無い。


「お…俺が…殺した??」


耳鳴りが聞こえたとたん視界が遠のく。


恐る恐る倒れている男に近寄って声をかける。


「だ、大丈夫か…生きているか…」

たのむ生きていてほしい。


俺は俯いた男の顔を上げた。

首から血を流すその男は…


「え…嘘だろ…なんでお前が…」

最愛の家族の変わり果てた姿だった。



「キジ!こいつを外に運ぶのを手伝え!」

俺達は外に運んだ。


「おい、おいしっかりしろ!」

俺は声を掛け続けた。


「んっ、あれ、おかしいな、のぶながの声がする」

男の目は開いている。


「おいデルタ、俺だ、のぶながだ。ちゃんといる」

「夢か?のぶなが、お前の声が聞こえてうれしい」


お前はこんな弱弱しく喋る奴ではない。

「しっかりしろ、デルタ!」


「なんだのぶなが、本当にいるのか?そこに、なあ聞いてほしい」

「なにいってんだよデルタ」


俺はデルタの首を抑えた。

止まれ!血よ!止まるんだ!!


「のぶなが、お前は答えにたどり着いたか?

俺は先日ようやく答え合わせができたんだ」


「え、サラのか?俺はまだだ」

こんな時に何を言ってるんだお前は。


「ふっふっふ、じゃあお前に教えてやるよ、

俺とお前が違う道を進んだ理由、それは」


言うな!しゃべるな!それ以上聞きたくない!

聞いてしまうと、お前が本当にどっか遠くへ行ってしまいそうだ。


「それはな、個性だ。意味は自分で調べてみろ、のぶなが」


後ろから走る音が聞こえてきた。


「デルターーーー!」

彼女が来た。


彼女は俺の顔を認識するなり表情を変えず、俺からデルタを取り上げた。

サラ、君の表情を見ればわかる、もうそいつは…


「デルタ!大丈夫?」

「ああ、今度はサラの声だ。いるんだな?そこに」


「いるわ」

サラは両手でデルタを抱きしめる。


「ああ、君の美しい顔が見れなくて残念だ」

「な、なに言ってんのよ!」


「サラ、お願いがある。聞いてほしい」

サラはデルタの口元に耳を当てた。


「サラ、俺をさばいて俺を食べてくれ。俺の脳を」

その言葉を聞いて彼女の両目からは…


「俺は、皆の中で生きたい。君の中でも生きたい。

のぶなが、ユキ、ロージー、そして君に俺を食べてほしい」

「わかった、わかったわデルタ」


サラはリュックから長い包丁を取り出した。


「サラ、最後に、君を愛している」

彼女の声は聞こえなかった。

彼の耳元で何かささやいた。



サラはデルタの首元に刃を当てた。

その姿に、俺は思わず、美しさを感じた。



「のぶなが、見なさい彼の顔」

サラが抱えたものを見せてくれた。


「おい、こいつ…」

なんでこんな幸せそうな顔してんだよ…


そこからのことは覚えていない。

気が付いたらサラの部屋にいた。




「キジ、ほんとうにすまなかった。一度アジトに帰って休んでくれ」

俺は彼の顔を見ることができなかった。


「のぶながさん、あなたが来ないとまとまらない。帰りを待ってます」

一礼して彼は部屋を後にした。


まだロージーはこのことを知らない。

サラは動転して何も言わずにデルタを抱えて俺とキジを連れてきた。


ユキはまだ学校から帰ってきてない。


「ロージーには私もデルタも先に帰ると連絡を入れた」

サラはデルタの遺体を捌くなり冷蔵庫に閉まった。

食材と同じように。


「のぶなが、詳しく聞かせてくれないかしら」


俺はこれまでの経緯と計画していたことを彼女に話した。



「俺が…俺がデルタを殺したんだ…」

愚かな計画だった。


「俺があいつを脱走に誘わなければ、俺が活旗党に入らなければ、

あいつの言う通り外しょくに入っていれば…」


全てデルタの人生を狂わせた。

張本人は俺は。


「あいつのいう事を一つでも聞いていたら…俺たちは…」


サラが口をはさむ。

「違う未来になった。それは結果論」


サラ、君は相変わらずこんな時でも冷静なんだな。


「でも、あなたは最後に踏みとどまろうとしたじゃない」

君はなんて優しいんだ…サラ。


「デルタが言っていた。

のぶながを許して…。これが本当の最後の言葉よ。彼の」


それを聞いたとたん視界がぼやけた。


「あ、あれ、なんだこれ…本当だな、

うれしいときと怖いとき以外も涙って出るんだな…」


サラは立ち上がる。

「それはあなたが生きている証よ…

彼の分まできちっと背負って生きなさい」


サラはみんなが帰ってくるまで部屋にいると言い奥へと消えた。



再び姿を現した頃、

彼女のきれいな赤い髪よりも目元が真っ赤になっていた。


その顔は一生忘れないだろう。



あいつの死を知ったのは二人同時だ。

二人とも一緒に帰ってきたからだ。


デルタの顔を拝むなり、

ロージーは叫び、俺を罵り罵倒し、殴られた。

ユキはサラの腕の中でいつまでも泣いていた。



「さあ、みんな、ここでデルタの最後のお願いを伝えるね」

サラは立ち上がった。


「デルタはのぶなが、ユキ、ロージー、そして私の中で生きたいと言ったわ」

それが意味するものは…?


「なのでこれから彼の脳をみんなに食べてもらいます」

食べる?あいつを食べるのか?



サラはキッチンへと行き、しばらくすると皿を4つ持ってきた。


「これがデルタの脳、そしてしょくにんの最高級素材よ。

彼は、私たちの骨となり血となり、これからずっと一緒に生きていきます」



俺は皿を手に持つ。箸で口元に運ぶ。

臭みの無く上品な香りが鼻に抜ける。

舌にのせるとあっという間に溶けて消えた。


これが…しょくにんの…デルタの脳…


俺はいつまでもいつまでも溶けてなくなったそれを味わっていた。


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