最終章 第四話 デルタ-2
4話 デルタ 2
日本は住みやすいが天災が多い。
ノートに書いたことをさらに纏めていた。
「サラ、明日時間をくれ」
「いいけど、そろそろ棚卸だから仕事片づけといてね、
ロージーもよ!」
はーいなどとのんきな返事が飛んできた。
棚卸の二週間前には経費を纏めたり、
報告書を提出しきらないといけない。
だが、そんな事をやっている場合じゃない。
「サラ、それは明後日からでも間に合う。明日時間をくれ」
知りたがっている脳が俺の身体や口を支配するんだ。
これをサラが 興奮 と教えてくれたんだったな。懐かしい。
翌日、午前中の仕事を片付け、二人でリビングの机に座った。
「サラ、ようやく君からもらった課題の答えが分かった。多分」
俺はノートを広げた。
不平等 という文字を書いた。
「これが答えだ。どうだ?」
サラは両手で額に手を当てう~んと深くうなっている。
「まあ…ここが潮時かしらね…これ以上出てこないでしょう」
「え、ってことは不正解か」
「正解ではない。
でも本質はずれていないので話次第では及第点とする」
及第点、それを言われて非常に悔しい気持ちになった。
「俺達しょくにんは全てが設計されて生まれてきた。
だがそれでも差は存在する」
その後も、人間の産まれの話、国による特色の話、
学んできたことを話した。
「そこで俺は不思議に思ったんだ。
この国は海も山も川もある。天災は多いが暮らしやすい」
貿易国家になるのは当たり前なのだ。
「だが、世界中には、水がない、海がない、山ばかりの国もある。
だがそこにはるか昔から人が住み着き子を産みまた子を産んで生きてきた。
これが不思議なのだ」
なぜ過酷な環境を選んで暮らすのだろう。
「生きとし生きるもの全て、不平等なんだ。でも」
ここからが本題だ。
「俺達しょくにんはほぼ平等だ。生まれも環境も親も金も関係ない。
世界で初めて唯一平等で産まれた生き物なのだ」
それでも、そんな状況でも。
「それでものぶながと俺は違う道を進んだ。
そんなことがあっても施設で暮らすしょくにんがいる」
サラは一つも口を挟まずに俺の話をただただ黙って聞いている。
「最初は知識の差だと思っていた。
知識と経験の差が道を分けていると思っていた」
なるほど、とサラは初めて相槌を打つ。
「知識と経験の差が道を分ける…実にあなたらしい考えね」
それだ、
「サラ、その 俺らしい 当たり前のように使っていた言葉だが、
いやそれは後にしよう」
資料室にあったビデオに信長伝という大河ドラマがあった。
「あのドラマ、俺は一度しか見なかったが、
のぶながは何度も見た。
あいつは惹かれたんだ。信長の生き様に」
これも君だサラ、
「興味 何年か前にこの言葉を教えてくれたのも君だ。
のぶながは他の授業に興味がなかった」
「俺はそれをずっと知識と経験の差だと思っていた。
だが彼女らに会って考えが変わった」
俺はノートに100%と書いた。
「スズとネネだ。諸説あるが一卵性双生児で産まれた彼女らは、
ほぼ100%近く同じ遺伝子をしている」
「スズちゃんとネネちゃんがきっかけか…なるほど」
サラは頷いた。
「同じ家、同じ親、同じ環境で育った二人、
俺とのぶながより遥かに平等だ」
リコーダ、鍵盤ハーモニカと文字を書く。
「スズはリコーダーが好きで、ネネは鍵盤ハーモニカが好き」
最適回な言葉が思いつかない。
「スズはスズ、ネネはネネなんだ。
それが俺の答え、生物は平等であって平等じゃない」
サラは席を立ちあがった。
「みんな呼んでくるわ、コーヒー飲む?」
俺はグーサインで合図する。
「あつまったわね」
サラ、ロージー、ユキ。みんな席に着いた。
「デルタには今日しょくにんに禁じられてる最後の知識を教えます。
ロージー、ユキ、あなた達にとってもとても重要なことだから、ぜひ聞いて頂戴」
サラは続けていう。
「デルタ、さっきの平等であって平等じゃない、
適した言葉があるの」
サラはホワイトボードに二つの漢字を書いた。
「個性 こせいと読む。
これがしょくにんが知らない言葉よ」
「え?個性?それだけ?」
ユキが驚いたように言う。
「そうよユキ。しょくにんには個性という、
知識と言葉が封じられている。
ロージーこの言葉を聞いてどんな意味か想像できる?」
ロージーは首を横に振った。
「じゃあデルタ」
「ん~個の性…個人の…性?性別、性格…あ!個人の性格か!?」
サラはにやりと笑う。
「さすがよデルタ。個性とはその人の独特な性格や性質の事を言うの。
つまり、一人一人生き方や考え方が違うってことなのよ」
一人一人違う。
それは個性という必然的な物。
「個性か、だから俺とのぶながが違う道を歩むというのも、
それは当然のことというわけか」
なんでこんな簡単なことに気が付かなかったのか。
「意味を知ればとても簡単で当たり前の事じゃないか。
俺達はこれに8年以上悩まされていたのか。
なんだ個性だったのか」
全身の力が抜けた。
だが頭がスッキリした。
「彼に…のぶながに会いたい。
今なら彼の事を認められる。それが彼の個性だから」
「ねえ、でもなんで個性が禁止されているの?」
ユキは手を挙げてサラに聞いた。
「集団生活において、個性が一番やっかいだからよ。
個性を認めたら、もっと家出するしょくにんが増えるわ」
確かにのぶながの世界を認めたら、
それに賛同するしょくにんも多少はいるはずだ。
「合理的だ。実に美しい制度だ。
しょくにんは尊く扱われている。これは事実だ」
俺たちはしょくにんであり、紛れもない一人の人間ということか。
「でもみんながみんなデルタのように合理性を求めているわけじゃない。
でも、家出するしょくにんは全体の1%にも満たないから、
あなたの考えが一般的なのかもしれないわね」
サラは再び立ち上がった。
「お昼ごはん、たまにはみんなで外に食べに行きましょうか」
ロージーとユキはとても喜んでいるようだ。
真のしょくにんとして覚醒したデルタは、
この先どのようにしてしょくにんを導いていくのか、
また、どのようにして人間と繋がっていくのか、
彼の活躍がとても楽しみだ。と、
サラは目の前にいる人に語った。
「ユキ、今日は遅いけどまあ適当に済ましてちょうだい。
行ってくるわね」
今日から棚卸だ。
もう何度経験したかも覚えていない。
俺達は新宿本部まで向かった。
「ん~ロージー君は事務用品をやってくれ」
小月さんが棚卸の指示を出す。
「サラは一階の救護部屋の備品だ」
「そしてデルタ、君は今回は武器弾薬庫に行ってくれ」
「では解散!よろしく!」
昼食の約束だけして、
俺とサラはエレベーターに乗った。
「じゃあねデルタ、
あとで助っ人が来ると言っていたわ」
そういい残しサラは入り口奥の救護部屋に入った。
「さてと、弾薬から片づけよう」
俺は静電気防止装備を付けて部屋に入った。
ほう、弾薬ってこんなに重たいのか。
などと考えながらも箱の数や弾薬を数えた。
シャッターの開く音がした。
「助っ人か、すまないが武器のほうを頼む」
あれ?もしかして。
「君はしょくにんか」
胸元についているバッチを見た。
「それ、どこでみたっけ…
あ、昔のロージーの持っていたバッチと同じだ…」
ん?
「おい、お前誰だ?」
ザザザとトランシーバーの無線の音が微かに聞こえた。
話は少しだけさかのぼる。
「なあのぶなが、
デルタにも知恵をもらったほうがいいんじゃないか?」
「クモ、それはダメだ。絶対にダメだ」
一人のしょくにんが焦っていた。




