最終章 第二話 ユキ
第2話 ユキ
中学二年生。その時の私はまだ自分の将来の夢を決めれずに、ただぼんやりと中学生の学業に勤しんでた。
二年前、一年半の協議の末、ようやく実現した体験学習。
新宿南第一中学校様 と書かれた札の横の入り口から、
私たちはしょくにんの施設に入った。
「南一中の皆さん、こんにちは、人事課の瀬山と申します」
瀬山さんがよろしくお願いしますと頭を下げた。
「瀬山さん、2-A 小月です。本日はお忙しい中ありがとうございます。よろしくお願い致します」
私も頭を下げた。
今日は全国初の学生によるしょくにん施設の見学。
その生徒代表の挨拶として私が選ばれるのは、
誇らしくもあるが、少々恥ずかしい。
「ユキちゃん、その後みんなは元気かい?」
「はい、皆変わりなく病気もなく元気にやっています」
瀬山さんとは3か月振りだ、
何度か打ち合わせで顔を合わせている。
だが、今日はデルくんは同席しない。
「それではこれが今日のスケジュールです」
瀬山さんから今日1日の見学スケジュールが示され、
さっそく私たちは最初の見学ポイント、
人工胎盤ルームへ案内された。
「この人工胎盤で、ある程度育ったしょくにん達は、
性別が確定次第、
性別ごとに各施設への出荷が始まります」
この新宿施設は1年で1000人しょくにんを食育するという。
周りからは「へぇ」だの「しらなかった」だの言っているが、
中には「きもちわりー」だの声を出す者もいた。
私はたまらず、
「あなたもお腹の中ではこうだったでしょ?
差別的な発言は控えて」
と言ってしまった。
そして次の部屋に案内された。
「ここでは研究員たちが、日夜しょくにんのDNAや血液などの研究をしています。
そのおかげかはわかりませんが、10歳までの死亡率は0に近い数値です」
確かデルくんが前に言っていた。
人間の出生から10歳までの生存率は99.7%ほどだと。
交通事故や、事件事故が少ないこの施設で育つのだから、
ほぼ0%に近いのは、まあ当たり前のことだ。
「それでもやはりエラーは発生します。
施設内でのケガや事故での死亡はほぼ0%に等しいですが、
まれに奇病が発生したりします」
病気か、人間も風邪をひいて子供が死ぬこともある。
「子供でもガンなどにかかってしまうことがあると思いますが、
しょくにん達も稀にそのようなことが発生します。
死亡率が完全に0にならないのはそのためです」
あれだけ遺伝子をいじって、再生する身体を持っていても、
病気には勝てないことがある。
「不死身という訳ではないのね…」
私はこの時、なんとかしたいと思ったのが正直な胸の内だ。
その後も、小さいしょくにんの知育ルームを見たり、
肉の保存庫を見たりした。
私たち中学生にとってこの見学は、少々生々しいのかもしれない。
次第におしゃべりする同級生はいなくなった。
「それでは皆さん、一番の見所、収穫の見学と、実食をしていきましょう」
ようやくきた。デルくんの夢が叶う。
私たちの頑張った成果だ。
「今回は100人のしょくにんさん達の収穫の様子を見学しましょう」
コンベアに乗っているしょくにん達が収穫待ちをしている。
見事に揃っている身長。知ってたはずなのに知らなかった。
私が関わってきたしょくにんは、10人いるかどうかだ。
「あの~質問なんですけど、
しょくにんってみんな同じぐらいの身長していませんか?」
クラスメートの一人が瀬山さんに質問した。
「鋭い所に気が付きましたね、実はDNAで身長を操作しています。
ただ、当然誤差は出るのですが、170cm ± 3cm辺りで収まります」
彼らが一列に並んだ光景を見て実感した。
本当に彼らは食料として産まれ、育てられ、そして食べられるのだと。
「ん?なに?」
足元を見てもなにもない。だが、
足がそわそわする、
そして背中に何かが這うようにぞぞっと感じた。
ごめんねデルくん…
ここが施設、そしてしょくにんなんだね。
そんなとき先生が口を開いた。
「みんな、この光景必ず見ておきなさい。
なぜしょくにんが産まれたのか、人間がどうして生きていられるのか、
命とは何か、こんなことを中学生で知れるなんて、あなたたちは幸運だわ」
落としていた目線を上げ、私は彼らの有志を見届けた。
他の生徒も一丸となって、しょくにんの収穫を見届けた。
「では、このまま皆さんで食堂に移動しましょう。
A-R-001~100の皆さん収穫お疲れ様でした。
このまましょくどうへ移動してください」
私たちは職員ルートで食堂へ移動することになった。
「お待ちかねの実食です。今日は8人の料理人が収穫したてのお肉を使用して、
中学生の皆さんに昼食を振舞います」
ゲートの向こうにいるしょくにん達のほうへ瀬山さんが歩いた。
「A-R-001~100 先ほど収穫した肉をこれからあの子供たちに食べてもらいます。
今まで君たちは、自分から収穫された肉が誰かに食べられる所は見たことがありません。
なので、子供たちの反応をうかがえるとてもいい機会です。
ぜひ子供たちの食べている顔を見て反応を楽しんでください」
そうして運ばれてきた料理から立ち込める匂いに、
私のお腹はしっかり食べ物だと認識しているようだ。
おいしい。確かにおいしいが、サラが作る料理のほうがおいしい。
肝心の肉は、確かに癖が無く食べやすい。
だがどこかデルタの肉とは違う。気がする。
「意外とおいしい!」
とクラスの何人かが食べたのを見て、
箸が止まっていた生徒も食べ始めた。
「おお、食べた」などしょくにん達のほうから声が聞こえてくる。
お肉が苦手な人や、どうしても受け付けない人もいるようで、
食べ残しをする生徒もいたが、9割以上は完食した。
そんなこんなでしょくにんの見学もあっという間に終わりの時間が来た。
「皆様、お疲れ様でした。しょくにん達もとても新鮮なリアクションをしていました」
俺の肉はどの子が食べたのかな~なんていう人もいた。
その週の土曜日、私たちは小月夫婦の家に行くことになった。
「マオさん、今回の見学してみて本当に良かったと思った。ありがとう」
奥さんのマオさんは、
私たちの提案や意見などを纏めてくれていた。
「シンジさん、私将来、外しょくじゃなくて、
施設の研究員になりたいと思う」
旦那さんのシンジさんは、
施設との橋渡しをしてくれた。
この二人が居なければ、
デルくんの計画が実現することは無かった。
そして、私の将来の夢はまだ決まっていなかっただろう。
「本当にありがとう。おじいちゃん、おばあちゃん」
「マオ、聞いたか!?
ユキちゃんが初めておじいちゃんって言ってくれた」
二人は涙を流している。
そんなにうれしいのだろうか。
「おいおい、ユキ、二人はまだお年寄りじゃないだろ、ショック受けてるじゃないか」
あほデルくんめ。
「はぁ、サラは いっちどたりとも パパママって呼んでくれないのにねぇ」
マオさん。お気持ちはわかります。
「は?まてまて、パパ?ママ?」
デルくんがきょとんとした顔をしている。
「サラ、いったいどういう事なんだ」
「はい?」
一体二人は何の会話をしているんだ。
「確かに小月と同じ苗字をしているが、
お前たち親子じゃないだろ」
デルくん…まじか…
「あんた、え?今まで私たちのことなんだと思っていたの?」
「えっ何って上司と部下だろ?」
サラは深くため息をついた。
「今まで何度顔を合わせているのよ…
あのね、ユキのように保護された。
ここまではいい?」
「ああ、そして小月にも子供はいる。
血は繋がっていないと言っていた」
「そう、保護され娘として育ったのが私」
もうやめてくれ二人とも、
夫婦漫才はよそでしてほしい。
面白さと恥ずかしさがこみ上げる。
「え、私も知らなかったんだけど…」
ロージーねえ、あんたもかい!
私はたまらず大笑いしてしまった。
なんてことない。いつもの日常よ。
そして私は高校生になった。
「今日部活あるから遅いよ~」
私は駅まで急ぐ。
私はデルくんの幸福論を別の視点から支えたい。
生きとし生ける全ての物に手を差し伸べることはできないけど。
私がしょくにんに救ってもらったように、
私がしょくにんを救いたい。
でも、まだ私にはやり残したことが何個かある。
その一つがデルくんを超える。
密かな願望だ。
「デルタ!私と真剣勝負して」
私は彼の前に立ちはだかり、
今の私の全てをぶつけることにした。




