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第三章 第十三話


第13話


新しいテレビが届いた日、

のぶながからメッセージがあった。


[来週の土曜日そっちにいく]


4年ぶりだっただろうか、彼に会うのは。

一応サラにも知らせておこう。


「サラ、来週のぶながが来るそうだ」

キッチンでスープの味見をしているサラに俺は報告をした。


「先週連絡あったわ」

「は?どういうことだ、俺には今日来た」


またあいつは、優先順位がしっかりしている奴だな全く。

「ロージーも来るそうよ?一緒に泊まらせてくれって」


「滞在するのか、あのやかましいのが二人も」

「そんなこと言って、あなた顔が緩んでいるわよ」


両の手で口元を隠した。


「あ、一応クモとカレーラものぶながに会わせたい。呼んでもいいか?」

「泊まれないわよ?そんなにたくさんは」


でも紹介したいから呼ぶことにした。


俺は端末から西沢に電話を掛けた。

「西沢さん、俺だ。デルタだ。どっちかに変わってほしい」


「やあデルタ」

この声はクモだ。


「来週土曜日、お前たちに会わせたい人がいる。こっちにこれるか?」

いきなり保留音が鳴った。


テレビのCMが終るころ、再びつながった。

「その日はよ、俺たちも用があるんだ」


「そうか、それは残念だ。またの機会にしよう」

俺は通話を切った。



サラがダメと言ったらどうするか…などと考えているものの、

聞かないことには始まらない。


「なあサラ、今度こそあのバカをこっちに引き入れる。

またうるさい住民が増えてもいいか?」


「いつでも覚悟だけはしている。

でも部屋はあなたの部屋を分けてね?」

サラは即答した。


親指を立ててサラに合図した。

ユキには聞くまでもないだろう。



そうして土曜日、あっという間に再開の時がやってきた。


インターホンが鳴る。一目散に駆けていったのは12歳の少女。


「のぶのぶー!」

あれだけ大きく成長したと思っていた彼女が、

まだ8歳の少女のままだったとは。


少女は飛ばなかった。そのまま彼を抱きしめた。


「ユキ、ただいま」

「おい、ユキだけじゃないぞ、お前の家族は」


「すまない、皆、ただいま」

なんてことない。俺たちの日常だ。



のぶながの後ろには、ロージーの他に二人の男が立っていた。

「おい、なんでお前たちがいるんだ」


「わりーなデルタ、のぶながが秘密にしろってうるさくてよ」

クモとカレーラは頭をかきながらこっそり顔を出した。


「どういうことだ、のぶなが」

「まあまずはお前たちの話を聞かせてくれ。

相談があるんだろ?」


というので、部屋に入り、

彼のいない空白の4年を埋めてあげることにした。



話の主導権は次第にユキが握った。

「のぶのぶ、私とチェスで勝負しなさい」


「ほう、いくらユキでも俺は手加減しないぜ?」

俺は引き出しからチェス盤を取り出した。


先行はのぶながだ。

「そうか、ここのチェス盤はどっちの軸も数字表記だったな」


本物のチェスはこうではない。

おそらく子供用の安物だからだろう。


15局は進んだ。

ユキは守りへ、のぶながは攻めへ、予想通りの展開だ。


「デルタ。お前の打ち筋が見える。相当教え込んだな」

「のぶなが。打ち方が変わったな。正直勝負が見えない」


ユキの守りは堅い。だが局が進むにつれて、

ユキの額に汗が浮き出てきた。


のぶながの命により動いたクイーンが、

ユキのビショップを奪った。


これが勝敗の分け目となった。


ユキはポーンを進め、進化を経て、物の数局の内に、

のぶながの首元にナイフを突きつけた。



実に茶番だ。ユキは気が付いているだろうか。

今度こんな打ち方をしたら、俺はお前を許さないぞのぶなが。


のぶながが俺の目線に気が付いた。

「読み違えた」などと言っているが嘘をつくな。


俺はのぶながにメッセージを送った。

[二度とそんな真似をするな。ユキを侮辱するのか。俺がゆるさない]


彼がそのメッセージを見たのは、事が全て終わってからの話しだ。



昔話も終わり、俺が切り出すタイミングが来た。

今度こそ俺が先導しよう。俺は固く握った拳をほどいた。


「のぶなが、聞いてくれ俺の話を」

「いや、デルタ、その前に俺の話しを聞いてほしい」


「ダメだ。今度は俺の番だ。ちょどいい、他の三人も聞いてほしい」

のぶなが静かに腕を組み、口を閉じた。


「俺は今、しょくにんが幸せに生きられるように、

ある計画を立てている」


ホワイトボードに描いた文字は。

「体験学習 ここで、

しょくにんたちに幸福感という感情を与えたいと思っている」


「まだそんな事を言っているのか、デルタ」

押さえきれなくなったのぶながはついに口を開いた。


「俺たちは人間だ。生きる道は自分で決めていく。そうだろ!?」

彼は興奮し立ち上がる。


俺は馬でも手懐けるように手でリアクションする

「のぶなが、俺たちは、しょくにんだ。お前の身体もしょくにんだ」


彼がバンっ!とテーブルを叩く。

「違う、人間だ。お前も人間だデルタ!お前は少しおかしい!」

おかしい?おれが??


「のぶなが、知っているか?俺たちしょくにんが、人間を活かすんだ。

俺たちの手で、その輪を作れるんだ。素晴らしいだろ?」


のぶながが俺の服の襟元を掴む。

とっさに立ち上がる勢いで椅子が倒れてしまった。


「デルタ、全然素晴らしくない。

お前はいったい何のために生きているんだ!!」


そんなに揺らさないでくれ。


「なんのためって、人と人を繋げる。人の命を繋げる。

その橋渡しをするのがしょくにんの務めだ」


彼は俺を突き飛ばした。


静かに彼は口を開く。

「デルタさ…お前…狂ってるよ…」


狂ってなどいるもんか、正常だ。

「サラ、ユキ、俺はおかしいか?変か?」


ユキは黙ったまま何も答えることができなかった。

だがサラは口を開いた。


「デルタ、正直なことを言うと、私はのぶながの意見寄り。

ただ、あなたらしいと思うのは本当よ」


「デルタ、もう俺の話をする。

俺たちでしょくにんだけの世界を作ろう!」


しょくにんだけの世界?


「何を言っているんだ?生きていけるわけないだろ。

俺たちだけでは」


現実的な案じゃない。


「いや、生きていける。

ここにいるカレーラも、クモも、俺の計画に乗ってくれた」


「誰にも縛られない。誰にも邪魔をされない。

誰にも殺されない。そして誰も空腹で死なない

そんなユートピアを俺は作りたい」


俺は思わず笑ってしまった。

「はっはっは。のぶなが、お前の計画は浅はかだ…いいか、俺の」


見たことの無いような剣幕でのぶながが喋りだす。




「デルタ!セックスもできず子孫も残すことができない俺たちは、

むなしすぎるじゃないか!なぜおまえはわかってくれないんだ!!」


彼の一言で、俺の中の何かがはじけた音が聞こえた気がした。


「のぶなが…、お前はいつもそうだ…

なぜ俺の話を聞かない!一度でも俺の話を聞いたことがあるのか!?」


気が付いたらのぶながに詰め寄る。

「お前はいつも自分の意見を押し付けてばかりで、

なぜ他人の意見を聞こうとしない!!」


頬に冷たい何かを感じる。

これは…


「のぶなが、うれしいときや怖いとき以外にも涙って出るんだな」



デルタは産まれて初めて悔し涙を流した。



俺以外誰一人言葉を発さなくなった。


「いいか、ユートピアと言ったが、すでにユートピアは存在している。

それは施設だ。あそこは生けるしょくにんにとってのユートピアなんだ」


なぜこんな簡単なことがわからないんだ。お前は。


「そのユートピアに足りないもの、幸福感だ。お前は外の世界にそれを求めた。違うか?

その花の種を俺は植えるんだ。そして、人類を繁栄させる美しい輪の一部にみんなでなろう」



のぶながの目つきが変わったのがわかった。

「おい…本気で言っているのか?デルタ」


「どうだ、素晴らしいと思っただろ?のぶなが」

「いやデルタ、俺たちの命の自由を奪うお前は はっきはっきり言おう」


俺の目の前に人差し指が飛んできた。

「お前は悪だ デルタ しょくにんにとって悪そのものだデルタ」



頭にこちーんと衝撃が走った。



「はいはいケンカしない二人とも」

サラは持っていたおたまで、俺とのぶながの頭を叩いた。


うずくまるしかない。今のは効いた。


「あの、頭はやめてください…」

のぶながの一声の後に俺も続いた。


「俺たち頭は再生しないんだ」

知っていることだろう?


「あとな、サラ、俺たちはケンカしていない」

のぶながの声に俺もうなずいた。


「ただ」/「ただ」

「俺と違う道を行くこいつを見ると。どうしても腹が立つ」/「俺と違う道を行くこいつを見ると。どうしても腹が立つ」


俺とのぶながは同じ言葉を発した。


「そういうのをケンカっていうのよ。

アクションまできちんと起こしていたじゃない」


「何を言っているんだサラ、外傷を与えていないじゃないか」

俺が言うと、サラはがくっと肩を落とす。


「はぁそうですか…一応聞いておくけど、二人は互いにどう思っているの?」


俺は 「家族さ」と答えた。


のぶながも「そりゃー家族だ。かけがえのない家族」

そう答えた。


二人の意見が食い違い、互いに納得しない理由を私は知っている。

施設がしょくにんに与えない概念のうちの一つだという事を。


「ん~二人がね、言い合ってしまう理由を私は知っているのよ、

でもね、これはあなたたちに気が付いてほしいことだから、私は教えないわ」


サラは大きな声で呼ぶ。


「しょくにんから人間として生まれ変わったのぶなが」

「しょくにんから真のしょくにんへ進化したデルタ」


二人は はい! といい背筋を伸ばす。


「人生の先輩として課題を与える。

あなたたちの意見が食い違う。

この理由はなぜか?その答えを探しなさい」



この時、素直に教えていればあんな結末にはならなかったのかな。と、

4年後の私は後悔した。


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