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第三章 第十話


第10話


ずいぶんでかい車だ。


「ささ、二人とも車に乗って。行ってくるわね」


外しょくから装甲車を借り、

サラの運転で施設に行くことになった。


と言っても10分ほどの距離だ。



小月達から気を付けてと言われたが、

これから先気をつけようがない。


「装甲車だぞ?ミサイルで打たれたら商品価値ないだろ、俺なんて」

襲うリスクがでかすぎる。まず襲われることは無いだろう。


それでも心配なのだろう。同乗しているユキのことが。

それだけ二人がユキのことを可愛がっている証拠だ。


「じゃーね行ってきまーす!」

ユキが俺たちの変わりに小月達に手を振った。


「ねーユキ、あの二人がね?よければ

おじいちゃん、おばあちゃんって呼んで欲しいんだって」

サラは運転しながら小月達の願いを伝えた。


「えーまだおじいちゃんおばあちゃんって言う歳じゃ無いのに~」

確かにまだ40代と言ったところだろうか?

おじいちゃんおばあちゃんと呼ばれるには早い。


「そういえば二人には子供がいると言っていたな、

知ってるか?サラ」

「は?え?ん?うんえぇまあ…」


サラはなにか事情を知っているみたいだ。

「え?デルくんなに言ってるの?」

「ユキユキ、私が話すわ」


慌ててサラが口を挟んだ。

「一応いるのよ、血は繋がって無いけどね」


「ふーん、俺たちのユキみたいなものってことか」

「うんまあそんな感じよ」


ユキが俺をクスクスと笑う。

「なんだユキ、俺の顔なんかへんか?」



そんな事を話している間に、施設の門までたどり着いた。

「ずいぶん近いな、歩きと車じゃこんなに違うのか」


サラと守衛がなにか話をしている。

「そういえばユキ、今日はなにかしろって言われているのか?」


俺たちの目的は漠然としていて、

体験学習をしてみるのはどうだと思ってるだけの段階だ。


「まずは施設の職員とお話しましょう、としか言われてないよ」

そうだろう、おそらく初の試みだろう。


「まあ俺も具体的な案がある訳じゃないが、

試験的な案をするつもりだ」


そして燃料を断たれたピストンは回転運動を止め、

車内が静かになった。


「さ、行きましょう。屋内の駐車場に入ったからまあまず安全だわ」

外に出る。だかそこは建物の中だ。


理由はあるとはいえ俺は本当に戻ってきてしまったのだなここに。



「サラ、ユキ、紹介しよう」

俺は収穫したての軽くなった腕を上げ指差した。


「ここが、俺とのぶながが産まれ育った場所、しょくにん施設だ」


決まった! 一度言ってみたがったセリフだ!


「あらそう?早く行きましょ?」

サラは歩き出してしまった。


「ふーん、私たちが住んでいる地下とあんまり変わらないね~」

ユキは周りをキョロキョロ観ながらサラの後についていった


「あ、あれ?想像していた反応と違うではないか」

待ってくれと二人の元に駆け足で寄った。



コツ コツ と音が反響して自分の位置や方向を見失いそうになる 。

サラは普段は履かないヒールという大変歩き辛い靴を履いている。

そのせいだろう。


通路を超えたさきに、管理棟の入り口の横に警備員が立っていた。


「外しょくのサラ、デルタ、そして小学生のユキです。

外しょくから連絡行っているかしら?」


事前に発行してもらった立ち入り許可書をサラは渡した。


どうぞお通りください。と管理棟の扉が開いた。

「俺もここに入るのは初めてだ」


施設は、管理棟、居住棟、収穫棟、屋内菜園場、グラウンド、体育館、酪農エリア

の7つのエリアに分かれている。


今更ながらとんでもない広さだが、

周るのにバスは必要なほどではない。


「どう?デルくん、久々の施設は」

「ん~戻ってきたという実感がないな」


管理棟を案内されるがままに歩くが、

ここは今まで来たことないからだ。


俺は会いたい人がいる。しょくにんではなく、会いたい人間だ。

「なあ警備員さん、今でも石川さんは働いているのか?」


彼こそ一番会いたい人のうちの一人だ。

「あ~石川さんね、部署が変わってスケジュール調整員をやってるよ」


「よかった、会いたいんだがあえるか?」

「すまないな、上のほうに言ってみてくれ、

俺はただの警備員だから」


それ移行彼は一言も喋らずに俺たちを案内した。


さあここだと言われてたどり着いた場所は職員室だ。



髪の毛から少し頭皮が見える男が立ち上がる、


「おお、どうも、生活課の瀬山です。ささ、こちらへ」

オフィスの奥のほうから立ち上がった男に、

奥の会議室まで案内された。



この部屋は外しょく本部のオフィスとそう変わらないような風景だ。

ただ、おそらく見たことがある職員もいるだろうが、

俺の記憶には顔までは写っていなかった。


「き、緊張するね」

ユキはキョロキョロとオフィスを見渡しながらゆっくり俺の後ろを歩いた。


サラはノーリアクションだ。


「外しょくの小月さんから連絡貰ってたよ、

いやー外しょくも大変そうだね」


「えっ?大変そうって?」

最初に口を開いたのはサラだった。


「あ、失礼失礼、さ、座ってください」

案内されるがまま座る俺たち。


「なにかやりたいことがあると、

しょくにんが言っていたと小月さんからは聞いているよ」


俺は身を乗り出した。

「そうか、なら話が早い。率直に言おう。

施設への体験学習など取り入れるのはどうだろう」


俺がこれまで感じてきた幸福感という物を瀬山へ伝えた。


「そうか…与えることの喜びか…

閉鎖的にするのが最善とばかり思っていたが、試みたことがない」


瀬山は取り出したノートに何かを書き込む。


「しょくにんの育成プログラムで生きがいや幸福感も当然考えている。

農作体験だ。787、君もやっただろ?そして少ないが賃金も出て購買部もある」


「すまないが私はデルタだ」

なぜだかはわからないが、無性に主張したくなった。自分の名前を。


「ああ、ごめんねデルタ君。

このプログラムに体験学習を取り入れるのも面白いかもしれない」


俺は思わず顔が笑顔になってしまった。

「そうだろ、俺は大人にはさせるべきではないと思っている。リスクが多すぎる」


俺はユキを見る。

「なので子供たち限定にしたほうがいい

一応そこまで考えてこの話を持ち掛けてきた」


育成プログラム、そんな物まであったのか。

読んでみたい。


「ところで瀬山さん。俺会いたい人が何人かいるんだが、

サラとユキも同伴で見学させてもらえないだろうか」


会いたい人は二人だけだ。


「あぁぁ~、ちょっと居住区は難しいが、

ちなみに会いたいのは何番だ?」


しょくにんではない。

「いや、人間だ。男が一人、女が一人」


「ほう?君はどこまで知識を得た?」

瀬山の眼鏡から光る物が俺の目を刺す。


「男と女、性の知識の事だろう?

施設が一番閉じていた分野だ。違うか?」


「その通りだ。聞かしてくれ、

君たちしょくにんが子供を作れないと知った時、

君はどう思ったか」


俺は考える間もなく即答した。

「俺を食べた誰かが育って大きくなって子を産む。

美しい環だ。幸い俺には家族がいる。当然血は繋がっていないが」


俺はユキとサラを見た。


「たとえ俺が今ここで死んだとしても、

俺の思いを次いでくれるパートナーそして子供がいる。友もいる」


あ、友はいないかもしれない。

彼は継いでくれないだろう。


だが俺は続ける。

「だから知ってよかった。見た目こそ汚らわしいが、

この世界はとても美しい。そう思えた」


だが、これに関してはまだ不確定要素がある。


「だが瀬山さん、他のしょくにんがこの知識の実を食べた時、

どう考えるかはわからない」


瀬山から興味深いなという言葉が漏れる。

「なぜそう思える?」


「のぶながの事は知っているか?あいつと俺は違う道を進んだ。

そういうことが起きるのではないかと思っている」


でもわからない、違う道を選んだのぶながのことが、

未だにわからない。


「残念ながら私はこんな立場柄、

あんまりしょくにん達と接点がないんだ、

のぶなが君のことはわからないな」


自分の知っている人を知らないと言われると、

少し寂しい気持ちになった。


「懸念した通り、同じことが起きるだろう。

だから危険因子を排除している。それが施設だ」

やはりそうなんだな。


瀬山はノートを閉じた。


「ところで君が会いたいというのは誰だい?」


「スケジュール管理?をしている石川さんと、

資料室のマナミさんだ」


「そうか、ちょっと施設長に相談してこよう、

ちょっと待っていてくれ」


瀬山は会議室から退室した。



あいつがしょくにんの秘密を知ったとき、

きっと俺と同じ選択をするだろう。

それが、人だ。


新人類 -しょくにん- 第10話 完



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