第三章 第九話
第9話
地下広場の片隅で段ボールの上であぐらをかいている3人家族に、
サラが作った配給食糧を渡した。
「すまないありがとう」と言われた。
俺はまた人の命を救った。のだろうか。
今まで何回配給したかわからない。
なじみの顔もあるが、当然新しく見る顔、消えた顔もある。
俺たちの配給は意味があるのだろうか。
ただ、それでも俺は、
「ありがとう」と言われることにとてつもない喜びを感じている。
「なあサラ、君にとっての幸せってなんだ」
配給を終え、別の広場へ俺たちは歩みを進めていた。
「またそれ?正直わからないわ。でも今言えるのは、
今は不幸せなんかじゃないってことくらいかしら」
そう言われてみれば、ちゃんとした部屋で満足に生活できているのだから、
幸せなのかもしれないな。
「難しいな、最近な?生きることや幸福について考えることが多いんだ。
幸福感を感じている俺は恵まれているのかもしれない」
以前にもまして…何だろ。
俺はここにいる!生きている!という実感のようなものが強くなる。
「俺はこの幸福をたくさんの人に感じてもらいたい」
「そうね、たくさんの人が幸せになれば素敵な世界になるわね」
「その方法がわからない。ここまで出てきているんだ。だが答えに行きつかない」
こうなんだろう、てっぺんにモヤがかかった富士山を見ているような気分だ。
そして次の広場に到着した時、カチッとしたスーツを着ている人物を目撃した。
頭を整髪料でこてこてに固めたオールバックのあの男。名前は確か…
「あ、武田だ」
「だれそれ」
「ほら、前に地下デパでしょくにん嫌いの男に会ったって言ったの覚えてるか」
強烈な印象だった。忘れもしないだろう。
「それがあの男だ」
俺は指さした。武田はほかの誰かと話しているようだ。
「ふ~ん、ん?あれ?私もどっかで見たような…」
それにしても隣のスーツの男も見たことがある。
いつだっただろうか…
「あ!ちょっと耳かして!」
「それは困る。耳は再生しないから渡せない!」
「小学生みたいなギャグ言ってんじゃないの!あの男」
耳を貸すってそういうことか、俺はサラのヒソヒソ話に耳を貸した。
「武田、あの男、民声党の議員よ!」
「な、なんと!」
だからしょくにん嫌いなのか。納得した。
「サラ、俺隣で話している男も見覚えあるんだ。誰だかわかるか?」
サラは凝視した。
「ん~あ、私もどっかで見たことがある」
それはどこかで何かで見たという記憶ではない。
「直接だ。直接会ったことがある記憶だ」
二人は同時に思い出した。
「のぶながとロージーを迎えに来た議員だ!」
「間違いない。私も同じ答えよ。でも名前までは思い出せない…」
「活旗党の議員と民声党の議員が一体何の話をしているんだろう」
そんなこと言いながらも俺は通信端末を手に持ち、
とある人物に電話を掛けた。
「へ~い」つながった。
「790か、787だ」
「いたずら電話なら切るぞ」
「まてまて、大スクープだ。790」
一応のぶながの名を伏せることにした。直感がそう告げたからだ。
「お前たちを迎えに来た議員、名前なんだったっけ」
「あ~渡辺さんだ。それがどうした?」
渡辺か、間違いない。本人だ。
ここからは小さい声で喋ることにした。
「地下広場で姿を見た」
「それが スプーク なのかよ」
「彼は今でも活旗党の議員なのか?」
「当たり前だ。2週間ほど前に会った」
「790、お前民声党の武田を知っているか?」
「あ~知ってる。あいつも確か東京の議員だ」
「ここからが大スクープだ」
彼に事実を突きつけよう。
「武田と渡辺が会って何かを話している」
「おいデルタ!それ本当か!?ありえないだろその状況は…」
のぶながは沈黙した。
「言ったろ?大スクープだって」
「想像以上の大 スプーク だわ、あ、俺この前リスト渡したな…まずい」
マシンガンが息継ぎもせず打ち続ける。
「デルタ、お前も気をつけろよ」
「お、おい気をつけろってなににだよ」
俺の声はむなしくも誰にも届かない。
すでに電話を切られていた。
「どう、何かあった?」
「ああ、ハチの巣にされた」
「はい?で、なにか言ってたかしら?」
「すごい慌てていた。そして、気をつけろって」
「相変わらずあんたたち主語が無いわね」
武田と渡辺は広場横の部屋に二人で入った。
一応のぶながにも場所を教えておいた。
サンキューとだけ返事が返ってきた。
仕事を終えて部屋に帰ると、何やら盛り上がっていた。
「クモ、気をつけろ、ここからだ。ここからユキの籠城は崩れない」
どうやらクモ、カレーラ、ユキの3人でチェスをしているようだ。
「ま、俺が守りのチェスと守りの将棋を教えたからな、ユキに」
そうそう崩されてたまるものか。
「ユキは攻め手はまだ荒い筋になっているが、やっぱり守りは上手い」
そう話すカレーラの額には × と書かれている。
「カレーラ、初負けか?」
「ああ、相手の守りを崩せずに隙をつかれた。完敗だ」
しかしなぜ負けたら額に×を書かれるなんてルールを作ったんだ。ユキ。
後で本人に聞いたところ、本気になれるからということらしい。
俺も盤を眺めた。
ほう、2-6に置いているルークが相手のキングを動けなくしている。
左隅で穴熊になって守っているように見えて、少ない駒でじりじりと相手の喉元に刃を向けている。
「やるな、ユキ」
俺が先週負かした手じゃないか。
ま、チェスにおいて穴熊とは言わないが、
将棋も一緒にやるし問題ないだろう。
その後も、じりじりと身を削られながらも、ポーンが端に到達し、
それが決め手となってチェックメイトまでは速かった。
「は~いクモくん3敗目!これで残すところは660くんとデルくんを倒すだけ!」
腕を上げたと認めざるをえないだろう。
俺とカレーラは手を叩いてたたえた。
「そういえば今日なんで660くん来なかったんだろう。勝てる自信あったのに」
「そうだな、畑田さんから何も連絡無いな。気が乗らなかったのかな」
そんな話をして今日のバトルはお開きとなった。
「ユキ、見事に掴んだな。攻めしかしないのぶながと戦ったらもっと手数が少なく詰める」
「多分穴熊になるまでもなく、のぶのぶには勝てると思う!」
俺とユキはサラを見つめた。
「わ、私はパス。トランプなら負けないわ」
「じゃあ明日の当番をかけて大富豪で勝負!」
「か、勘弁してくれ」どうせ俺じゃないか。
3人は笑いあいながらいつも通りに過ごした。
いつまでもこうしていたいと思う三人だった。




