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第三章 第五話



「ねえねえ聞いて聞いて!」

と元気に話すのはユキだ。

きっと耳が膨れる方のお土産に違いない。


「すごいんだよプラント工場って、工場内をね?バスで回るんだよ!」

バス、俺も乗ってみたい。


「なぜバスなんだ?」

とユキに聞いた。


「あのね、端から端まで歩くと30分くらいかかるんだって!」

なんともスケールが想像出来ない。


「歩いて30分…え、ここから施設まで20分もかからないぞ?」

サラも気になったようで、

「いったい何個工場回ったの?」と聞いた


「え?ひとつよ?」

にわかに信じがたい。この新宿より広いんじゃないか


「あのね、それでね、私すごい人に会ったの」

通信端末を操作し始めた。おそらく写真を撮ったのだろう。


「えー、どれどれ?」とサラは覗き込んだ。

「え?この人に会ったの?」とサラも知っている人物のようだ


どーれどれ、と俺も覗き込むことにした。

ユキの隣に立っている人は、かっちりとスーツを着て、

腕を前に伸ばしてピースサインをしている。


「の、のぶなが!?」


そして二人ともニヤニヤした顔がおさめられていた


「だからか、だからのぶながが急にメッセージを送ってきたのか」

たしかメールはお前は変わらないなてきな内容だったか


「おいユキ、のぶながに何の話をしたんだ」


「え~なにって近況報告しただけだよ~?」

最近デルタがお父さんぶって、ちょっとだけ厚かましく感じることがある。

なんてお話をしたのは私とのぶのぶだけの秘密。


それからユキのお土産紹介タイムが始まった。

サラは当番なのでお風呂掃除とご飯の準備をしに行った。


「はい!お土産は以上です。さぁ久々の我が家のお風呂だ!」

「3日ぶりだろ、言ってらっしゃい」


ユキは立ち上がり後ろを向いた。

そこでとんでもないことが起きている事に気が付き叫んだ。


「う、うわーーーーー!さ、サラ!レスキューを呼んでくれ!!!」

手にお玉を持ったままキッチンから飛んできたサラ。


「え、なに?事件!?」

「ユ、ユキが血を流している!!」


ユキが立ち止まった。

え? と振り返った。


振り返ったユキの後ろ姿とズボンの血の滲みを見た。

「デルタ、絶対レスキューを呼ばないで!ユキ、ちょっと一緒にお風呂場に来て?」


サラはユキを連れて行った。

「え、なんでサラはあんな冷静なんだ」


デルタはとっさに通信端末のインターネット機能で調べた。

[出血 致死量] と。


2分もしないうちにサラが戻ってきた。

「デルタ、ユキは病気や怪我じゃないから安心して?ちょっと先に二人でお風呂入るわ」


「ん~まいったまいった。どうやって伝えようかしら」

と頭を掻きながら風呂場に戻るサラだった。


病気や怪我じゃないとしても心配だ。

そわそわしていても仕方がないので晩御飯の準備の続きをすることにした。


出てくる頃を見計らって食事をテーブルに並べた。

そしてみんなでいただきます。


「サラ、さっきのユキのことなんだがとても心配だ」

俺はトマトに手を、いや箸を伸ばした。


「あーうんうんわかってるわかってる。ちょっと待ってね?」

ユキは下を向いて食事には手をつけなかった。


「どうしたユキ!食べて鉄分補給しないと!」

「デルタ、ちょっと黙ってて」


はい といい黙ってパスタを巻く


「デルタくん、ユキちゃん、今日は性のお勉強をしましょう!」


「待ってました!!セイの勉強!どんなサバイバル術が聞けるか楽しみにしていた!」


「黙れ」

「は、はい」


「今からお勉強することは、もしかしたらユキは学校で習っているかもしれないけど、デルタ…というより、施設で育ったしょくにんは、誰一人しらないことなの」


外の世界に出てわかったことだが、俺たちしょくにんには与えられていない知識が結構ある。

たくさん驚いた事は当然あったが、一番驚いた事は、男と女という性別があるという事だった。


「誰一人?それも施設内には持ち込めない知識なのか」


サラは静かに頷いた。


「まず、今日ユキに起きたことを正直に話すわ

今日、ユキは少女から大人の女になりました」


どういうことだろう?


「サラ、大人というにはまだ君と比べて小さいじゃないか」

「もちろんまだ体は大きくなるわ、でもね」


サラが言った言葉を理解したとき、

俺の見る世界が一気に広がった。

それは紛れもない事実だ。


「ユキは赤ちゃんが産めるようになりました」


「赤ちゃん?産む?産むって卵を?」


サラはユキの身を案じるのではなく、

ただただ俺を見つめた。

その目はどこか切ない眼をしていたのを覚えている。


「デルタ、あなたはもしかしたら今日あなたの人生で一番のショックを受けるかもしれない、けどちゃんと私も教えるわ!覚悟してね?」


俺はサラの眼を見て頷いた。


「まず、人間は卵を産まないわ

あなたの言った卵から産まれるのは卵生というの」


「らんせい?卵の生か」


「そうそう、そして我々人間は、胎内で育てて産むの。それを胎生というの」


あ、この間のあれはそういうことか

「ミユさんはあの時お腹の中に赤ちゃんがいたってことか」


「そっ、そういうこと、本当にお腹の中に赤ちゃんがいたのよ」

人間の身体は素晴らしい


「人間は、女しか子供を宿せないの」

「え?それは本当か?ではなぜ男がいる」


「人間の場合、男がいないと子供ができないのよ」

全くわからん。複雑すぎる。


「あ、男が働くからか?」

「ん~当たらずも遠からずってとこね」


「赤ちゃんができるには女だけが持つ卵子に、男だけが持つ精子が入り込むことで受精卵となって、そこに新たな命が宿る」


イメージがわかない。聞いたことの無い単語ばかりだ 。

「そして胎盤で赤ちゃんは育つのよ」


「胎盤!俺たちは人工胎盤で産まれた!そうか」


繋がった

「ランシとセーシという男女が持つものを人工胎盤に入れて人間を成長させるのか」


「んー近くなってきたわね、あなた達しょくにんの作られる行程はほぼ正解」


サラは続けた

「でもね、女の身体には胎盤が存在するの、つまり、0からお腹の中で赤ちゃんを育てるということ」


「おお。それだと低コストで人間をたくさん作ることができるということか!」

人工胎盤ではなく、女の数だけ赤ちゃんが出きるということだ。


「ん~まあいいか、続けるわよ?

男だけが持つ精巣で精子が作られる

女だけが持つ卵巣で卵子が作られる

だから男と女が必要になるの」


「サラ、それってつまり!」

やはりこの世は美しい輪を描いている。


「俺の精子を君にあげれば、君は子供が出きるということか!」

「あ、デルくん言っちゃった…」

ユキが口元を抑えてホホを赤らめた。



「あ、ロージーにあげればロージーにも子供ができるのか」

「あ~あデルくんのバカ」


ユキが頬杖をつきサラを見た。

サラは何一つ表情を変えることなく静かに口を開いた。

「それがね…どちらもできないのよ…」


「え?なんで?」/「なぜだ?」

俺とユキはサラに聞いた。


「なぜってそれは…

あなたたちしょくにんには、

精巣も卵巣もないからよ」



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