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第三章 第四話



思えば施設から出て以来一人で過ごすことは無かった。

いや、なにを錯覚していたのだろうか。


俺は今まで一人で過ごしてきたことなんて一度もなかった。

壁に囲まれた部屋にはのぶながが、その壁の向こうには他の友もいた。


「サラ、君は俺やロージーを助ける前は、ずっと一人で過ごしてきたのか?」

せかせかと歩くサラに置いて行かれないように隣につく。


「ん~18歳になった時からほとんど一人だったかした」

髪をかき上げて天井を見ながらサラが答えた。


「18まではユキと同じように私も保護された身だったから」

そうか、確かそのあと。


「そのあと外しょくに所属しながら料理の学校に通っていたってわけか」

「そうね、そのあとは、私が直接保護したしょくにんは20人ほどだったけど、

一緒に暮らしたのは、ロージーとあなた達だけだったわね、あとユキ」


「そうか、俺達がいたら邪魔かな?」

「そんなこと言ってないでしょ?一人前と認められてからそこまで日が経っていないだけよ」


具門だったな。失礼な質問をしてしまった。


「それに、ユキは私たちにとってもう子供みたいなもんでしょ?」

彼女のこんな笑顔を見たのは初めてかもしれない。


なんだろう、なんでかわからないが、この顔が脳裏に深く刻まれたような気がした。


本部に着いた俺達は、天にも届きそうなあのエレベータに乗って棚卸の手伝いをする。


「おお、デルタくん。元気か?」

バインダーを持ちながら箱の中身を1つ1つ数える男がいた。


「小月さん。今は冬だぞ、寒くないのか?」

信じられないことに半袖だ。まあ、俺にも外の気温は一年中よくわからないが。


「いやー冬でも動くと暑いよね、

あ、今回サラ君は武器・弾薬庫をやってくれ、デルタ君は奥に行って事務用品だ」


よろしく~と言いながら再び小月は箱の中身を数え始めた。


「デルタ、お昼は一緒にいきましょう」

サラは再びエレベーターに乗った。


「施設でも棚卸し、していたんだろうか…」

箱に入っているボールペンの数を数えながら考えていた。


「このボールペン、数を数えてなんの意味があるんだろう…」

そう考えるのは何回目だろう。半年に一度同じことを考えている…


「あ、86本だっけ?あーダメだ数え直しだ」

デルタは再び数えた。


その後も黙々とデルタは事務用品の在庫を数えては帳票に記入した。

一番最初の棚卸しの時は本当に困った。


「あのー小月さん、これに書いてあるホッチキスってどれの事だ?」


と聞いては、「それはな、ほっぺにキスすることだ」とからかわれたり、

「サラ、テプラってなに?天ぷらか?」


と聞いたら、「あなたの部屋の札に [デルタの部屋]と貼られているシールは気になったことないの?」

と呆れられていた。


だが今では新配属になった外しょくメンバーに入団説明までしてしまうようになった。


「俺もすっかり外しょくの一員になったんだな。

彼らも外しょくに入ることになったら先輩面をしてみたい」


施設では上下関係なんてものは無い。

年上年下関係なくみな平等にコミュニケーションを取っていた。


「デルタさん」などと言われてみたい。


頭のなかで背伸びをしていた時、お昼を告げるチャイムが鳴った。

さて、サラとご飯でも食べてこよう。


と通信端末で時間を確認してエレベーターから地上を見下ろしながら

サラが提案してきそうなメニューを想像した。


「今日はユキもいないとはいえ、ちょっと奮発しちゃったかしら」と、

マグロ丼定食にワサビを溶かした醤油をかけ一口食べたところでサラがつぶやいた。


「魚ってどれくらい前から食べられるようになったんだ?」

海は放射能で汚染が広がっていたため、

長期間市場にほとんど魚は流通しなかったらしい。


もちろん養殖された魚は出回るが、内陸での養殖は限られてる。


「どうだったかな、私も社会人になって初めて魚を食べたから全然わからないわ…」


逆に言うとそれぐらいには流通量が復活してきたという事か。

赤とピンクで妖しく光るその身を噛みしめつつ箸を必死に動かした。


「あれ?サラ?」と声をかけてきたは一人の女性だ。

「あら!ミユ?いつぶりかしら!」


ミユと呼ばれた女性は、顔が小さいわりにお腹がかなり出ている。

「お、君もしょくにんか?」

間違いないだろう。


その瞬間腹に衝撃が走った!刺されたか!?

「黙ってなさい」

聞いたこともないドスのきいた声で腹ではなく耳をさしてきた。


「ミユ!もしかして赤ちゃん??」

赤ちゃん??それは

「つまり人間の子供ってことか?服の中にいるのか?」


「ごめんミユ!こいつしょくにんだから性の事はほとんど知らないの!」

(あんた、この場はちょっとだまっていなさい)

小さい声は確実に俺を縛り付けた。


「そうなの!1年ぐらい前に結婚したの」

「それはおめでたいわね!もう5年ぐらい会ってないかしら?」


5年というと、俺達が出会う以前の話だ。会ったことないのも当然だ。

ここは二人の話に水を差さないように、おとなしく水でも飲んでおこう。


そうして俺は静かに、二人は昔話に盛り上がり、

昼休みが終わる10分前のアラームが鳴った。


「またね、ミユ!今度は元気な赤ちゃんを見させて貰うわね!」

といって店を後にした。


「デルタ、ユキもいる手前、

性の知識についてあなたに教えることを失念していたわ、私も悪い」


セイの知識とは?この混沌とした世の中を生 抜く セイのコツだろうか?


「ユキが帰ってきたらお勉強しましょう」

「それは楽しみだ、サバイバル能力は身に付けておいて損はない」


サラはため息をついて じゃ、また帰りに といって武器庫の方に行ってしまった。


「楽しみだな」

といって俺はまたあのエレベーターに乗る。


時間を確認したら一通のメールが来ていた。

のぶながからだ

「お前は相変わらずだな。」

とメールが入っていた。


「やかましいわい!」

なんだこいつから連絡がくるなんて、不気味。

少しだけ午後の仕事が捗ったデルタであった。



忙しかった3日間の棚卸しも過ぎればなんとかというもので、

あっという間の3日間だった。


「さ、帰りましょうか、ユキがもう帰っているわきっと」

同時にユキが修学旅行から帰ってくる。


あの娘からどんなお土産があるか、

きっと耳も舌も満たしてくれるに違いない。


「あ、そういえばね、最近闇市場の活動が活発しているなんて噂聞いたのよ」

闇市場が、本当にあるんだろうかそんなの。


「そうか、本当に民声党か活旗党が絡んでいるんだろうか」

「私も見たことないけどね、さっきラジオでどこかの保護中のしょくにんが襲われたってニュースが流れてたのよ」


ニュースか、テレビが壊れてからほとんど見ることがない。

大体がインターネットかラジオだ


「あ~疲れちゃったわ~昨日のうちにたくさん料理作っといてよかったわね!」

疲れたと言いつつ彼女は上機嫌なように思えた。


俺と同じようにユキの帰りを楽しみに待っているのだろう。

お土産のセレクションもほとんどサラだ。さすが料理人


そしてドアを開けた。

元気な声でお帰りという声が飛んできた。


それを聞いては俺はここに住んでいるということを実感したような気がした。


「あぁ、ただいま!」

「あ~私がいない間に…」

出迎えてくれたユキが指さすほうには。


「マッケン食べたでしょ!」

指の先はゴミ箱を指している。


「ば、ばれたか、ジャンクフードってたまに食べたくなるんだ」

昨日は料理こそしたものの夕飯はデリバリー対応のジャンクフード専門店。

マッケンキング で済ませてしまった。


「私もね、料理人として毎度気が引けるのよ…でもついたまに食べちゃうのよね」

もちろんバーガーはしょくにんの肉を使っている。

戦前は豚や牛の肉がメインだったらしいが、食糧難の末にしょくにん肉に変わってしまった。


「じゃあ今日は私とマッケンいこ!」

「ざんね~ん、今日はたくさん料理あるから明日にしましょうね」

「え~ずるい~」


頬を膨らすユキをみて不意に笑ってしまう俺たち。

なんてことない、いつもの日常だ。


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